負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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142.性別の話をしたい。

 ――僕たちは、久方ぶりに傲慢龍の神殿へとやってきていた。

 ここにもう、主はいない。僕たちが排した。今でも当時の戦闘の痕跡が傲慢龍の玉座には刻みつけられている。かつて、最強の大罪龍がいたのだ。

 その証が、この傷跡だった。

 

「――なんていうか、どうやったらこんな派手にぶっ壊せるのってくらい崩落してるわね」

 

「おっかなかなかなーの」

 

「かなかな」

 

 フィーの言葉に、リリスと頭の上にのったミニ百夜が反応する。二人して完全に思考が停止しているようで、もうなんというか、ぼけぼけしていた。

 

「というか、百夜はどうしてまだ小さいままなんだ? その形態、一日の大半は寝てないといけないんだろ? 大変じゃないか?」

 

「寝るの好き……ぐう……」

 

 師匠がミニ百夜の頬を突っつくと、そのまま百夜は眠りについた。まぁ、本人がいいならそれでいいのだろうが、と思っていると眠った百夜がずり落ちた。

 

「なのー!」

 

 リリスが慌てて拾おうとするが、手から滑り落ちてぽてっと落ちる。

 

「ぐべー」

 

「百夜ー!」

 

 なお、落ちても百夜は眠りについたままだった。

 僕たちは、とりあえず破壊されていない無事な一画にテーブルと椅子を拡げて、くつろぐように飲み物やおかしを広げる。傲慢龍が見たら鼻で笑われそうな光景だ。

 

「そういえば師匠、強欲龍はどうしました?」

 

「私がリリスたちのところに行ったときには、もういなかったよ。奴は奴で、別の場所からマーキナーの元を目指すそうだ」

 

「ここから行ったほうが早いんですけどね」

 

 僕たちと同じ選択はゴメンだったのだろう。

 まぁ、あいつらしいといえばらしいが、どちらかというと遠慮のようなものも感じられた。何故遠慮するかといえば、もしかち合ってしまえばその場で戦闘になるからだろうが。

 すべてが終わったら、といったけれど、目の前にマーキナーがいない状態で我慢できるかは、お互い未知数である。

 

 ……戦いたい、強欲龍と戦いたい……うう……

 

「おい、発作が始まったぞ」

 

「放っておきなさい、すぐに収まるわよ」

 

「お水上げるのー」

 

 上から霧吹きの衣物で水をかけられた。僕は花じゃないよ?

 まぁ、火照った身体には丁度いいくらいの飛沫だった。この辺りリリスは気配り上手だ。

 

「それで――」

 

 さて、余談はここまでにして、本題は二つ。

 

「――マーキナーの可能性の否定と、それから()()の性別について」

 

 切り出した師匠の言葉に、僕らは意識を向け直す。

 そうだ、これから僕らが話し合わなければならないのは、やはりこの二点である。マーキナーは強大な敵であることに変わりはなく、そのために、あの可能性の否定は絶対に攻略しなければ、そもそも僕たちには挑戦権すら与えられない。

 

 ――が、

 

「一緒にマーキナーの性別の話すると、しまりませんね」

 

「しょうがないだろ!? 私だってびっくりだよ!」

 

 二人して言い合う。うん、大事なのは前者なのだけど、現状僕らの話題の種は圧倒的に後者だった。まぁ、前者に関しては散々話はしてきたしね。

 

「……それに、可能性の否定については、もうここまでに打てる手は打って、挑戦権は得ているだろう。()()()()()()()()()()()()()()、君なら行ける……としか私には言えん」

 

 既に師匠たちには話してあるが、ありていに言って、()()()()()()。問題は、それがあまりにも困難な道程の先にあるということ。

 だとしても、止める理由はないし――

 

「――それに、アンタが止まる理由はなくなったんでしょ。決めたのよね、勝つって。アンタやアタシたちのためだけじゃなく、この世界のためにも」

 

 既に、白光の僕とのことも話した。

 僕と白光の二重概念によって生まれた概念起源。それは、マーキナーを封じることはできても、それが必ずしも良い結果につながるとは限らない。

 ()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「リリスたちがついてきたのは、そういう時に前にすすめる貴方なの。だったら、これからも、リリスたちはどこまでも一緒なの!」

 

 それに、師匠たちもついてきてくれると言った。

 なら、答えは決まった。既に決まりきっていた。

 

 

「マーキナーに勝とう」

 

 

「ああ!」

 

「異議なし」

 

「なの!」

 

 そう、改めて音頭を取ったところで、沈黙。

 

 誰からともなく、()()がこぼれ出るのを待つ空気に成った。

 

「……それにしても」

 

「なのぉ」

 

 予め僕から聞いていたフィーではなく、師匠とリリスが根負けしたようにつぶやく。

 

「――――女の子、だったかぁ」

 

「なのぉー」

 

 ――結局、僕たちの話題はそこに帰ってきてしまった。

 どれだけ真面目な話をしようとも、マーキナー女の子事件の衝撃は未だ僕らから抜けきっていない。というか、どう反応すればいいかわからない。

 

「マーキナーの性別とか、爆弾すぎてどうしろっていうんだよなぁー」

 

「なのぉー」

 

「第一、今更あいつの性別知って、意味あるのか?」

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 ――ふいに、なんとなくぐでっとしていたリリスが正気に戻った。びっくりした様子で師匠が目を向ける。僕たちも、リリスの言葉に耳を傾けた。

 

「マーキナーは概念が形になってるの。貴方いってたの、マーキナーは概念そのものだから、概念化しなくてもいいって」

 

「言ったね」

 

 だからマーキナーは概念化しなくても概念技を使えるし、自分の概念を名乗らなくていい。

 

()()()()()()()()()()の。意思でしかない概念が、性別を持つ必要はないの」

 

 ああ、と僕たちは納得する。

 そもそもの話、マーキナーに限らず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。少なくとも、あって意味のあるものではない。

 にもかかわらず、フィーは間違いなく女性だし、それ以外の大罪龍はかなり男性的だ。特に怠惰龍は色欲龍と子作りまでしている。

 

 どうやったのかはわからないし、最悪キスで子供が出来ている可能性もあるが。

 

「だから、マーキナーの中で、何かしら性別を定義する理由があるってことか」

 

「なのー」

 

 そして、そこで思い至る。大罪龍には性別がある。マーキナーの中で、性別を決めることが意味のあることだとしたら、逆に言えることがあるのだ。

 

「ってことは、()()()()()()()()ことは、それにも意味があるってことか」

 

「んー、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、

 確かにそうだ。オカマキャラ、というのはゲームにおいては定番だが、それが性別の存在しない四天であることはおかしい。逆に言えばラファ・アークは性別を意識して作られているということになる。

 

「性別、だけじゃないと思うのー」

 

「……どういうことだ?」

 

 そこでリリスは合わせて語った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。僕はラファ・アークをどこかズレたオカマキャラと語った。

 しかし、実際に相対したラファ・アークは芯の通った、百夜も気に入る程の強者だったそうだ。

 

 確かに、それはおかしい。

 

「そこも含めて、性別には何かしら意味があるってことよね」

 

「……()()()()かなぁ」

 

 師匠が、ポツリと零す。

 

「どういうことよ」

 

「いやだって、たしかに性別は重要だけどさ、性別だけが人のすべてを決めるわけじゃないだろ。それこそ、そのラファ・アークが男と女の区別がつかない感じの性自認だったって、それは個人の感性によるものだ」

 

 ――人には個性というものがあり、その個性故に、時に性別を感じさせない振る舞いを人はすることがある。

 

 そして、性を超越した愛もある。

 暴食龍の顔が、脳裏をよぎった。

 

「じゃあ、何が問題なんです?」

 

「なんていうか、さ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかと、私は思うんだよ」

 

「何かって……何よ」

 

「わからん」

 

 二人がそうして首をかしげる中。

 

「なのなのーん。考えてみてほしいのん」

 

 リリスが、何かを解った様子で切り出す。というか、実際解っているのだろう、僕も、なんとなくその違和感の正体を掴みつつあった。

 

「概念に性別がない以上、マーキナーの性別は後付なの。意識してか、無意識かはわからないけど、それがどのタイミングで決定されたかは、何となく分かるはずなの」

 

「……ラファ・アークを生み出した時か?」

 

 なのーん、とリリスは手にしていた霧吹きを空中に散布する。ずっと持っているけど何なんだろうその霧吹き。

 

「じゃあ、その時に何があったか、考えればいいってことよね。でもって、私達にも想像がつくこと。つまり、過去に起きた出来事――」

 

 フィーが、そうつぶやいて、

 

 師匠が、何かピンと来たようにハッとして、遅れてフィーもそれに気がつく。

 

 マーキナーが四天を生み出した頃に起きた出来事。僕らの知る情報は数少ない。何かしら細かい出来事はあったかもしれないが、明白に、大きな括りで語れるのは一つだけ。

 

 

「――人間が、世界に生まれたんだ」

 

 

 そう、人の誕生。

 マーキナーの作り出した世界に、誰の介入もなく、偶然生み出された意思ある種族、人間。それを見たマーキナーは、何を思ったか。

 わからない、しかし確かなこととして――

 

「人間をみて、人間性を知って、それ以降のマーキナーが生み出した衣物には、――大罪龍には感情があった」

 

「その人間性が、マーキナーを女性だと定義したの?」

 

 きっと、それは無意識なのだろう。ただの意思ある概念でしかなかった存在が、人間という表現の形を見て、それを模倣した。

 マーキナーが、あの姿なのも納得だ。

 

 しかし、

 

 

「でも、それだけな気がしないのー」

 

 

 感性に優れる、僕たちのジョーカーが、そう切って捨てた。

 同時に、僕も違和感。

 

「マーキナーの取り乱しようは、それだけじゃない気がするよな」

 

「なの。()()()()()()()()()()の、でもってそれは――」

 

「――私達の知る情報の中にない、か」

 

 師匠がまとめ、僕たちはうなずく。

 マーキナーが女の子であることは、これまでの情報と、ゲームからの情報で納得できる理由をこじつけられた。これもまた、ゲームには存在しない情報の一つだろう。

 そして――その上で、謎が残った。

 

 直感が働く。

 

 

「――つまり、そこが要か」

 

 

 そう。

 僕らが想定もしていなかった情報。僕が知らない、しかしゲームに存在していてもおかしくないそれらは、()()()()()()()()()()()()から、そうなったのではないか。

 

 結論は、それだった。

 

「……じゃあ、何があったのよ」

 

「それは――」

 

 僕は、視線を向ける。

 

 そこに、(きざはし)があった。

 

 四天をすべて撃破したことで、マーキナーはこの世界への干渉が可能になった。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのため、こうして僕らをマーキナーの居場所へと招いているのだ。

 

「直接、聞いてみるしか無いんじゃないかな」

 

 この傲慢の居城から。

 

 

「行こう、皆」

 

 

 ――最後の戦いの舞台へ、道はつながっていた。

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