――四天とは、すなわち原初の概念使いである。
概念使いが衣物の一種である、という話はしたけれど、であるなら、人ではない存在も、概念使いとなることはできるのだ。もっと言えば、
であるなら、魔物ではない動物も、概念使いになることができるのか、というとそういうわけでもないのだけども。だってほら、発声がね。
ともかく、だからこそ概念使いの始祖は四天、ということに不思議はない。しかしそれにしても、シリーズにおいて、常に最強の称号を背負い続けてきた白夜の前に現れる、最強を自称する小物くさい概念使い。
まったくもって四天というのは、他人の背負ってきたものを小馬鹿にするのが好きな連中だ。
なお、その四天の一画は、ゲームでは真白夜にタイマンでボコられて消滅するのだが。やはり最強は白夜であった。まぁ、真化以外にも色々とパワーアップした上でタイマンでボコっているのだが。
――とはいえ、概念化したこいつらが、厄介であることに変わりはない。
特にウリア・スペルは――
“
一瞬で、炎を撒き散らしながら奴は僕と師匠に接近してくる。驚くべきことに、強欲龍を余波でたたらを踏ませながら、真正面から受けたらそのまま吹っ飛んで、先程のウリア・スペルみたく壁に激突する勢いで!
当然、僕らは移動技で避ける。
しかし、僕と直線上に線がつながったタイミングで――
“
再び概念技を使用して、直角に折れ曲がりながら、こちらに爆進してくる――!
「う、おお!」
剣を振るって、身体をかばうようにしながら、それを受けて吹き飛ぶ。――直撃を受ける前に、余波で吹き飛べるくらいの威力があってよかった。
HPは三割持っていかれるが、ともかく、距離は取れる――いや。
“
――気がつけば、僕の眼の前にウリア・スペルが迫っている!
「――っく、ァ! “
なんとか、間に爆発を挟み込む、熱よりも先に自分の爆風に吹き飛ばされた僕は、HPを六割削られながら、まだ生き延びている!
しかし、当然。
“
――さらにウリア・スペルがこちらへ迫ってくる。
“俺を無視してんじゃねぇ! 強欲裂波!!”
そこに、強欲龍が熱線を放ち、一瞬だけ、奴の動きが止まる。しかし止まるだけだ。僕がその間に、距離をとっても、もう遅い。
“――決死”
奴の手に握られた杖は、巨大な剣へと変化していた。
“
「し、しょお!」
「“
――横から飛んできた師匠の雷撃の玉が僕に突き刺さり、大きく吹き飛んだ僕は、なんとかギリギリでウリア・スペルの剣を掠めるにとどめ――
「ぐ、ああああああああああ!!」
“――一つ”
ニィ、と笑みを浮かべるウリア・スペル。まさしくその流れは、必殺。ギリギリまで攻撃を避けておきながら、最後の一閃を、ただ掠めただけで逃げ切れずに終わった。
とはいえ、復活液に余裕はある。僕は即座にそれを叩き割って再起動する。
その間、ウリア・スペルはといえば、排熱を行っていた。
一秒か、二秒か。その程度の時間。奴は動きを止める。
“ハッハハハハ! まったくもって理解できねぇなぁ! だが、ここが好機なことはわかるぞ、くそったれ!”
そこに、強欲龍が迫る。
「――待て!」
叫ぶが、遅い。
“――天地破砕!”
奴の必殺が、地を割って、直後。
――その体をウリア・スペルから溢れ出た炎が包んだ。
“な、んだぁ!?”
もちろんタフな強欲龍に致命傷はありえないが、それでも今ので不死身を起動させられたらしく、強欲龍が珍しくうろたえた。
「……カウンター、だよ」
僕が大きく息を吐きながら、つぶやく。ここまでの一連の流れが、ウリア・スペルの必殺コンボだ。あいつの特性は、
その技名が法則から逸脱することもさることながら、何につけてもあの炎を撒き散らしながら突進する移動技で、コンボしているのである。
初速から、四速。そしてトップギアに到達したあの一撃は、つまるところ最上位技だった。
“――笑止。笑止、笑止ですねぇ。この程度、この程度ですか!? 大罪龍も、世界の器も、まったくもって大したことがない!”
高らかに笑うウリア・スペル。先程までのお遊びとはまったく気配が違う。この一連の攻防は、まさしく奴の強さそのものだった。
最上位技を放ち、一時奴は動きを止める。排熱、一瞬の冷却が奴には必要になり、であれば逃げた熱はどこへと向かうか。狙ってきた他者に叩きつければ効率がいい。
まったくもって単純な理屈。
そして、瞬間的な冷却はそれで完了するものの、先程の移動技の再使用には、もうしばらくの冷却が必要だ。故に、奴は生み出した熱を攻撃に利用し、
“
その両の手のひらから、焔の鞭を、触手のごとく無数に生み出した。
“チッ! 強欲裂波ァ!”
――そこに、強欲龍が熱線を叩き込むが、翼がやつを包んで、それを防いだ。
「一応伝えておくと、今が攻撃のチャンスだ。鞭を掻い潜って、近距離から大技を叩き込むんだ! あいつが熱を伴って突進してくる時は――死ぬ気で避けろ!」
僕は、叫びながら飛び出した。
鞭の雨が凄まじいことになっているが、それでもチャンスはチャンス。リリスの回復も十分に受けた。今回は師匠が陽動、僕が突撃だ。
傲慢龍の余波を思い出す鞭の群れである。これを飛び越えて、なんとか掻い潜っても、奴は翼でこちらを攻撃してくるのだから、巫山戯た話だ。それでも、先程よりは随分と戦いやすいが!
「“
一閃、まずは何よりも足止めだ。とはいえ、移動技の最中は速度低下のデバフをこいつは無視する。あくまでこの状況だけの手札なのだが。
“――愚かさというのは、比べることが出来ないのが難点ですねぇ? 貴様らの愚昧さは、どれも巨大すぎて困るのですよ!”
「ハッ――口じゃなくて手を動かしたらどうだ!? ああ、そんなのろまじゃ、動いてると思えなかったよ、悪いね!」
“貴様ァ!”
――煽り耐性が低すぎる!
師匠が返すと、即座にそちらへ鞭が一斉に向かう。僕としてはありがたい限りだが――手数は圧倒的に足りていなかった。
コンボをなんとかつないで、最上位技に持っていこうとするものの、翼の迎撃ですら一人で相手をするのが難しい。
こういうときに頼りになるのは、強欲龍の空気を読まない熱線なのだが――
“ハッ、さっさとしろよ、頼みの綱なんだろう!?”
「むむむー! 体力多すぎなのー! 体力バカなのー!」
リリスが必死に続ける回復を、動くことなく受けていた。あいつなにやってんだ!?
まぁ、不死身の機能を発動したままだと、核を狙うためにあちらが行動に移りかねない。HPはある程度持っておくというのもなしではないが――あいつの五桁のHPは概念技じゃあ回復が間に合わない!
不死身を機能させるまでに削る必要のあるHPでも、フィーの最大HPより多いんだぞ!?
まぁ、あいつに期待する方がバカというやつだ!
「――行け!」
「はい、師匠!」
なんとか、かんとか。
コンボを最上位技が発動できる数まで積み上げる。師匠はなんとか鞭を抑えてはいるものの、それでも多少はこちらに飛んでくる。翼も相まって、先程強欲龍が正面から打ち合っていた手数を、僕は一人で相手する形になっていた。
ああ、けど、
「――喰らえ!」
僕が最上位技を構え、それを放とうとした瞬間。
「――――ッォ! “
ギリギリで、移動技でもって飛び退く。何故か、
“――無駄骨でしたねぇ”
「それは……どうかな!」
だが、
“
“――!!”
“でもってェ! 天地破砕!!”
――強欲龍が、僕に対して使用されたカウンターが効果を終えた直後、その熱を目眩ましに一撃をウリア・スペルへと叩き込む!
“こんな、もの!”
強欲裂波は翼で受けた。天地破砕は、気合で耐えた。
――まだ、やつを倒すには程遠い。加えて、
“
再び、ウリア・スペルが点火する。狙いは――強欲龍だ。
「――避けろ!」
叫ぶ。
ああ、しかし。
奴は、強欲龍は――
“――ハッ”
“断る――ッ!”
――唖然。
いや、すぐに理解が及ぶ。
そうか、この状況は、強欲龍にとっては願ったりかなったりだ。今のウリア・スペルは突進しかしない。であれば、不死身の核が破壊されることはない。
だが、それでも、
“オ、オオオオオオオッ!!”
――その衝撃はとてつもないものだろうに。
「よくやった! 強欲龍!」
そこに――――迫るのは師匠だ。
ああ、なるほど。なんというか――よく出来ている。
“ぬ、う!”
――その間に、ウリア・スペルは二速、三速とギアを変える。踏み込んでいく。師匠もまた、
“――消え果てろ!”
そして高らかに、奴は杖を焔の剣へと変えた。
“
「“
ウリア・スペルは焔の突撃で強欲龍を押し留めた。コンボの途切れた僕は、今現在はやくたたず。あいつにとっては、狙うのは師匠一人でいいのだ。
対する師匠は、わざわざ相手の射程に入っていく必要はない。師匠の最上位技は遠距離にも対応しているのだから。
故に、ウリア・スペルの攻撃は、届かない。
通常ならば。
故に奴は、
恐るべきことに、その速度はこれまで戦場に飛び交ったどの一撃よりも疾く、ウリア・スペルの移動技すら凌駕して。
威力は、掠めてしまえば即座に概念崩壊するほどのもの。
ならば、どうするか?
答えは、簡単だ。
「“
師匠の足元が、僕の概念技で爆発する。途端、
“――!”
――焔の剣を避けた。すり抜けるように、師匠は瓦礫の中へと消えていった。もはや耕したとすら言って良い地面の有様を、僕たちが利用したのだ。
逆に、師匠の最上位技は、きっちりウリア・スペルへと突き刺さる!
“ぬ、うううううう!!”
――直撃。これまでの一撃で、最大のものがやつへ叩きつけられたのだ。その衝撃は、言うまでもなく、
カウンター?
ああそんなもの、
“
焔に包まれながら、奴は強引に拳を振り抜いて。
“ごう、よくりゅうううう!”
これまで、何度叫ばせたかわからない、ウリア・スペルの絶叫を遺跡に響き渡らせた。
「――強欲龍! この冷却期間に! 決着をつける!」
“言われるまでも、ねぇだろうがよ!”
僕が、そして、この場における、最後の切り札を起動する。
「――“
“ほォ――!”
青白い光に、溢れ出る莫大な力。もはや、言葉は必要ない。
ウリア・スペル。最強を名乗る概念使い。
悪いが、僕はこれから、君に最強を叩きつけてやるんだよ!