負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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118.カマセはいくら盛ってもよい。

 ――どこまで言っても四天、ウリア・スペルは小物臭い癇癪持ちの印象が抜けないが、というか強欲龍を煽っている時のそれは、その後化け物に踏み潰される小物悪役そのものだったが、それでも強さは本物だ。

 

 強欲裂波を片手で防いだのもそうだが、今まさに、僕たちが足を踏み入れた戦闘も、その強さを感じさせるには十分なものだった。

 

“ハァアアアアア――――!”

 

 迫るウリア・スペル。狙いを定めたのは師匠だった。特に意図したものではないだろう。前衛は僕と師匠。それから少し離れたところに強欲龍。後ろのリリスは狙いにくい。

 

 とはいえ、切り札を有する僕と、そもそもスペックの高い強欲龍を避けたのは、当然といえば当然の選択だ。逆に言うと、こんなところですら戦法が小賢しかった。

 

「と、おお!」

 

 師匠が槍でその一撃を弾きながら後方へと吹き飛ぶ。一撃の威力が高すぎたのだ。加えて、吹き飛んだ師匠よりも早く、ウリア・スペルが師匠の後方へと回り込む!

 まぁ、させないのだけど。

 

「“B・B(ブレイク・バレット)”!!」

 

 僕が予め軌道を予測して放っておいた一撃が、ウリア・スペルの翼を掠める。やつが少しだけ身体をずらしたのだ。そして、それだけの隙があれば、師匠には十分である。

 

「“T・T(サンダー・トルネード)”!」

 

 反撃に振るった概念技でウリア・スペルを弾くと、なんとかその場から脱出する。直後に、僕たちのHPを半分は持っていくだろうかという火力の通常攻撃が横から振るわれる――が、ここでの狙いは、ウリア・スペルの攻撃回避ではなく――

 

“ハッ――潰れろや! 天地破砕!”

 

 直後、上から飛んできた強欲龍の必殺。天地破砕を避けるためのものだった。

 

“こんなものォ!”

 

 叫ぶウリア・スペルが正面からそれを受け止める。奴の耐久力は大したもので、この一撃を食らっても、吹っ飛びすらしないのは驚嘆に値する。

 そのまま、反撃に拳を振りかぶり、

 

“いいぜてめぇ! 口ぶり以外は最高だ!”

 

 ――強欲龍の拳と交錯する。その余波で、更に周囲の地面が砕け、二体の身体が地面へと沈み、消えてゆく。その中を、僕と師匠が移動技で駆けるのだ。

 

「“C・C(クロウ・クラッシュ)”」

 

 僕が視界を塞ぎ――強欲龍も巻き込むが気にせず。

 

「“T・T(サンダー・トルネード)”!」

 

 師匠の一撃が、ウリア・スペルに突き刺さった。

 

“――邪魔は、貴方たちもですかぁ!”

 

 叫び、こちらに拳を振るうウリア・スペル。戦闘は一気に高速化する。

 ――正直なところ、厄介なのはウリア・スペルよりも強欲龍の方だった。なんてたってこっちに一切の遠慮がない、信用の置けない味方未満の相手。

 口では両取りを謳ったが、正直なところ今回の戦闘はウリア・スペルの撃破で手一杯だ。その状況で、向こうはこちらなど気にせずに攻撃してくるものだから、戦いにくいったらない。

 

 とはいっても、向こうは天地破砕を始め、とにかく攻撃範囲が広い技が多く、それを気にして放たずにいたら、むしろ向こうが弱体化する。

 スクエアを切っていない以上、この場における最高戦力は強欲龍なので、現状は強欲龍の動きに僕らが合わせるのが最善なのだ。

 

“ああまったく、ただの粗雑な攻撃で、私と相対した気にならないでもらいたいものですねぇ!”

 

“そういうてめぇは、ガキみてぇなぶんまわししてんじゃねぇぞ!”

 

 激しく強欲龍とウリア・スペルが激突する。基本は拳で、威力に関してはほぼ同等。ただ、手数は明らかにウリア・スペルの方が多い。しかしその代わり、強欲龍は油断したら強欲裂波や天地破砕を通常攻撃にからめて来る。

 戦闘の練度自体は、僕らが妨害を入れることもあるが、強欲龍の方がウワテといえた。

 

「こっちのことも、意識の片隅に入れてもらいたいものだな!」

 

“ハハハ! 己の矮小さを認めるその謙虚さは賞賛いたしま――おい邪魔をするなぁ!”

 

 僕らの妨害も、そこそこ効果的に機能している。僕と師匠が交互に、タイミングを図りながら一撃を入れていく。

 ウリア・スペルの厄介な点はなんと言っても手数だ。攻撃の速度が早い。強欲龍と殴り合いながら、こちらに致命の一撃を飛ばしてくる。僕と師匠はそれを入れ替わり立ち代わり処理することで、攻撃を分散させている。

 強欲龍に負担が行くような形だが、そもそも強欲龍の攻撃も飛んでくることがあるため、お互い様というやつだ。

 

“敗因! てめぇ俺を狙うのはいいが、ちったぁそいつも巻き込めや!”

 

「そもそも避けられた先に、アンタがいただけだよ!」

 

 ――そんな中で、器用に立ち回っているのがリリスだ。

 彼女は今、ウリアにまったく注意されていない。後衛であること、僕らの攻撃が激しくてそちらまで手を回していられないこともあるが、回復役である彼女に意識が向かないことは、僕らとしてもやりやすさに拍車をかけていた。

 バフ、デバフは言うまでもなくウリアに対しても有効だ。特に現在のウリアは特殊な攻撃手段を一つとして持たない。故に、手が一手鈍るだけで、こちらの手数がどれだけ押せるかが変わってくる。

 

「なのなのなのなのー!」

 

「いけ、ぶっとばせー」

 

 ――羨ましそうな百夜に応援されながら、バフを飛ばす彼女の姿はいつもと何一つ変わらない調子だ。それがまた、ありがたい。

 

“――ハッ、大上段からの物言いに、多少の納得ができる程度には、てめぇは強えなぁ!”

 

 拳を振り下ろしながらも、それを片手で払われる強欲龍。返す刃は、強欲龍の致命傷には全く至らないが、それでも一撃として確実に通っている。

 蘇生した強欲龍には不死身がある。

 しかし、これだけの手数では、不死身など作動した瞬間にコアを破壊されてしまうのがオチだ。

 

 故に強欲龍も、最低限の防御は意識している。――ほとんど、僕たちにそれを任せている気もするが、ともあれ肉壁として強欲龍は便利だ。

 利用し、利用され、ギブアンドテイクというやつだろう。

 

 僕が踏み込んで、強欲龍が攻撃を受けながら一歩下がる。入れ替わるように踏み込んで、けれど、

 

“甘いですねぇ!”

 

「――“(グラビティ)”……っとぉ!?」

 

 そう、これが手数の正体。

 ()が、僕の頬を掠める。回避して、カスメただけだが、HPを一割は持っていかれる威力だった。即座に飛び退いて、しかしこれでコンボが途切れる。

 ――まぁ、飛び退くのは後ろから強欲龍の熱線が迫るからなのだけど。

 

“そちらも甘い!”

 

 ――更に翼がウリア・スペルの身体を覆い、正面から熱線を受け止める。直後、師匠が接近するが、翼を拡げた勢いだけで、師匠は吹き飛ばされてしまった。

 

「……ダメだ、近づけない!」

 

 とはいえ、これで再び強欲龍が接近できる。振り下ろされた拳と翼の打ち合いが始まって、僕らは一旦距離を取った。

 

「――手を変えよう。リリス!」

 

「あいなの!」

 

 三人で、頷き合う。

 僕が駆け出して、師匠は援護に回る。それまで、強欲龍に対しては一切の遠慮がなかったが、ここで一旦師匠は遠距離のみに攻撃を切り替えるため、そこを考慮する余裕がでた。

 

 師匠は翼だけを狙い、相手の手数を的確に減らすことを選ぶ。僕は逆に切り込んで、強欲龍の攻撃とウリア・スペルの迎撃を物ともせず――

 

「“S・S(スロウ・ストライク)”! “B・B(ブレイク・バレット)”!」

 

 デバフを一気に叩き込む!

 直後に迫る一撃を、なんとか移動技で回避しながら、そして、叫んだ。

 

「行け! リリス!」

 

「あいなの! “P・P(パッション・パッション)”!」

 

 攻撃力バフの効果を持つ概念技。狙いは――

 

 

 ()()()だ。それまで一度として使用してこなかった強欲龍へのバフをここで解禁する。

 

 

“お、おォ!?”

 

 自身の拳に力が宿ったのを感じただろう、強欲龍が目を見開く。だが、即座に状況を理解したようだ。逆にウリア・スペルはこちらの戦局を理解していないのだろう、その一瞬を好機と見て取って、攻撃を仕掛ける!

 

“もらいましたよ!”

 

 しかし、

 

“――阿呆がよ、てめぇは何を見てきたんだ?”

 

 それを、正面から強欲龍の拳が打ち砕く。

 

「“B・B(ブレイク・ブースト)”!」

 

 リリスのさらなるバフも乗って、一気に吹き飛ばされたウリア・スペル。――ここまで強欲龍へのバフをしてこなかったのは、強欲龍に協力したくなかったというのが一点。そこに加えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが一点。

 先程、リリスがうまく立ち回っていると言った。目立たず、ヘイトをあつめず、こっそりと。

 

 ――その狙いがここだったのだ。ウリア・スペルは視野が狭い。おごり高ぶっているが故に。そして、それが、この一瞬に導かれるのだ。

 

“俺だけか、あぁ!? 気色悪いこと言ってんじゃねぇぞ!”

 

 その足を振り上げて、口を開いて、

 

“――強欲裂波!”

 

 熱線を、

 

“天地破砕ッ!!”

 

 圧倒的な破壊の嵐を、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

“が、ああああああああああああ!!”

 

 ――顔面を殴り飛ばされて吹き飛ばされた時同様、ウリア・スペルが壁に激突し、瓦礫に埋もれる。それはもう、見事なくの字だった。

 沈黙。

 

 やがて、変化はすぐに訪れる。一撃が完璧に入ったものの、やつがこれで倒れるはずもないのだ。

 

 そして、ここまでダメージを与えれば、奴は間違いなく本気を出すだろう。

 

“ごう、よくりゅう……!!”

 

 怒りに満ちたその声音は、けれども同時に、顔には笑みが張り付いていた。自分にはまだ、()()がある。

 故に。

 

“やってくれましたねぇ! ああ、まったく! 不愉快極まりない!”

 

 高らかに宣言するのだ。

 

“決めましたよ、お前たちは私が手ずからぶち殺す。塵も残さず、鏖殺して差し上げましょう!”

 

「できるものなら――」

 

“やってみろよ、くそったれ”

 

 ――何を?

 

 決まっている。この世界において、名乗りを上げるという行為の意味は唯一つ。

 

“――大罪龍。貴様らはそもそも、勘違いをしているかもしれないな。色欲の子が概念使いとなって生まれ落ち、人類にとっての抵抗の刃となった。そう貴様らは思っているのだろう?”

 

“あァ?”

 

()なのですよ。大罪龍は、我々のコピーだ。しかし、概念使いもまた、我々のコピーに過ぎない。共に劣り、共に等しく我らを元に制作された、玩具にすぎないのです!”

 

 ――その手には、気がつけばそれが宿っていた。

 杖、光で出来た杖。

 

 それがなんと呼ばれるか、僕らは言うまでもなく知っている。

 

 

 ()()()()

 

 

“みせて差し上げましょう、これぞ、真なる大罪龍が操る、真なる概念武器!”

 

 

 そうだ、四天とは、大罪龍のオリジナルであり。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()!!”

 

 

 ――まさしく、最強を名乗るにふさわしい、概念使いが、僕たちの前に立ちはだかった。


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