負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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148.百夜とリリスは秘密があった。

 ――百夜とリリスには、秘密があった。

 それは、僕たちも知らない彼女たちだけの秘密。否、正確には知っている、だが、忘れた。知らないことになった。何より百夜だって忘れている。

 

 マーキナーと戦う上で、その記憶を保持しているわけにはいかないからだ。

 

 幻惑のイルミの概念起源は非常に強力で、思い出す記憶、思い出すタイミングをかなり細かく決めることができる。特にマーキナー戦においては、可能性を相手にみせないことは、とても重要だ。

 

 ゲームにおいては、プレイヤーがキャラクターを操作して戦う関係上、ここまでマーキナーが策を弄してくることもないため、ゲームではこれほど慎重に戦う必要はなかった。

 しかし、明らかにゲームのときとは比べ物にならないほど、巧みな手を打ってくるマーキナーに、僕たちは苦戦を強いられていた。

 

 そんな中での逆転の一手は、予め打っておいた、マーキナーも僕らも知らない、土壇場の秘策以外にありえない。

 ああ、しかし。

 

 これから先へと向けて僕は思う。師匠に願った、希望を胸に未来へ挑めという願いとは違い、リリスと百夜の秘策にして、彼女たちの秘密は、

 

 それを聞いた僕たちからしてみれば、少しばかりの寂しさを覚えるもので。

 

 叶うことなら、それを使うことなく、彼女と共にいたい、そう思うものだった。

 

 何故なら――

 

 

 ――それを使った時、()()と僕たちは、同じ道を歩けなくなるのだから。

 

 

 ◆

 

 

 ――苦境は続く。

 絶体絶命。後衛にして戦闘の要、師匠が脱落したことで、僕らは完全に防戦一方と化していた。戦闘はできる。マーキナーの攻撃は、増殖以外は手数が乏しく、スペックでの勝負が多い。

 僕と百夜なら、マーキナーに対して五分とはいかないまでも、攻撃を捌いて受けることはできる。

 

 しかしそれでは、僕たちはマーキナーに対して決定打は与えられない。

 

 ならば、僕らがマーキナーの攻撃を引き受け、フィーが遠距離からマーキナーを狙うのはどうか。()()()だ。

 

 何故か、答えは単純。

 

「――あっははは、死なせてあげようか」

 

 マーキナーが、()()()()()()()()からだ。

 凄まじい勢いで僕と百夜の間を駆け抜け、師匠と、それを守るフィーへ迫っていたのだ。

 

「――ッ、“壊洛ノ展開(アンダーグラウンド・クラシカル)”!」

 

 フィーが、地面を踏みしめて、焔を生み出しながら後退する。背には師匠。概念崩壊し、弱りきった普通の少女が、申し訳無さそうにフィーに声をかけた。

 

「……すまない」

 

「謝ることじゃないでしょ! 第一まだ終わってない! ここで勝つのよ! そのために、アンタにはまだ生きてもらわなきゃ困るんだから!」

 

 飛び回るフィーは、僕たちの後方に下がるように動く。僕と百夜は防衛戦だ。これまでに、既に何度も突破されてしまっているが――それでも、次は通さないと、剣に力を込める。

 

「無駄無駄! 紫電が崩れた時点で、君たちの負けさ! 勝つ可能性は、もはやないと言っていい!」

 

「それはどうかな! まだ僕たちの記憶の中に、僕たちが知らない可能性が眠っているかもしれないだろう!」

 

「だとしても――」

 

 マーキナーが、剣を振りかぶった。

 七典は強欲、一撃必殺ではない!

 

「――それより先に、君たちが死ねば意味はない!!」

 

 僕の剣が、()()()()()()()。なんとか反らして、直撃は避けたが、しかし言うまでもなくそれでも驚異的な攻撃だ。砕け散った刃に意識を向ける暇すらなく、次が襲ってくるのだから!

 

「……ッ。第一、諦めることはありえないんだ。勝つまで戦う。お前にこの剣が届くその時まで!」

 

「届いてから言いなよ!!」

 

 ――もう片方の、剣も砕かれた。

 

 力任せの一撃だろうが、マーキナーは僕たちをえぐってくる。攻防すらままならない、反撃の糸口などもってのほかで、それどころか――

 

 

「――ほら、もうすぐ刻限だ。タイムリミットはそこに迫ってきているぞ」

 

 

 マーキナーの七典に、それが浮かんだ。

 ()()。今、僕たちにそれを躱す手段はない。否、無いわけではない。少なくとも僕一人であれば、あれが通り過ぎるまでの間、SBSでやり過ごすことはできるだろう。

 だが、それだけだ。

 

 師匠――そしてフィーは、離脱しようと思えばできるはずだ。実際、兆候が見えた途端、フィーは一目散に範囲外へと退避し始めた。

 マーキナーの妨害がなければ、あのまま問題なく離脱できるだろう。

 

 だが、百夜とリリスは?

 ――不可能だ。二人に、この状況を打開する術は()()。僕たちがここで何かを仕込んでいないとも思わないが、少なくとも、今の僕に記憶はない。

 

 だから、つまるところ。

 

 認めたくはないが、しかし。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「あは――!」

 

 勝ち誇るように、マーキナーは笑みを浮かべる。今この瞬間、彼女はゲームの中の彼女と何一つ変わらない嗜虐に満ちた笑みを浮かべているだろう。

 

 だが、

 

 だとしても、

 

 

「――()()()()()()()?」

 

 

 僕は、言い切った。

 だからどうした? それが一体何の意味がある? 確かに勝利の可能性はないのだろう、僕たちは現状負けるしかないのだろう。

 だけどそれが最善を尽くさない理由になるか?

 

「流石に往生際が悪すぎるよ、敗因!」

 

「知ったことか。往生際が悪かろうが、これが僕たちのやり方だ!」

 

 今、僕がするべき最善は、決まっていた。

 ()()()()()()()()()。離脱する二人に、マーキナーが手を出さないわけがない。いつ、気まぐれを起こして襲いかかるかわからないのだ。

 

 だから、()()()()()()()()()()。たとえ手段がなかろうと、彼女たちを僕が守るのは、僕の義務だ。

 

「――気取るな、負け犬!!」

 

 マーキナーが、剣を振るっていた。

 もはや、モーションすら視界には映らない。しかし、構わない。例えそうだとしても――

 

「往生際にこそ、負け犬だろうと遠吠えを上げろ! 僕たちは、お前に挑むためにここに来たんだ!」

 

 再生させた剣を添わせる。

 

 七典には強欲。

 だが、

 

 ――今度は折れない。

 

「……ッ、何故!!」

 

 打ち合う。マーキナーの一閃をまともに受ければ、間違いなく僕の剣はまた崩れ落ちる。だが、もう二度とそんなことは起こらない。

 何故なら僕は前に進んだからだ。

 

「それがわからない時点で、アンタは何も変わってないんだよ!!」

 

 切り合う。

 無限にも思える時間、だが、それも意識を切り替えれば一瞬だ。

 あの、人生のすべてを賭して駆け抜けた一分に比べれば、こんなモノ。

 

「――敗因」

 

 そこで、

 

「……百夜?」

 

 百夜に声をかけられた。マーキナーの攻撃を受けて、数歩分下がる、追撃はない。マーキナーも一瞬、百夜に視線を向けたのだ。

 

「――――怠惰の発射まで、耐えて」

 

「……!!」

 

 それは、

 

 僕にとっても、マーキナーにとっても、

 

 変化を生じさせる一言だった。

 

「白光……百夜!!」

 

「――ああ、わかった!」

 

 怒りを向けて、剣を振るう。一撃必殺が百夜へと飛びかかり、それを百夜は飛び退いて回避した。そこに、僕はためらうことなく切り込む。

 マーキナーは鬱陶しそうに、回避すらしなかった。僕の一撃を受けて、数歩下がりながら、剣を構える。

 

「……()()()()()()か。だが、関係ない。何が来ようと、君たちでは僕は倒せない!!」

 

 その視線は、概念と化したリリスに向けられていた。

 ……そうか、マーキナーは概念そのものだが、今のリリスもまた、概念そのものだ。とすれば、同位体である今のリリスの可能性は見えないのか。

 

「希望が見えただけで」

 

 僕は、剣を構え直す。

 

「――戦う理由には十分だ!」

 

 そのまま、振り抜く。ここまで来て、()()()()()()ことは絶対に駄目だ。数分、勝つつもりで戦え、前進むために剣を振るえ、

 

 未来はここにあると、高らかに叫べ!

 

「どうしてお前は、ボクの神経をここまで逆撫でできるんだよ!」

 

 切り結ぶ。

 僕たちの実力差は明白だ、一人でマーキナーを抑え込むことは難しい。故に、こちらから攻める。向こうに反撃の機会を与えない。

 そして、

 

「“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

 無敵時間も利用する!

 

「――どうして、可能性の低い方、低い方へお前は飛び込んでいくんだよ!!」

 

「わかりきったことを、聞くんじゃない!」

 

 それが、マーキナーの剣を、

 

「あああああああ――――!!」

 

 弾きあげる!

 

「――ッ! おまえ、たちはぁ!!」

 

 

 そこに、怠惰の砲撃は迫っていた。

 

 

「――――」

 

 目を見開く。

 それは、僕がその時、()()()()()()()()ことを意味していた。

 

 同時に、マーキナーもまた。

 

 驚愕に、眼を見開いていた。

 

「きみ、たちは――」

 

 そこに、

 

 立っていたのは、リリスだった。

 

 

 ◆

 

 

「――概念起源が使えるようになりましたの」

 

 それは、傲慢の神殿での会話。

 

「……僕の敗因白光と同じ理屈か」

 

「はい、二重概念で覚えた新しい概念起源ですの」

 

 眠りについたミニ百夜の頭をなでながら、リリスは少しだけ嬉しそうに言う。概念起源はその概念の根本に至ったという証。

 概念に限りなく近づいた概念使いの証明だ。

 だから、二重概念でそれが成るということは、二人の概念使いが、それだけ同じ概念の根本に至っている、関係性を深めているということにほかならない。

 

「効果は――まぁ、とても単純だから、見ればわかりますの。これの大事なところは――」

 

 そうしてリリスは、百夜をぎゅうと抱きしめて、胸に押しつぶされそうになった百夜が、呻くように鳴いた。それから、目を覚まし。

 見上げて、リリスと目があって。

 

 二人は、シンクロしたように笑みを浮かべた。

 

 

「リリスは、百夜の“旅”についていくことになりますの」

 

 

「――それは」

 

 師匠が何かを言おうとする。

 意味は、すぐに理解が及んだのだろう。

 

「百夜は本来、この時代の存在じゃないのよね」

 

「……うん、移動していないのは、移動する力がなかったから」

 

 百夜が肯定した。

 

「二重概念になって、百夜は力を取り戻しましたの。でも、代わりに()()()()()()()であるリリスが、その楔になりますの」

 

「……結局、これまでと変わらないってことじゃない」

 

「なの、だから――」

 

 リリスは、そして百夜は、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()の」

 

 

「……じゃあ」

 

「二人は、この時代を離れるのか?」

 

「リリスたちのホームはここですの! ちょくちょく戻ってきますの!」

 

 ぴょん、とリリスは跳ねて、百夜も跳ねる。

 しかし、否定はしなかった。

 

 

「――リリスと百夜の間に、特別な関係は何もありませんでした」

 

 

 そして、語りだす。

 

「二人にあるのは、寿命のない存在である、という共通点だけ。そんな共通点すら、仲良くなってから知ったこと。リリスと百夜に、つながりは絆以外なかったの」

 

 始まりは、偶然だった。

 この場所にたどり着いた僕たちというパーティの中で、一番不思議な関係をしているのは、リリスと百夜だと僕は思う。

 

 2人はただ行き合うことで知り合って。

 成り行きで絆を深め、気がつけば、概念を重ね合わせるまでになった。

 

 それは、特別なことだろうか。

 

「――君たちは、ふたりとも特別な存在だ。概念によって寿命を失くした少女と、世界の器となるべく作られた少女」

 

「……」

 

「けど、そんな特別すら乗り越えて、当たり前の絆を育んだ、そんな2人だ」

 

 なら――

 

「――君たちの行く末に、なんの間違いがあるというんだ?」

 

「……そうね」

 

「私達から、なにか言えることは……ないな、残念ながら」

 

 故に、

 

 ()()()()()()()だろう、勝利のために、希望のために。

 

 未来に可能性を残すということは、その可能性を未来に肯定されるということだ。

 

 だから、

 

 特別で、

 

 ありふれていて、

 

 故にここまでたどり着いた少女たちは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ◆

 

 

「――――ふざけるな!」

 

 否定するものがいた。

 マーキナーは、そんなリリスたちの秘密に、怒りを覚えたようだった。

 

「どうしてですの?」

 

 迫る砲撃を背に、リリスは問いかける。その表情はどこまでも落ち着いていて、隣に立つ概念の百夜も、変わらずいつもの無表情。

 

 激昂しているのは、マーキナーだけだった。

 

「その、概念起源は、――この世界から君たちの可能性を消し去る概念起源だ」

 

「正確には、違いますの。リリスたちは、時間から自分という楔を抜くの」

 

 リリスの概念起源、それは時間という座標から、自分を消し去る概念起源だ。この世界を構成するのは、時間、空間、生命の3つ。時間というX座標からリリスたちがいなくなれば、同時に、リリスたちは他の座標でその存在を証明しなくてはならなくなる。

 故に、()()()()()()に自分を置かなければ、存在が保てなくなる。

 

 どういうことか。

 

「リリスたちは、あらゆる世界に存在する可能性になりますの」

 

 細かい理屈を抜きにすれば、2人は漂流者になるのだ。

 一つの世界に長くいることができなくなり、無数の世界を旅するようになる。そしてそれ故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。

 

 だから、この概念起源は、

 

「やめろ……やめろ!!」

 

 ――マーキナーにとっては、劇薬だ。

 

 

()()を、ボクに見せるなぁ!!」

 

 

 今、マーキナーの視界には、マーキナーの、可能性を読み取る能力には、()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えていることだろう。

 

 マーキナーへの最も有効な対策、手数を増やすこと。

 可能性を増やすこと。そのもっとも単純な表現方法として、リリスは、()()()()()()()()()()()()まで増やすことを選んだ。

 

 とはいえ、彼女のやることは、やるだろうことは単純だ。

 マーキナーはそれを、膨大な可能性の中から掴み取らなければならないだけで。

 

“……マーキナー、この無限に思える可能性を、人は普通、希望と呼ぶ”

 

「――――ふざ、けるなあああ!」

 

“…………やっぱり”

 

 百夜が、意味深につぶやいて、

 

 

 リリスと百夜が、砲撃に呑まれた。

 

 

 声が、聞こえた気がした。

 

“――皆と別れるのは、寂しい?”

 

「寂しくないわけではないですの。でも、リリスって元は異邦人なの」

 

“……渡り鳥?”

 

「なの。だから――」

 

 

 光が、晴れる。

 SBSのその先に、僕は見た。

 

 

 巨大な杖。それを構える、2人の少女。

 

 

「……これでも!」

 

“くらえ!”

 

 

 マーキナーは、その杖に。

 

 

「“H×R(ホーリィ・アンド・レイン)”!!」

 

 

 余りある可能性の群れに。

 

 ()()()()()()()、飲み込まれた。




オリジナル日間一位、お気に入り7000件、総合評価14000ptありがとうございます
残る話数は三十話を切った程度だと思います。
最後まで駆け抜けられたらと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
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