「――ハハハハハ! まさか俺たちをあんな目に合わせた連中の首魁が小娘とはな!」
「つっても、実際にゃちょっと数えられないくらいの婆さんだって話だけどね」
なんて会話を愉快に繰り広げつつ、ラインとアルケは怠惰龍の攻撃の隙間を縫って襲いかかる粒子の龍を吹き飛ばしていた。ここは概念使いの戦場。他と比べれば戦力的に大人しい彼らではあるが、この二名に関しては気をつけて連携しながらあたれば同数の粒子の龍を難なく撃破できる戦力だ。余裕がある。
厳しいのはシェルとミルカ、それから何故か連れてこられたらしいイルミである。
「いや、ほんっとゴーシュの旦那は何考えてるか読めねぇっす。この状況を見越してたんすかね!」
「ありえなくはないでしょうねぇ。話では、機械仕掛けの概念を倒すという話だったけど、実際は救うんでしょう? 単純じゃないから、考える人は多いほうがいいものね」
「はははははは! さっぱりわからないな!!」
「何笑ってるんすかー!」
――と、話をしながら粒子の龍をなんとか吹き飛ばす彼らのところへ着地する。
「大丈夫か?」
一閃、たかっていた龍たちは吹き飛ばされ、消えていった。
僕を見て、三者三様、驚き目を見開く。
「敗因か! いいところに来たな!」
「それはこっちのセリフだよ。ありがとう、来てくれて。わざわざ危険を冒す必要もなかったろうに」
「構わないわよ。世界の危機なんでしょう」
そういわれて苦笑する。
この場合、危機に陥れているのは僕たちの方だが――ともかく、彼らにも声はかけなくてはならないだろう。呼ばれてみれば、完全に趣旨が入れ替わっているのだから。
「びっくりしたっすよ! いきなり世界の命運をかけて戦うのもそうっすけど! 本当なら倒すはずの相手を救うって、それちょっと違くないっすか!?」
「悪い、いくらでも僕は責めてくれて構わない。けど、そうすることが――」
「あ、あーいや。別にアタシはどうでもいいんすよ。というか、世界中の人間はこう思ってるんじゃないっすか?」
そういって、イルミは他人事のように続ける。
「
――つまるところ、彼女がいいたいのはこの世界の人々の反応のことだろう。
僕が気にしていたことだ。理由がない、と。それに対しての回答だろう。人類は、そこまで世界の危機に感心をしめさない。特に、既に去ってしまった危機は。
「――そうだな。あまり気にするな敗因。今は、世界の危機がどうこうではなく、悲劇の少女を救うということだろう?」
「そうよそうよ。あのでっかい龍の中に閉じ込められてるんでしょう。助けなきゃいけないわ!」
シェルとミルカは、単純に少女の救済を願ってくれた。この二人も、師匠と同じタイプの人間だろう。それはすなわち、英雄の素質というやつなのかもしれない。
「おお、敗因よ――少しいいか?」
そこで、ラインに声をかけられる。何事かと視線を向ければ、ラインは
「先程から大罪龍が何度も攻撃をぶちかましているが、あいつには一向に攻撃が通らないのはどういうわけだ?」
「おそらくは、可能性の否定だな。マキナは可能性を否定することで、あらゆる攻撃を無効化できたんだが――」
「――そのマキナの概念起源が効果を発揮し続ける限り攻撃は通らない、ってことかい」
アルケの問に肯定しつつ龍を切り払う。ここは怠惰龍の庇護下ということもあり戦線は他よりも穏やかだが、そこそこの数の龍が襲いかかってきていた。
飛び込んできたそれを、一刀両断できるのは二重概念の特権だ。
「それだけ強くなろうと、まずはこの龍たちをなんとかしなければ意味はない、ということか」
「一度、概念としての機械仕掛けの概念を終わらせる必要があると思う」
「……そうすると、じゃあどうやってそのマキナってのを救出するっすか?」
イルミの質問、まったくもって当然のそれを、僕はおおよそ当たりをつけていた。
「とりあえず、まずはあの世界の中から彼女を分離させなければならない。今、彼女は世界の核になっているはずなんだ」
世界に意思はない。いくらバグっていたとしても、何かしらの行動を起こすことは不可能なのだ。そこで、中に自分の主であり自分に命令を下せる立場のマキナを埋め込み、自分に命令をさせるように強制する。
おかしな話だが、こうしなければ、世界がこうして動き出し、僕たちに牙を剥くことなどありえないのだ。
「そもそも、世界の目的はなんなのだ? 聞いた限りでは、目的など持ちようがないとおもうが」
「二つ……いえ、最終的には一つじゃないかしら」
シェルの問に答えるのはミルカだ。彼女は聡明であるが、そもそもこの場においてもっとも余裕があるのはミルカであるから、考えをまとめるにはうってつけの人材だ。
そして、そんな彼女が推察を述べるというわけである。
「一つは貴方の排除。敗因、貴方が世界に対して一番のバグなのでしょう? だったら当然、それを排除するのが一番のバグ抑制になるわ。そして、もう一つ……そのマキナって子の命令を遂行すること、ね」
「1つ目の目的は、2つ目の目的を達成する手段に成るわけだね」
アルケの補足にミルカは頷く。
しかし、何にせよ
では、バグを排除するにはどうすればいい?
「世界も概念なんだろう、だったらアレを倒しても、
「ああ、概念崩壊は、壮絶な痛みを伴うが死ぬわけじゃあないから、世界に関してもそれは変わらないのかね」
ラインとアルケが納得したようにうなずく。
ようするにあの巨竜を倒せばいいのだ。時間が経てば、世界は元の形に戻るだろう。
「そもそもバグっていうのも、長時間概念化しつづけたことが原因でもあるのかもしれないわね」
これに関しては、ウリア・スペルが実証に成るだろう。あいつも概念崩壊したところで、死にはしなかった。死なずに逃げようとした。他の四天や、マキナだってそうだ。
概念崩壊が決定的な消滅ではなく、その後にとどめを刺されたことが消滅の原因である。
「……と、すると。なんか話が戻ってこないっすか?」
「というと?」
イルミに促すと、
「いやだって、結局はアレをどう倒すかってところが問題なんじゃないっすか。アレ、一体何をしてくるんすか?」
「それは――」
シェルがそれに少し思考を巡らせて、笑みを浮かべた。
つられてイルミも笑みを浮かべて――
「――これから考える!」
がくり、と肩を落とした。
さて、話をおおよそ終えた上で、僕はこの場を離れようかと思った。今は戦闘に集中するべきだろうし、ここは安全圏すぎて、僕が力を十全にふるえない。
しかし、その時だった。
「“
ちょうど、通りかかった師匠が敵を薙ぎ払っていた。
「師匠!」
「……うん? 君か、こんなところで何をしているんだ」
油を売っている場合ではないと言わんばかりに師匠が呼びかけ、僕は解っているとそれで視線を返す。この場において、師匠に用があるとしたら僕ではないだろう。
「ルエ! 概念起源じゃないかいそれは! そんな気軽に撃っていいものなのかい!?」
アルケが心配そうに呼びかける。師匠はそれに応えるように懐中時計を取り出し、
「これのおかげさ。こいつを持っている間、私は使用回数の切れた概念起源を自由に使えるんだ」
「逆に言えば……紫電殿は概念起源を使い切ったのだな」
どこか心配そうなシェルの言葉に、師匠はそんなことはないと首を振った。
「使い切ったからこそ、こうして父の形見でそれを使うことができるんだ」
そう言って、慈しむように懐中時計を握る師匠に、シェルはなるほどな、とうなずいた。
――とはいえそれも、懐中時計が効果を失うこの
それを使っての概念起源も、撃てて一回というところか。
まぁでも、そのほうがいいのかも知れないな。師匠は強いが、強いからこそ戦いに向いていない。できることが多いから、そのすべてをやってしまおうとするから。
だから、師匠はいっそ出来ないことのほうが多いほうがいいのだ。
「ほぉー、取り戻したんだな、紫電」
「ああライン。父のことを教えてくれてありがとう。それも助けになったよ」
感心した様子のラインは、懐かしそうに懐中時計を見やって、それから視線を外した。なんとなく、その瞳は揺れているように思えた。
泣いている……と指摘しないほうがいいんだろうな。
「それで、そいつは使えなくなった概念起源が使えるんだったか」
「そうだ。私の紫電も、こいつを使って使用している」
ふむ、とラインは少し考えて――
「
と、指摘した。
「そうなのか!?」
考えてみればそうだ。師匠の父は亡くなっているわけだから、概念起源は時の鍵で使用できる。概念起源が存在したのは驚きだが、別に意外でもなんでもない。
アタリマエのことだ。
「ああ、つまりな?」
師匠とラインが二人で言葉を交わす。こちらには教えてくれないのだろうか。いや、まぁ、聞きたいわけではないのだけど。
「……いいことを聞いた。もしかしたら、君の助けになるかもしれない」
そう言って、師匠は僕の隣に立つ。
そろそろ次の場所へ行かなくてはならないだろう。
僕の方を見て、師匠は笑みを浮かべた。
「彼らがきてくれてよかったな」
「ええ、助かります」
戦場は目まぐるしく変化して、その中で落ち着いて状況を見られるものはそういない。僕だって、冷静に俯瞰できているとはいい難いだろう。
でも、だからこそ彼らの存在に価値がある。
この戦場では概念使いは戦力としては遅れを取るだろうが――確かに、その信条は僕たちと同じ方向を向いていた。
ならば――
「――行きます!」
「ああ!」
僕たちは剣を構え、再び戦場に戻るのだった。
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