――こんな機会、これから続く長い人生で、きっと一度しかないだろう。
強欲龍と共闘し、マーキナーの概念形態と対決する。しかもマーキナーは過去のウィークポイントを克服し、僕たちに対しためらうことなく概念を名乗った。
この世界に来た当初は、考えてもみなかったことだ。想像もしなかったことだ。
しかし、今ここにある。
確かに、現実だ。
興奮はあった。何一つ遠慮なく、ためらうことなく剣を振るい、最強の敵を最強の相棒と共に打倒する。これほどまでに心躍ることが、果たして人生にそう何度もあるものだろうか。
けれども、
――そんな興奮すら、心の片隅に置くしか無いほど、目の前の敵は強大だった。
機械仕掛けの概念。始まりの概念使い。
塵芥のマーキナー。
奴は、間違いなく最強の概念使いだ。百夜も、強欲龍も、最強を目指し、傲慢龍は最上を自称し、四天だって最強を名乗って僕たちを挑発してきた。
けれども、その全ては児戯でしかない。
マーキナーを前にして、己を最強であると名乗れるものがどれだけいるだろう。彼らの言葉は結局の所、マーキナーという圧倒的な例外を除いての話だ。
そう。
戦闘が切り替わったことで再び二重概念になった僕と、それすら凌駕する大罪龍の概念使いとなった強欲龍。間違いなく最大に近い状態で、
僕は、
「が、ああああああ!!」
ギリギリのところで強欲龍が攻撃を受け止め、僕は自分に復活液を叩きつける。スクエアと違って概念崩壊では解除されないのが二重概念のありがたいところ。
だが、それにしたって――
「――あーあ、この程度かぁ」
マーキナーは、
“てめぇ、敗因――解っていてそのざま、か”
「……アンタこそ、そのスペックでその程度しか回避できないのかよ」
僕らが互いに、思ってもいない憎まれ口をたたきながら、背を合わせる。周囲には、死が広がっていた。
――マーキナーの手札、それは手数だ。
前回の戦闘でみせた、二つの概念技、あれはマーキナーの基本戦術である。すなわち――
僕らの周囲には
「“
発破し、火花が弾け続ける焔。
「“
絶え間なく降りてくる白銀の氷。
「“
マーキナーの周囲に浮かんだ銀の鉤爪。
「“
そして、回転し、回遊する金の花弁。
マーキナーの、最も基本的な状態が完成していた。
――彼女は、アンサーガや百夜のような、条件を満たすことで強化される概念使いだ。条件はすなわち、この場で戦闘すること。
なので、ゲームでは、こちらのほうが馴染みがあるのだ。
そして、こちらのほうが
語るまでもなく。
「――じゃあ、もう一度死になよ」
マーキナーが、鉤爪を振り下ろす。僕たちは、互いに互いの背を蹴るように、飛び出した。両翼からマーキナーに対して斬りかかる。
迫ってきたのは、破裂する火花の焔。辺り一面に粒子のごとく散らばるそれは、僕の視界すら覆う。今更それで意識を取られるような戦闘勘をしているつもりはないが、選択の余地は生まれる。
ためらうことなく右へ逸れた。理由はない、マーキナーとの戦闘において、可能性を偏らせることこそが敗北の第一歩だからだ。
意識せず、意識して。
ためらわず、戸惑って。
これまで積み上げてきた経験で、正解を意識へ入れずに選び取るのだ。
「だ、あああ!」
火花を抜けて、降り注ぐ氷を避ける。言うまでもないが、先程の火花も、この氷も、触れただけで死に至る危険な代物だ。否、一撃で死ぬわけではない、僕たちのスペック、HPを考えれば、そこそこ現実的なダメージのはずだ。
しかし、
もちろん、
いくら僕たちが不屈で、不撓だからって、限度があるのだ。
どこでミスを誘発するか解ったものではない。故に、正解はあくまで、無傷でここを抜けることだ。
時折迫りくる銀の鉤爪を乗り越えて、ようやく僕はマーキナーの前に躍り出る。見れば、上空には強欲龍、攻撃をかわし切り、斧を構えていた。
「来たね」
「――“
僕の剣が、マーキナーへと迫る。それを、マーキナーは後方に下がって回避した。
“オラァ! 『
そこに、強欲龍の斧が迫る。挟撃だ。避けるならば横に飛ぶか、反撃に出るか! 更に回避するなら、コンボをつなげるだけでいい。
故に、
「おっと」
マーキナーは、その一撃を剣で受け止め、一歩引きながら受け流し、もう片方の剣で、強欲龍に斬りかかる。
「“
概念技、強欲龍がそれを避け、更に反撃。僕も斬りかかる。
激しい打ち合いだった。スペックで、マーキナーは圧倒的に僕らを凌駕する。しかも、周囲の旋回する手数は変わらずこちらに襲いかかってくる。
僕たちは常に圧される側だった。
二人がかりで斬りかかり、二人同時に弾き飛ばされる。
そこを狙う集中砲火。
「――ただ合わせるだけじゃあダメだ、強欲龍!」
“チッ、だったらこっちがいってやらぁ!”
二人でそれをなんとか弾き、ギリギリで弾幕をしのいだ後、強欲龍が飛び出す。ここで、僕たちは戦い方を変えた。
飛び出した強欲龍。当然だ、やつには不死身がある。七典を前にすれば無意味に等しかったが、概念形態を引きずり出したことで、この不死身は有効に作用する。
僕は周囲の弾幕をひきつけながら、コンボを稼ぐ。強欲龍はマーキナーをひきつけ、更に僕が弾幕をひきつけたことで、マーキナーだけに集中していた。
これまでも、何度もやってきた戦法だ。
ただ、それまでと違うのは――
「“
僕は狙いすらつけず、強欲龍とマーキナーに対して散弾を見舞った。
「やっぱりそうくるよねぇ! ただがむしゃらに突っ込んでくるだけなら、子供と同じくらいアホみたいなのにさぁ!」
“ハッ――ガキはてめぇだろ!”
刃を打ち合う音がする。
そちらに集中している暇はない、だが、間違いなく強欲龍は戦線を保てている。加えて僕も、迫る弾幕の対処は、強欲龍よりも容易といえる。
SBSだ。どうしても回避できない攻撃を、無限コンボで容易に躱す。強欲龍にも不死身があるが、これだけの手数、万が一にも核の破壊はさけなければならない。
そして――
「――行くぞ強欲龍!!」
“ああよ!!”
僕は、剣を高らかに振り上げた。
「“
「――“
対して、マーキナーも最上位技をぶっ放した。
突如として伸びる剣、それは強欲龍を吹き飛ばし、僕の剣を吹き飛ばし。
――
「お似合いだな!」
「――ああ、読み通りだな!」
「――――ッ!」
強欲龍の不死身は破壊できない。マーキナーは何かを警戒しているかのように、強欲龍を無理に倒そうとしない。視界にほとんど入ってこなかったが、剣戟の音からして、強欲龍のコンボ成立を絶対に阻止する構えのようだ。
核の破壊よりも、コンボの阻害を優先する。
そのことも大事だし、
今、僕の弾かれた剣の上で、強欲龍が立っている。
“強欲裂波ァ!”
熱線。放たれたそれを、マーキナーは概念技すら用いずに切り捨てた。
だが、
“『
――直後、それよりも早く強欲龍が着弾する。強欲龍の移動技だ。
「チッ――」
マーキナーが剣を重ねて、受けて、のけぞった。
そこに、僕も踏み込んで、
「“
遠距離から攻撃を叩き込む。
「君たちは――!」
マーキナーは、対して強欲裂波を弾いた剣を、投げ飛ばした。僕へ向かって。即座にスロウ・スラッシュへコンボを移行するべく動く。
しかし、狙いを読んで、
理解する。
「
マーキナーは、投げ飛ばした剣を、
「――ッ!」
スロウ・スラッシュを起動するよりも早く!!
「“
ただ剣を振るうだけなら、間に合う。
だが、
――だったら!
「――君はバカなのか!?」
マーキナーが叫ぶなか、僕は。
「“
後方へと全速力で下がり、
高いノックバック効果、それを利用して、後方へ下がるのだ。さらに、ダメージを受けている間、オリジン・オキシジェンの効果中、僕はまだ
僕は、吹き飛びながら、
「い、けえええ! 強欲龍!!」
“ハッ――”
剣が一本になったマーキナーに対し、
斧を振りかぶりながら、
“誰に言ってやがる、敗因!”
強欲龍が、概念技を叩きつける。
「チッ、さっさと戻ってこい!」
マーキナーが鉤爪をつかって剣を呼び戻す。しかし、その間、マーキナーは剣だけで強欲龍を捌き切る必要がある。捌くことは容易だ。
しかし、コンボは稼がれる!
“『
そして、
強欲龍が、赤い光を帯びる。
「強欲龍――!」
――マーキナーは、コンボを稼ぐことを避けようとしていた。
そして、僕はこの状況で、強欲龍が取れる手が一つあることを知っていた。僕がリリスたちに渡すように頼んだ、ラファ・アークの宝玉。
そう、二重概念だ。
強欲龍は、何を?
――特殊な二重概念だ。ゲーム時代にも資料はなく、僕もできるのではないかという推測だけで宝玉を渡した。結果として、それは
そう、強欲龍が概念を二重にする相手。
“『
それは、劇的だった。強欲龍は青白い光を纏う。僕のスクエアと同じように。そして何より――大きな違いは、一つ。
強欲龍は、
僕と、マーキナー。それに並び立つように。
そして、その発動によって後退したマーキナーが、叫ぶ。
「それが――それがお前の最後の力か! 強欲龍!」
“ハッ――”
僕は、復活液を自分にぶつけながら、なんとか立ち上がる。
痛みは残るが、まだ戦える。
そして、2人を見た。
勝ち誇るように笑みを浮かべる強欲龍と、悔しげにそれを見上げるマーキナーを見た。
“今の俺は、
――――さぁ、すべての準備は整った。もう場にふせられたカードはない。故にここからが――反撃開始だ。