負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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127.四天ガヴ・ヴィディアには通じない。

“歓迎とともに告げる。汝らの死でもって、主の活路となることを命ずる”

 

 ――浮かび上がった四天の青、ガヴ・ヴィディアは揺らめきながら、僕らと強欲龍の間に立つ。紡ぐ言葉は、正直言ってそうウリア・スペルと変わるものではない。

 奴らの中にあるのは、主――マーキナーに対する忠誠と、人類に対する侮蔑。それから自分が司る感情に対する()()だ。

 

 ガヴ・ヴィディアは、ウリア・スペルと比べると、その反応が薄い。他者を見下すという解りやすい特性のウリア・スペルは、まずもって解りやすい()()()だ。

 しかし、ガヴ・ヴィディアもその性格は高圧的で、なおかつ機械的。なんというか、正反対だった。何か、といえば――

 

「これがアタシの対になる四天? ちゃんちゃらおかしいったら無いわね!」

 

「フィーちゃん、油断しちゃだめなの!」

 

 解ってる、と言って宙に向かって飛び出したフィー――嫉妬龍エンフィーリアとは、何から何まで正反対な在り方であると言えた。

 

「まだ儀式は始まってない。とりあえず、私達は儀式を止める方向で動くぞ!」

 

「了解です!」

 

 フィーに四天の対応を任せ、僕とリリス、それから師匠は強欲龍に向かって剣を向ける。

 

“ハッ、おもしれぇ――余興だ。付き合ってやる”

 

 対する強欲龍も戦闘態勢に入り――激突する!

 

 ――僕が牽制しつつ、師匠への攻撃を防ぐ。目の前に衝撃波を伴う攻撃が乱舞されるが、レベルが上がったこと、リリスが的確にバフを入れてくれることから、この衝撃波はもはやほとんど僕らにとって障害にはならない。

 正面から剣をぶつけ合い、的確にデバフを叩き込んでいく。

 

 とはいえ、それでも厄介なのが熱線と天地破砕の二枚看板。特に熱線は非常に厄介で、連打が可能なのだ。実質手数が三つに増えるようなもので、通常攻撃はバフが入っていれば一割も持っていかれないが、こちらは三割は持っていかれる。逆に言えば、熱線に注意しつつ、通常攻撃はバフと回復に任せてしまってもいいということだが。

 ――リリスはフィーの戦闘も見なければならないので、後で文句を言われるだろう。

 

 その間にも師匠がコンボを稼ぎ、時折強欲龍が天地破砕で僕をちらして、そちらに熱線を入れるといった妨害を見せるも、ほぼほぼ互角と言える立ち回りで、僕らの戦闘は推移していた。

 

 これで、不死身の核を破壊するという繊細な攻防が必要になってくると、また面倒なのだが――そこまではまだ進んでいない。故に、ほぼほぼこちらは優勢と言えた。

 だが、あまり長くは続けていられないだろう。不死身が発動した時点でスクエアを起動して、一気に落としにかかる。それが僕らの基本的な狙いだった。

 

 ――長期戦がためらわれる理由はなにか。

 答えはフィーとガヴ・ヴィディアの戦闘にある。

 

 僕らが不動の強欲龍相手に格闘戦を仕掛け、動きの少ない戦いをしているのに対し、ガヴ・ヴィディアとフィーは互いに行き交いながら、飛び交いながら、凄まじい速度で戦闘を繰り広げていた。

 

 フィーが両の手に出現した鉤爪を振るった直後、両者の居場所が入れ替わっている。更にその直後には、フィーが踏みつけでガヴ・ヴィディアを地に叩きつけ、更にその直後フィーが腕で顔をガードした状態で吹き飛んでいる。

 

「――とんでもないな」

 

「スクエア発動中の君もあのくらいの戦闘速度だぞ!」

 

 傍から見れば、両者の戦闘はとんでもないものがある。チラチラと視界に映る程度だが、僕らが手を一つ放つ間に、二つのサウンドが聞こえてくるのだから、とんでもないスピードだ。

 それに追いつけるスクエアのバフが、如何に切り札かという話である。

 

 とはいえ――

 

「――ああもう! 全然攻撃が通じないんですけど!?」

 

 ――両者の戦闘の技巧は、フィーの方が上回っていると言えるだろう。ガヴ・ヴィディアはすでに概念化しており、その攻撃は両腕に備え付けられた羽衣から放たれる泡や水のようなもので構成されている。

 それらをかいくぐり、フィーは次々と攻撃を叩き込んでいる。そのたびにガヴ・ヴィディアは吹き飛び、フィーは追撃を放つ。

 時折反撃が飛んでくるが、ガードはきちんと出来ていて、危なげがない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“当然。汝らは当方を額縁より眺める者。その壁は汝らでは越えられない”

 

「だから――何言ってるかわかんないっつの!」

 

 いいながら、殴り飛ばすフィー。

 まぁ、言い方が迂遠で単純――素直なフィーにはいまいちしっくりこないだろう。というか、戦闘中に理解して的確に返すには、フィーにはなんというかこう、文法を読み取る経験が足りていない。

 

「――君は羨慕の概念だろう! 羨んでいるのはそちらの方ではないのかな!?」

 

「なののなのん!」

 

「アンタらはわかるの!? っていうかそっちに集中しなさいよ!」

 

 師匠たちが難なく返しているのを見て、何やら嫉妬しているらしいフィーに、君はそのままでいいんだよという思いを心のなかでだけ投げつつ、僕は更に手を進める。

 

「――師匠! 今です!」

 

「ああとも!」

 

“チッ――”

 

 ちょうど、師匠はコンボを稼ぎ終えたところだ。僕が壁になり、師匠を裂波では狙えない状況。当然強欲龍は――

 

“――天地破砕!”

 

「“D・D(デフラグ・ダッシュ)”!」

 

 対して僕は、強欲龍を蹴り上げて、飛び上がる。宙を舞い、地面の崩壊を尻目に、身体の方向を転換させた。さぁ、僕の土手っ腹はがら空きだぞ――!

 

“――ッ、強欲裂波!”

 

「“L・L(ラスト・ライトニング)”!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けどな!

 

「ぐっ――!」

 

“おおおっ!”

 

 僕は強欲裂波をまともに受け、天高く打ち上げられる。即座に飛んでくるリリスのバフで回復しながら、強欲龍を見た。まだ不死身は発動していないが、十分削れたことだろう。

 

 しかし――

 

「……結構きついな!」

 

 叫ぶ、空の方が、ガヴ・ヴィディアとは距離が近い。効果も大きいということだろう。

 ――何か。

 

「ちょっと! こっちはまずいわよ! ()()()()()()んだから!」

 

 僕を守るように寄ってくるフィーの言葉通り、僕は今すごい勢いでHPを消耗していた。スクエアを使っていないのにスクエアを使っているような消耗。

 いわゆるスリップダメージである。他にも、全ステータスへのデバフが入り、今の僕は傲慢龍戦頃のステータスしかないのではなかろうか。

 

“――笑止。天上にのこのこと上がってきたその者が無様。強者がいたわる理由はない”

 

「アンタになくとも、アタシにはあるのよ! なんてったって恋人なんだから!」

 

「師匠に聞こえないからって高らかに宣言しなくてよろしい!」

 

 お互いに叫びつつ、ガヴ・ヴィディアによって放たれた泡を鉤爪で消し飛ばすフィーを背に、僕は移動技で地上へと戻っていく。

 流石に、このままでは強欲裂波以上にHPを持っていかれるので、長居は無用だ。

 

 ――ガヴ・ヴィディアの戦闘におけるやっかいな点は二つ。

 ギミックの存在と、常時効果の存在だ。

 前者は、ギミックを破壊しなければ攻撃がまともに通らない。まったくというわけではないが、ダメージのほとんどは受け流されてしまう。

 もう一つの常時効果は、永続デバフと常時発動のスリップダメージ。

 

 長期戦が不利といった理由はこれだ。流石に接近戦をしているフィーのそばほどではないが、現在この戦場は奴のスリップダメージが作用して、僕らを削っている。

 なので、強欲龍が不死身を機能させたら、短期決戦あるのみだ。

 

 僕が移動技でコンボを稼ぎつつ、地上へ戻ると、師匠と強欲龍が激しく打ち合っていた。

 

「――なぜ、四天と行動を共にする! 一匹狼の強欲龍が、なぜ!」

 

“アレが離れねぇだけだ。別に望んだつもりは……ねぇ!”

 

 激しい激突、師匠が大きく吹き飛ばされると、遠距離技を織り交ぜながら、コンボを稼いで強欲龍へと接近。再び打ち合う。

 

「どちらにせよ、お前の本意ではないだろう。このまま儀式を完遂させるつもりか!?」

 

“ハッ――完遂できると思うか? てめぇらをわざわざ全員呼び込んだ上で始めてるんだぜ?”

 

「……狙いがある、と? それが何かを待ち受けている……というわけか!」

 

“そういう、ことだよ、オラァ! 天地破砕!”

 

 地が揺れる。

 破壊の嵐に、師匠はなんとか飛び上がって回避しつつ、後方へと下がる。移動技での退避だ、まだコンボは途切れていない、しかし――

 

“てめぇこそ、何考えてやがる!? 強欲裂波ァ!”

 

 ――熱線を連打しはじめた強欲龍。そのために、師匠は強欲龍へと近づけない!

 

“随分と戦闘に素直に乗るじゃねぇか! てめぇもあんだろ!? 手札がよぉ!”

 

「お前には……関係ない!」

 

“――狙われてるのは俺だろうが、バカ言ってんじゃねぇよ”

 

 打ち合い、熱線の弾幕は強烈だった。ダメージ自体はリリスがサポートに入っていればリカバリーは容易な部類だ。しかし、厄介なのはノックバックとコンボが途切れることである。要するに一向に近づけないのだ。

 師匠の最上位技は遠距離対応、遠距離から放っても問題ない、と言えなくも無いが――

 

「くっ――逃げるなぁ!」

 

“熱くなってるな、そんなんで本当に狙いが完遂できるとでも!?”

 

 強欲龍が動き出した。

 普段、相手の攻撃に合わせての行動が多く、動き回らない強欲龍だが、一度動き出せばそのスペックは大罪龍随一。いくら師匠がレベルカンスト間近のステータスとはいえ、バフ込みでも押されてしまうのが大罪龍である。

 

 しかし、

 

「――悪いな、本命はこっちだよ!」

 

 僕が、いる。

 

“――ッ! 来やがったな!”

 

「もう遅い! ――“L・L(ルーザーズ・リアトリス)”!」

 

 空中でコンボを稼いでの伏撃。多少デバフがあろうが、スリップダメージがあろうが、安全という言葉は、そんなものでは買えないのだ。

 戦場を覆うほどの大剣、強欲龍を軽く飲み込むそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“ぬ、ぅ――!”

 

 迎撃するべく顔を上げた強欲龍には、僕の姿は大剣に覆われて、認めることは敵わなかっただろう。そのうえで、地面に叩きつけられた、といっても、実際にはそれは()()()()()()()()()()()()だ。攻撃はまだ、終わっていない。

 僕の最上位技は、一撃を振り抜くまでが効果範囲で。

 この場合は、地面に直撃するまでが攻撃モーション。故に、僕は予め横に向けていた剣を、

 

 地面に触れる直前に、振り抜いた。

 

“――――オオオッ!”

 

 直撃。足元に叩きつけられた一撃で、強欲龍の態勢が崩れる。とはいえ、それでも地に足をつけるタイミングで天地破砕が飛んでくるので追撃はかなわないのだが。

 ――――そもそも、

 

「――不死身が発動したな。()()()()!」

 

「はい!」

 

「なの!」

 

 もう、強欲龍に攻撃は通用しない。

 不死身、無敵。そう呼んで差し支えない奴の機能が適用される。そして、

 

「――“◇・◇(スクエア・スクランブル)”!」

 

 僕の概念起源も、ここに始動した。

 

“――――ほぉ、その様子をみると、盤上に立つのは敗因じゃなく、てめぇか紫電”

 

「当たり前だ――父の形見、大切なものを、返してもらうぞ!」

 

 そして、

 

“――いいぜ、やってみろよ。けどな、()()()()()()()()()()んだよ”

 

「――!」

 

 ――強欲龍の足元に、紋様が浮かぶ。光を帯びて、回転し、ヤツに()()を注ぎ込み始めた。

 時間がない、そのことを否応なく意識させられる。もとより、短期決戦は師匠の作戦のうちだが――

 

 

“てめぇらが、()()を望むなら、俺の()()を止めてみろ――!”

 

 

 強欲龍、咆哮。

 

 かくして、この戦闘の本番、懐中時計奪還作戦が始まった。

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