負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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24.Rain Reincarnation

「――“S・S”!」

 

 一閃。

 僕の刃が、すでに弱っていた暴食兵を切り捨てる。残るは19体。

 もはやことここに至っては躊躇などしていられない。僕は即座に続けて暴食兵へと斬りかかる。後方から迫る、紫の稲光の存在を感じながら。

 

「“G・G”!」

 

「――“P・P(フォトン・プラズマ)!」

 

 

 ――師匠が、光すら置き去りにするほどの速度で、暴食兵に()()した。

 

 たまらずのけぞった暴食兵に、僕が上段から、師匠が下段から斬りかかる

 三度、一閃。

 

 二匹の暴食兵が、一瞬にして消え失せた。

 残るは、十八体。

 

「どうなっているんだこれは!? 暴食兵が二十はいたか!? 何の冗談だ!」

 

「冗談どころか、暴食龍すらいたんですよ! 笑うに笑えない状況です!」

 

「だあもう! 本気でやるしかないな!」

 

 ――師匠が間に合った。

 空は完全に沈黙し、もはや敵は目の前の暴食兵を残すのみ。状況が多少好転した上で、二体を不意を打つ形で葬ることができた。ここまでは順調。

 ここまでが、順調。

 

 ――ここからは、地獄だ。

 

「ルエ殿!? 何だアレは――暴食龍なのか!? 暴食龍とはアレほどまでに一度に増殖するものなのか!」

 

 シェルが焦りに満ちた顔で問いかけてくる。暴食兵の存在を知らなければ、あれは暴食龍が突如として自分を餌に倍々ゲームを披露したようにしか見えない。

 ミルカもリリスも、流石にこの状況には困惑していた。

 

「アレは暴食兵と言ってね、簡単に言えば増殖を繰り返しすぎて、知性を失った暴食龍だよ!」

 

「知性がない分、厄介さは減りますが、代わりにあのように数の暴力で攻めてくるわけです」

 

 ――とはいえ、少し数を減らしたが、更に暴食兵同士を共食いして数を増やす様子はない。おそらく、ああして暴食兵を爆発的に増やす戦法は、暴食龍本体がいなければつかえないのだろう。

 実際、ゲームではそういった描写はなかったが、暴食龍と戦うことになるマップには大量の暴食兵が存在した。おそらくは、あれらもああやって作ったんだろう。直接対決では罠にはめて一体ずつの撃破という形になったため、分裂まではしなかったが。

 

 正確には、余力のある暴食龍を食べれば増える、か。ゲームのときは余力なかったからな。

 

「あの暴力的な一撃を、これだけの数捌き切るのは無茶よ!?」

 

「……できない、とはいいたくないけどな」

 

 ミルカの叫びに、苦々しい声を上げるシェル。僕や師匠なら、これだけの数を相手にして生き残ることはできるだろう。リリスも高い回復能力を持つ、継続戦闘能力は高い。

 それを言えば、シェルとミルカも高い生存性と回復能力を持つが、位階の差というのはやはりある。僕がほぼ初期レベルで強欲龍と戦えたのは、それ以外の部分で戦ったからにすぎないわけで。

 

「言ってる暇はない、来るぞ!」

 

「師匠は遊撃をお願いします! 僕とシェルで正面を!」

 

「ああ、それで!」

 

 ――いいながら、師匠が暴食兵の中へと突っ込んでいった。無茶だ、と思わなくはない、だが、彼女にそれができないなら僕たちは全員死ぬだけなのだ。

 

「“T・T”!」

 

 開幕は師匠の紫電、一体に突き刺し、そのまま素通りにさせる。それと同時に師匠は飛び上がり、師匠を狙う二匹の暴食兵の攻撃を回避。

 さらに攻撃を叩き込んでいくが、それを見送っている暇はない!

 

「来るぞ!」

 

 突っ込んできた紫電をまとう暴食兵、翼をがむしゃらに振るうそれを、僕は剣で弾く。そこへ

 

「“H・H(ヘイト・ハンティング)”!」

 

 シェルが攻撃を誘導した。そちらへ向いた攻撃を二度、三度弾く。それ自体にムリはない、先程まで暴食龍相手にやっていたのだ、単調な攻撃しかしない暴食兵と比べれば、難度もかなり低いだろう。

 一体だけなら、の話だが。

 

 ――続けざまに、二体目と三体目が襲ってくる。

 

「……! “S・S”!」

 

 反撃、とにかく速度を下げることが第一だ。SSが入っている、いないでもかなり動きのキレが違う。コンボを織り交ぜながら、SSを二体に叩き込み、僕は振り返り。

 

「シェルが持ちこたえてるやつを順番に潰す!」

 

「はいなの!」

 

 そして迫る四匹目を身を捻って飛びながら回避し、その顔面に足を乗せると。

 

「“D・D”!」

 

 加速を得て、シェルの元へ突っ込む。

 一瞬、師匠の方を見た。師匠は前線で、適度に暴食兵を撫でるように攻撃しつつ、その意識を自分に向けながら移動している。狭い道の通路だ。ひしめくように存在する暴食兵、明らかに囲まれるのがオチにも思えるが、師匠はそこを強引に解決していた。

 

「“E・E”!」

 

 僕の加速とほぼ同時に、師匠が()()()()()飛び跳ねる。師匠の戦闘は三次元を飛び交っていた。それを見届けてから、僕も暴食兵へ切りかかった。

 

「“A・A”! “C・C”! “A・A”! “D・D”! ――“P・P(ペイン・プロテクション)”!!」

 

 高速で連撃を叩き込み、爆発にのけぞる暴食兵から距離をとって、一気に上位技を叩き込む。そこへ、他の三人も――!

 

「この……消えろ!! “T・T(タウント・タイラント)”!」

 

 シェルが数少ない攻撃技を、他の二人もそれぞれ概念技などで攻撃し、暴食兵が一体倒れる。残り十七体。ここまで、リリスがうまくバフを入れてくれたおかげで、なんとか一体はスムーズに処理できた。

 だが――

 

「……避けろ!」

 

 着地した僕に、シェルが叫ぶ。解っている、僕が攻撃を与えた二体が、こちらを狙っているのだ。

 

「構わないで! 僕を狙ってないやつを!」

 

「くっ……“H・H”!」

 

 ここまでこちらに流れてきたのは四体。僕を狙っていないのは一体だけで、そいつのヘイトをシェルが受け持つ。そして、僕は僕で、

 

「“G・G”!」

 

 一体目の攻撃を無敵時間で捌いて、二体目にGGを叩き込む。SSの上位技であるGGには更に強力な速度低下効果がある。それ故に、一瞬だけ()()()、全てが。

 そこを、僕は強引に身を捻って

 

「う、おおおお! “D・D”!」

 

 強引に、翼の横薙ぎを避けながら、地面を滑るように駆け抜ける。若干浮かんでいる翼竜の下をすり抜けた。

 ――間一髪。そのまま振り返って、PPからDDへとつなぐ。

 

 そうして、何度か剣戟を繰り返す。いい加減STも限界気味だ、通常攻撃を織り交ぜながらなのでコンボがつながらない。しかし、大きなコンボを叩き込もうにもSSやAAの無敵時間を使わないと回避できない攻撃が多く、それを無視すると今度はノックバックなどが厳しい。

 なんとかある程度まで二体のHPを削ったが、そこで変化が起きた。

 

 更に追加で、暴食兵が迫ってくる。数は3!

 

 そいつらが、僕たちの上を通り過ぎようとしてくる。そもそも暴食兵は飛行できないのだ。浮いているように見えるが、それはあくまで浮いているだけで、飛んだりはしない。物理法則を無視しているのは、まぁ今更だ。

 だから、やつらは僕たちが戦っている暴食兵、そして僕たちの上を飛び越えようとしてくる。

 

 僕たちだけならば、それは無視しても問題はないだろう。だが、この先には僕たちが守らなければならない人がいる。

 

「リリス!」

 

 叫びながら、僕は相対していた暴食兵のうち一体を踏みつけて、飛び上がる。そこで、剣を振りかぶり――

 

「“S・S”」

 

 やたらめったらに概念技を振り回した。

 通常攻撃を織り交ぜると、更に暴食兵の視線がこちらに向く。僕はそのうち一体を蹴って地面に向かって更にはねた。

 なんとか、転がりながら起き上がる。そこに、五体の暴食兵が迫っていた――

 

「……く、おおお!!」

 

 それを迎え撃つ。密度の上がった攻撃は、僕の身体を痛めつけていく。リリスに回復してもらっても、全然足りない、回復も、回避も、防御も追いつかない!

 

「……ご、ごめんなさい、おまたせ! “S・S(スワイプ・シュート)”!」

 

 ――そこに、ミルカの射撃が、戦場を切り裂き突き刺さる。

 ああ、それは――寸分違わず僕が最も弱らせていた暴食兵に叩きつけられ、その身体が動かなくなる。残るは四体。全体は十六体。

 

「一体寄越せ! “H・H”!」

 

 そこを、シェルがさらに一体を引き受け、こちらは三体だ。とはいえ、僕のHPはかなりギリギリで、シェルの方も二体はかなりきついはずだが――

 

「年下に、多くを任せていいと思ってんのかよ、俺――!」

 

 叫び、シェルは二体をうまく交互にさばく。かなりギリギリだが、捌ききれている。いや、ダメだ、微妙に攻撃が身体を掠めている!

 

「――それを言ったら師匠に一番任せてる方がどうかと思いますよ!」

 

「彼女は紫電のルエですから! 回復します!」

 

「皆無理してるの! 皆ムリしてるのーーーーっ!」

 

 ミルカとリリスが、僕らに絶え間なく回復を飛ばす。僕は多少後退し、三体をシェルの方へと引き寄せる。確かに一人で三体は無茶だ。

 だから、二人で五体を受け持つ形に変える。

 

「ガッ、“G・G”!」

 

「“T・T”!」

 

 リリスとミルカのバフを受けながら、僕は暴食兵を弾き飛ばし、後方の暴食兵をCCで発破し足止めする。その間にシェルが二体の攻撃を受け止める。それぞれを押し返すと、最後に迫ってくるのはもう一体。

 

「そこだ――! “A・A”!」

 

 コンボをつなげ、そいつを叩く。同時にミルカも後方から攻撃、リリスはバフ。僕が更にもう一度攻撃を加えたところで、

 

「落ちろ――! “T・T”!」

 

「終いだ! “G・G”!」

 

 ――僕とシェルの攻撃技が、暴食兵に突き刺さった!

 その体が崩れ落ちる。残り四体、全体は十五!

 

「うおおおお――――! すまん、もう一体そっちに行く!」

 

「ちょうどこっちが受け持てて、丁度いいくらいですよ!」

 

 師匠は、先程から縦横無尽に駆け回り、多くの暴食兵を釘付けにしている。とはいえそれは、狭い道の中で、こちらのことを気にせずに生き残ることを優先しているからできることだ。

 もしここで、一体でも数を減らそうとか、こちらへの進行を阻害しようと思えば、師匠でも間違いなく瓦解するだろう。

 

 だから、わざわざ謝る必要はない。しかし――

 

「……このままじゃ、厳しいか」

 

 まだこちらにやってこない一体を前に、僕らは暴食兵四体を正面から受け止めながら、つぶやく。終わりが見えない、どれだけ倒しても次がやってくる。

 絶望的な状況だ。向こうで暴れまわっている師匠の方を見る度に気が滅入りそうになる。

 本当にどうしようもなくて、どうにもならない状況で、だからこそ僕は()()を思い出す。

 

「そんなに絶望的かい、敗因の」

 

「いえ、ちょっと懐かしいというか……いや、なんて言えばいいんでしょうね」

 

 迫りくる暴食兵。

 隣に立つシェルとミルカ。

 倒しても倒してもきりがない、そんな状況に僕は覚えがあった。

 

「別に絶望はしていませんよ。ちょっと大変ですけど、このくらいなら、強欲龍と戦った時に比べればまだまだ」

 

「……強欲龍は、強かったかい?」

 

「ええ」

 

 未だに、なんで生き残れたのか、勝ったのかわからないくらい。それでも、僕は勝って生き残っている。今回だって、それは同じことだ。

 ただ、思い出すのはある意味それと同じ理由。

 

 ――結局あの負けイベントも、最後まで勝つことができなかったな。

 

 そう思って、少しだけ。

 ――少しだけ、悲しくなった。けれどもそれは、僕を前にすすめるための、油のようなものだ。

 

「シェル、僕はなんとしてもこいつらに勝ちたい。方法は、ある」

 

「……彼女だね」

 

 新たに加わった五体目に、二人がかりでカウンターを叩き込みつつ、僕らはちらっと後ろを見た。先程の会話を聞いていたのだろう、シェルは僕の秘策を理解していた。

 僕の、というか。

 僕らの、だが。

 

「本当なら、使わずに勝てるのが一番なんだろうけど……流石にこれ以上、リリスを心配させたくない」

 

「いや解るよ、俺もミルカに、こんな危ない戦いを見守らせたくはない」

 

 思い返してみれば、この村を守りたいという思いは、僕はリリスから生まれたものだ。

 もちろん、負けイベントに勝ちたいというのは一番だが、今回は防衛戦で、背後には僕らが守るべき人々がいる。僕にとって、彼らは縁の遠い人々で、言い方は悪いが思い入れの薄い人達だ。

 だとしても、僕らにとって、彼らが一人でも死ぬことはこの防衛戦の失敗を意味するし、現に僕らはここまで一匹たりとも敵を通してはいない。

 

 暴食兵の攻撃がどれだけ厳しくとも、それは変わらない。その根源にあるのは、リリスなのだ。リリスが守りたいと思うから、僕はそれに力を貸したいと思う。

 でも、リリスにしたって、僕との付き合いは短くて。

 

 いや、だからこそ――

 

『――リリス、お母さんに生き方を教わったの』

 

『お母さんね、負けたくないから生きるんだって』

 

 僕は、そうだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「暴食龍はもういない。自分が生み出した兵に食われて死んで、逃げ出した」

 

 だから、

 

「――()()()()()()()()()。リリスと、ミルカ。彼女たちがいればそれを試せる」

 

「それで、俺たちは勝てるのか?」

 

「――――勝つのさ」

 

 握る剣に力を込めて。

 振るう刃で、暴食兵をはねのける。

 

 HPは限界だ、ミルカとリリスの回復が追いついていない。迫りくる五体を押し返すことで精一杯で、敵のHP管理はできているともいい難い。大技でなんとか削りきろうにも、コンボを繋ぐSTにすら余裕がないのだ。

 はっきり言おう、詰んでいた。

 

 ――暴食兵が、拮抗する僕とシェルを踏み越えて、先に進もうとする。それをなんとかCCの爆発で押し留めたところを、ミルカが射撃で押し返す。

 更に迫りくるそれを、今度はリリスが強引に前に出て、飛び上がり、僕の頭上で手にした概念武器を振るった。

 

 ――限界は近い。

 二人が回復に専念することすらできなくなっている。

 

 ここで、撃てる手は二つあった。

 一つは玉砕覚悟の特攻。僕が強引に前に出て、師匠のように敵を引きつける形で、五体の殲滅を図る。勝率としては非常に低いが、普通にやるにはコレしかないだろう。

 

 僕らが前に出れない理由は後ろに守るべき人がいるからで、勝とうと思うなら、強引に前に出るしかない。そのための最も単純な手段が、守りを薄くして打って出ることだ。

 シェルに防衛を全て任せて攻勢にでる。ここを切り抜けるにはそれしかない。

 だが、コレには問題が多い。僕はこれまで敵のHP管理はしてきているつもりだが、正直な所乱戦すぎて、だいぶあやふやだ。もし、一つでも計算を間違えていたら? 間違いなく、そいつはこの守りを突破するだろう。

 

 とにかく勝率が低い。負けイベントであるのだから当然だが、しかしもう一つ手があった。

 ――もう一つの手は、勝算が非常に高かった。

 

 しかし、それを使うということは、ある意味この状況では負けを意味する。強欲龍のときとは違うのだ。こいつらを倒せたとしても、手に入るのは一時の平和だけ。

 

 世界を変えるには至らない。

 

 そう、その方法。それは――

 

 

 ◆

 

 

 ――シスター・リリス。

 美貌のリリスのことを、僕はゲームのころから知っていた。ゲームにおける彼女は、その概念に恥じない美貌と、突飛すぎる行動が特徴的な、言ってしまえばネタキャラだった。

 ドメインシリーズでは、エンディングにそのキャラのその後が表示されるのだが、彼女を仲間にして迎えたエンディングで表示される彼女のその後はあまりにもひどすぎて、今でもネタ……伝説になっているほどだ。

 

 とはいえ、僕がゲームで知っている彼女は、そういったネタ的な部分だけだった。

 当たり前だ、隠しキャラである彼女はシリアスな本筋には絡まず、自分のサイドであるネタ的なイベントでしか発言しない。真面目な側面が彼女にあったとしても、僕たちはそれを知る機会はないのだ。

 

 この世界にやってきて、初めて見た彼女の印象も、そんなネタキャラの印象とさほど変わるものではなかった。

 初代当時よりも更に幼くなり、アホっぽさ……もといお気楽さが増した彼女は、明るくて可愛らしい、シリアスとは無縁の存在だった。

 

 僕は、そんな彼女の異質さが好きだった。

 

 二作目以降のドメインシリーズは、人類の滅亡という危機から脱し、強大な敵も、壮大な陰謀も、ひとまずは世界規模ではなくなった。

 そのため、比較的明るいキャラや、ネタキャラと呼ばれる存在がメインに出張って目立つこともそこそこあった。エクスタシア自体が、基本的にはネタキャラ一歩手前な立ち位置なのも、それを加速させる。

 

 しかし、初代やルーザーズの時代はそうではない。

 人類は滅亡の危機にあり、死は日常と隣り合わせだ。エクスタシアも、色ボケではあるが、妖艶な大罪龍という立ち位置を崩していない。隣に立つものが、理念のゴーシュであることも大きいだろうが。

 

 そんな中で、リリスだけは、底抜けに明るくて、どこか暗さの残る初代の時代とは無縁だと思っていた。

 

 ――現実で彼女と相対して、それは間違いであることを僕は知ったのだ。

 

 ともに生きる彼女は、たしかにボケボケで、お気楽ではあったが、決して頭が回らないわけではない。むしろ、理解力や頭の回転は早いほうだろう。

 それを伝える力が欠如しているだけなのだ。

 

 更に、女子力が高い。師匠の最低限しかないボーダーライン女子力と比べて、彼女のそれは最高峰とすら言えるもので、本当に立派だ。

 幼いながらも、しっかりしている。それがこの世界にやってきてリリスに抱いた印象だった。

 

 それは、すなわちリリスもまたこの世界に生きる人間であることを示している。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――先程、暴食龍への突撃を敢行する際、少しだけ僕はリリスと話をした。

 

『少し気になったのだけど、君のお母さんはどうしてそんなにも、生きようとしたんだ?』

 

『ん――』

 

 そんな僕の言葉に、リリスははっきりといったのだ。

 

 

()()()()()()()()だって』

 

 

 ああ、解る。

 解ってしまう。

 彼女の母の気持ちが。周囲に見下され、屈辱の中で、それをひっくり返してやろうという気持ち。敗北を勝利に変えることへの達成感。

 そう――

 

 

 リリスの母は、()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 結局。

 だからつまり、リリスのために勝ちたいという僕の意思は、ここに帰結するのだろう。

 

 

「――――リリス!」

 

「……はいなの!」

 

「勝とう、勝って、こいつらに叩きつけてやろう! 地のそこから、世界全てをひっくり返すように、敗北という地獄から、勝利という天蓋を、ぶち破って駆け上がるように!」

 

 ――――()()()()()()()()()()()

 

 いつだって、僕の根底は変わらない。

 

 今回も、誰かのためとか、自分のためとか、そんなことは関係ない。僕がここにいる理由は一つだけ。あのくそったれな暴食龍に、ありえないという思いを叩きつけてやるため。

 

 

「リリスの願いが、世界に届くって言うのなら! リリスがお母さんみたいに、最期は笑顔で勝ち誇れるなら!」

 

 

 ――リリスの母が、魔物の群れを生き延びた方法。

 思い返してみれば、それはあまりにも当然の手段だった。ただ、()()()()()()()()()()()()()だけだ。ここは現実であり、ゲーム。

 飛べないのに浮かんでいる暴食兵のように、ゲームとしての法則が優先される場所もあれば、現実として、()()()()()()()()()()()()()()()()()場合もある。

 

 

「リリスの思いは、貴方に届け――!」

 

 

 ()()()()()は、かくして。

 

 

「“R・R(レイン・リインカーネーション)”!」

 

 

 高らかに、広がった。

 

 それこそは、()()()()()()()()()()()()()()。魔物の群れの中に放り込まれたリリスの母が生還した、あまりにも単純な理由。

 そして、この場における、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、切り札だった。


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