負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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28.嫉妬龍はわからない。

 ――嫉妬龍は弱い。

 はっきり言って、僕が今ここでタイマンで勝負しても、勝率は五分五分だろう。ぶっちゃけ、嫉妬龍に話をした際のそれは、あちらに配慮して逆サバを読んでいた。もちろん、僕がレベル以上の戦闘能力を持っているというのもあるが、同時に嫉妬龍の実力がその程度であるということでもある。

 少なくとも、師匠、僕、リリスの三人に囲まれれば、嫉妬龍はかなり一方的な戦闘の末に敗北することになる。

 

 実を言うと、これは二作目、クロスオーバードメインにおいても変わらない、ルーザーズから二作目までの間に、百年以上の時間が経っていることは前にも話したと思うが、その間に大罪龍の強さに変化はないのだ。

 というか、そもそも()()()()()()()という存在が、強欲龍以外に存在しない。強欲龍は3において封印から解かれた後、ある成長を見せるわけだが、他は基本的に一切の変化がないまま存在する。

 嫉妬龍も例外ではなく、彼女は今も昔もこれからも、ずっと弱いままだ。

 

 で、そんな中、人類の在り方は変化する。人類の多くが概念使いとなり、今と違い、人類側に余裕がでてきた――もっと言えば、人類が大陸の覇権を握った頃。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかも、嫉妬龍は基本的に怠惰龍ほどではないが引きこもりで、積極性が薄い。隠れることも、逃げることもしない彼女は、強大になった人類にとっては、あまりにも格好の餌だったのだ。

 

 ここではっきりさせておこう、二作目における嫉妬龍の序盤、中盤における役割は()()()である。彼女は黒幕でもなんでもなく、その力を利用されたに過ぎないのだ。

 

 ――二作目における、物語の始まりは、現在僕が関わっている国、ラインが帝国と共和国の二つに分裂し、内紛を繰り広げることである。

 その結果、嫉妬龍はどうなったのか。

 

 それは――――

 

 

 ◆

 

 

「……ちょっと! あんまり顔出さないでよ!」

 

「そっちこそ、静かにしててください……」

 

 そろそろと、お互い息を殺しながら、曲がり角の先を覗き込む。僕が前、後ろから龍形態の嫉妬龍。なんというか、こう、身体を密着させているわけだけど、やわらかい部分が当たる前に、龍の硬い部分が当たる。

 こいつ、解っててやってやがるな!?

 

「っていうか、痛い、痛いです。嫉妬龍は後方を警戒しててください」

 

「女の子が身を寄せてるのにその感想はありえないわ。ぶっとばすわよ」

 

「その形態で女扱いを求めるな」

 

 辛辣に言い合いながらも、現在は割とやばい状態だ。素直に嫉妬龍が後ろの警戒に入るくらい。具体的に言うと、先程こちらに来る前に、割とギリギリな感じで魔物をやり過ごしているのだが、前方にも魔物。完全に挟まれている状態だ。

 

「お、音がするわ……近い、さっきより近いわよ……!」

 

「……さて、どうしますか? 選択肢は前に進むか、後ろに戻るか、天井にでもぶら下がって祈るか」

 

「後ろは無し。天井って、実際どうなの?」

 

 上を見上げる。

 やろうと思えば天井の一部に穴を開けて、そこに引っかかることはできるだろう。しかし、そうするということは音を立てなきゃいけない感じだ。

 

「……前に進むしかない、か」

 

 嫉妬龍も釣られて見上げて、理解したようだ。

 

「倒すのは難しいですね、あのレベルの相手だと、上位技を何発か叩き込みたい……時間にして三十秒くらいでしょうか」

 

「概念使いって、いちいち大きい火力出すのに何度も攻撃しないといけなくて、大変よね」

 

「そこの駆け引きも楽しみの一つですけどね」

 

 二人でそうやって話をしながら、少し考える。倒すことが難しいなら、無視して先に進む? それこそ厳しいだろう。どんどんトレインする結果になるのが目に見えている。

 だったら、やはり倒すしかない。難しいが、殺らなければ道が開けないのならしょうがない。

 幸い、こっちは通常と違う手札がある。

 

 嫉妬龍。そして、彼女の能力は僕と相性がいい。

 

「嫉妬龍、あなた相手の防御力を下げる技、ありますよね」

 

「ん? ええ、あるけど、それが?」

 

「それを使ってですね……こう、こうして……」

 

 軽く二人で打ち合わせをする。普通にやると、二人がかりでも三十秒かかるだろう敵を、迅速に、かつ音を立てずに倒す。

 手段は、まぁ薄い選択肢だが、一応あった。

 

 具体的には……連携だ。

 

「――いきましょう」

 

「……しょうがないわね!」

 

 僕たちは、二人で魔物が背を向けているタイミングに、足音をころして接近する。距離はそこまでではない、一気に近づけば、案外気が付かないものだ。

 

「“B・B”」

 

 まずは僕の防御低下。

 これに敵がヒットすれば、当然魔物はそれに気がつく。相手になるのはサンドバイク、砂の二輪歩行が、前足を上げながら振り返る。

 そこを、

 

「“D・D”」

 

 僕は振り返るのとは反対の方向を一気に滑り抜ける。

 振り返ると同時に――

 

「“塊根ノ展開(アンダーグラウンド・スタンプ)”」

 

 飛び上がった嫉妬龍が、足技でサンドバイクの口……口? ヘッドライトを踏み潰す。一応、音は此処から漏れているから口なのだろう。

 ――音を出さずに戦う方法。もっとも単純な方法が、口をふさぐことだ。

 嫉妬龍の一撃はボスらしく範囲が広いので、強引に敵を押しつぶす事ができる。

 

「“S・S”ッ」

 

「“後悔ノ重複”ッ」

 

 そこへ、二重の速度低下。サンドバイクはそのスピードが通常時の半分以下にまで低下した。後は、音を極力立たせないように、袋叩きにするだけだ。

 

「せいっ」

 

 嫉妬龍が爪を突き立てると、敵は崩れ落ちていった。そして、周囲に静寂が戻る。耳をすますが、その静寂に変化はなかった。

 

「……よしっ」

 

「やりましたね」

 

 二人で軽くガッツポーズをすると、それからすぐに場所を移すのだった。

 

 

 ◆

 

 

 それから、しばらく探索を続けながら、僕はマッピングをしていた。遺跡内部は入り組んでいるが、そこまで複雑な構造はしていない。ただ、魔物に鉢合わせてしまうのがまずいだけ。

 ある程度マッピングしてしまえば、そこまで敵と出くわすことなく進むことができるようになっていた。

 

「……よし、おおよそ道がわかりましたよ」

 

「やったじゃない! 見せてよ!」

 

 はいどうぞ、と手渡す。まだ埋めていないところはあるが、埋めていない部分はおおよそ別の場所に繋がっているのが想像できる範囲であり、僕らがまだ行っていない場所は二箇所である。

 

「えーと、この先の分かれ道はまだ行ってないのね。さっきちらっとみて帰ってきたけど」

 

「そうですね、分かれ道が次のエリアへすすめる場所だと思います」

 

 ――なぜすぐに帰ってきたかと言えば、僕がその場所に見覚えがあったからだ。ゲームにおいて、この分かれ道が登場したことを僕は覚えている。

 なぜならそこでイベントが起きたから。

 

 で、左に進むとラスボス――嫉妬龍の元へ。右に進むと一旦外に出ることのできるショートカットへすすめる。とりあえず僕たちの目的地は、まずは右だな。

 嫉妬龍を外に返さなくては。

 

「少し休んだら行きましょうか。……にしてもここ、本当に何なのかしらね」

 

 自分も知らないうちに謎の遺跡が存在していたことに、嫉妬龍はぽつりとこぼす。ふむ、と少し考えて――

 

「……傲慢龍側に話さないのでしたら、お教えしますよ?」

 

「は? なんでアンタが知ってるのよ」

 

 剣呑な眼で見られた。

 

「いやいや、そもそも僕がここに来るためにしたことに、貴方を巻き込んだんじゃないですか」

 

「あ、ああそっか、そういえばそうだったわね……」

 

「まぁ、安心してください。これだけ正確にマップがあって、あの分かれ道も見つけたから、もうすぐ帰れますよ」

 

「ほんとに何者なのよ、あんた……」

 

 それで、と僕は問いかけ直す。

 これから話すことは、あまり敵に知られたくない情報だ。嫉妬龍は、それを別に構わないと了承した。ただし、拷問されたら即ゲロる、とも回答を頂いた。

 そりゃそうだ。

 

「ここは遺跡……大罪龍が生まれるよりも前、いえ――人類が生まれるよりも前に作られた施設です」

 

「…………はぁ?」

 

 とりあえず、分かれ道に魔物は現れないのでそこまで移動しようということになった。

 道すがら、警戒はしつつも話を続ける。

 

「はるか昔、人類が作られるよりも前、遺跡はその準備段階に用意されました」

 

「……待って、それって」

 

 

「はい、()()()()()()()()()()()()作られたのです」

 

 

「――――」

 

 嫉妬龍が沈黙した。彼女は何かを言いたげで、しかしそれを畏れているように思える。そりゃあそうだ、彼女にとって、()()()()に触れることは、タブーそのものなのだから。

 もちろん、僕も明言は避けているが。

 

 ()()()()()も、意識してしないようにしているのだから、我ながらよっぽどである。まぁ、それだけ警戒に値する相手だから、しょうがない。

 

「それは――何のために」

 

 絞り出すように、嫉妬龍が問う。

 

「色々とありますが……一言で言うなら“布石”ですね。未来のための」

 

「……」

 

「このダンジョンに配置された暴食兵やサンドバイクも、その布石のために直接配置されたものです。ここの存在は、傲慢龍すら知りませんよ」

 

「……そう」

 

 難しい顔で、嫉妬龍はうなずいた。

 もし、ここに傲慢龍らが魔物を放ったのであれば、彼女は自身の中でコンプレックスだとかを刺激されて、メンタルを脆くしていただろう。

 そして、メンタルがやられた状態でここにやってきて、先程の光景を見ていれば、それはもういい感じにいろいろなものが揺さぶられていたはずだ。

 

 ――自分は利用されていたのかと。

 

 仲間にすら、大罪龍にすら。

 

 しかし、そうではない。ただそんな大罪龍とは別の存在が、無作為に魔物を配置した結果が今なのだと知ったら、それはどちらかというと畏れに近い感情に変わることだろう。

 

「ともかく、この施設がとんでもないものである、ということが理解いただければ、それで十分でしょう」

 

「……そうね、嫌というほど理解できたわ」

 

 大きく息を漏らして、嫉妬龍が壁により掛かる。

 ――ここは分かれ道。魔物がやってこないセーフティエリアに、僕たちはたどり着いた。

 

 直後、すぐさま嫉妬龍が龍形態を解除する。

 

「そんなにあの姿、嫌なんですか?」

 

「嫌じゃないけど、アンタ達の服に、すっごい豪華な服とかあるでしょ、アレをずっと着続けてる感じなの」

 

「ああ、ある意味あの姿は、貴方にとっては正装なんですね」

 

 僕も概念化を解除して、完全にリラックスした状態で、持っていた荷物を取り出す。適当に瓦礫を椅子にして、持ち運び手軽なコンパクトキャンプ道具――街と街が離れているファンタジー世界だからか、こういうアイテムは結構発達していた――を展開し、コーヒーを淹れる。

 

 カップは、二人分。

 いつも僕が持ち歩いているので、三人分のカップの用意があった。どれがどれとか、所有者は決めていないので、適当に手渡す。

 

「……いいの?」

 

「いくらでもありますから」

 

 お金には困っていないので。

 砂糖は常に枯渇気味だが、まぁ嫉妬龍はいらないだろ、きっと。

 

「コーヒーってやつよね、エクスタシアから、昔聞いたことある」

 

「……色欲龍とは、仲がいいんですね」

 

 知ってはいるけれど、

 

「私のことをバカにしないのは、エクスタシアとスローシウスだけよ。スローシウスは、スローシウスだからバカにしないだけだし、仲がいいのは、エクスタシアだけ、かな」

 

「……色欲龍と、怠惰龍」

 

 どちらも、人類に対して敵対的ではない大罪龍だ。

 

「エクスタシアって、すごいわよね。アホだから、色ボケのためだけに私達を裏切って。でも、それを一切気にせず自分の好きに生きてて、満たされてるんでしょ?」

 

「とても自由に生きてましたよ。僕も襲われかけました」

 

「でしょうね。……羨ましいわ。そして、妬ましい。私には、そういうの絶対ムリだもん」

 

「どうして?」

 

 コーヒーを手渡しながら、問いかける。

 あつあつのそれを、ふーふー、と息を吹きかけて冷ます彼女は、とても大罪龍には見えなかった。

 

「私は出来損ないだから。中途半端なの、あいつらにどれだけバカにされても、私はそれに言い返せない。反目することすらできない」

 

 ねぇ、と嫉妬龍は続けて。

 

「――どうして、私が概念使いに目覚めてない人類を目覚めさせてあげてるか、知ってる?」

 

「……」

 

「――どうして、それを傲慢龍たちが咎めないか、知ってる?」

 

「それは……」

 

 ――知っている。

 ゲームの中でも、それは語られたことがあるからだ。

 でも、だからこそ、僕はそれになにか、口を挟むことができない。

 

 

()()()()()からよ。私がそんなことしても、大罪龍と人類の戦いに変化がないから」

 

 

 ――――影響がない。

 原因は、一つ。嫉妬龍が目覚めさせる概念使いは、生まれつきの概念使いより、弱い。傲慢龍がその存在を切り捨てる程に。

 

 ある意味それは、あまりにも残酷で――救いのない理由だった。なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()だからである。

 嫉妬、つまり上を見て、妬む。

 であるなら、嫉妬龍の効果によって目覚めた概念使いが、強くあってはならない。

 

 ――とはいえそれは、相手が強大な個である大罪龍である場合の話。

 

「……じゃあ、概念使い同士なら? いえ、()()()()()()()()なら、どうですか?」

 

「――え?」

 

「人は概念使いを傷つけることができません。だから、もし人と人が争う段階になった場合、概念使いであるということは絶対の上位性を有することと他ならないわけです」

 

「――――」

 

 嫉妬龍の思考が停止していた。

 

「……あんた、それ、何時の話してるの?」

 

「さて、何のことでしょう」

 

 ――大罪龍が跋扈する時代に、人同士の争いは起こらない。いや、起こるが大規模になる前にまとめて大罪龍に滅ぼされる。

 だから、人同士の争いを危惧する必要はなく、それは大罪龍が倒れた後に気にすればよいことなのだ。

 

 さすがに、そのことには嫉妬龍も気付いたようだ。

 

 その上で――何かを考えたようにした後。

 

「ねぇ――一つ聞いてもいい?」

 

 と、問いかける。

 それは、話題を変えるようなニュアンスを多分に含んでいて、僕はなんとなくその内容を察する。

 

 ――見ての通り、彼女はここまでのあれやこれやで、多少は僕に心を開いているようだ。だからこそ、僕の発言の意味を、彼女は問いたいのだ。

 

 それは、要するに――

 

 

「……どうして、アタシのことを、かわいいとか言ったの?」

 

 

 嫉妬は悪いことじゃ――って、そっち!?

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