「ッオ、オオオオオオッ!!」
叫びながら、滑走する。空を、まるで地面のように駆けるのだ。これは、とても単純なことだ。この世界の空という概念より、僕という概念のほうが位階が高い。
だから自由に干渉できる。空は、もはやなにもない空白ではなく、僕が自由に思い描いた道を印す場所だった。
三重概念。本当に次元が違う領域であった。
あらゆる概念を、思うがままに、強引に捻じ曲げてねじ伏せる。僕の身体スペックは劇的に向上してはいるが、そこまでではない。
素のスペック自体は、強欲の二重概念とそう変わるものではないだろう。
だが、できることが増えすぎた。あらゆる概念の頂点に立ったことで、それに対しての優位性があまりにも大きすぎるのだ。
そしてそれは、
前進する僕の目の前の空間が突如として歪む。その歪みは一瞬にして広がって、
それを僕は、切断という概念でもって消し飛ばす。どちらも、直接的な三重概念の激突ではない。単なる余波。これの対処は、きっと他のものでもできるだろう。
だが、
「っづ、おおお!」
駆けながら、世界の余波を捌きながら思う。
――この力は、世界に対して重すぎる。ここが世界という盤上の外でなかったら、三重概念の存在そのものに、世界が耐えられないだろう。
だから、ここでしかこの力は振るえない。世界も僕も、お互いに。
故に、こそ。
この場所で、僕は、世界は! 思う存分にそれを振るうのだ!
「アンタは――間違っている!
答えはない。
ただ、機械的に概念を吐き出すだけ。火炎だろうが、斬撃だろうが、爆破だろうが、閃光だろうが。全てはその場において、有効であると考える一手であるから打っているにすぎない。
僕を追い詰めるためだけに、奴はすべての概念を踏み台にする。
僕もまた、それは同様であったが――しかし。
世界のそれは、あまりにも横暴がすぎると思った。
「何故そうもがむしゃらに概念を振るう! 概念という根底すら、アンタにとっては手段でしかないのか!?」
返答は、ない。
だが、たどり着いた。僕が、世界の上段に。
――眼を見張るほど、大きな龍の巨体があった。
眼前に、うつろな瞳が、虚空を思わせる顔が広がっていて、
意思は、感じられなかった。
剣を構える。こうなれば、
こちらに反応するつもりはなかったとしても、世界は僕と敵対する反応はみせているのだから。
「“
もはや概念の極点と化した僕の一撃は、ドメインの名を冠し始めた。
しかしそれでも、相手は世界という概念そのものだ。
“0101110101011010101110101101”
何かの振動とともに、振り下ろした僕の刃へ、
「――っ!」
おもわず、息を呑みながら刃に力を込めて、横に吹き飛ぶ。何度か回転し、空中に着地した後、それを見た。
なにもないのにたしかに存在する。そんな何かが、僕の目の前で渦巻いていた。
しいて、それを言葉にするなら――
「……データ?」
データ。情報と言い換えてもいい。形を持たないが、確かに存在する何かであり、形を持たずとも世界に干渉しうる何かである、とも言えた。
そもそも世界に干渉するには、概念という手段が必要だ。それは言ってしまえば変換器であり、出力デバイス。元は単なるデータでしかないのだ。それを、形にするために概念が必要であるだけ。
ならば、その大本となる概念ならば、そもそも変換などという無駄な工程は必要ないのでは?
つまり、アレは――
破壊であり、
創造であり、
消失であり、
顕在であった。
もはや頭がパンクしてしまいそうだが、あの
おそらく、通常の概念で相対すれば、即座にそれを抑える概念が適応され、意味をなくす。
端的に言ってしまえば、
やつの直接的な概念は、そのすべてがそういった能力を有するのだろうと、推察できた。
「……くそっ!」
そんな情報が、あちこちにばらまかれるのを感じ、僕は距離を取る。アレはだめだ。こちらの三重概念は一人の人間が有する三重概念。世界そのものとは出力が違う。
それでもなんとか攻撃をぶつけ合うことはできるが、ただぶつけることができる、というだけで、
飛び回り、情報を切り払いながら、僕は駆ける。
とにかく追いつかれてはだめだ。切り払ってはいるが、切り捨ててはいない。ただ遠くに追いやっただけで、情報をかき消せてはいないのだ。
故に、データは無限に増えていく。いずれ僕の周囲を、情報という檻が囲むだろう。そうなっては、完全にこちらの詰みになる。
それだけは、さけなくてはならない。
「“
散弾を放つ。それらの多くはデータによって弾かれるが、いくつかは大きく大きく遠回りをし、龍の体の端に叩きつけられる。
しかし、ダメージには到底ならないだろう。世界という概念があまりにも強大すぎるがゆえに、一発一発は価値がないのだ。
ある程度以上のダメージを与えなければ、それは弾かれる。防御力が高すぎるというわけだ。
「“
虚空へ向かって剣を放つ。迫りくる情報を無敵時間でやり過ごす意味もあるが、この場合はそれだけではない。剣は、空間を切り裂き、そこに
概念で、刃を空にうみだしたのだ。そしてさらに、
ブレイクバレットと同様に、斬撃もやたらめったらにぶっ放し、弾かれようとも、多少を敵に叩きつける。これもまた、弾かれた。
そのまま、僕はデータという脅威から逃げ回りつつ、ひたすらに散弾を敵に叩きつけ、ぶつけ続けた。当てることは容易ではない。そもそも、今もデータは僕を追い詰めつつある。
“010101110101010101101010111111”
世界が雄叫びとともにデータを放出し続ける。無限にも思えるそれは、実際に無限に生み出すことができるのだろう。
なんてったって、この世界を作ったエネルギー源そのものなのだから、こいつは。
「だが――!」
まだ、届かない。
僕はデータに呑まれてはいない。
剣を叩きつけ、足で踏みつけ、概念を囮に、距離をとった。データは機械的にあらゆる概念を飲み込んでいるに過ぎず、誘導は可能だ。
散弾にもそういった意味合いは多分に含まれる。当てれば概念を消失させるために一瞬でも停滞するし、目まぐるしく変化する戦場で、概念によって起きる破壊は、自分の位置に対する目印にもなった。
今、僕は龍の背を駆けている。
仲間たちとは大いに離れ、ここは一人だ。
孤独ではある。だが、それを意識している暇はない。今も、四方八方からデータが僕を襲っていた。詰みはあと一手。もはや一刻の猶予もない。
その時だった。
僕の目の前で、データは一瞬動きを止める。まるで何かを考え込むかのように、それは――獲物を前に調理の手段を考えるかのような仕草だった。
もっと言えば――
――投了への手順を、確認しているかのようだった。
「――ッ!」
直後、データは俊敏に動き出す。その動作は先程とは比べ物にならないほど洗練されていて、切り払い、散弾をぶつけ、概念を囮にしても、緩まなかった。
理解できた。
この状況は詰んでいる。一手ずつ、敗北へとヤツは僕を誘導しているのだ。
気がつけば、僕の周囲はすべて、データによって覆われていた。
「ここまで、か――!」
剣をぶつけ、その感触を確かめる。
データはそこから、少しばかりの停滞を見せる。確認しているのだろう。これで本当に、僕という存在を抹消することができるのか。
無慈悲にも、品定めをしているのだ。
ああ、本当に――
「アンタは、どこまでも合理的で、無慈悲な存在だよ。ここまで来て、油断の一つもしやしない」
そして、僕の言葉に反応するように――しかし、そんな思惑など実際には一切存在せず――ただ、機械的にデータは判断を下した。
僕を滅ぼし、抹消すると。
「――だからこそ」
そして、僕は。
「
叫び、そして。
「“
切り札を、切る。
想定の外から、僕は一瞬にしてギアを上げ。
そう、ここまで僕は追い詰められていたが、布石も打っていた。
弱体化。デバフ。能力低下。
なんでもかまわないが、本来それは同じ技では重複しない。だが、
バグの塊にして、バグの象徴。重なりに重なったデバフは、世界を僕のところに落とすまでに至った。
僕は世界の背にケリを入れて、飛び上がる。
勢いよく、龍の背が吹き飛ばされ、飛び上がった僕に、
そこへ、
「限界を知って、地に落ちろ! “
やつの防御を貫くほどの一撃が。
世界の眼前に、叩きつけられた。