――白光を前に問いかける。
「……マーキナーによって可能性が否定されるのでは?」
「
「封印が破られる可能性は?」
「四天はもういない。いたとしても残されたミカ・アヴァリに封印を破るような策謀は無理だ。君の仲間たちによって防がれる」
「だったら――」
――だったら、それはもう、マーキナーには防ぎようがないのでは?
「マーキナーはそれを知っているのか?」
「わからない。だけど、僕は知らないと思う。でなければ、あんなノコノコとこの場に現れる理由がわからない」
「いや……」
――違和感。
マーキナーはそんなことで裏を突かれるようなヤツだろうか、というもの。そんな隙を晒すだろうか、というもの。だが、その違和感に否定はない。
なぜならば、情報がないから。僕の知る限り、マーキナーにこの概念起源を知る方法はない。何故なら、今から僕がこの概念起源を習得するのは、
白光はこの時代に存在しない人物である。時間を無視する意識の中だからこそアクセスでき、それを僕に教えている。
だから、今この場でそれを把握して、現実に復帰して即座に概念起源を起動してしまえば、もはやマーキナーに打つ手はない。
だが、結論は出なかった。ただ、そもそもこの場に置いて重要なのは、それが可能かどうかではない。
これまで、僕らは最善を求めて戦ってきた。結果マーキナーは僕たちを討つために本腰を入れて、戦いは止まれないところまでたどり着いた。
しかしそこに、
僕一人と、世界。
どちらを優先するべきなのかは、明白じゃないか?
「……それが、世界の答えなのか? 救えるものを救って、守りたいものを守って、
「――それでも、素晴らしいことなんだよ」
白光は言う。
「君でなければ、紫電のルエも、嫉妬龍も救うことはできなかった。それは疑いようのない、君の成果だ」
「……」
「だからこそ、君は救ったものを守るべきだ。守るために、眠りにつくんだ」
もしも、戦いが続けば、僕は守ったものを失ってしまうかもしれない、と。これまでの戦いだって、誰も失うことなくここまで勝ち進めたのは、奇跡以外の何物でもないのだ。
だから、それがマーキナーとの戦いで失われれば、
僕の戦いに、価値はなくなってしまう。
「そうならないためにも、これは必要なことだ。――なにも、永遠に封印されていろ、というわけではない」
「……それは?」
「
「……アンサーガもその時代には到達する、か?」
白光がうなずく。
千年、というのは人類がマーキナーとの対決に至るための時間であり、そして、僕が未来へと送り出したアンサーガが、未来へたどりつく時間でもある。
彼女ならば、僕の封印をどうにかする衣物を作れる可能性がある。
故に、千年。
「それに、千年というのは、僕たちの世界が、マーキナーを倒すために費やした時間だ。それだけの時間があれば、世界はマーキナーと対決できるまでに成長するんだ」
「だから千年……か」
――何も、永遠に礎となる必要はない、僕が礎となっても、世界は進む。その中で、
だから、それは――
ああ、なんて残酷な話。
こうすれば、誰も不幸になる存在はいない。僕ですら、いつかは僕を目覚めさせてくれる誰かが現れる。僕がいなくなっても、師匠やフィーが、僕のことを忘れることはないだろうと、そう思う。
絶対に、
――絶対に?
「なぁ、敗因」
白光は、僕を諭すように、呼びかける。
今、僕は――そんなにすごい顔をしているだろうか。
「追いついたなら、追いつくまで待てばいい。千年、決して短い時間ではないけれど、決して永遠ではない時間だ」
ああでも、白光。
ごめんな、――君の言葉を聞きながら、僕の脳裏に浮かぶのは、どうしようもなく。
僕には、大切な仲間たちがいる。
悲しんだとして、千年かけて、僕を目覚めさせるために、奔走したとして。
――そんな今が、僕にはあった。
僕には、負けイベントに勝ちたいという思いがある。
僕は僕の誇れる僕になれた気がした。
――そんなかつてを背負った僕は、今何をしようとしている?
「だから――」
――そして、
「
そうやって諭す白光の言葉に、
僕は、
それまで、くすぶっていた
ピースが、
「なぁ――」
すべて、
「白光」
カチリ、とハマる音がした。
「
――その言葉を投げかけた時。
不思議と、フードの奥で、
白光が、笑っているのが解った。
「理由、とは?」
「だって、千年だぞ? あまりにも長すぎる、その間、師匠とフィー、リリスを置いて行きたくない」
「それは君の理由じゃないか」
――世界の理由にならないと、白光は切って捨てる。もちろん、そんな事はわかっている。けれど、それも理由の一つになるのだ。
だって、置いていくのは、師匠たちだけじゃないのだから。
「じゃあ、この世界はどうだ? 千年だ、その千年の間に、致命的なことが起こらない保証はあるか?」
「それは――」
「
「君一人で何ができる」
確かに、それは最もな言葉だろう。普通の人間に、自分がいなくなって世界に危機が訪れた時どうすると、そう問いかけられる人間はいないだろう。
でも、僕は
「――
コレ以上の根拠は必要か? 世界の危機に、僕がやくたたずであると、誰が言える? そうだ、僕は――
それこそが、僕の世界に対する負けイベントの答え。
世界が僕に負けろと言っている? ――やかましい、僕はそれをすべてひっくり返してきたんだぞ。
「それに、白光は言った。
「――それは」
「それこそが、君自身の成し遂げた、
そう、
「
そうだ。
僕がたどり着いた答え。
この世界で、僕が前に進むための理由。
マーキナーが倒せない相手ではないのなら、僕がマーキナーを倒すことで、何かを良い方向に変えられるなら。
それは無謀ではない、挑戦だ。
「挑戦から逃げて、安寧を取ることが、本当に勝利と言えるのか?」
白光は、僕の言葉に聞き入っていた。
「違うだろ、そうじゃないだろ。僕が負けイベントに勝ちたいと思ったのは、挑戦したいと思ったのは、そこに危険を冒してでも、救いたいと思ったのは」
だから、僕には、
「
――千年、眠りにつくことで。
僕という存在の代わりに、安寧と、そして安全な勝利を得られるのだとしたら、それは確かに益のあることだろう。僕のような部外者が、ただたまたまこの世界に漂着する資格があっただけの存在が、世界を救う楔となれるなら、それはほまれ高いことである。
だとしても。
僕は選ぶのだ。僕のような部外者が、しかしそれ故に、本来ならばありえなかった筋書きを盤上にかきあげて、
間違いなく、
――――そうして、しばらく。
白光は沈黙していた。役割を終えたと言わんばかりに、コレ以上の長居は無用であるかのように、
「――
つらり、つらりと。
彼は語り始めた。
「――そしてまた、
「……それは、可能性の話?」
「ああ、不思議な話だ。僕たちは、同じ可能性から分岐した存在だ。なのに、僕は世界を背負って立つ器であり、君は、敗北をひっくり返すためにここにいる」
それらは、決して同一にはならない代物だった。
僕と白光は違うのだ。白光が世界を救う、人類の希望たる器としての生を歩くなら、僕は僕個人の欲望を、欲求を叶えるために戦っている。
同じはずなのに、何故?
「――きっと、可能性ってそれだけ柔軟なんだ。
それは、
僕の背を、
全力で押し出すための言葉だった。
「
視界が、意識が、闇にそまった漆黒から、光に満ちた白へと変わる。白光の概念によるものだろう。彼が僕を認めてくれたから、僕の心のなかにも、白光の概念が芽吹き始めたのだ。
ああ、感謝するよ、白光。
僕は、最善を目指す。
今、この瞬間しか無いんだ。
―ー僕の戦う理由に、信念という名の過去。守りたい少女たちが生きる今。そして、
より、最善に近い世界という、