負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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139.機械仕掛けを否定したい。

 形を得る。はっきりと、意識がそれを自覚する。

 僕の心の中にあった、一つの淀みに区切りをつけて、僕は世界に帰還する。この世界のために犠牲になれ? 僕にだって悪い話ではない?

 

 ()()()()()()

 

 ここで勝ったほうが、()()()()()()()()()()()()だろう。だったら、そんな言葉は聞くまでも無い。ここでためらって、挑戦を嫌がって、それで何が()()()()()ことになる。

 

 世界の危機は、今目の前にあるじゃないか。

 

「――ああ、おかえり」

 

 僕の起動を認識して、目の前のヤツは言う。マーキナーは、こちらをからかうように笑っていた。――その瞳が、見開かれる。

 

「……わかるか? マーキナー」

 

「な――」

 

 僕に、師匠やフィーのような大きな変化はない。リリスと百夜なら、片方が概念になっているだろうから、変化はなくとも見ればわかるだろう。

 でも、たしかに僕にも変化があった。

 

 それは、得物の変化。

 

 僕の手には、もう一本、概念の剣が握られていた。

 

 

「今から、お前を倒すぞ」

 

 

 直後。

 

 ――マーキナーの首に、僕の刃が添えられていた。

 

「――――ッ!」

 

 マーキナーが飛び退く。反撃に刃を振るってくるが、僕は構わず突き進む。一瞬、少しだけ体を反らして、即死の衝撃波を回避すると、一気にもう一度距離をつめ、今度は――

 

「“S・S・R(スロウ・スラッシュ・リライジング)”!!」

 

 概念を込めて、奴を切る!

 

 ――一瞬、何かを阻む手応えのようなものが、僕の手に伝わって、

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「ぐ、ぅ……血迷ったかな!」

 

「何がだよ――!」

 

 ――攻撃が通る。この理屈は簡単だ。僕の位階が、今のマーキナーの器の位階を上回っているのである。本来のマーキナーは、僕らの誰もが届くことの出来ない位階にある。

 というより、()()()()()()()()から、届かせられない。だが、今は四天という器に収まって、位階が存在する。

 

 位階が存在するなら、どちらの概念が優先されるかは、()()()()()()に依存する。だから、レベル差でのゴリ押しが可能なのだ。

 

「礎になりなよ! ボクと共に眠ればいいだろう! 君のわがままは、そもそも破綻しているじゃないか!」

 

 剣を振るい、マーキナーが僕を阻む。

 それを避け、剣をぶつけて一撃必殺の発生を防ぐ。生命を即死させる都合上、概念武器での打ち合いは有効だ。ゲームでも、通常攻撃を当てることでこの発生を防ぐことが出来た。

 他の七典は使ってこないだろうか。

 いや、そもそも――

 

「ボクは可能性を否定する、君はそれをどうするつもりだい?」

 

「――()()()()()()

 

「――――ッ! 無理を通すつもりかぁ!」

 

 剣閃が弾け、僕らは距離を取った。お互いに、相手をにらみながら油断なく相手を見据えていることがわかった。マーキナーは、怒りを混じらせて、剣を向ける。

 

「そうだね、()()()()()()()()()()()()。なら、君を殺すしかない。ここで、ボクが、君を」

 

「……随分と必死だな」

 

 ――マーキナーの言葉には違和感があった。

 こいつは、一体何をそこまで必死になっているんだ? わからない、がしかし問題もない。このマーキナーはここで倒す。その次――本物のマーキナー、それと対峙する。

 

 もう迷わない。勝つと決めた以上、その勝利を僕は貫く。

 

「――いいじゃないか。だったらこっちも、()()で行かせてもらうとしよう」

 

 マーキナーは、片手に広げていた七典を引っ込めた。アレは、マーキナーにとっては形態の一つであり、枷でもある。七典は片手に有していなければ発動できない。

 しかし、それではマーキナーは概念武器を十全に握れないのだ。

 

 七典使用時、マーキナーは概念技を使えない。代わりに、七典の能力を使い、七典の概念を纏うことができる。概念を纏っている間、マーキナーの概念崩壊は七典が肩代わりする。

 崩壊すれば七典は消失するが、マーキナーが敗れるわけではない。むしろ、無傷で概念技を使えるようになったマーキナーが現れるだけだ。

 

 これがマーキナーの形態変化。

 

「こんなところで七典を失うのも馬鹿らしい、この器では、本来の力は発揮できないけれど――」

 

 理由こそ、出し惜しみであるものの、僕はマーキナーの形態変化を目の前で受け入れたのだ。ここからは、七典を操るマーキナーではない。

 奴は手にした剣に両手を添えて、自身の前に掲げる。

 

「――君を殺すことは、できる」

 

 

 そしてそれを、二つに裂いた。

 

 

 ――剣とローブの概念使いに、一つの例外を除いて二刀流はいない。今、僕のそれは白光と二重概念となったことで、特例的に二つの概念剣を握っているだけ。

 そして、だからつまり、その一つの例外こそが、マーキナー。

 

 マーキナーは()()()剣とローブの概念使い。そして、奇しくも僕が二重概念となったことで、それが、

 

 今この瞬間に二人になった。

 

「ああどうか、苦しんで死んでくれ、敗因」

 

「――今は、敗因じゃない。()()()()、それが今の僕の概念だ」

 

 あは、と、マーキナーは笑った。狂ったように、嬌笑する。

 

「同じことだ。ボクの前では、どれだけ強がろうと、君はただの()と同じだぁ!」

 

 ――マーキナーの周囲に。

 

 そして、僕の周囲に。

 

 

 同時に、概念の弾丸が浮かんだ。

 

 

「“B・B・W(ブレイク・バレット・ライティング)”!」

 

「“H・H(ハイド・ハイドロゲン)”!」

 

 僕が光の弾丸を、マーキナーは蒼の弾丸を、それらが同時に射出され、着弾。閃光が広がる中、――否、()()()()()()()()()()()、僕らは激突していた。

 

「“S・S・R(スロウ・スラッシュ・リライジング)”!」

 

「“N・N(ニクス・ニトロゲン)”!」

 

 二対の剣が激しくぶつかり合う。

 気がつけば、二度、三度、視界が移り変わっていた。

 岩場に横向きに立ち、剣をぶつけ合う。

 弾丸の行き交う中、宙を駆ける。

 

 ――それだけ、僕たちの戦闘スピードが上がっているのだ。

 得物が増えたことも、戦闘スピードが上がったこともそうだが、僕は不自然なほどにその戦闘に適応できていた。これは、やはり僕の中にいるもうひとりの器、白光がアシストしているからなのだろう。

 

 この世界に来た時からそうだった。僕は僕が思ったように剣を振るえた。それまで運動の一つもまともにしてこなかった僕が。

 強敵を前にしても、恐怖なく立ち向かうことが出来た。これまで、暴漢の一つにでも襲われたことのない僕が。

 

 白光の支援があったから、できたことだろう。()()()()()()()を除いて、僕の身体捌きは、白光というこの世界でも強者中の強者である概念使いが手を貸してくれたから為せたコトなのだ。

 

 まぁ、思ったとおりに身体を動かせても、()()()()()()()()()()()()は、僕の感性に依るところが大きいだろうが、これでもゲームでそういったことにはなれている。

 そして今、白光の支援は精神的な、肉体的なものだけではなく、概念技にも及んでいた。

 

 今の僕の概念技は、敗因をベースに白光の力が混じっている。スロウスラッシュには、彼のリライジングレイが、ブレイクバレットには、彼のライティングウォーロードが。

 それぞれ乗っている。

 

 威力は二人分を乗算で、効果もより派手なものに変わっていた。

 

 ――使い方は、使()()()()()()わかる。これもまた、白光が後押ししているということだ。

 

 戦闘は続く。

 

「一丁前についてくるじゃないか。もらったばかりの玩具が、そんなに楽しいかい?」

 

「ついてくるのはそっちだろう。駄々をこねて、かまってもらえているうちに、頭を冷やせ!」

 

 両者の剣戟が、無数に弾ける。

 僕の左手の剣が、奴の剣を弾き、奴は散弾を僕に叩きつける。それをもう片方の剣で防ぐと、上段から空いていたマーキナーの剣が襲いかかる。

 

 ()()()()()()()()と、マーキナーは面白そうにくるくると回転しながら、再び弾丸を掃射してきた。

 

「“D・D・G(デフラグ・ダッシュ・ゴーイング)”!」

 

 移動技、一瞬で閃光に変わった僕が、マーキナーへ距離を詰め、再び剣戟が見舞われる。二つ分の手数は互いに同数。しかし、マーキナーの攻撃は軽やかで、僕の攻撃は苛烈だった。

 

「逃げるなよ!」

 

「ははは、捉えられない君が言うなよ」

 

 さながら剣舞の如く、回転しながら剣を振るってくるマーキナー。僕はそれを受け流し、踏み込んで切り払う。――マーキナーは距離を取った。

 しかし、直後にまた突っ込んでくる。独楽かなにかか!

 

「ここでボクに勝ったからってどうなるっていうんだい? 君は可能性と言うけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()唾棄すべきことだ。君は間違っている」

 

「――ここで勝ったから? 違うな、マーキナー。()()()()()()()()、お前の言う唾棄すべき可能性を、通せるわけがないだろう!」

 

 一閃。

 

「ならなおのこと、ここで負けておくんだね。君にはボクに勝つための資格はない。君がこれからしようとしていることは、世界すらペテンにかけるようなことだ」

 

「そうだっていい。決めたんだよ、そうすることで誰かを守れるなら、世界のためになるのなら、僕の信念を誇れるのなら。()()()()()()()って!」

 

 概念技が飛び交う。

 

「勝てないって、言ってるのにさあ!」

 

「勝つって、宣言してるんだよ!!」

 

 ――気がつけば、僕らは互いにそれを手にしていた。

 マーキナーも今の僕も前衛型。コンボを稼ぎ敵を倒す。故に、それぞれに最上位技を有する。それは、不思議なことに――否、僕の最上位技が、白光のそれと同じ形状であることから、当然といえば当然なのだけど。

 

 ()()()()()()

 

 今僕の手に、二刀を一つに合わせた大剣が。

 そして、マーキナーの手にも、同じような大剣が。

 

 握られている。

 

 故に、

 

「それが気に入らない。安易に浸れよ、人間なんだろ!」

 

「それが出来たら、僕はここにいない!」

 

 

 最上位技が、放たれる!

 

 

「“O・O(オリジン・オキシジェン)”!」

 

 

「“L・L・O(ルーザーズ・リアトリス・オリジン)”!」

 

 

 ――そして直撃は、閃光となり、破壊となり、世界を覆った。


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