負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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39.フィーは人の街を歩きたい。(一)

 ――デートするの!

 ――――デートするの!!

 

 ――――――――デートするのおおおおおおおお!

 

 リリスが叫んだ。

 叫んだ結果、僕は3人とそれぞれ一日ずつデートをすることになった。なんというか、かなり予定的にスッカスカになってしまっていた僕たちの、久しぶり――というかこの世界にやってきて初めてといってもいい腰を据えた休暇だった。

 ちなみに順番は厳正なる抽選の結果である。

 

 そして翌日。デートは待ち合わせから、と言って憚らないリリスによって、僕は待ち合わせ場所に指定された街の広場中央へとやってくる。大きな噴水が目印になっており、明日以降もここで待ち合わせをすることになっていた。

 僕は周囲を用心深く観察しながら、“彼女”の到着を待つ。観察しているのは、出歯亀がいないかを警戒しているためだ。かなり口酸っぱく言っておいたが、それでもやるとなるとやりそうだし、そうでないかもしれないが、なんとも言えない。

 

 さて、そんな中今日、僕が待っているのが誰かと言うと――

 

「……ねぇ」

 

 つい、と周囲を観察する僕を、後ろから引く手があった。それは、恐る恐るといった様子で僕に声をかけ、僕は彼女へと振り向く。

 

「――フィー」

 

 一日目、相手はフィーだった。

 もじもじと、恥ずかしそうにしながら、こちらを見上げてくる。出で立ちは昨日見繕ったホットパンツスタイル。健康的な肢体が瑞々しく、ちょっとしたギャップにやられそうになる。

 

 と、その姿を眺めていると、ふとあることに気付いた。

 

「その髪留め、似合ってるね」

 

 ――昨日はなかった髪留めが、ワンポイントで追加されていた。

 

「……あ」

 

 嬉しそうなフィーの様子に、それが正解だったことを悟る。こういうのって僕のようなオタクにはムリなムーブだと思っていたけど、案外できるものだ。

 ……これも別の誰かの影響なのだろうか。興味は尽きない。

 

「うん、昨日ね、ちょっと一人で歩いてる時に、出店で売ってるの見つけて、これくらいなら、変じゃないよね? って」

 

「――フィーが一人で選んだのか。すごいな、ピッタリだ」

 

「えへへ……」

 

 照れる彼女は、髪留めを軽くなでて微笑んでから、僕の腕に腕を絡めてきた。

 

「じゃ、行きましょ」

 

「うん……っていても、この後はどうする? 普通に街を歩いて回るのは昨日やっちゃったしな、リリスはデートにかこつけて遊びたいだけだろうけど、フィーはそうもいかないし……かといって、なぁ」

 

「デート中に他の女の名前出さないで……っていいたいけど、まぁうん、ルエはどう考えても何も考えてないわよね」

 

 ――正直な所、3日もこの街で何をすればいいんだ? というのが実情である。この世界は娯楽に乏しい、魔物の脅威が取り除かれない今の時代、そういった文化は発展する土台がまず存在しない。

 もちろん、無いわけではないが、比較対象が現代なので、乏しいと言ってしまっても何ら遜色はないわけだ。

 

 そんな中で、三日間女の子を楽しませる何かしらがあるかというと、正直言ってない。

 ではどうするか。リリスに関しては、そもそもデートというのは名目で、おそらくきちんとしたデートをするわけではなく、何かしら遊んで欲しいだけだろう。ライン公の息子と彼の好きな人も、最近仲良くしていたな。

 彼らと一緒に遊ぶので、保護者をしてほしいと言い出すのが本命かな。

 

 ――で、一番の問題は師匠だ。師匠は今回のデートに乗り気ではない。僕が乗り気かと言われると困るのだが、それでもキチンと三日間付き合うつもりのある僕よりも、一日すら嫌がっている師匠のほうがモチベが低いのは当然だろう。

 ならばなぁなぁで済ませて、適当に部屋で復活液を作るでもいいが、それをやると間違いなくリリスに怒られるのと、師匠の情緒が未熟すぎるのは、僕としてもどうかと思うので、いいリハビリと考えることにした。

 

「リリスやルエと違って――いや、リリスがどう思ってるかは知らないけど、私はこれ、すっごい楽しみだったのよ。でも、貴方の負担になりたくない。……だから、ちょっと考えてきたんだけど」

 

 そして、このデートを素直にデートとして楽しむつもりのフィーは、僕が師匠のデートプランを考えなくてはいけないことを考慮して、こうして色々と予定を考えてきているわけだ。

 さて、僕も一応ある程度プランは考えてるわけだが――

 

「この髪飾りを買った時にね、聞いてみたのよ。ちょっと好きな人とデートしたいんだけど、この街で二人で見に行って面白い場所はないかって」

 

「おお、堅実」

 

「ファッションと屋台で食べ歩きをおすすめされたわ」

 

「――昨日やっちまったなぁ」

 

 まさしく、昨日僕たちが一日かけて堪能してしまった部分だった。そりゃあそうだ、この街は新興の街で、見て楽しめるものはほとんどなく、特色と言える特色は中央広場の異郷入り乱れる万国博覧会くらいなもので、後は着飾って楽しむか、食べて楽しむかの違いだ。

 

 ――で、まぁ僕のデートプランというのも、似たようなものだった。中央広場を改めて見て回ろうというのが一つ。屋台は日毎に内容が変わるため、変化を楽しむというのはありだ。

 とはいえ、それを昨日回った次の日にやりたくはなかった。せめて二日、三日は置きたい。――なので、師匠とのプランはそれにしようと思ったところである。

 

「ただね、他にも一つだけ、面白い店があるって教えてもらったの」

 

 そこで、フィーはそれを挙げた。

 思わぬ選択肢、そして詳細を聞いた僕は、それにしようと飛びついたのであった。

 

 

 ◆

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 元気な少女の、朗らかな声が響く。店は広くはないが、狭くもない。昨日行った女性ものの服屋は街一番の品揃えということで、非常に大きい店舗だった。

 ここは、あくまで個人の雑貨店といった様子だ。

 

 さて、ではここが何を取り扱っているのかというと――

 

「――()()()()()、ルゥ&アスターにようこそいらっしゃいました。本日はどのようなものをお探しでしょうかー」

 

 そう、衣物だ。

 店にはショーケースの中に、様々な衣物が並べられている。そのどれもが、一つ購入するのに復活液を十や二十はつくらなくてはならないものばかり。

 高級店である。

 

「そうだね、旅装に便利なものはなにか無いかな」

 

「あー、旅装ですか。そういうのは需要大きいですし、あんまり安定してうちには入ってこないですよ。ちゃんとして安定したものが欲しいなら、普通の店を覗いたほうがいいと思います」

 

 ――応対する少女は、幼い。さすがにリリスほどではないが、十五かそこら、この世界は現代よりも成人として認められる年齢は幼いだろうが、それでも結構ギリギリな感じだ。

 まぁ、それを言ったらリリスがとんだ不思議生物になるのだが。そして師匠はとんだダメ人間になる。

 

「あーいや、僕たちこう見えても、結構旅慣れていて、普通の旅装は間に合ってるんだ。オリジナルの衣物なら、もっと便利なものもあるかなと思って」

 

「……なるほど」

 

 隣で露出度マシマシなフィーが興味深そうにキョロキョロしているのを見て、若干訝しんでいる様子だが、それを顔に出したりはしないようだ。

 

「お客様は、こういった衣物のお店は初めてですか?」

 

「そうだね。……まぁ、初めてといえば初めてかな」

 

 ――ゲームでも、初代以外には存在する衣物専門店。特別なアイテムが売っているイベント用のお店として2で登場し、3からはコレクションアイテムの収拾などの要素に使われ始めた。外伝では話には登場するが、実際に訪れることはなかった店である。

 というか、ラインにもあったんだな。こんなご時世なのに。快楽都市にあることは知っていたけれど。

 

「ね、ねぇ。これ何……?」

 

 そういって、ショーケースを覗き込むフィー。正直な所、僕も衣物に何があるかはさっぱりだ。見てみるまで、それが何かはわからない。

 だって機械仕掛けの神が適当に埋め込んだものも多いから。メタ的に言うと開発のお遊びの現場だから。

 

「それは音が出るおもちですね。試遊してみますか?」

 

「試遊……?」

 

「衣物専門店は、衣物を買うよりも、そっちのほうがメインだよ。お金を払って、ちょっと衣物を使わせてもらうんだ」

 

 と、僕が店の奥を指差すと、そこでは親子が何かを呑んでいた。そんな親子の前にあるのは、一言でいうとドリンクバーのサーバーである。アレなんかは金を払って使わせてもらう衣物の典型だろう。言ってしまえば自動販売機か。

 たまにあれを売りにしている屋台もあったな。

 

 昨日は見かけなかったけれど。

 

「っていうか、音が出るおもちってなによ、音が出るの?」

 

「音が出ますよ? ちょっとまってくださいね」

 

 少女が鍵を取り出して、ショーケースを開く。音が出るおもち。たしか4に出てきたコレクションアイテムだったな。フレーバーテキストだと……

 

「押してみてください」

 

「う、うん」

 

 フィーが恐る恐るおもちにてをのばすと、

 

“けっこうおおきい!”

 

 と可愛らしい少女の声が響いた。

 

「……うん?」

 

 もう一度おしてみる。

 

“やわらかくておっきい! かたちがきれい!”

 

「えっと……」

 

「……」

 

 少女が、表情の死んだ顔でおもちに手を伸ばし、押す。

 

“なげきのかべ! さわるな!”

 

 ――沈黙が流れた。そう言われた少女のそれは平坦だった……

 

「……ごめん」

 

「お代はこちらへどうぞ」

 

 とてつもなく平坦な、感情を感じさせない声であった。

 フィーがお代(リリス管理のお小遣い)を手渡すと、少女はそのままおもちの入ったケースに鍵をかけた。扉を締めるとき、精一杯力をコメていたのが、なんだか虚しい。

 

「っていうか、売値より試遊の方が高いわねこれ……」

 

「何故か誰も買っていかないんですよ……ほんとに早く売れればいいのに……」

 

 ――それでも、原価がそこそこしたのだろう、安くはあってもそこそこ値は張る。試遊はさらに高いわけだが、っていうかセクハラじゃないか、これ。

 

「……ちなみに、基本的にもう一度試遊したいといってもやらせませんからね」

 

「絶対セクハラしたがる奴でるわよねこれ……」

 

 といいつつ、フィーがこちらに耳打ちしてくる。

 

「…………ところで、この声に非常に聞き覚えがあるんだけど」

 

「関係性は不明です」

 

 ちなみにCVエクスタシア。4では特に触れられてないけど、やっぱりエクスタシアの声に聞こえるんだな、これ……

 

「何やってんのよあいつ……!」

 

 フィーの嘆きが、どこか虚しかった。

 その後も、色々な衣物を試遊していく。店はそこそこ繁盛しており、僕ら以外にも客は入っており、店員の少女は忙しく飛び回っていた。

 なんというか、愛嬌があって見ていて楽しい。まぁ、そちらに視線をやるとむっとしてくる嫉妬龍殿がいらっしゃるので、横目で見る程度だが。

 

「はぁー、なんか色々あるわねぇ。これ全部お父様が用意したの?」

 

「いやぁ、ここにあるものの殆どは意図して用意してないよ。あいつが意図して用意したのは、模倣して技術として運用できるものだけさ」

 

「じゃあ、何であるの?」

 

「ランダム生成……?」

 

 一応、そういうことをしそうな連中に心当たりはあるが、そもそもは開発スタッフがやりこみ要素として盛り込んだお遊びのコレクションアイテムでしかないのだから、あまり気にしてもしょうがない。

 

 基本的に、衣物とは神が直々に設計し、人類が活用することを前提にした完全品と、特に意図せず適当に作って放り出した失敗品と呼ばれるものがある。

 衣物専門店で扱うようなのは、基本的に後者の失敗品だ。失敗品というだけあって、使い所にこまったり、複製のしようがないアイテムがほとんどなのだが、芸術品や玩具としての需要はそこそこある。

 だからこそ、こういう店も成立しうるのである。

 

 と、その時であった。

 

 

「ルゥ! ちょいと力を貸してくれー!」

 

 

 扉を開けて、一人、青年が入ってきた。シェルと同年齢くらいだろうか。

 

「兄さん、どうしたんですか」

 

 と、店員の少女がパタパタと彼に近寄る。つまり、彼女の名前はルゥというらしい。店名から考えると、彼はアスターというのだろうか。

 

「いや、ちょっとでかいものを取ってきたんだが、あまりにも大きすぎて街に運び込めないんだ。城の方で引き取ってくれることになったんだが、城はなんだか忙しいようでなぁ」

 

「ああ……最近なにか大きいことが起こるみたいで……城の方々も大変そうです」

 

 なんて会話が、ちらっと聞こえてくる。不思議そうに眺めているフィーに、軽く解説だ。

 

「彼はおそらくここの店の主で、ルゥって子の兄……概念使いだな」

 

「アスター……ね。でも概念使いってとこまでわかるの?」

 

「この衣物、誰かが掘り出してこなきゃ売れないだろ」

 

「ああ……ってことは、察するに大きい衣物を掘り出してきて、運び込めないから助けが欲しいのか……で、城と繋がりがあるんでしょ? 嫌な予感がするんだけど」

 

「……それもまた、楽しみの一つじゃない?」

 

 少し妹のルゥの方はなにか考え込んでいる様子だ。そんな中、ふとアスターの視線がこちらを向いた。

 

「む……」

 

 それから、つかつかとこちらによってきて、僕の方をジロジロ見る。

 

「……失礼、君、城の方で会ったことがないか?」

 

「ああ、多分すれ違ったことくらいならあるかもしれないね。僕は敗因、紫電のルエの弟子をしている」

 

「――あの紫電のルエの、……もしよければなのだが、少し力を貸して貰えないだろうか」

 

「僕は構わないけれど……フィー、どうする?」

 

「断ってもなんかしっくり来ないし、いいんじゃない?」

 

 ――と、いうことになった。

 

「ありがたい! 俺は牡丹のアスター。で、こっちが」

 

「妹のルゥです、ルゥ&アスターの店主をしています。よろしくおねがいします」

 

 ぺこり、とお辞儀をする。店主はルゥの方なのか、と思いつつ。まぁアスターは普段外に出ているか、肉体労働がメインだろうから、そんなものだろうと思いつつ。

 

「で、何を運ぶんだ?」

 

 問いかけてみる。帰ってきた答えは――

 

 

「――等身大スケール色欲龍銅像だ」

 

 

「……なんでそんなものがあるのよ!!」

 

 ――なお、龍形態のものだった。




長くなったので分割します。あくまで分割なので話数はそのまま。
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