――僕はスクエアによって得られたバフで、一気に強欲龍を攻め立てる。
剣を一つぶつける度に、強欲龍の腕と熱線が飛んでくる。そのどちらをも受け止めて、そのまま斬りかかるのだ。攻撃はほぼ一方的と言って良い。
どちらが、ではない。
僕は相手の攻撃をバフによって可能な限り軽減し、ノックバック無効で切り込んでいき、強欲龍ははなから首と心臓への攻撃だけを回避すればよい。
故に、僕は剣でひたすらその二つを狙い、強欲龍は可能な限りの打撃でもって、僕のスクエアを少しでも早く終わらせようとする。
攻防は、きっと一分にも満たないだろう。
その間に数十にも及ぶ激突を重ね、しかし互いにほとんど成果が得られなかった。
僕からしてみれば、狙う箇所が二箇所しかなく、容易にガードされてしまう状況は決着を付けるには、手札が足りない。
強欲龍からしてみれば、ノックバックも効かず、熱線すら正面から受け止められてしまっては、一方的に攻撃を許すほかない。
それでも、僕には制限時間があり、攻撃を受ける度にそれが加速するわけだから、有利不利で言えば圧倒的に僕のほうが不利なのだけど。
“どうした、どうしたあぁ!? 手早く決めなけりゃ、てめぇはジリ貧で死に果てるだけだろうが!”
「それは僕一人なら、の話だ!」
剣と同時に言葉が飛び交い、僕たちの位置が入れ替わる。現状、儀式の完了よりも僕のスクエアの方が早く終了するだろう。
効果時間を気にする必要はなく、あくまで自分の行動に集中するだけだ。
「――“
駆ける。
電光の速度で、師匠が弾丸となって突っ込んでくる。
移動技のスピードは、僕らの通常行動と何ら変わらない、というか、本来ならあちらのほうが早くなくてはいけないのだ。その上で、師匠は更に早い。
ガヴ・ヴィディアのデバフで僕らの速度が下がっているのもあるが――なんと、あいつのデバフは強欲龍にも有効だ。ある意味、とてもらしい話だが――師匠にはリリスの全バフが乗っている。
スクエアさえ起動してしまえば、強欲龍相手なら正面から殴りあえる。そんな僕の事情あってこそだ。
“ちょこまか、鬱陶しいんだよ!”
「言ってろ! “
師匠が回り込んだのは後方、後ろから心臓を狙う位置。当然ながら強欲龍は避けつつ、足に力を入れて天地破砕で対応してくる。
放つのにほとんどタメがない上に、全方位に飛んでくる天地破砕は厄介極まりない技だ。
強欲龍はパワータイプのイメージが多いが、実際のところ接近戦の手数は大罪龍随一である。天地破砕を飛び上がって回避した僕らに、熱線と拳が飛んでくる。
うまく位置を調整し、それをやり過ごしながら攻め込めば、ヤツは天地破砕を更に放ちながら、こちらの攻撃を拳で受け止めてきた。
流石に天地破砕を受ければスクエアを一発で解除しかねない。強欲龍の足さばきには常に注意を払っているが、ここに来てその苛烈さは更にましてきていると言って良い。
二対一、更に不利となっても、強欲龍の動きは変わらない。どころか更に鋭さを増して、僕のスクエア終了時間は加速する。
もって一分、というのは多いのか、少ないのか。
「さっきまでは手加減してたのか!? ってくらいだな、こいつ!」
“ハッ、てめぇらがヌルいンだよ!”
激突。
激しい攻防の中で、なんとか心臓と首を狙うが、到達すらできない。はじめてこいつと戦ったときに、あのステータスでこいつの核を破壊できたのは、本当に奇跡とすら言える偉業だったのだろう。
というより、強欲龍の動きは、
まったく巫山戯た話だが、正直強欲龍は僕たちが強ければ強いほど倒すのが難しい。初見で、かつ師匠にコンボを必要としない切り札があったからこそ、あの勝負は成立したのだ。
「――本当に、不思議なもんだよな」
思わず、口からそれがこぼれ出る。
“あァ――?”
「あのときの戦いは、僕の中で強烈に今も残ってる。興奮も、絶望も、勝利に対する感動も」
“忘れたくて忘れられるものかよ、てめぇの顔は、今も握りつぶせるくらいなら、握りつぶしちまいてぇくらいだ”
――本心から、強欲は僕の生命を奪おうとしてくる。きっとそれは、こいつとどれだけ言葉を交わしても変わらないだろう。
僕は強欲龍というキャラクターが好きだ。こうしてこの世界にやってきて、実際に面と向かって向き合って。そのうえで僕は、強欲龍という存在を好意的に見れると断言できる。
話をする度に、意思を疎通する度に、強欲龍という存在を画面の向こう側ではなく、目の前に存在する個人だと認識する度に、僕はそれが嬉しくなる。
だとしても、
「――全部こうして、アンタとまた殺し合うためにあったんだ!」
“――そりゃあ、ご機嫌だなぁおい! てめぇのその憎たらしい面ぁ、見てるだけで幸福になれそうだ!”
拳と剣が激突する。
結果は、伯仲。互いに攻撃を弾くが、姿勢は揺らがない。更にもう一撃。僕らは奏でるように物理を這わせた。
「――君たちは、二人の世界に入ってるんじゃない!」
「解ってますよ、師匠!」
師匠がそこに割って入り、槍に稲妻を奔らせる。さぁ、ここからが本番だ。
――直後のことだった。
「“
熱線。
天を真っ二つにする猛烈な焔の一直線が、僕らの頭上を瞬いた。
直後、
“――――笑止”
機械的なガヴ・ヴィディアの声が響く。僕らの戦闘は、今も続いているが、その声は自然と僕たちにも届いてきた。
「はぁ、はぁ……やっと引きずり出してやったわよ!!」
“笑止、笑止、笑止――!”
見れば、フィーも、ガヴ・ヴィディアも、どこか焦燥が見て取れた。互いに、限界まで鬼ごっこをして疲労困憊しているときのような。
「何が額縁の向こう側よ! 思いっきり顔をガラスにひっつけて、こっちを血眼で見てるんじゃないわよ! 意地汚いって思わないの!?」
“品のない言葉を弄することを禁ずる。耳障りな高音を発することを禁ずる。さえずることを禁ずる!”
「うっさい! バーカバーカバーカ!」
“黙れ黙れ黙れ!!”
激しい戦いがあったのだろう。ガヴ・ヴィディアはとにかくこれが面倒なのだ。ギミックによりダメージの殆どを軽減する能力。
故に、フィーの目的はそのギミックを引きずり出すこと。方法は、
そして、それをフィーはようやく達成したのだ。一対一で、本当にお疲れ様である。
“――あいつら、やっぱ同類なんじゃねぇか?”
「煩い黙れ、考えないようにしてるんだよ!」
強欲龍の視線が、なんというかバカを見る目でフィーたちを見ているが、ともかくフィーは役割を果たしたわけだ。後はこれを破壊していくことで、
“――強欲龍”
“ああ!? 俺に指図すんじゃねぇぞクソ野郎!”
ガヴ・ヴィディアが、天上からこちらに声をかけてくる。当然苛立つ強欲龍だが、ガヴ・ヴィディアにも苛立ちが見える。
このやり取りだけで、この二人の関係が見て取れるな。
“…………この泡が破壊されれば、儀式の継続が困難となる。守護せよとは命じない。しかし、留意しないものは愚図以下であると断言する”
“黙ってろつってんだろ!”
――熱線が、宙に奔った。
一応、それがガヴ・ヴィディアを狙ったわけではなく、フィーを狙ったものであることから、留意しないわけではないのだろうが、だからといって僕たちの戦闘よりも守護を優先するつもりはないのだろう。
「あっぶないわねぇ!」
「フィー、言ってる暇があったらガヴ・ヴィディアを抑えて!」
百面相を繰り広げるフィーに叫んで、僕たちは戦闘に戻る。
“しかしよォ――”
拳を振るいながら、強欲龍がささやく。
“数は十、大したようには見えねぇが、
「アンタがそこでのんびり棒立ちしてくれてるならな!」
――周囲に浮かぶ蒼玉は、無造作に置かれたように、あちこちに飛んでいる。しかし、そのいくつかはガヴ・ヴィディアと連れ添うように移動しており、ガヴ・ヴィディアはその死守に全力だ。
フィーが果敢に攻め立てるものの、僕の見立てではあれはまだ少し時間がかかる。
――――はっきり言おう。
僕らが泡を破壊しようとしても同じだ。強欲龍はガヴ・ヴィディアの指図は受けない。しかし、だからといってこちらに泡を破壊させる余裕は持たせない。
強欲龍を抑え込むだけなら僕だけでもできる。その間に師匠とリリスで破壊に回ることは不可能ではない。
だが、強欲龍は意図的に師匠とリリスを狙い始めた。
僕の攻撃を無敵で受け、核だけは守りながらも一顧だにしない。
「だああ! 邪魔だああああ!!」
「こっちまで狙われるとお困りさんなのー!」
「すいません! 抑えつけられません!」
――厄介極まりない。
こいつ、どこまで戦闘のキレを上げるつもりだ!? スペックはとっくに同等で、渡り合うだけなら無限にできる。僕たちも死地を無数にくぐり抜けてきた場数がある。千日手をきっちり千日演じきるだけの集中は可能だ。
だが、越えられない。
こちらがより深く、より鋭く戦いという深淵に身を沈ませるたび、あいつはそこに追いついてくる。それが楽しいという感覚はある。終わらせたくないという感覚もある。
かつて、傲慢龍にも感じたそれは、しかし。
「――強欲龍!」
“敗因――!!”
ああ、けれど。
制限時間はたしかにあった。
僕のスクエアの終焉。
儀式はまだ完遂されない、けれど、儀式にどうしても必要な
“――チッ”
奴は、それを即座に手に取り、距離を取る。
“――――間に合わなかったなぁ”
「…………」
“一秒でもあれば、てめぇはこれを奪い取れたんじゃねぇか?”
「意味のない推察だよ、それは」
しかし、まだ僕たちは健在だ。
“だったら、どうする、命がけでこれを奪い取るか? てめぇの強さは、それが本当に可能か?”
「……考えても見ろよ、強欲龍。
“あぁ――?”
僕は、どうしてか笑いが堪えられなかった。
勝ち誇りたい。
胸を張りたい。
師匠の功績を背負いたい。
やってやれと、勝ちに行けと、高らかに声を張り上げたい。
ああ、その思いは――
「僕たちがアンタを倒した時、
――――直後、
「確かに、僕たちじゃどうやってもガヴ・ヴィディアのギミックを破壊することは不可能だ。手が足りない。普通なら」
「――けど、そんな戦いに、
師匠が、僕の言葉を引き継いだ。
――紫電の主は、言うまでもなく師匠だった。膨れ上がる稲妻の群れ、無数に連なった一本線は、やがて溢れきれずに周囲へと広がっていくのだ。
“――これ、は”
ガヴ・ヴィディアが、戦闘をやめ、下を見下ろしていた。そして、フィーもまた。こちらに満面の笑みを向けている。
“――
そう、師匠に残った最後の一発。
僕たちに残された、最後の使用回数。
僕のようなインチキで行使されるそれと違う、正当で、本物の、
「――私の紫電は、無限に広がっていくんだよ。そして、十の核を、同時に穿つ! 避けれるものなら避けてみろ!」
そして、
「“
炸裂。
明滅する視界の中で、
――強欲龍は、自身の核に向かう攻撃を弾いた。
――ガヴ・ヴィディアは、守りきれなかった。
直後、ガヴ・ヴィディアの世界が崩壊を始める。