負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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119.概念使いは勝ち誇りたい。

 ――四天とは、すなわち原初の概念使いである。

 概念使いが衣物の一種である、という話はしたけれど、であるなら、人ではない存在も、概念使いとなることはできるのだ。もっと言えば、()()使()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 であるなら、魔物ではない動物も、概念使いになることができるのか、というとそういうわけでもないのだけども。だってほら、発声がね。

 

 ともかく、だからこそ概念使いの始祖は四天、ということに不思議はない。しかしそれにしても、シリーズにおいて、常に最強の称号を背負い続けてきた白夜の前に現れる、最強を自称する小物くさい概念使い。

 まったくもって四天というのは、他人の背負ってきたものを小馬鹿にするのが好きな連中だ。

 

 なお、その四天の一画は、ゲームでは真白夜にタイマンでボコられて消滅するのだが。やはり最強は白夜であった。まぁ、真化以外にも色々とパワーアップした上でタイマンでボコっているのだが。

 ――とはいえ、概念化したこいつらが、厄介であることに変わりはない。

 

 特にウリア・スペルは――

 

熱・速(ギア・フレイム)

 

 一瞬で、炎を撒き散らしながら奴は僕と師匠に接近してくる。驚くべきことに、強欲龍を余波でたたらを踏ませながら、真正面から受けたらそのまま吹っ飛んで、先程のウリア・スペルみたく壁に激突する勢いで!

 当然、僕らは移動技で避ける。

 

 しかし、僕と直線上に線がつながったタイミングで――

 

熱・速・弐(ギア・フレイム・セカンド)

 

 再び概念技を使用して、直角に折れ曲がりながら、こちらに爆進してくる――!

 

「う、おお!」

 

 剣を振るって、身体をかばうようにしながら、それを受けて吹き飛ぶ。――直撃を受ける前に、余波で吹き飛べるくらいの威力があってよかった。

 HPは三割持っていかれるが、ともかく、距離は取れる――いや。

 

熱・速・参(ギア・フレイム・サード)

 

 ――気がつけば、僕の眼の前にウリア・スペルが迫っている!

 

「――っく、ァ! “C・C(クロウ・クラッシュ)”!」

 

 なんとか、間に爆発を挟み込む、熱よりも先に自分の爆風に吹き飛ばされた僕は、HPを六割削られながら、まだ生き延びている!

 しかし、当然。

 

熱・速・死(ギア・フレイム・フォース)

 

 ――さらにウリア・スペルがこちらへ迫ってくる。

 

“俺を無視してんじゃねぇ! 強欲裂波!!”

 

 そこに、強欲龍が熱線を放ち、一瞬だけ、奴の動きが止まる。しかし止まるだけだ。僕がその間に、距離をとっても、もう遅い。

 

“――決死”

 

 奴の手に握られた杖は、巨大な剣へと変化していた。

 

 

熱・終(トップギア・ハイエンド)

 

 

「し、しょお!」

 

「“C・C(カレント・サーキット)”!」

 

 ――横から飛んできた師匠の雷撃の玉が僕に突き刺さり、大きく吹き飛んだ僕は、なんとかギリギリでウリア・スペルの剣を掠めるにとどめ――

 

 

 ()()()()()()

 

 

「ぐ、ああああああああああ!!」

 

“――一つ”

 

 ニィ、と笑みを浮かべるウリア・スペル。まさしくその流れは、必殺。ギリギリまで攻撃を避けておきながら、最後の一閃を、ただ掠めただけで逃げ切れずに終わった。

 とはいえ、復活液に余裕はある。僕は即座にそれを叩き割って再起動する。

 

 その間、ウリア・スペルはといえば、排熱を行っていた。

 一秒か、二秒か。その程度の時間。奴は動きを止める。

 

“ハッハハハハ! まったくもって理解できねぇなぁ! だが、ここが好機なことはわかるぞ、くそったれ!”

 

 そこに、強欲龍が迫る。

 

「――待て!」

 

 叫ぶが、遅い。

 

“――天地破砕!”

 

 奴の必殺が、地を割って、直後。

 

 ――その体をウリア・スペルから溢れ出た炎が包んだ。

 

“な、んだぁ!?”

 

 もちろんタフな強欲龍に致命傷はありえないが、それでも今ので不死身を起動させられたらしく、強欲龍が珍しくうろたえた。

 

「……カウンター、だよ」

 

 僕が大きく息を吐きながら、つぶやく。ここまでの一連の流れが、ウリア・スペルの必殺コンボだ。あいつの特性は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。

 その技名が法則から逸脱することもさることながら、何につけてもあの炎を撒き散らしながら突進する移動技で、コンボしているのである。

 初速から、四速。そしてトップギアに到達したあの一撃は、つまるところ最上位技だった。

 

“――笑止。笑止、笑止ですねぇ。この程度、この程度ですか!? 大罪龍も、世界の器も、まったくもって大したことがない!”

 

 高らかに笑うウリア・スペル。先程までのお遊びとはまったく気配が違う。この一連の攻防は、まさしく奴の強さそのものだった。

 

 最上位技を放ち、一時奴は動きを止める。排熱、一瞬の冷却が奴には必要になり、であれば逃げた熱はどこへと向かうか。狙ってきた他者に叩きつければ効率がいい。

 まったくもって単純な理屈。

 

 そして、瞬間的な冷却はそれで完了するものの、先程の移動技の再使用には、もうしばらくの冷却が必要だ。故に、奴は生み出した熱を攻撃に利用し、

 

熱・鞭(ウィップ・ウィルオウィスプ)

 

 その両の手のひらから、焔の鞭を、触手のごとく無数に生み出した。

 

“チッ! 強欲裂波ァ!”

 

 ――そこに、強欲龍が熱線を叩き込むが、翼がやつを包んで、それを防いだ。

 

「一応伝えておくと、今が攻撃のチャンスだ。鞭を掻い潜って、近距離から大技を叩き込むんだ! あいつが熱を伴って突進してくる時は――死ぬ気で避けろ!」

 

 僕は、叫びながら飛び出した。

 鞭の雨が凄まじいことになっているが、それでもチャンスはチャンス。リリスの回復も十分に受けた。今回は師匠が陽動、僕が突撃だ。

 

 傲慢龍の余波を思い出す鞭の群れである。これを飛び越えて、なんとか掻い潜っても、奴は翼でこちらを攻撃してくるのだから、巫山戯た話だ。それでも、先程よりは随分と戦いやすいが!

 

「“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

 一閃、まずは何よりも足止めだ。とはいえ、移動技の最中は速度低下のデバフをこいつは無視する。あくまでこの状況だけの手札なのだが。

 

“――愚かさというのは、比べることが出来ないのが難点ですねぇ? 貴様らの愚昧さは、どれも巨大すぎて困るのですよ!”

 

「ハッ――口じゃなくて手を動かしたらどうだ!? ああ、そんなのろまじゃ、動いてると思えなかったよ、悪いね!」

 

“貴様ァ!”

 

 ――煽り耐性が低すぎる!

 師匠が返すと、即座にそちらへ鞭が一斉に向かう。僕としてはありがたい限りだが――手数は圧倒的に足りていなかった。

 コンボをなんとかつないで、最上位技に持っていこうとするものの、翼の迎撃ですら一人で相手をするのが難しい。

 

 こういうときに頼りになるのは、強欲龍の空気を読まない熱線なのだが――

 

“ハッ、さっさとしろよ、頼みの綱なんだろう!?”

 

「むむむー! 体力多すぎなのー! 体力バカなのー!」

 

 リリスが必死に続ける回復を、動くことなく受けていた。あいつなにやってんだ!?

 まぁ、不死身の機能を発動したままだと、核を狙うためにあちらが行動に移りかねない。HPはある程度持っておくというのもなしではないが――あいつの五桁のHPは概念技じゃあ回復が間に合わない!

 

 不死身を機能させるまでに削る必要のあるHPでも、フィーの最大HPより多いんだぞ!?

 

 まぁ、あいつに期待する方がバカというやつだ!

 

「――行け!」

 

「はい、師匠!」

 

 なんとか、かんとか。

 コンボを最上位技が発動できる数まで積み上げる。師匠はなんとか鞭を抑えてはいるものの、それでも多少はこちらに飛んでくる。翼も相まって、先程強欲龍が正面から打ち合っていた手数を、僕は一人で相手する形になっていた。

 ああ、けど、

 

「――喰らえ!」

 

 僕が最上位技を構え、それを放とうとした瞬間。

 

「――――ッォ! “D・D(デフラグ・ダッシュ)”!」

 

 ギリギリで、移動技でもって飛び退く。何故か、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()だ。結果として、僕の最上位技は不発に終わる。

 

“――無駄骨でしたねぇ”

 

「それは……どうかな!」

 

 だが、

 

()()()()()()()()()()()ぜぇ! 強欲裂波!”

 

“――!!”

 

“でもってェ! 天地破砕!!”

 

 ――強欲龍が、僕に対して使用されたカウンターが効果を終えた直後、その熱を目眩ましに一撃をウリア・スペルへと叩き込む!

 

“こんな、もの!”

 

 強欲裂波は翼で受けた。天地破砕は、気合で耐えた。

 ――まだ、やつを倒すには程遠い。加えて、

 

 

熱・速(ギア・フレイム)ッ”

 

 

 再び、ウリア・スペルが点火する。狙いは――強欲龍だ。

 

「――避けろ!」

 

 叫ぶ。

 ああ、しかし。

 

 奴は、強欲龍は――

 

“――ハッ”

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

“断る――ッ!”

 

 ――唖然。

 いや、すぐに理解が及ぶ。

 そうか、この状況は、強欲龍にとっては願ったりかなったりだ。今のウリア・スペルは突進しかしない。であれば、不死身の核が破壊されることはない。

 だが、それでも、

 

“オ、オオオオオオオッ!!”

 

 ――その衝撃はとてつもないものだろうに。

 

「よくやった! 強欲龍!」

 

 そこに――――迫るのは師匠だ。

 ああ、なるほど。なんというか――よく出来ている。

 

“ぬ、う!”

 

 ――その間に、ウリア・スペルは二速、三速とギアを変える。踏み込んでいく。師匠もまた、()()()()()()()()()()()()()でもって、ウリア・スペルへと迫る。

 

“――消え果てろ!”

 

 そして高らかに、奴は杖を焔の剣へと変えた。

 

熱・終(トップギア・ハイエンド)

 

「“L・L(ラスト・ライトニング)”!」

 

 ウリア・スペルは焔の突撃で強欲龍を押し留めた。コンボの途切れた僕は、今現在はやくたたず。あいつにとっては、狙うのは師匠一人でいいのだ。

 対する師匠は、わざわざ相手の射程に入っていく必要はない。師匠の最上位技は遠距離にも対応しているのだから。

 

 故に、ウリア・スペルの攻撃は、届かない。

 通常ならば。

 

 故に奴は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 恐るべきことに、その速度はこれまで戦場に飛び交ったどの一撃よりも疾く、ウリア・スペルの移動技すら凌駕して。

 威力は、掠めてしまえば即座に概念崩壊するほどのもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()だろう。

 

 ならば、どうするか?

 

 答えは、簡単だ。

 

 

「“C・C(クロウ・クラッシュ)”!!」

 

 

 師匠の足元が、僕の概念技で爆発する。途端、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

“――!”

 

 ――焔の剣を避けた。すり抜けるように、師匠は瓦礫の中へと消えていった。もはや耕したとすら言って良い地面の有様を、僕たちが利用したのだ。

 

 逆に、師匠の最上位技は、きっちりウリア・スペルへと突き刺さる!

 

“ぬ、うううううう!!”

 

 ――直撃。これまでの一撃で、最大のものがやつへ叩きつけられたのだ。その衝撃は、言うまでもなく、

 

 ()()()()()()()()()となる。

 

 カウンター?

 ああそんなもの、

 

()()()()()()!”

 

 焔に包まれながら、奴は強引に拳を振り抜いて。

 

“ごう、よくりゅうううう!”

 

 これまで、何度叫ばせたかわからない、ウリア・スペルの絶叫を遺跡に響き渡らせた。

 

「――強欲龍! この冷却期間に! 決着をつける!」

 

“言われるまでも、ねぇだろうがよ!”

 

 僕が、そして、この場における、最後の切り札を起動する。

 

 

「――“◇・◇(スクエア・スクランブル)”!」

 

 

“ほォ――!”

 

 青白い光に、溢れ出る莫大な力。もはや、言葉は必要ない。

 ウリア・スペル。最強を名乗る概念使い。

 

 悪いが、僕はこれから、君に最強を叩きつけてやるんだよ!


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