――私達が行った儀式は、二つの概念を
二重概念、他で言うと、別の歴史の私が敗因……敗因? と概念起源を使うために使用したもの。同じく別の歴史の紫電が別の紫電と使ったりもしたらしい。
ということは、あの紫電か。彼女も強かった。
そして、これらは概念起源を重ね合わせることで効果を発揮するという代物だが、他にも、
それが何かというと、今、私達がやっていることだ。
傲慢龍の儀式を利用し、あるアイテムを使用することで、二人の異なる概念使いを、一つの概念に合一する。そのアイテムというのが、四天を倒した後に入手できる宝石だ。
私達がウリア・スペルのものを、敗因がガヴ・ヴィディアのものを所有している。
これが、私達が使用することになるパワーアップ手段で、二つの概念を合一すると、その二つの概念が
掛け合わされ、お互いに高め合うように強化されるのだ。
私の白光と、リリスの美貌。それら二つが重なり合って――
“んま――!”
「――またせた」
そこには、私がいた。先程までリリスがいた場所に、リリスはいない。ラファ・アークが驚いたように口を開け、こちらを油断なく観察している。
その様子は、ウリア・スペルやガヴ・ヴィディアにはない慎重さが、たしかに感じられた。
そして、
“――どっかーん、ですの!”
リリスが、私の横に
ちょっとエッチだ。
“何とも、それっぽいじゃなーい! ふぅん、そうなるのねぇ”
「
――白光百夜とは、名乗り方が少し変わった。新鮮だけど、気にしている暇はない。さぁ、反撃開始だ。
「――これで、もう遅れを取ることはない」
私は鎌を向けて、ラファ・アークへと相対する。リリスもやる気十分といった様子で私の隣を跳ね回った。
――曰く、合一が最初に行われたのは、本来の歴史では紫電たちによるものらしい。紫電は概念起源を弟子の紫電に放たせるために二重概念を使用したが、他にも時折、このような合一を起こして弟子の紫電を強化していたらしい。
狙って起こせるものではなかったそうだが、後にこうして本来の歴史における私と敗因の合一につながる……のだそうだ。
“ハッ――ナマ言ってんじゃねぇぞガキ共ォ!”
――ラファ・アークの大岩が再び飛び出した。私も合わせて踏み込む。
その速度は、――強化された状態の私と並び立つことが容易なほどだ。基本的なスペックが、強化状態の私に比肩するまで向上している、とも言える。
大岩を掻い潜り、余波などものともせずに踏み込む。――なんなら、大岩そのものを、鎌で吹き飛ばすことさえできた。
“――猪口才!”
「届いた――!」
鎌を振り上げ、
大岩を引き寄せ、
“『
「“
強化された私の最大技、光の蛇を鎌へと絡みつかせ、集積した大岩を
「まだ、まだ」
さらに一閃、私は大岩の中を踏み込みながら、構える。この程度で、私の攻勢は終わらない。だから――
“――やるじゃない”
そこに、大岩の棍棒を構えたラファ・アークの姿があった。
――こいつ、遠距離攻撃だけじゃない!
「――上等」
だが、それでも構わない。確かにこいつの言う通りだ、こいつの戦い方は随分と面白い。ウリア・スペルもガヴ・ヴィディアも悪くはなかったが、アレらはスペックに頼りすぎるキライがあった。
こいつはまだ、戦い方にパターンがある。
「リリス」
“ガッテンですの!”
それまで、私に付いてくるだけだった半透明のリリスが、動きを見せる。ここからは、ただパワーアップしただけではない。合一の、よりそれらしい戦い方を見せるとしよう。
――二重概念には、デメリットがないかといえば、ないわけではない。
まず、時間制限がある。これは、合一した二人の縁、関係性、絆によって変化してくる。縁、というのは例えば能力の親和性なども関わってくる。
同じ概念だったらしい元の歴史の敗因と私は、それはもう相性が良かっただろうし、逆に私とリリスは縁という側面では大した親和性は存在しない。
私達の間にある縁は、せいぜいが寿命を同じくする、という程度だろう。
だが、絆は、心は、元の歴史の私達にだって負けていないはずだ。
継続時間は、少なくとも敗因が体力が最大まである状態からスクエアを発動させ、そのまま回復などを挟まずに効果を終了させるまでと比べて、非常に長い。
一戦闘中なら、維持することは容易だろう。
他に存在する制限は、一戦闘中一度しか使えないこと、解除は任意ではできず、概念崩壊すると強制的に解除されること。つまり時間制限になるか、概念崩壊しなければ解除できない。
そして何より――
だが、今合一化している私とリリスは、リリスが半透明になっている分には、攻撃できないことは問題にならないのだ。
「“
高速で、ラファ・アークの裏側へと回り込む。既に鎌は振りかぶられ、後は一撃を叩き込むだけだ。
“甘いわねぇ!”
――大岩が間に浮かび上がる。ああ、これは吹き飛ばすことはできるけれど、先が続かない、しかし。
“甘いのはそっちなの! 『
リリスの攻撃上昇が、私に適用される。結果――間に浮かんだ大岩は、
“なんですってぇ!”
なんとかガードに差し込んだ大岩の棍棒もそのまま砕き、ラファ・アークは吹き飛んだ。――概念技を載せていない分、一撃が軽い。追撃は必須だ。
「“
――ラファ・アークが地面に激突するよりも早く、回り込む。
“早い――! けどねぇ!”
しかし、
“アタシだって、四天の最強名乗ってんだからぁあああ!”
大岩が、浮かんだ。
態勢を立て直しながら、ラファ・アークは更に棍棒まで再生成しようとしている。
“手際良すぎなのー!”
「構わない」
――私はそれに鎌を振りかぶり、
しかし、実際は違う。
“――ガード成功ですの”
リリスの防御が間に合っている。
このまま相手からは見えない場所から――
「“
最大火力を、解き放った。
――大岩集合を使用していなかった岩石は、一瞬にして塵へと還り、そのままラファ・アークへと襲いかかる。
“
しかし。
――それを警戒していたのか、ラファ・アークもまた最大火力でこちらを攻撃する。だが、出が遅かったようだ。一部は弾き落とすものの、いくつかはやつの身体に突き刺さった。
“が、ああ! なん、なのよこの威力!!”
「最強だから」
当然だ。
その隕石程度で、リリスと共に最強になった私を止められるものか。
「貴方は見どころがある……でも、このまま沈め」
少なくとも、これまでの四天よりはよっぽどマシだ。こういうヤツとなら、幾らでも私は戦いたい。倒さなくてはならないのは残念だが、私情を挟み込むつもりもない!
“ハッ――”
――肉薄した私に、しかし。
“――ナマいってんじゃねぇゾ、クソガキ”
ラファ・アークの殺意に満ちた声が囁かれた。
――嫌な予感。
「――ッ、“
後退。光と成って駆け抜ける私の横目に、高速でラファ・アークへと集まる岩鉄が見えた。それは、どういうわけかこれまでの岩石と違い、黒く、光って、磨き上げられている。
“オオオオオオ! 『
「――これは」
そして、ラファ・アークは、磨き上げられた黒鉄を、
“完ッ了ッ!”
ハートマークを身体から出現させ、ポージングをするラファ・アーク、理解不能だ。
「より一層わからなくなった」
思わず後方で完全に終わったつもりでいるお祖父様を見る。何の反応も返ってこなかった。
“――アタシの肉体は、鋼。アタシが侍らすこのイケメンたちも、アタシの糧となるために存在している”
「……?」
“解らないなら、心で理解しなさぁい。アタシの乙女心は、アタシをより強くするのだと!”
――直後。私の目の前に、ヤツは迫っていた。
“死に晒せやぁ!!”
――直撃。
私は今、リリスの攻撃力上昇を受けている。その状態で――衝突。拮抗――否、押されている!
「――“
“『
――激突。
概念技を使ってもなお、優勢はあちらだ。距離を取る、大岩を飛ばしながら、やつが迫ってくる。――大岩の威力は変わらない。遠距離なら強いのはこちらだ。
しかし、あちらがこちらに迫る勢いで突っ込んでくる。逃げ切れない!
“ハッ――! 逃げてばかりで、最強を名乗れるなんておかしな話ねぇ!”
「――挑発」
“百夜ー!?”
リリスが慌てた様子で、私の逃げの一手への忌避を咎める。もちろん、解っている。だが、時には、
「解っている――“
“バカねぇ!!”
高速で移動していた私から、光の蛇が溢れ出て、ラファ・アークが足を止める。ガリガリと地面を削って停止すると、ヤツは両手を拡げ。
“こちらも全力よおおお! 『
そこに、隕石を出現させる。熱を帯びたそれに、やつの棍棒が突き刺さり、メイスとなる。
――両者が激突した。
「……っ」
今度は、息を呑むのは私の方だった。
押し切られる。驚くべきことに、威力はあちらのほうが上だ。リリスのバフがあってもなお!
“ファ、イト―ー!”
「まだ、まだ……!」
“残念、これで終わりよォ! 吹き飛べエエエ!!”
――一閃。
ラファ・アークが隕石を振り抜いた。
――炸裂が土煙となり、私の姿を覆い隠す。
“終わりねェ――”
驚愕。
想像以上の、全うな強さ。
ああ、しかし。
――本当に、惜しい。
「……まだ、まだなの」
リリスの声が、響く。
それは、先程までのような声ではなく。
実体を伴う、少女の声。
“あァ――!?”
「リリスたちは、強くなりましたの。あなた達に勝つために。マーキナーを倒すために!」
――私達の強化は、私だけのものではない。
今の一撃、致命的だった。スペックは強化されている、体力だって例外ではない。それでも、あのぶつけ合いの後で、なおあの一撃は私を屠るには十分だった。
あるのだ、リリスには対応策が。
「でも、リリスには力がありませんの。百夜や、あの人達みたいに、直接誰かをどうこうする力が」
“あぁん?”
「だったら、どんな力があれば、リリスがそれに対抗できるか――リリスにあるのは、誰かを助けて、守って、癒やす力」
やがて、煙が晴れる。
――そこには、
「そんなリリスに、百夜と力を合わせて宿った力、それは――――」
巨大な、あまりにも巨大な杖を振り上げたリリスが立っていた。
「――倍返し、なの!」
カウンター。
リリスの合一による強化は、あまりにもシンプルだった。
誰かを癒やし、能力を向上させるリリスに宿ったのは、
これこそ、私達が、二人で最強である所以。
“ふ、ふ、ふざけんじゃねぇぞお! 最強は、アタシだああああ!”
ラファ・アークが隕石を呼び出し、構える。
ああ、でも、リリスの新しい力は、まだ効果を終えていない。
――振り抜かれた隕石のメイスは、しかし。
“いけ、リリス”
半透明になって、ちょっとエッチになった私が、リリスに呼びかける。さぁ、決着だ。
「――“
“ふ、ざ、け、る、なああああああああああああああ!!”
――飲み込まれたラファ・アークは、かくして。
ここに、