――リリスは私の親友で、大切な人で、失いたくない人だ。
白光百夜は永くを生きる。その中で無数に出会いはあって、今でも強烈に印象に残っている存在は数多くいるけれど、ともに生きてくれる人はいなかった。
それはそうだ、百夜と人間では生きる時間が違う。存在そのものが隔絶している。
それを苦に思ったことはないけれど、それ故に私が誰かにとっての部外者であることは、紛れもない事実だろう。
というよりも――私は部外者であることが好きだ。ただ強いものと後腐れなく戦い、その強いものが何を為すか、遠くから眺めたい。
そのためには永く生きることは大事なパーソナリティで、私の一部だ。
歴代の、ローブと剣の魔法使いに、その生き方は寂しいと言われたことがある。彼らは仲間に恵まれて、一人でいることを嫌う人達だ。
――多くの人間にとって、善良で気丈な人間にとって、誰かと共に歩く時間はかけがえのないもので、何よりも尊ぶべきものだという。
それを否定はしないけれど、それは私の生き方ではないと、私は常々思っていたのだ。
――だから、まさか自分にそんな人ができるとは、思いもよらなかった。
けれど、できたからこそ思う。そういう人は、
そう考えると、私は最初からそういう心の自衛ができていたのだな、と思う。
人間性がない、と多くの人に私は言われるけれど、そんなことは決してない、私だって考え、思い、それを行動に反映して生きている。
他人にそれが伝わらないのは、私が伝えるのは苦手だったのと、伝える必要性が薄かったから。
彼らにとって、私は彼らとは違う存在なのだから。わかり合う必要は、残念ながら存在しなかった。
リリスは、私と一緒に生きてくれる人だった。
それは、まぁフィーも、紫電も、敗因もそうだけど。その中でも、とびきり
強さでは、直接戦闘能力がない分、あのメンバーの中では最弱で、直感で生きるために、あのメンバーの中では行動の中心になることは少ない。
でも、私が一番惹かれたのはリリスだった。行動の理由がわからないからだ。
何を言っているかはわかる。彼女は言葉を省略するきらいがあるけれど、きちんと順序立てて考えてみれば、それは論理的な思考の上で成り立っていることがわかる。
そういうと、敗因から変な顔をされるけど、あの中で一番行動に突拍子がないのは敗因だ。ただ、どうしてそういう行動を取るのかは理解できるので、まだ私の中では飲み込みやすい人物だ。
行動は読めないけど、行動原理は単純明快、そんな感じ。
――その真逆にあるのがリリス。行動の意図はわかるけど、そうなった原因はわからない。敗因はどうしてか、行動の意図は読み取れないのに、原因は読み取れることが多い。
まぁ、このコンビも大概へんなコンビだと思う。
あのパーティは、居心地がいい。
共に同じ時間を歩いてくれる人達、私がいてもいい、もっといたいと思える場所。そんな中にいられたのは本当に幸運で、喜ばしいことで。
――生命には必ず終わりがある。私達のような存在は、その終わりがいつになるかはわからない。ただ、今の所――自分からそれを終わらせようという意思は、私の中には一片たりとも存在しなかった。
そう、何モノにも終わりはあって――
◆
“あーら! あらあらあらあらぁー!”
「……ッ」
迫ってくる。
何か、
“
岩。
それも、一種類ではない。
焔をまとった岩、風をまとった岩、凍りついた岩、電撃を帯びた岩。
とにかくすべて岩だった。
それらが、音を超える速さで迫ってくる。
「……“
それを、私は光の檻で弾きながら、その中を駆け抜ける。時折、岩の余波が私の身体を傷つけるけれど、この程度ならリリスの回復で問題なくフォローできる。
しかし――
「“
放つ遠距離攻撃。
“そんな見え見え、通るわけないでしょおおお!”
――ラファ・アークの周辺に浮かんでいた岩が彼の手の動きに合わせて誘導され、攻撃を弾いた。それに使われた大岩が、焔や稲妻をまとって飛んでくる。
“『
そして、それが放たれた直後には、再び周囲には大岩が浮かんでいた。
「それ、どこから来てるのー!」
“私の乙女袋からに決まってるじゃなあああい!”
大きく飛び退いて躱しながら、そんなリリスとラファ・アークのやり取りを聞く。意味がわからない、理解できないが、する必要もない。
“『カバリツケ』、『チリザイ』”
お祖父様がその力を振るう。風のギロチン、焔の振り子。もちろんこれも、大岩に弾かれる。
弾かれた大岩はお祖父様に射出され――直撃する。あの巨体では躱しようがない。
“面倒な……”
――厄介なのは、あの岩の補充速度だ。ラファ・アークの周囲には常に十個近い大岩が展開され、射出されればそれと同時に次が補充される。
この間に間断がないのだ。
一切の隙間なく、常に侍らせているあの大岩は、さながら奴に忠誠を誓う騎士といったところか。
何を言っているんだろう、私は……
「リリス」
「ガッテン」
普通にやっただけでは近づけない。本気の私ならともかく、今の私では、無理やりあそこに割って入ることができないのだ。
故に――
「出し惜しみはしない。“
――最大火力を開放する。
リリスのバフも乗ったそれは、間違いなく強化されていない嫉妬龍、暴食龍くらいなら一撃で吹き飛ばす威力だ。加えて――
“合わせるのも億劫だが……『ハメツ』”
しかし。
“あらァ――夢見がちねぇ、あなた達”
――ラファ・アークは、しかし。
傲慢のような無敵も、強欲のような不死身も。それこそ、敗因のような不可思議の無敵時間もなく。
“アメぇんだよ! 『
周囲に出現した大岩が、
「な――」
思わず、口から驚愕が漏れる。
こんなこと、今までなかったことだ。私の最大火力を耐えたものはいた。何らかの手段で躱したものもいた。しかし、
自慢ではないが、私は強い。ここにいるものは、皆一線級の戦力だ。お祖父様だって、リリスだって。
――だが、今の攻防だけで、ラファ・アークはそれを上回ってきた。
解ってはいたつもりだった。これまでの戦闘でも、それは間違いなく解っていたのだ。四天は強い、ウリア・スペルは最強を名乗ったし、ガヴ・ヴィディアは紫電を苦しめた。
ああ、でも……
「……こんな奴に」
思わず、溢れる。
“あらぁ? ――それは、アタシが四天だからいってるのかしら?”
地獄耳、ポツリとこぼれたその言葉に、ラファ・アークは耳ざとく反応してきた。しかし、否定はできない。偽らざる本音だ。
「……最強は、私」
“その最強、アタシに弾かれてるんですけどーーーーー! マジ爆笑なんですけどーーーーー!!”
「違う。
“ふぅん?”
――ラファ・アークは意外そうにこちらを見る。私が戦闘狂だと知っていれば、最強の座を他に明け渡すことが、気に入らないのだと思うかも知れない。
でも、違うのだ。
私にとって気に入らないのは、
「お前は……望んでも、いない」
傲慢もそうだろう。あいつは常に頂点であろうとした。
だから、そいつらが最強を目指すなら、歓迎する。最終的に勝つのは私だとしても。
でも、こいつは違う。
「当たり前、みたいな顔で。望みもせず、目指しもせず。なのに最強を……名乗るな」
“あはァ――バカねぇ”
――言葉とともに、ラファ・アークの周囲に岩石が更に浮かぶ。――まだ、増えるのかと歯噛みする。こんなにもあっさりと、私の最強を打ち崩すそれを、これみよがしに。
だが、違った。
――浮かび上がったそれは、さらに天上へとむかい昇っていくのだ。
“――私をウリアやガヴと一緒にしないでくれる? アタシはあんな連中とは違う。アタシは主様に、
焔を纏う。
否、焔ではない、あの岩は熱だ。熱をまとっているのだ。概念としては知っている。アレは――空より来る流れ星。隕石というやつだ。
“主様の思う最終形が私なの。最も優れた私は、否応なく最強なのよ。つまり、わかる?”
「……お前が、そう名乗らなくとも……マーキナーはそう目指して……作った?」
“そういうことよぉ、だからぁ――てんで笑っちまうんだよなぁ! なぁにが望んでないだ! これが最強の形なんだよぉ!!”
「…………!」
確かにそれは、一つの最強の形だろう。四天は手足、マーキナーが作ったもの。ならば、
であれば、ヤツは、これまでの四天とは違う。
――そして。
“アタシの最強で消えやがれぇ! 『
「――百夜!」
そこで、リリスが私に呼びかけた。
「リリス?」
「もう一回、もう一回行くの!」
「でも!」
「――いいから! リリスを信じて!」
――――!
「たいだりゅー様も! いい!?」
“……面倒だ”
リリスは、前を向いていた。
ああこれは、わかる。リリスは――
“クハハ! 何をしているのかしら!? アタシを笑い殺すつもりぃ!? 無駄無駄! 無駄なのよ! アンタ達じゃ、私には勝てないわ!!”
「――最強は、
リリスは、
私とも、ラファ・アークとも違う最強が。
「百夜は
白光を構える。
――リリスは私の親友で、大切な人で、失いたくない人だ。
そんな人が、私を信じてくれるといった。
だったら。
“ふん、無駄よ! アタシの最強は! 崩れない!!”
「――それはどーかしら、なの!」
――応えないわけには行かない!
「百夜! たいだりゅー様!」
構えて、
「
「“
“――『ハメツ』”
――私達は、それを放った。
“横って――そらすつもりぃ!?”
「……そういう、こと!」
隕石からの手応えが私に伝わる。重い、弾けない。でも。
“バカねぇ! たとえ反らせて、直撃を避けれたとしても! 余波をアンタたちはまともに受けるのよぉ!”
「――バカはそっちなの」
そして、リリスは。
「
リリスにとって、私が最強であるように。
――リリス、私にとっては、貴方こそが最強の親友だ。
“ぬ、ぅ――億劫だが”
そして、お祖父様も。
“
――怠惰だろうと、娘のために生命を投げ出せるお祖父様は、ここで引けないお祖父様だった。
「っ、あああああ!」
声からすべてを吐き出して。
“ぬ、ぅ!”
お祖父様が、ギリギリまで引きつけたそれを――避ける!
「今なの! “
余波が世界を明滅し。
――気がつけば、私達はまだ立っていた。
“バカな!!”
ラファ・アークが叫ぶ。
ああ、まったく。
「――百夜」
きがつけば、リリスが横に並んでいた。
「リリスたちは、さいきょーなの。だから、こいつにだって負けないし」
「……うん」
「いつまでも、皆一緒に、笑顔で暮らすの!」
ああ、そのために――
「――そのために、全てをおわらせに行こう」
リリスの手には、宝石があった。
赤色の、それは。
――私達を包み始める。
大切な人と、これからも一緒に。
最強を越えて、その先へ進むために。
――いずれ、それが終わってしまうとしても。
私達は、先へ征く。
「――
「
ねぇリリス。
貴方の突拍子もない世界は、私にとっては、何百年よりも価値があって、素晴らしいもの。
だから、これからも。
貴方の世界を、歩かせて?