負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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152.万感のフィニッシャー

 大罪と概念による二重概念。

 できるのではないか、という考察はもとからあった。

 同じ衣物同士なら、掛け合わせることができるのではないか。とはいえ、それは試すことができなかった。そもそも傲慢龍の儀式ができるようなものを所有している大罪龍が強欲龍しかおらず、その強欲龍は3で完全に消滅している。

 

 傲慢には儀式に使える生贄がなく、色欲の場合は使える生贄はこの世界の僕なので、むしろ儀式をしたほうが戦力が落ちるという問題があった。

 感情的にも、やる理由はないのだが。

 

 ともあれ、それがこうして、この世界では実現した。

 結果として解ったこと、通常の概念よりも発動が面倒だ。最上位技までコンボを溜めて、最上位技の代わりに発動する特殊なバフのような代物だ。

 

 継続時間も短い。強欲龍がこの世界に足を踏み入れたのは二重概念で空間を破壊したからなのだろうが、この世界にやってきた時点で、あいつは二重概念の効果が切れていた。

 

 つまり、何が言いたいか。

 ()()()()()()なのだ。僕たちがマーキナーを倒すために与えられた時間は短い。幸いなことに大罪概念の二重概念は戦闘中に複数回発動できるため、もう一度二重概念化を狙ってもいいのだろうが。

 

 ()()()()()だと、僕は思った。

 強欲龍も、同じだろう。ここで決着をつけられないのに、どうして勝機があると言えるのだ。圧倒的に不利なのはいつものことだが、時間制限が短いのも、スクエアがあるため、いつものことだ。

 今更ここで、勝てないと言えるものか。勝つのだ。故に――この一回で、僕たちはマーキナーを倒す。それができると、僕は思っていた。

 

 

“『W・W・W(ウィニング・ワイルド・ワールド)』!”

 

 

 ――一閃。

 

 それだけで、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ぐ、うっ!!?」

 

 マーキナーもまた、大きく吹き飛んでいる。恐ろしい効果範囲だ、そして僕はその中を、ためらうことなく駆け抜ける。余波など気にするものか、マーキナーの攻撃に比べれば、痛くない。

 そして、吹き飛んだマーキナーの後方に回る。

 

「“S・S・R(スロウ・スラッシュ・リライジング)”!」

 

「君が粋がるなよ! “N・N(ニクス・ニトロゲン)”!」

 

 激突、押し勝つのはマーキナーだ。

 だが、剣を弾かれつつ、僕は構わず概念を振るう。

 

「“B・B・W(ブレイク・バレット・ライティング)”!」

 

「チッ――“S・S・R(シルバー・ストレンジ・ラファエル)”、“G・G・M(ゴールド・ゲーマーズ・ミカエル)”!」

 

 展開されなおした弾幕、散弾はそれに払われるが、僕はそのまま踏み込んでいた。

 剣を振り上げ――

 

「“D・D・G(デフラグ・ダッシュ・ゴーイング)”!」

 

 叩きつけながら、移動技で駆け抜ける。

 ――一撃が、マーキナーに通った。そして、僕は上空へと跳ね上がり、しかしマーキナーは宙に浮いた僕に意識を傾けない。

 

 ()()()()()()()()だからだ。

 

“『L・L・L(ラスト・ルーズ・ロスト)』!”

 

 直後、世界が砕けた。

 空間が割れ、マーキナーの世界が崩落していく。マーキナーの身体も、それに沈んでいった。とはいえ、衝撃自体は周囲の弾幕によって緩衝され、ダメージはない。

 

「“H・H(ハイド・ハイドロゲン)”」

 

 そのまま、反撃のスプラッシュ。機関銃が掃射され、強欲龍はそれを二つの大斧で弾き切った。そこに、マーキナーが高速で接近している!

 

“『W・W・W(ウィニング・ワイルド・ワールド)』!”

 

「“N・N(ニクス・ニトロゲン)”!」

 

 激突。少しの拮抗の後。

 ――押し勝ったのは、()()()()()だ。いや、そもそもまともに勝負できるという時点で強欲龍はおかしいのだが。僕のSSRなんてゼロコンマの一秒すら打ち合えないというのに。

 ただ、それでもなおマーキナーがスペックで勝る。

 一対一では、たとえ二重概念の強欲龍だろうと、マーキナーは倒せない。

 

 だから、そこに僕が割って入るのだ。

 

「おおおっ! “L・L・O(ルーザーズ・リアトリス・オリジン)”!」

 

 強欲龍が押しきれないとはいえ、真っ向からマーキナーと激突できるおかげで、僕はコンボを容易に貯めることが出来た。

 

「あ、はぁ! “O・O(オリジン・オキシジェン)”!」

 

 笑み。

 マーキナーは嬌笑と共に大剣でそれに返した。僕の最上位技、そして――

 

“――おらぁ、行くぞ!”

 

 強欲龍が、斧を振り上げ。

 

 

天地破砕・強欲裂波(ワールド・エンド)!!”

 

 

 身体中から溢れ出す、焔を破壊へと変えた。

 

「あ、ははははは! ははははは!」

 

「く、っ――!」

 

 マーキナーの笑い声が響く中、僕の剣は、強欲龍の破壊の中を暴れまわる。もはや、視界は破壊に覆われて、耳は破壊に塞がれた。

 

「――――()()()()かなぁ!!」

 

 そして、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 息を呑むような光景だった。

 破壊も、そしてそれを切り裂いたマーキナーも。

 

 世界が、天地がひっくり返ってしまったかのような情景で、僕は、少しばかりの興奮を抑えきれなかった。

 

「届かない! 届かないんだよ!」

 

 マーキナーが叫ぶ。

 

「どこまで強くなろうと、それは僕に届かない範囲でのことだ。君たちは君たちの中で最強を語っていなよ。これだけの破壊でも、僕を破壊するには至らない」

 

“チッ――”

 

「――まもなく二重概念は解除される、君たちの負けは、ここに決まる」

 

 見下ろして、見下して、マーキナーは僕たちに剣を向けた。

 

 

「いいや、僕たちが勝つ」

 

 

 しかし、僕はそれを真っ向から否定した。

 

“あぁ? どォいうことだ”

 

 半信半疑は、強欲龍のようだ。マーキナーは何も答えない、だから僕は指摘するだけだ。強欲龍が、大雑把すぎて気づいていない、それを。

 

「今ので、ダメージは通っているだろう。()()()()()()んだよ、マーキナーも」

 

「……ふん」

 

“何故わかる”

 

「――戦うのは、はじめてじゃないからな」

 

 だからわかる。マーキナーは追い詰められようと、それを周囲にはさらさない。しかし、マーキナーが勝ち誇っている時、それは本当に勝ち誇っているか、追い詰められたのを隠すかの二択だ。

 

 僕は後者だと断言する。

 

「強欲龍、後少しだけ付き合ってもらうぞ」

 

“てめぇは何もしてねぇじゃねぇかよ。勝手に言ってやがれ、俺の足だけは引っ張るんじゃねぇぞ”

 

()()()()()。今度は僕が――アイツを止める」

 

 それは、

 

“ハッ――”

 

「――ハッ」

 

 マーキナーと強欲龍から、全く同じ反応を引き出した。僕の言葉を鼻で笑って、しかし、そこからは正反対だ。

 

 

“――行くぞ、敗因”

 

 

「バカにするなよ、敗因!」

 

 

 信頼と、侮蔑。

 

 僕は、そんな両者の言葉に、どちらに対しても笑みを浮かべた。ああ、だって。――マーキナーは越えるべき敵で、こちらを見下してもらう必要があって。

 

 強欲龍は今この瞬間だけは、僕が誰よりも信頼を置く、共闘相手なのだから。

 

“『W・W・W(ウィニング・ワイルド・ワールド)』!”

 

「“S・S・R(スロウ・スラッシュ・リライジング)”!」

 

 そして、2人同時に斬りかかる。

 

 剣戟は、マーキナーの弾幕を吹き飛ばし、接近戦を強要する。

 三者の打ち合いは、どちらかに天秤が偏っているということはない。マーキナーと強欲龍では、マーキナーが優れているが、僕が打ち合いに飛び込んで、そこに割って入るために、拮抗に持ち込めていると言えるだろう。

 ――何よりも、意識せずとも、僕は強欲龍の狙いが解った。あちらはこちらに合わせはしないが、僕が合わせることを前提に動いてくれる。

 

 一撃、強欲龍がマーキナーによって吹き飛ばされる。そこへ、マーキナーは最上位技を掲げるが、僕が割って入った。そのまま薙ぎ払われるかと思えば、僕はむしろその大剣に乗り上げて、その上を駆ける。

 

「大道芸のピエロじゃないんだからさぁ!」

 

「そのくらいのほうが、アンタにはいいだろう!」

 

 そのまま、一太刀を入れながら着地。

 振り向き、既に強欲龍が復帰しているのが見えた。

 

 ――もはや時間はない。このまま一気に決めるしかない。

 

 マーキナーの最大の脅威は可能性の先読みだ。

 生半な手では対応される。既に、こちらがあらゆる手を使って決着に持ち込むさまを、奴は見ている。ただ、奇策を打った程度では、マーキナーは対応してくる。

 むしろ、ヤツのほうがそういった点では上手なのだ。

 

 先を読んだ上で、こちらの想定を上回る手を打ってくる。

 

 ああ、だが。

 だったら、取れる手は一つしかない。

 

「――()()()

 

 僕は、

 

“あぁ?”

 

 

()()()()

 

 

“敗因――()()()()()()()()

 

 

 ただ、一言求めた。

 それに、強欲龍は、

 

 ただ一言、答えた。

 

 

「――ああ?」

 

 

 マーキナーが訝しんだ直後。

 

「“S・S・R(スロウ・スラッシュ・リライジング)”」

 

“『W・W・W(ウィニング・ワイルド・ワールド)』”

 

 

 ()()()()()攻撃を叩き込んだ。

 

「どうなってる!?」

 

 叫び、マーキナーは即座に対応する。二刀を僕と強欲龍に合わせ、弾き、反撃。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「“D・D・G(デフラグ・ダッシュ・ゴーイング)”!」

 

“『L・L・L(ラスト・ルーズ・ロスト)』!”

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()、僕が飛び上がり、マーキナーの上を取る。

 

「なんなのさ、君たちはぁ! “H・H(ハイド・ハイドロゲン)”!」

 

 続けざまに放つ僕らの攻撃を、散弾で弾き、マーキナーは反撃に打って出る。それもまた、全く同じタイミングで動いて、こちらも対処。

 連携も、ここまで極まればもはや芸術だ。

 

 師匠たちとも、これができないわけじゃないが、僕がこれをできるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 同時に攻撃するということは、相手も攻撃しているということで、故に回避が難しい場合が発生しかねない。

 

 特に、相手はマーキナー。こちらの連携など軽く崩してくるあいつに、そんなところへ意識を回していたら絶対にコンボは続かない。

 

 今、この瞬間。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「――なぜそんな事ができる! 君たちは宿敵だろう! 絶対に相容れない存在だろう!」

 

「ああ、そうだ。そのとおりだ」

 

 否定はしない。

 ――これが終われば、僕たちはすべてを賭して殺し合う。その結末がどうなるか、僕も強欲龍もわからない。最後には、決着をつけたい相手同士なのだ。

 

 でも、しかし。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“同じだろうがよ――”

 

「あぁ?」

 

 それは、

 

 

“てめぇを片して、決着をつける。その意思だけは、俺もこいつも全く同一の意思だろうがよ”

 

 

「――だから」

 

 僕たちは、

 

 

()()()()()()()()()()。その意思だけで、全てを合わせている!」

 

 

 なぁマーキナー。

 お前は可能性は読み取れたとしても、そこにある感情までは読み取れない。()()()()()()()()()()()んじゃないか。

 

 それは――きっと、ゲームの頃からなにも変わっていないんじゃないか?

 

 いや、()()()()()()んじゃないか?

 感情のゆらぎすら可能性として捉えてしまえるアンタには。

 

 ああ、それは――

 

 ――それはアンタには、どうしようもないことだよな。

 

 

「……っ、ふざ、けるなぁ!!」

 

 

 気がつけば、僕たちはマーキナーを追い詰めていた。

 大地は砕かれ、上を僕が、下を強欲龍が抑え、生み出された弾幕は、全て強欲龍が吹き飛ばし、強欲龍がコンボを稼ぐ時間は、僕が剣戟ですべて稼いだ。

 

 再び、僕と強欲龍。それぞれが最上位技を叩き込める瞬間が訪れたのだ。

 

 そして、これが僕たちの最後の一撃になる。

 決める、確実に。

 

「――――この程度で、ボクが揺らぐと思うなよ」

 

 マーキナーは、たしかに追い詰められていた。

 地は裂け、足場がなくなり、不安定な態勢だった。上下から僕らが挟み、逃げ場はなく、周囲に弾幕もない。しかし、

 

 マーキナーは銀の鉤爪を生み出し、周囲の瓦礫を掴んで態勢を安定させ、金の花弁へと降り立つ。

 

 こいつは、本当に――どこまでも、

 

「倒せるとおもうなら試してみなよ、無駄だ、勝てっこない」

 

“ああ、てめぇはつえぇよ”

 

 強欲龍は、そんなマーキナーの言葉を認めた。

 それは、強欲龍にしては意外な言葉だ。――まっすぐ、欲もなくマーキナーを認めている。

 

 きっと、その本音は、

 

 

“――だからこそ、てめぇは意思なんざ持つべきじゃなかった”

 

 

 ――マーキナーの心を、的確に突く言葉だっただろう。

 強さを誇示するその姿が気に入らないのか。強さに見合わない未成熟な心が気に入らないのか。はたまた、強欲龍に限ってはありえないだろうが――ちぐはぐなマーキナーを憐れんでいるのか。

 

 どちらにせよ。

 

「――――それが、できれば!!」

 

 マーキナーは、剣を構えた。

 

()()()()()()()()()()()()!!」

 

「来るぞ、強欲龍!」

 

“――――ああ”

 

 

 かくして、僕たちは。

 

 

「“L・L・O(ルーザーズ・リアトリス・オリジン)”!」

 

 

 ――僕は、ただ強欲との合一に集中し。

 

 

天地破砕・強欲裂波(ワールド・エンド)!!”

 

 

 強欲龍は、それ以上の言葉はなく。

 

 

「――――ああああああああああああ!! “O・O(オリジン・オキシジェン)”ッ!!」

 

 

 マーキナーは、万感の思いを込めて。

 

 

 ()()()()()を、僕たちは放った。


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