負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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168.積み上げて、積み重ねて。

「ッオ、オオオオオオッ!!」

 

 叫びながら、滑走する。空を、まるで地面のように駆けるのだ。これは、とても単純なことだ。この世界の空という概念より、僕という概念のほうが位階が高い。

 だから自由に干渉できる。空は、もはやなにもない空白ではなく、僕が自由に思い描いた道を印す場所だった。

 

 三重概念。本当に次元が違う領域であった。

 あらゆる概念を、思うがままに、強引に捻じ曲げてねじ伏せる。僕の身体スペックは劇的に向上してはいるが、そこまでではない。

 素のスペック自体は、強欲の二重概念とそう変わるものではないだろう。

 

 だが、できることが増えすぎた。あらゆる概念の頂点に立ったことで、それに対しての優位性があまりにも大きすぎるのだ。

 そしてそれは、世界(デウス)も全く同じであるようだった。

 

 前進する僕の目の前の空間が突如として歪む。その歪みは一瞬にして広がって、()()()()()()()()、あらゆる自然現象を、考えられる限りの属性的な攻撃を、一斉に生み出して攻撃してくる。

 

 それを僕は、切断という概念でもって消し飛ばす。どちらも、直接的な三重概念の激突ではない。単なる余波。これの対処は、きっと他のものでもできるだろう。

 だが、()()()()()()ということ自体が、世界という存在が、三重概念という存在が、一つ上の次元にあることを示していた。

 

「っづ、おおお!」

 

 駆けながら、世界の余波を捌きながら思う。

 ――この力は、世界に対して重すぎる。ここが世界という盤上の外でなかったら、三重概念の存在そのものに、世界が耐えられないだろう。

 だから、ここでしかこの力は振るえない。世界も僕も、お互いに。

 

 故に、こそ。

 

 この場所で、僕は、世界は! 思う存分にそれを振るうのだ!

 

「アンタは――間違っている! 世界(デウス)! 誰かに理不尽を強いる世界に、なんの意味がある!!」

 

 答えはない。

 ただ、機械的に概念を吐き出すだけ。火炎だろうが、斬撃だろうが、爆破だろうが、閃光だろうが。全てはその場において、有効であると考える一手であるから打っているにすぎない。

 僕を追い詰めるためだけに、奴はすべての概念を踏み台にする。

 

 僕もまた、それは同様であったが――しかし。

 

 世界のそれは、あまりにも横暴がすぎると思った。

 

「何故そうもがむしゃらに概念を振るう! 概念という根底すら、アンタにとっては手段でしかないのか!?」

 

 返答は、ない。

 だが、たどり着いた。僕が、世界の上段に。

 

 

 ――眼を見張るほど、大きな龍の巨体があった。

 

 

 眼前に、うつろな瞳が、虚空を思わせる顔が広がっていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()。あまりにも近すぎるが故に、顔の奥が見通せない。だが、顔すらも、世界の一部でしかない。

 

 意思は、感じられなかった。

 

 剣を構える。こうなれば、世界(デウス)とて対応しないわけにはいかない。

 こちらに反応するつもりはなかったとしても、世界は僕と敵対する反応はみせているのだから。()()()()()()()をぶつければ、やつも自分の概念を使わざるを得ない。

 

「“D・S・S(ドメイン・スロウ・スラッシュ・)・R(リライジング)”!」

 

 もはや概念の極点と化した僕の一撃は、ドメインの名を冠し始めた。

 しかしそれでも、相手は世界という概念そのものだ。

 

“0101110101011010101110101101”

 

 何かの振動とともに、振り下ろした僕の刃へ、()()が叩きつけられた。

 

「――っ!」

 

 おもわず、息を呑みながら刃に力を込めて、横に吹き飛ぶ。何度か回転し、空中に着地した後、それを見た。

 

 ()()だった。理解はできない。知覚はできない。だが、たしかに間違いなくそこにある。あるとわかるのになにもない。

 なにもないのにたしかに存在する。そんな何かが、僕の目の前で渦巻いていた。

 

 しいて、それを言葉にするなら――

 

「……データ?」

 

 データ。情報と言い換えてもいい。形を持たないが、確かに存在する何かであり、形を持たずとも世界に干渉しうる何かである、とも言えた。

 そもそも世界に干渉するには、概念という手段が必要だ。それは言ってしまえば変換器であり、出力デバイス。元は単なるデータでしかないのだ。それを、形にするために概念が必要であるだけ。

 

 ならば、その大本となる概念ならば、そもそも変換などという無駄な工程は必要ないのでは?

 

 つまり、アレは――

 

 破壊であり、

 

 創造であり、

 

 消失であり、

 

 顕在であった。

 

 もはや頭がパンクしてしまいそうだが、あの()()という攻撃はつまり、それだけで、斬撃すら、火炎すら、爆破すら、閃光すらまかなえてしまう、万能極まりないエネルギーなのだろう。

 

 おそらく、通常の概念で相対すれば、即座にそれを抑える概念が適応され、意味をなくす。

 

 端的に言ってしまえば、世界(デウス)の能力とはつまり――

 

 

 ()()()()

 

 

 やつの直接的な概念は、そのすべてがそういった能力を有するのだろうと、推察できた。

 

「……くそっ!」

 

 そんな情報が、あちこちにばらまかれるのを感じ、僕は距離を取る。アレはだめだ。こちらの三重概念は一人の人間が有する三重概念。世界そのものとは出力が違う。

 それでもなんとか攻撃をぶつけ合うことはできるが、ただぶつけることができる、というだけで、()()()()()以上の意味はない。

 

 飛び回り、情報を切り払いながら、僕は駆ける。

 とにかく追いつかれてはだめだ。切り払ってはいるが、切り捨ててはいない。ただ遠くに追いやっただけで、情報をかき消せてはいないのだ。

 

 故に、データは無限に増えていく。いずれ僕の周囲を、情報という檻が囲むだろう。そうなっては、完全にこちらの詰みになる。

 それだけは、さけなくてはならない。

 

「“D・B・B(ドメイン・ブレイク・バレット・)・W(ライティング)”!」

 

 散弾を放つ。それらの多くはデータによって弾かれるが、いくつかは大きく大きく遠回りをし、龍の体の端に叩きつけられる。

 しかし、ダメージには到底ならないだろう。世界という概念があまりにも強大すぎるがゆえに、一発一発は価値がないのだ。

 

 ある程度以上のダメージを与えなければ、それは弾かれる。防御力が高すぎるというわけだ。

 

「“D・S・S(ドメイン・スロウ・スラッシュ・)・R(リライジング)”!」

 

 虚空へ向かって剣を放つ。迫りくる情報を無敵時間でやり過ごす意味もあるが、この場合はそれだけではない。剣は、空間を切り裂き、そこに()()が残った。

 概念で、刃を空にうみだしたのだ。そしてさらに、()()の概念でそれをうちだす。

 

 ()()を加えて、散弾にすることも忘れない。

 

 ブレイクバレットと同様に、斬撃もやたらめったらにぶっ放し、弾かれようとも、多少を敵に叩きつける。これもまた、弾かれた。

 

 そのまま、僕はデータという脅威から逃げ回りつつ、ひたすらに散弾を敵に叩きつけ、ぶつけ続けた。当てることは容易ではない。そもそも、今もデータは僕を追い詰めつつある。

 

“010101110101010101101010111111”

 

 世界が雄叫びとともにデータを放出し続ける。無限にも思えるそれは、実際に無限に生み出すことができるのだろう。

 なんてったって、この世界を作ったエネルギー源そのものなのだから、こいつは。

 

「だが――!」

 

 まだ、届かない。

 僕はデータに呑まれてはいない。

 

 剣を叩きつけ、足で踏みつけ、概念を囮に、距離をとった。データは機械的にあらゆる概念を飲み込んでいるに過ぎず、誘導は可能だ。

 散弾にもそういった意味合いは多分に含まれる。当てれば概念を消失させるために一瞬でも停滞するし、目まぐるしく変化する戦場で、概念によって起きる破壊は、自分の位置に対する目印にもなった。

 

 今、僕は龍の背を駆けている。

 

 仲間たちとは大いに離れ、ここは一人だ。

 孤独ではある。だが、それを意識している暇はない。今も、四方八方からデータが僕を襲っていた。詰みはあと一手。もはや一刻の猶予もない。

 

 その時だった。

 

 僕の目の前で、データは一瞬動きを止める。まるで何かを考え込むかのように、それは――獲物を前に調理の手段を考えるかのような仕草だった。

 

 もっと言えば――

 

 

 ――投了への手順を、確認しているかのようだった。

 

 

「――ッ!」

 

 直後、データは俊敏に動き出す。その動作は先程とは比べ物にならないほど洗練されていて、切り払い、散弾をぶつけ、概念を囮にしても、緩まなかった。

 

 理解できた。

 

 この状況は詰んでいる。一手ずつ、敗北へとヤツは僕を誘導しているのだ。

 

 

 気がつけば、僕の周囲はすべて、データによって覆われていた。

 

 

「ここまで、か――!」

 

 剣をぶつけ、その感触を確かめる。

 

 データはそこから、少しばかりの停滞を見せる。確認しているのだろう。これで本当に、僕という存在を抹消することができるのか。

 無慈悲にも、品定めをしているのだ。

 

 ああ、本当に――

 

「アンタは、どこまでも合理的で、無慈悲な存在だよ。ここまで来て、油断の一つもしやしない」

 

 そして、僕の言葉に反応するように――しかし、そんな思惑など実際には一切存在せず――ただ、機械的にデータは判断を下した。

 

 僕を滅ぼし、抹消すると。

 

「――だからこそ」

 

 そして、僕は。

 

 

()()()()()()()()()だ!」

 

 

 叫び、そして。

 

 

「“◇・◇(スクエア・スクランブル)”!」

 

 

 切り札を、切る。

 想定の外から、僕は一瞬にしてギアを上げ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、データの群れを切り払った。

 

 

 そう、ここまで僕は追い詰められていたが、布石も打っていた。

 弱体化。デバフ。能力低下。

 

 なんでもかまわないが、本来それは同じ技では重複しない。だが、()()()()であれば話は別だ。そもそも、三重という考え方自体、デバフが重複することからきているのだから。

 

 バグの塊にして、バグの象徴。重なりに重なったデバフは、世界を僕のところに落とすまでに至った。

 

 僕は世界の背にケリを入れて、飛び上がる。

 

 勢いよく、龍の背が吹き飛ばされ、飛び上がった僕に、世界(デウス)は虚無なる瞳を向ける。

 

 そこへ、

 

 

「限界を知って、地に落ちろ! “D・L・L(ドメイン・ルーザーズ・リアトリス)・O(・オリジン)”!」

 

 

 やつの防御を貫くほどの一撃が。

 

 ()()()()()()()()()()()()によってデバフされ続けてきた防御を貫く一撃が。

 

 

 世界の眼前に、叩きつけられた。

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