負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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167.三重概念。

「――今、世界(デウス)が行ったのは、可能性の否定ではないかと思うの」

 

 復活液を受け取り、なんとか起き上がったミルカは言う。

 

「それは、マキナの能力じゃないか? マキナの力は、たった今全て剥ぎ取ったはずだ」

 

「ううん。それはそうなんだけど、それを自分の力で再現してるんじゃないかと思うのよ。概念技ってことね」

 

「……なるほど」

 

 マキナだって、可能性を操るとはいっても、元は小さな粒子の粒という概念でしかない。それを拡大解釈し、あらゆる存在の根源であるとしたことで、可能性を操る力を身に着けたのだ。

 

「この世界は、可能性そのものである機械仕掛けの概念が手づからに選んだ、()()()()()()()()()()()()で構成された世界。可能性に、もっとも近い概念を世界(デウス)は持っている、とも言える」

 

「まぁ、時間も、空間も、生命も、可能性の塊っていわれりゃあ、そんな気はしてくるな」

 

 アンサーガの補足に、ラインが納得したようにうなずいた。

 見れば、他の者達も続々と起き上がり、こちらへと歩み寄ってくる。――世界は行動を起こしてはいない。不気味なほどに沈黙していた。

 

 大罪龍たちは、世界をにらみ沈黙している。こちらも消失にはもう少し時間がかかりそうだが、故に油断なく次を待っているのだろう。

 分析は、概念使いたちの仕事であるとも言えた。

 

「で、それら三つが重なった三重概念――時間空間生命の世界(デウス)ってことっすか」

 

「なんだかしまらないな」

 

 シェルの苦笑、まぁ、そもそも世界というのがこの三つの概念を内包しているわけだから、世界で括ってしまって問題ないだろう。

 ともあれ、

 

「――攻撃を受けた時、存在が朧気に成るような感覚を覚えた。アレが可能性の否定っていうんなら、たしかにそれはその通りだろうね」

 

 ……?

 そうか、と首をかしげる。僕は一瞬意識に空白が生まれたが、それだけだった。アルケの言葉に言うような感覚は身に覚えがない。

 とはいえ、少し考えると()()()()()()()なのだと気がつく。

 

「だが、消失はしてない。してない、してないんだよねぇ。――アレは本気じゃないってこと、言わなくてもわかるよね?」

 

 アンサーガの言葉に、一同は沈黙した。リリスの概念起源を貫通して概念崩壊を齎すが、生命までは奪わない。現に、概念化していない大罪龍であるフィーと怠惰龍も、苦しそうにはしているが健在だ。

 

「アレは射程を合わせてるんだと僕は思うね。だってだってだって、()()()()()()()()()()()()()()()()()だもの、感覚違いはどうしたって起きる」

 

「……希望的観測だな」

 

「アレで全滅していてもおかしくなかったんだ。希望的観測こそが、今は僕たちにとって最後の武器であると思うけどね」

 

 シェルの不安を切って捨て、アンサーガは道化のごとくクスクスと笑う。不気味な容姿に、それはこの上なく似合うけれど、今この状態で彼女のおどけた言動は、ある意味救いでもあると思った。

 なにより、この場においてもっとも衣物に詳しい彼女の言葉は、誰よりも信用に値する。

 

「もちろん、その最後の武器は――君の手の中にある、解っているかい、敗因」

 

「……ああ」

 

 そして、これもまたまったくもってアンサーガの言う通り。

 僕にはまだ、希望があった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは、最初から感じていた違和感ではあった。本来、概念崩壊すれば身体には激痛が走る。それがなかった。何より自由に動き回れた。他のものには復活液が必須だったのに。

 

「考えてみれば当然だ。なにせ僕はこの世界の可能性ではない。()()()()()()()()に衝撃を与えるあの一撃は、僕には効果が薄かったんだ」

 

 そして、その上で、感触を思い出してみて思う。アレが概念技だというのなら、僕は――

 

「僕はアレを()()()()()。アレと同じ舞台に立てれば……の話だけど」

 

「……つまり、どういうことだ?」

 

「位階が足りてないんだよ。というよりも、存在する次元が違う、というか。通常の概念化と二重概念ではそう違いもなかったけど――三重概念ともなると、立っている舞台が違いすぎる」

 

 百と百をかけても一万だ。その桁は二つしか違わない。だが、ここにさらに百をかければ桁は更に二つも違ってくる。何より、一万は百を百人集めればいいが、百万は一万を百人あつめなくてはならないのだ。

 この場に、それだけの人材はいない。

 

 だからこそ、もっと簡単な方法を取る必要がある。

 

「――フィー!」

 

「……なに、よ」

 

 フラフラと、今にも倒れてしまいそうになりながら、なんとか世界を睨んでいた彼女に声をかける。かなりつらそうで、僕は近寄って彼女に肩を貸し、そのまま話しかける。

 

「今から言うことを、君は実行できるかい?」

 

「まずは言ってみなさいよ」

 

 では、と僕は少しだけ息を吸って――ちょっとだけ、覚悟がいる。なにせこれは――――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

 

「な――」

 

 にを言っているのだと、続けようとする彼女よりはやく、僕は続けた。

 

「それを君とルクスの能力で、どちらかを取り込んだ状態で目覚めさせることはできるかい?」

 

「そ、れは……」

 

 言われて、フィーは考える。胸に手を当てて、確かめるように。――その顔には、少しの不安が張り付いていた。僕の言葉に、それを感じる要因はあっただろう。

 

「……できる。でも、それになんの意味があるのよ。やっても、()()()()()()()()()じゃない」

 

「いや――」

 

 逆転の一手。

 それがこの封印と、フィーによる解除だったのだ。

 そもそも考えてみれば、僕は自分の封印で千年も待つ必要はないのである。可能性の世界で嫉妬龍に救いを与えるための手段としてルクスを目覚めさせることを思いついた時。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 できるかどうか。

 何より、やる意味があるかどうか、という疑問はあるのだが。まさか本当に、世界が三つの概念を重ねてくるとは。である以上、逆転のために、これは絶対にしなくてはならないことだ。

 

()()()()()()()、3つ目の概念が。僕には、外付けで備わっている概念がある」

 

 それは――

 

 

()()()()。それも同時に融合させれば、僕は三重概念を得る」

 

 

「――――」

 

 驚愕し、フィーが目を見開く。呆けたように、しかし――次第にそれが怒りへと変わる。彼女も理解したのだろう。理解せざるを得ないのだろう。付き合いの長さから、こういう時僕が持ち出す策が無茶なものであることを。

 そして、実際それはその通りなのだ。

 

「――世界(アレ)と同じになるってことじゃない、それって! あんなバグまみれのやつと同じになる!? 冗談じゃないわよ!」

 

 叫ぶ。

 

「第一、弱体化を三つ重ねるとバグの温床に成るって、アタシだって知ってるのよ!? 三重概念も同じことでしょう!」

 

「……かもね」

 

 だが、だとしても。

 

「――止まる理由にはならないって、フィーも解ってるだろ?」

 

「だから!!」

 

 バッと、僕から離れて、フィーは叫ぶ。必死に、すがりつくように、()()()()()()()ように。

 

「解ってるから言ってるのよ! アンタは言っても止まらない! たとえどんな低い可能性だとしても、どんな理不尽な未来だろうと、突っ込んでいくって!!」

 

「なら――」

 

()()()()()()()()()()()()()じゃない! なら、私はアンタに文句を言うしかないのよ! そうしなきゃ、アタシが納得できないし!」

 

 顔を上げて、僕を睨んで、そして。

 

 

「それがなくって、()()()()()()()()()()()()()()アタシは永遠に後悔するんだもの!」

 

 

 それは――

 

 激励だった。

 

 決して、僕を引き止めるためのものではない。

 

 枷にするためのものではない。

 

 こうすることで、僕が少しでもフィーたちの未練になることを願うから。少しでも、僕が前に進む活力に成ることを祈るから。

 

「――僕は、旅をしてきた」

 

 それに、応えるように。

 

「多くの出会いや、多くの理不尽に見舞われてきた。この世界は僕にとって既知の世界だったけど。この世界の経験はすべてが未知だった」

 

 僕は綴る。

 

「――未知ほど怖いものはない。勝てるかどうかわからない恐怖ほど怖いものはない。負けると解っているならまだ良いほうだ。それをひっくり返してしまえばいいのだから」

 

 自分の手に収まった概念の剣を見つめ。

 

「この先は、全てが未知だ。世界という敵も、マキナを救えるかどうかすら。僕には全くもってそれがわからない」

 

 遥か遠く、こちらを待ち構えるように佇む龍を見た。

 

「――でも、僕には後ろに、多くの既知がある。知って、納得して、わかり合って。そうして作ってきたッ道がある!」

 

 そして、

 

 

「――もうすぐ次が来るぞ! また世界が震え始めた!」

 

 

 僕に声をかける人がいた。

 師匠が、紫電の翼を展開し、空から僕に呼びかける。

 

 

「もう時間がないの! 勝利の可能性は、もう貴方にしか残されてないの!!」

 

 

 リリスが、叫びながら手を振るう。

 隣には、半透明の百夜もいて。

 

 

 ――遠くには、僕の敵がいた。

 

 

“011011101101010101――――”

 

 ノイズと共に、何かを出力する世界という龍に対し。

 

 僕は、最後の一手を開放する。

 

 

「起動しろ! 世界が負けろと押し付けた! 理不尽を逆転に変えるんだ!! “W・W(ワールド・ウォンテッド)”!!」

 

 

 自分の中で、何かが一つに絡まっていくのがわかる。

 自分と自分が、自分と自分でないものが。自分でないものと自分でないものが。何もかもが一つになっていくのがわかる。

 

 不可思議な感覚は、僕という個人を薄れさせる。

 ああ、これは――

 

 ――そうだな、これは怖いと思うよな。

 

 一人になってしまうという感覚。

 

 置いていかれるという錯覚。

 

 孤独だという自覚。

 

 きっと、これがマキナの感じていた感覚で――今の彼女には、それすらも救いになってしまうほど、多くの絶望がのしかかっているのだ。

 

 それは――

 

 

「認められるわけッ! ないでしょ!!」

 

 

 フィーが、封をこじ開けた。

 

 剣に力が宿る。

 

 身体に芯が入る。

 

 熱が心に灯りだす。

 

「――認められるか! ただ負けるしかないなんて! 世界がそうした通りに動くしかないなんて!!」

 

 叫びと共に、フィーは僕を送り出す。

 

「行け!! アンタの底力、何も知らない世界に見せつけてやるのよ――――!!」

 

 ――ああ。

 

 それは、答えなど必要ないだろう。

 

 

“01111101110101010101011101101011000001”

 

 

 既に、切り払わなければならない消失は迫ってきているのだから。

 

 ――それは、可能性の消失だった。

 否定ではない。この世界から、存在そのものを消してしまう決定的な拒絶。こうして直接相対し、()()()()()()()がなくなったからこそ。

 マキナの支配下から外れたからこそ、世界は自由にそれを振るえるのだ。

 

 だから、

 

 

「――――無駄だ」

 

 

 光のごとく飛び出した閃光が、

 

 ()()

 

 

 その一撃を、一刀のもとに斬り伏せた。

 

 

 空に、僕は立っている。変化はない。もとより、僕が既に持っていたものを、掛け合わせて積み上げたのが今だ。だが、それでも。

 

 心にあるものは、違っていた。

 

 

「可能性は否定させない。消失だって望んでいない。誰だって、生きたいんだ!」

 

 

 故に、宣戦布告する。

 

 さぁ、世界。

 

 

「――アンタがそれを望まなくたって、生きている誰かは、望んでいるんだ。それをアンタに、否定はさせない!」

 

 

 アンタの敵が、やってきたぞ。




完結まで予約投稿完了しました。残るは後少しですが、最後までお付き合いいただけると幸いです
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