負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

149 / 200
133.最強はぶつかりたい。

「ぬ、あああああっ!」

 

 師匠が吹き飛ぶ。スクエアは効果が切れ、ゴロゴロと転がった先で、けれども概念崩壊はしていない。リリスの概念起源故に、僕らはまだまだ戦える。

 加えて言えば。

 

「――あああっ! “◇・◇(スクエア・スクランブル)”!」

 

 師匠はスクエアを何度でも使用できる。時の鍵の効果ゆえと言えるだろう。

 僕はと言えば、スクエアの効果時間は無限になった。概念崩壊しないがゆえに、しかし、一撃でも攻撃をうければスクエアの限界で、効果が終了する。

 先程の師匠のように。そんな状態で、ギリギリの回避を続けながら、僕たちは戦闘していた。

 

 ()()()()()()だ。

 

 当然ながら、やつには最上位技の効果による回復と、それから未だ破壊されていない無敵の核がある。ゲームでは概念化したときにはすでに破壊されていたため、どういう形になるのかよく解っていなかったが、

どうやら概念化した状態でも効果が適応され、概念崩壊しなくなるらしい。

 

 とはいえ、そもそもそこが問題ではない。師匠が吹き飛ばされ、狙いは僕へと向けられた。一撃がすなわち死。かつての強欲戦を思い出す状況に、歯噛みをしながらも、できることは数段違う。やるべきことはあまりにも増えていた。

 剣を剣で受け流し、攻撃をなんとか叩き込みながら、最優先はデフラグ・ダッシュ、つまりバフの消去だ。

 

“オラオラァ! 全く響いてこねぇぞ、てめぇら!”

 

「――響いてはいるだろう、やせ我慢も大概にするんだな!」

 

 殴り合う。

 剣を振り回しながら拳まで飛ばして来る上に、熱線と天地破砕も健在だ。後者は最上位技に格上げされているが、通常攻撃としても使うことができる。

 ただ、範囲攻撃ならあの横薙ぎの概念技でも問題はないのである。

 

“『L・L(ルーズ・ロスト)』!”

 

 横薙ぎ。それだけで、すでに更地に戻った地を粉砕し、その破片すらもこいつは凶器に変えてくる。とはいえ、攻撃自体は非常に素直。狡猾ではあっても、卑怯ではない。

 なんとか読み切った僕は移動技を叩き込みつつ上空を通って反対へ回り――

 

 ――そこに拳が見舞われる。

 

“甘ぇんだよ!”

 

「解ってる!」

 

 ――ただし、それも織り込み済みだ。

 

「――だああ! “E・E(エレクトロニック・エクスポート)”!」

 

 師匠が、強引に僕と強欲龍の間に割って入る。

 

「“C・C(カントリー・クロスオーバー)”!!」

 

 ――バフが剥がれ、拳は通常攻撃、上回るのは師匠の斬撃だ。拳は弾かれて、師匠と強欲龍の間に距離が生まれる。

 

「間に合ったぞ、強欲龍――――ッ!」

 

“間に合ったところで、てめぇのそれが、決着に至るものかよ!”

 

 師匠が概念起源の散弾を、強欲龍が熱線をぶっ放す。押しているのは師匠だが、強欲龍は散弾を構わず突っ切ってくるだろう。

 僕はその中を駆け、横から割り込むように斬りかかる。流石に、この状況で僕の最上位技が決定打になるかと言えば否である。逐一デバフを入れながら、デフラグ・ダッシュを様子をみて叩き込む。

 

 師匠の使える概念起源の中にも、バフ消去の概念技はあるが、使いやすさで言えば間違いなく僕のそれが勝る。

 致命の一撃をSBSでさばきつつ、師匠の激しい攻撃にまぎれての一撃。

 戦闘は、順調に推移していると言えた。

 

“楽しいなぁ! てめぇらから奪える! てめぇらのすべてが俺に向いている! これこそ、奪い合いの局地だとは思わねぇか!?”

 

「お前の強欲は否定しないがな! こちらに押し付けられたところで、私達はそれとぶつかり合うことしかできん!」

 

“それでいい! それがいいんじゃないか! てめぇらが俺から奪われることを拒むのが、俺の存在理由になる。奪うってことは、てめぇらと敵対しなきゃできねぇんだよ!”

 

 熱線が、剣閃が、破壊が、散弾が。

 言葉の度に振るわれる。一体何度攻撃を叩きつけた? 一体何度攻撃を躱された? それまでを振り返る余裕など、僕らには一切存在しなかった。

 今、目の前に強欲龍がいる。

 

 そのことが、今の僕らのすべてだったのだ。

 

「――復讐も、因縁も、終わってみれば戦いの切っ掛けにはなるけれど、ここまでくれば後はただの意地だ。いくら言葉を投げかけたところで――」

 

「私達は、揺らがない!」

 

“――揺らがれる方が、興ざめだってんだよ!”

 

 解っていても、言葉というのはお互いをぶつけ合うには最適だ。強欲龍は、僕にとっての宿敵で、決着は、どこかでつけなくてはならない。

 それが今なのか、また別の機会になるのか。それは、終わってみなければわからないけれど。

 

 ()しかない()()()()()にできることは、言葉と剣を叩きつけることだけ。

 

 ――笑っていた。

 強欲龍が、言葉を口にするたび、概念を解き放つたび。

 僕たちは、ヤツの顔を見る。ああ、まったく。

 

 ()()()()()()だから、僕はこいつを倒したいと、思うんだよな!

 

“――消え果てろ! お前の価値を、お前という敗因を、俺の勝利によこしやがれぇええ!”

 

「――――断る!」

 

 だが、ヤツのコンボがたまる。赫の焔が、何よりも熱を帯びてその場に吹き上がる奴の意思が、また完成しようとしている!

 

 

「――――“嫉妬ト色欲(フォーリング・エクスリア・カノン)”!!」

 

 

 それが突き刺さったのは、ヤツの顔面だった。

 

「フィー!?」

 

 見れば、上空に見慣れた少女の姿がある。それは一つではない、フィーの背にはリリスが乗っていた。二人でここまでやってきたのだろう。

 百夜もいるだろうが、彼女は眠っているだろうからな。

 

 ともあれ、結果として僕のデフラグ・ダッシュが間に合った。強欲龍の焔がかき消える。しかもフィーの熱線は、おそらく一撃で今の強欲龍を不死身発動まで持っていくほどだ。

 リリスのバフも、割合上昇だとバカに出来ないしな。

 

「さっきから、アンタ達だけでイチャイチャしてんじゃないわよ!」

 

「今のをイチャイチャと表現するのか……」

 

「あー! ししょースクエアちゃん使ってるの!」

 

 リリスが、師匠のスクエアに気がついて、咎めるように叫ぶ。まぁ、それは仕方ないところもあるだろう。本来スクエアは寿命を削るからな。

 とはいえ――

 

「そのための君の概念起源だ。死を否定するおかげで、これまで四度スクエアを使っているが、不調は無いよ」

 

「本来なら、一回使えば、寿命が十年は持っていかれますけどね」

 

「おっかないのー!?」

 

 ゲームにおいて、4主がスクエアを使用する回数は実に八回。六回目くらいで寿命が尽きないかと思うが、ここに少し絡繰があって、4主はアンサーガが作った人工生命で、見た目は十代でも実際には0歳なのだ。

 閑話休題。

 

“ハッ、集まってきたじゃねぇか! 楽しいなぁ! てめぇらは本当に最高の敵だよ!”

 

「まだ言ってるし……っていうか何よその剣! アンタもう概念化してたの!?」

 

“おうよ! 勝利のグリードリヒとは、俺のことだ!”

 

「いっちょ前に、そいつの反対に――なるなぁ!」

 

 ――フィーから、無数の攻撃が飛んできた。あまりにも狙いが適当すぎるために、若干こちらにも飛んできているが、流石に当たるはずもない。

 強欲龍がステップしながら下がりつつ、フィーとリリスが降り立った。

 

「このまま一気に決める! 頼むぞ、フィー!」

 

「解ってる……ねぇ、お願いだから無茶しないでよ?」

 

「それはどっちに言ってるの?」

 

()()()()()に決まってるでしょ!」

 

 ――言葉を交わして動き出す。フィーという、師匠に並ぶ現状の最大戦力が加わったことで、一気に戦局は傾く。

 

“ハハハ! まとめてこい! てめぇらの全部をぶつけてこい! でなけりゃこの戦いに意味はねぇ!”

 

「酔っ払ってんじゃ――ないわよ!」

 

 焔の踏みつけ、強欲龍を覆うように放たれたそれに、師匠の散弾が覆い隠される。

 不死身が機能しているために、強欲龍は一切それを気にせず突き進むが、こちらもリリスの概念起源で、倒れることはない。

 

 お互いにアホみたいな物量をぶつけ合っているにもかかわらず、その戦闘はあまりにも泥臭い殴り合いと化していた。

 

 こちらの突破口は、不死身の破壊。

 あちらの突破口は、この雨を終わらせること。方法は、残念ながらある。

 

 フィーが加わった状態で、強欲龍は核を守りながら、僕を狙い始めた。戦略として、優勢だったときから転じて、策を弄し始めたのだ。

 そんな中で、僕というウィークポイントは二人にとっての負担になる。

 ただでさえ僕がデフラグ・ダッシュを当てなければコンボを稼がれてしまう状況――結果として、

 

「――アレがくるぞ!」

 

 強欲龍の、コンボが溜まった。

 

 ――即座に三者三様、動き出す。フィーは理解できないながらも、危険を察知して後退。師匠はなんとか妨害のために紫電をぶっ放す。

 そして僕は――

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 

「またそんな無茶して!」

 

「いいから!」

 

 僕は叫ぶ。

 ――ここが分水嶺だ。お互いにとって、ここで決めなければすべての行動が無意味になる。強欲龍も、僕たちも、ここで決着をつけなければ意味がないのである。

 

“――ハッ!”

 

 変わらず、強欲龍は笑っていた。最大までコンボを溜めた状態。僕はそれをSBSでやり過ごし、核を破壊するために動く。

 そこから、追撃で一気に落とす。僕という存在が枷ならば、存在しなくてもいいと思う程度には、結果を残して委ねてしまえばいい。

 

 ()()()()()()()()()()に持ち込むことで、強欲龍の鬼手も引きずり出す!

 

“なら、終わらせとけや!”

 

 強欲龍は、そして。

 

 ()()()()()()

 

「――!!」

 

 

“『強欲・裂波(グランド・エデン)』!!”

 

 

 それは、

 

 ――天を貫く柱となった。

 

 天地破砕の概念技とも違う、強欲龍の()()()()()()()()()。天へと放たれたそれは、

 

 ()()()()()()()()()()

 

 気がつけば、空には陽光が広がっていた。雲など一つもない快晴。それは憎たらしいほどに、強欲龍を照らしている。

 

 効果は、熱線に触れたあらゆる概念技の消去。リリスの概念起源は、ここに払われたのだ。だから僕は、

 

「お、おおおおおおっ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()、突っ込む。

 

 それは、そう。

 

 こちらに来ることを察していた強欲龍の一撃が、()()()()()()()()空振りに終わり、僕はその余波を身を低くかがめて、躱す。

 

“てめぇ!”

 

「悪いな! ()()()()!!」

 

 僕は、その空いた隙に、構わず一気に突っ込んだ。紙一重、もはや攻撃を受ければかき消えるのは目に見えていて。

 

「――これで、一つ!!」

 

 僕は、勝利を確信し、胸の核を狙う。

 

 

 その時、だった。

 

 

“『転・移(エスケープ)』”

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――あ?」

 

 停止する。

 ――その時、奇妙なことに、それまで続いていた戦闘が、完全に停止した。師匠も、僕も、強欲龍も、フィーも、リリスも。

 

 理解できずに、停止していた。

 

“――幸運。幸運。間に合ったことを告げる。間一髪であったことを勧告する”

 

 ああ、それは、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。

 

 

 僕らの視線の中心に、羽衣の龍は立っていた。

 

“この幸運という栄誉を持って命ずる。強欲龍――敗因たちを討て”

 

“――――”

 

 四天ガヴ・ヴィディア。

 狡猾ではあった。

 師匠の策を完全に見切って、師匠を概念起源に閉じ込めることに成功した。本来の歴史で使われなかった策。それが破られたことは、あいつにとっては同情に値する悲運だっただろう。

 

 ウリア・スペルと比べれば、あまりにも惜しかった。あと一歩まで僕達と強欲龍を追い詰めたと、そう賞賛できる点もある。

 

 しかし、

 

 今、

 

 この瞬間。

 

 

 たったこの一手でもって、こいつはウリア・スペルなどとは比べるべくもない愚物へと堕ちたのだ。

 

 

“――不可解。なぜこちらを見ている”

 

“てめぇは”

 

 強欲龍が、剣を向けた。

 

 

“――この世に必要ねぇ”

 

 

 弱者すら、奪うことに価値を見出す強欲龍の眼の前に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。