負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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137.世界は負けろと言っている。

 マーキナーは、邪悪に笑い、人の可能性を否定する神だった。

 

 マーキナーは言う。

 

「この世界を作ったのはボクだ。ボクがいなければ君たちは生まれてくる可能性すら与えられなかった。君たちがその可能性をボクに返す時がきたんだ」

 

 しかし世界は、そんな世界に器として導かれ、人の歴史を背負うことになった少年(しゅじんこう)は言う。

 

「確かに世界を作ったのはアンタだ。そのことには、感謝もしている。けど、可能性を選択するのはアンタだけじゃない。この世界には無数の意思がある。人が、大罪龍が、そしてアンタだって、その中の一つなんだ」

 

 だから、マーキナーだけがそれを享受して良い訳ではない。否、資格がたとえマーキナーにあったとしても、それを拒む資格もまた、万人に与えられて然るべきものだ。

 

「人間同士だって、時には争い合うこともある。だから、アンタのような可能性だって、間違いじゃない。これは対決だ。アンタが勝つか、世界が勝つか! その上で言ってやる。僕たちはアンタに勝つためにここへきた! みんなの思いを、意思を! 可能性を守るために!」

 

 だから、マーキナーに、

 

「世界は負けろと言っている! 僕たちに勝てと言っている! 決着をつけよう!」

 

 さあ、謳え。

 人々が、意思がその背を押している。邪悪にして、独りよがりの神を名乗る創造主に!

 

 終焉(フィナーレ)に概念を刻み付けるのだ。

 

 起動せよ、その概念を、

 

 叫べ、その名をーー!

 

 

 ◆

 

 

 ――そこは、意識の中の世界。

 意識とは、すなわち時間とも、空間とも隔絶されたもう一つの世界。つまるところ、ここでは時間が流れていない。外では一瞬の出来事でも、僕はこの空間で、幾らでも()と対話することができるのだ。

 

 こうなるだろう、という気はしていた。

 

 いや――マーキナーが現れることは、あまりにも想定外の出来事すぎた。完全にペースを持っていかれて、危うく死にかけたのだから、よっぽどだ。

 とはいえ、まだ大丈夫。マーキナーは完全ではない。器が四天であることもあって、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――未だに、少し動揺が収まらないものの、大きく深呼吸をして、それから動揺を落ち着ける。

 

 なにもない空間で、僕はそれを何度か繰り返して、それから周囲を見渡す。ここは僕の心のなかで、こんな描写はゲームでもたまにあった。

 今回、僕はあの儀式で、自分の心の中に手を入れた。何故なら、僕の心のなかには、僕が最も二重概念するのに相性がいい存在が眠っているのだから。

 

 ――そう、僕は()()()()()()()()()()()()としているのだ。

 

 考えても見てほしい、僕は別の世界からやってきた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。そして、フィナーレ・ドメインの主人公の概念は敗因ではない。

 ――ぼくの中には、二つ分の概念が、既に存在していたのだ。

 

 だから――

 

 

「――ようこそ。というべきなのかな」

 

 

 気がつけば、目の前に彼はいた。

 

 もうひとりの僕。この世界で、本来ならばマーキナーを撃破するはずだった僕。――そして、僕とは違う概念を持つ彼は、

 

「……あいたかったよ、白光」

 

 ――そう、呼ぶべきだろう。

 

「どういたしまして、敗因」

 

 ああでも、あいたかったというのは本当だ。

 なにせ、彼はゲームの中の主人公。これまで、何度もゲームのキャラクターに出くわしてきたけれど、()()()に出くわしたことはなかった。

 敗因はプレイヤーの化身とされる存在だし、他のキャラクターは時代が違いすぎる。

 

 だから、少しだけくるものがあった。

 

 僕は、ようやくここにたどり着いたのだ。

 

「……なんだか、不思議な気分だよ」

 

「そうかな?」

 

「君に限らず――僕にとって僕以外の剣とローブの概念使いは、それだけ特別なんだ」

 

「……マーキナーも?」

 

「ある意味ね」

 

 苦笑する。そりゃあマーキナーは宿敵で、倒さなければいけない相手だけれども、だからこそ、目標として、見据えるものでもある。

 僕にとって、マーキナーもまた、切っては切り離せないこの世界の存在の一つだった。

 

「だったら、解っただろう?」

 

 そしてそれ故に、僕は彼からかけられる言葉がなんとなくわかっていた。理解せざるを得なかった。先ほどまでの光景、そしてこれからまた舞い戻る先にいる奴のこと。

 僕が今、どういう状況にいるのかを。

 

 

「マーキナーとの戦いを諦めるんだ。君では奴に勝てない」

 

 

 それはあまりにも残酷な、そしてこの世界の僕からすればあまりにも当たり前の要求だった。

 

「君は早すぎたんだ。あまりにも早く大罪龍を討伐してしまったために、君はマーキナーを本気にさせてしまった」

 

「…………」

 

「本来なら、マーキナーはここまで本腰を入れて君を狙うことはなかったはずだ。いや、そもそもマーキナーは直接この世界に介入できないのだから、したくてもできなかったはずなんだ」

 

 それは確かに最もで、そもそも、だからこそ今僕はこうして、マーキナーを前に絶体絶命に陥っているのだから。

 

 どうしようもなく、白光の言葉は正しかったのだ。

 

「――でも、そのために目の前の誰かを、見捨てることは、できなかった」

 

「……問題があるとしたら、()()()()()()じゃなくて、()()()()()()()()()なんだろうね」

 

 ――それでも僕は、彼女たちを助けたことを後悔していないし、正しかったと思っている。

 師匠も、フィーも、百夜も、アンサーガも、ルクスだって。僕の前で、悲しんでいたから。理不尽に押しつぶされそうになっていたから。

 

 ()()()()()()だったから、僕は選んだ。

 

「……そして、マーキナーとの戦いも、そんな無茶の一つでしかない。だから、()()()()()()んだ。少なくとも――マーキナーは手を止めるつもりはない」

 

 そうだ。

 どれだけ責め立てられようと、僕はマーキナーと対決するしかない。全ては必然によって導かれ、それを止められるのは、もはやマーキナーしかいないのだ。

 そして説得は、あの無邪気な童子のごとき神に、望むべくもないだろう。

 

「でも君じゃあ――マーキナーの可能性の否定は突破できない」

 

「……」

 

 しかし、故に目の前に立ちはだかる壁は明白だった。僕たちがマーキナーに勝てないと、マーキナーがしきりに語るのは、白光が僕に勝てないと諭すのは、それが原因だ。

 

 可能性の否定。あらゆる攻撃が否定され、奴に届かない以上、それを攻略する方法はない。そのために必要な方法を僕はこれまで集めてきた。

 

 だが、()()()()()がどうしても、僕たちには足りていないのだ。

 

「でも、僕には他に選択肢がない、マーキナーを止める手段がない限りーー」

 

 

()()に必要なものは、三つある」

 

 

 ――それを遮るように、白光は、朗々とそれを語りだす。

 

()()に必要なのは、三つの概念。時間、空間、そして生命。……そもそもマーキナーは世界を作るとき、この三つの概念の可能性を自分のものとした」

 

 この世界の始まりは、ある一つの概念が意思を持ち、世界を創造するための概念を、()()()()()ことから始まった。

 意思を持った概念こそがマーキナーであり、衣物として一つにまとめられたのが、先程白光が上げた三つの概念。

 

「束ねられた三つの概念は、いうなればこの世界のシステムを司る鍵だ。それを破壊しない限り、マーキナーの無敵は永遠であり、打つ手はない」

 

「……そして世界はそれに対抗するために、器とともに、鍵を作った。器が僕で、鍵は強欲龍の星衣物となった」

 

「そう、時の鍵――あれは概念起源を行使するためのものとしても使用できるが――本質的には、()()()()()()()()()だ」

 

 だからこそ、マーキナーはそれを奪い去ろうとした。僕たちはそれを入手し、マーキナーとの戦いに備えた。

 だが、マーキナーの可能性は、()()()()()()()()()()()()

 

「鍵を使ってマーキナーのシステムを破壊するのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで達成される。マーキナーと同等の存在とは、すなわちシステムを有するモノ」

 

 システムを構成するのは、介入権である鍵の他に、先程述べた三つの概念が必要だ。ゲームではこれを、白光と、百夜と、そして色欲龍が満たした。

 

「百夜は時間、母さんは生命、そして僕が空間を。光っていうのは空間を認識するための力だからね」

 

「……それも、僕は手に入れている。僕が君と二重概念となり、空間を。この世界の百夜が時間を。そしてフィーが色欲龍の力で、生命を司る」

 

()()()使()()()()?」

 

 ――そして最後に必要なもの。時の鍵を使用するための使用者。最終作における主要人物はこの三人。それぞれが概念を担当し、時の鍵は既に手のうちにある。

 では、誰がそれを使用する? ――この使用者もまた、ある条件を満たさなければ、使用者としての資格を有さない。

 

 ゲームでは――

 

 

「――もう既に、傲慢龍はこの世にいない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだぞ」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 理由は、無敵だ。あいつの有する無敵は、マーキナーに与えられた世界への特権である。それこそがシステムへ介入するための資格。

 使用者としての適格なのだ。

 

「だから――」

 

 そして、白光は口にする。

 そのシステムの名を、

 

 

「君たちに決着概念(フィナーレ・ドメイン)は起動できない」

 

 

 ――シリーズの集大成。

 最後の最後にたどり着いた答え。

 

 マーキナーに対する、人類の回答を、口にした。

 

「……世界は僕たちに勝てと言っている、か」

 

 ああ――

 それは、僕に対して、あまりにもひどい仕打ちだ。

 憧れていた。願っていた。救いたいと、こうなりたいと。

 

 ゲームの主人公は、悩みも迷いもあって、成長しながらも進んでいく、誰もが最初は低い位階から、少しずつ前に進んで、そして素晴らしい人物へとなっていく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だ。ああなりたいと、ああでありたいと切に願う。

 

 彼が成し遂げた決着の概念は、その証なのだ。

 マーキナーという悪辣な神を、上から目線の外敵を、間違っていると、自分たちが正しいのだと高らかに声を張り上げて、故に僕らは見せつけられて。

 

 しかし同時に、僕はそうはなれないのだと。

 

 ――そう、言っている。

 白光が、ではない。

 

 ()()()だ。

 

「君は、間違ってはいない。ただ、その答えが、()()()()()()()()だけなんだ。そうだ。君には、チャンスがある」

 

「……チャンス?」

 

 訝しむように、問いかける。

 白光の言葉は確信があった。この状況に、チャンスがあるのか。僕と彼が二重概念となり、四天の器に収まっている今のマーキナーを倒す。

 ()()()()になにかできることがあるとでも?

 

 ……いや、一つ。一つだけ、()()()()()()()()があった。未知がこの場に、転がっていた。そしてそれは、白光ならば知っていてもおかしくはない。

 

「――()()()()だ。僕と君が二重概念となることで、僕たちは()()()()()使()()()()()()()()

 

「……効果は?」

 

 即座に、踏み込んだ。

 ローブの奥、覗けない視線同士が交錯し、一瞬だけ、白光は躊躇うように間をおいてから、そしてそれに答えたのだ。

 

 

()()。停止と言い換えてもいいけれど。効果は端的に言って、()()()()()()()()()()()を封印する能力。――――それで、()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 それは、決定的な分岐点だった。

 

 世界は負けろと言っている。

 

 ()()()()()()と言っている。

 

 それこそが、敗者(ルーザーズ)の定め。

 

 僕には世界に勝利する資格はなく。

 

 

 ――勝者のための礎となって、()()()()()()()()()()()

 

 

 世界が、僕にそれを、突きつけていた。

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