形を得る。はっきりと、意識がそれを自覚する。
僕の心の中にあった、一つの淀みに区切りをつけて、僕は世界に帰還する。この世界のために犠牲になれ? 僕にだって悪い話ではない?
ここで勝ったほうが、
世界の危機は、今目の前にあるじゃないか。
「――ああ、おかえり」
僕の起動を認識して、目の前のヤツは言う。マーキナーは、こちらをからかうように笑っていた。――その瞳が、見開かれる。
「……わかるか? マーキナー」
「な――」
僕に、師匠やフィーのような大きな変化はない。リリスと百夜なら、片方が概念になっているだろうから、変化はなくとも見ればわかるだろう。
でも、たしかに僕にも変化があった。
それは、得物の変化。
僕の手には、もう一本、概念の剣が握られていた。
「今から、お前を倒すぞ」
直後。
――マーキナーの首に、僕の刃が添えられていた。
「――――ッ!」
マーキナーが飛び退く。反撃に刃を振るってくるが、僕は構わず突き進む。一瞬、少しだけ体を反らして、即死の衝撃波を回避すると、一気にもう一度距離をつめ、今度は――
「“
概念を込めて、奴を切る!
――一瞬、何かを阻む手応えのようなものが、僕の手に伝わって、
「ぐ、ぅ……血迷ったかな!」
「何がだよ――!」
――攻撃が通る。この理屈は簡単だ。僕の位階が、今のマーキナーの器の位階を上回っているのである。本来のマーキナーは、僕らの誰もが届くことの出来ない位階にある。
というより、
位階が存在するなら、どちらの概念が優先されるかは、
「礎になりなよ! ボクと共に眠ればいいだろう! 君のわがままは、そもそも破綻しているじゃないか!」
剣を振るい、マーキナーが僕を阻む。
それを避け、剣をぶつけて一撃必殺の発生を防ぐ。生命を即死させる都合上、概念武器での打ち合いは有効だ。ゲームでも、通常攻撃を当てることでこの発生を防ぐことが出来た。
他の七典は使ってこないだろうか。
いや、そもそも――
「ボクは可能性を否定する、君はそれをどうするつもりだい?」
「――
「――――ッ! 無理を通すつもりかぁ!」
剣閃が弾け、僕らは距離を取った。お互いに、相手をにらみながら油断なく相手を見据えていることがわかった。マーキナーは、怒りを混じらせて、剣を向ける。
「そうだね、
「……随分と必死だな」
――マーキナーの言葉には違和感があった。
こいつは、一体何をそこまで必死になっているんだ? わからない、がしかし問題もない。このマーキナーはここで倒す。その次――本物のマーキナー、それと対峙する。
もう迷わない。勝つと決めた以上、その勝利を僕は貫く。
「――いいじゃないか。だったらこっちも、
マーキナーは、片手に広げていた七典を引っ込めた。アレは、マーキナーにとっては形態の一つであり、枷でもある。七典は片手に有していなければ発動できない。
しかし、それではマーキナーは概念武器を十全に握れないのだ。
七典使用時、マーキナーは概念技を使えない。代わりに、七典の能力を使い、七典の概念を纏うことができる。概念を纏っている間、マーキナーの概念崩壊は七典が肩代わりする。
崩壊すれば七典は消失するが、マーキナーが敗れるわけではない。むしろ、無傷で概念技を使えるようになったマーキナーが現れるだけだ。
これがマーキナーの形態変化。
「こんなところで七典を失うのも馬鹿らしい、この器では、本来の力は発揮できないけれど――」
理由こそ、出し惜しみであるものの、僕はマーキナーの形態変化を目の前で受け入れたのだ。ここからは、七典を操るマーキナーではない。
奴は手にした剣に両手を添えて、自身の前に掲げる。
「――君を殺すことは、できる」
そしてそれを、二つに裂いた。
――剣とローブの概念使いに、一つの例外を除いて二刀流はいない。今、僕のそれは白光と二重概念となったことで、特例的に二つの概念剣を握っているだけ。
そして、だからつまり、その一つの例外こそが、マーキナー。
マーキナーは
今この瞬間に二人になった。
「ああどうか、苦しんで死んでくれ、敗因」
「――今は、敗因じゃない。
あは、と、マーキナーは笑った。狂ったように、嬌笑する。
「同じことだ。ボクの前では、どれだけ強がろうと、君はただの
――マーキナーの周囲に。
そして、僕の周囲に。
同時に、概念の弾丸が浮かんだ。
「“
「“
僕が光の弾丸を、マーキナーは蒼の弾丸を、それらが同時に射出され、着弾。閃光が広がる中、――否、
「“
「“
二対の剣が激しくぶつかり合う。
気がつけば、二度、三度、視界が移り変わっていた。
岩場に横向きに立ち、剣をぶつけ合う。
弾丸の行き交う中、宙を駆ける。
――それだけ、僕たちの戦闘スピードが上がっているのだ。
得物が増えたことも、戦闘スピードが上がったこともそうだが、僕は不自然なほどにその戦闘に適応できていた。これは、やはり僕の中にいるもうひとりの器、白光がアシストしているからなのだろう。
この世界に来た時からそうだった。僕は僕が思ったように剣を振るえた。それまで運動の一つもまともにしてこなかった僕が。
強敵を前にしても、恐怖なく立ち向かうことが出来た。これまで、暴漢の一つにでも襲われたことのない僕が。
白光の支援があったから、できたことだろう。
まぁ、思ったとおりに身体を動かせても、
そして今、白光の支援は精神的な、肉体的なものだけではなく、概念技にも及んでいた。
今の僕の概念技は、敗因をベースに白光の力が混じっている。スロウスラッシュには、彼のリライジングレイが、ブレイクバレットには、彼のライティングウォーロードが。
それぞれ乗っている。
威力は二人分を乗算で、効果もより派手なものに変わっていた。
――使い方は、
戦闘は続く。
「一丁前についてくるじゃないか。もらったばかりの玩具が、そんなに楽しいかい?」
「ついてくるのはそっちだろう。駄々をこねて、かまってもらえているうちに、頭を冷やせ!」
両者の剣戟が、無数に弾ける。
僕の左手の剣が、奴の剣を弾き、奴は散弾を僕に叩きつける。それをもう片方の剣で防ぐと、上段から空いていたマーキナーの剣が襲いかかる。
「“
移動技、一瞬で閃光に変わった僕が、マーキナーへ距離を詰め、再び剣戟が見舞われる。二つ分の手数は互いに同数。しかし、マーキナーの攻撃は軽やかで、僕の攻撃は苛烈だった。
「逃げるなよ!」
「ははは、捉えられない君が言うなよ」
さながら剣舞の如く、回転しながら剣を振るってくるマーキナー。僕はそれを受け流し、踏み込んで切り払う。――マーキナーは距離を取った。
しかし、直後にまた突っ込んでくる。独楽かなにかか!
「ここでボクに勝ったからってどうなるっていうんだい? 君は可能性と言うけれど、
「――ここで勝ったから? 違うな、マーキナー。
一閃。
「ならなおのこと、ここで負けておくんだね。君にはボクに勝つための資格はない。君がこれからしようとしていることは、世界すらペテンにかけるようなことだ」
「そうだっていい。決めたんだよ、そうすることで誰かを守れるなら、世界のためになるのなら、僕の信念を誇れるのなら。
概念技が飛び交う。
「勝てないって、言ってるのにさあ!」
「勝つって、宣言してるんだよ!!」
――気がつけば、僕らは互いにそれを手にしていた。
マーキナーも今の僕も前衛型。コンボを稼ぎ敵を倒す。故に、それぞれに最上位技を有する。それは、不思議なことに――否、僕の最上位技が、白光のそれと同じ形状であることから、当然といえば当然なのだけど。
今僕の手に、二刀を一つに合わせた大剣が。
そして、マーキナーの手にも、同じような大剣が。
握られている。
故に、
「それが気に入らない。安易に浸れよ、人間なんだろ!」
「それが出来たら、僕はここにいない!」
最上位技が、放たれる!
「“
「“
――そして直撃は、閃光となり、破壊となり、世界を覆った。