――正解は、二百年。今から二百年後に、帝国と共和国に分裂した後、帝国が崩壊し、共和国は残るが、このときほぼ執政の形態は変化する。当時の王家、クロスの養子――アンが死亡するため、クロスは養子を後継とした――の家系は、このとき王家から一介の家系に移り変わった。
その後も、共和国とその家系は存続しているが、元王家は共和国から距離を取り、ただの商家となっていた。
なお、それが3の話で、4との間で更に共和国は別の国に形を変え、商家の方は行方不明だ。多分何かしらの形では残っていると思うが、設定がないだけだと思う。その商家が開発してメインで扱っていた商材は4の時期も残っているからな。
さて、とはいえそれを素直に話すことはできない。未来をどうこうというところにあまり興味はないが、なんというか不公平だろう。
対機械仕掛けの概念でないことに、僕があまり肩入れするべきではないと思う。
「――ライン公は、何年だと思いますか?」
「そうだなぁ……本来の歴史だと、俺は死んでクロスが未熟なまま後を継ぐのだろう? それでもあいつはうまくやるだろうが……まぁ、三百年といったところか」
為政者としての贔屓目が多分にあるだろうが、概ねそれを差し引いても、さほど差はないだろう。プラマイ30年程度なら、感覚的に大きな違いとは言えない。二百年とはいうけど、正確には二百二十年だからな。
贔屓目を抜いたら二百五十年くらいだろうから、そんなものだ。
「何故そう思いました?」
「――本来の歴史なら、クロスは儀式をする。違うか?」
「……正解です」
まぁ、そりゃあ僕たちが来るまで、クロスを嫉妬龍のところに連れて行く、ダメなら儀式。という方針で動いていたのだから、自然とそうなるのだが。
そして、そうなると――
「――この国における概念使いの地位は絶対的になるな」
「本来の歴史のクロスは、優秀な概念使いになりますからね」
「やめろよ、ケタクソ悪い」
はい、とうなずく。
優秀どころか、憤怒龍を二十年釘付けにし続けたのは、クロスの概念起源あってこそだ。アレはもう恐ろしい概念起源で、特に憤怒龍には相性最悪だ。
そんなクロスが概念使いになった場合、それはどうなるか。
「あいつがそんなことすりゃあ、後の世にそれは逸話として永遠に語り継がれるだろうよ。なんて尊くも薄ら寒い逸話なんだってな」
「まぁ、当事者からすればそうでしょうけど……それを言ったら、貴方が後継を残さないのも……」
「うるさい、俺はモテないのだ」
え、モテないの? ……いや師匠と同じ理由か。
ともかく、クロスが儀式をしてアンを犠牲にしてでも概念使いになるということは、その後の展開――つまり、憤怒龍討伐までの経緯を含めても、
概念使いの国であるライン国ならば、当然
結果として生まれたのが、概念使い至上主義の国家、ライン帝国である。
「……その傾向は、概念使いが国に増え、周囲の国を取り込みながら膨張していくことで肥大化していきます。最初は人々を魔物から守るためという大義から、やがて覇道へと姿を変えて――」
「――最後にゃ自分が大罪龍の同類に、か。……まぁ、後世の人間のことなぞ、俺にはどうしようもないことではあるが」
そうでなくとも、だ。
「今のこの国のあり方は、今じゃなければ成り立たない。人と概念使いが互いに助け合う?
「ですよねぇ」
――それは、ライン公自身が一番強く感じていることだろう。でなければ、クロスに大罪龍討伐後の道を暗示したりはしない。
とはいえ、それもうまくいくかは怪しいところだ。
今、ライン国しか概念使いの国がないから、そうならざるを得ないだけで、そもそも概念使いが人間を支配し始めるのは既定路線。
嫉妬龍の末路くらい、決まりきった時代の流れである。多少変化があったとしても、
フィーが人類側に立って、色欲龍と同じように受け入れられれば、もう少し弾けるのは先になるかも知れないが。遅かれ早かれだ。
何より――
「そもそもお前の言い方じゃあ、覇道に走ったここは、どこかに止められるようだが、どこがどうやって止めたというんだ?」
「分裂したライン国が、
――かつて、僕は3以降は概念使いが力をもった個人程度でしかないと言ったが、原因はこれだ。2の主役である共和国。彼らが対帝国用に生み出した決戦兵器。
その後世界各地に広がって、概念使いの時代を終わらせた
これにより帝国は打破され、時代は人と概念使いが共に在る時代へと変化していく。
3ではこの兵器のスペシャリストがプレイアブルになる。時代の変化を感じさせる味方キャラクターだ。
そして同時に、そんな都合のいいものを生み出せる衣物に対する不信感を表現した代物でもある。
「ハハハハハ! 時代の流れというのは本当に面白い……が、よく分かった。この未来を知ったところで、俺一人じゃどうしようもないなぁ。……まるで何者かの意図が多分に絡んでいるかのようだ」
「そうですね。とはいえお節介がなくても大筋は変わらないでしょう。僕が言うのも変な話ですが、未来は刻一刻と変化しますから」
「お前の彼女のようになぁ」
「あ、あはは……」
――人類に寝返るというウルトラCを決めた二匹目の大罪龍。エンフィーリアことフィー。その振る舞いから、ライン国では完全に僕の彼女と思われていた。
とはいえ面と向かって好きと言われた上で、共に行動している以上、僕もそれは否定できないし、そもそも否定する必要もないわけだが。
「クロス、アンといい――恋は人を狂わせる。いや、よくも悪くもなぁ。少なくとも、それを左右するのは環境だろうが」
――追い詰められた結果、儀式を敢行せざるを得ないクロスたちのように。
恋は盲目とはいうが、視野が狭くなるのは、そもそも状況が悪いことがほとんどだ。特にクロスとアンは、父を失えばそれだけ選択肢も少なくなってしまうと感じることだろう。
だからこそ、僕は憤怒龍に負けることは許されない。ここは、彼らの帰るべき場所なのだから。
――さて、そこで少し話題を変える。
「そういえば、そもそもどうしてクロスと仲が悪いんですか? あちらは貴方と和解したがっていましたし、貴方だってクロスのことは可愛くて仕方がないでしょう」
「それ、は――」
紅茶を口に含みながら、ライン公は視線を泳がせる。
さて、どれだけ深い事情があるというのだろう、ラインとクロスの柵は、親子のわだかまりというのがゲームにおける描写の全てだったが、そもそもライン公はクロスにクロスの出自を隠していた。
そこは深くは掘り下げられなかったが、クロスは推測で
失ったのだろう、というのがゲームにおける解釈だった。
いや、しかしでもさっきモテないって――
と、考えたところでライン公が口を開いた。
「そ、その、なんだ……どう話せばいいかわからん」
「――ただ不器用なだけかよ!?」
気まずそうに視線をそらす居丈高。2メートル近い巨漢の男は、駄々をこねる子供のようだった。いやいやいや、まてまて、ってことはまさか、
「まさか、
「仕方がないだろう!? 俺に子育ての経験なんぞないわ!! 周りに聞けるはずもない!! クロスがアレだけ利発に育ってしまったせいで、俺はあいつを背中を見せることでうまく育てたと思われているんだ!」
「そのとおりだろ!? クロスはアンタをすごい尊敬してるし、アンタを見て少しでも成長しようと頑張ってるんだぞ!?」
思わず敬語が吹き飛んでしまった。
いやいやいや……もしかしてクロスってすごいやつなの? ライン公って見た目以外はヘタレなの? いや、慎重派な部分があるだけで、大胆なカリスマもライン公の魅力であり、一面のはずだ。でも今のライン公はヘタレ以外の何物でもない!
「俺には連れ立つ相手すらいないんだ! 若い頃にいい雰囲気になったやつは何か、俺に遠慮したあとフェードアウトして別の男とくっついてしまう! そいつがいい女過ぎてその後俺がこの国を作ってからよってきた女が信用ならなん!!」
「ミルカ……本人はダメだとしても、ミルカみたいに優秀なやつもいただろ!!」
「優秀すぎるやつは俺の
ああそうね、抱いてるイメージとのギャップがひどすぎるんだね。いやでもダメンズ的な人もいたんじゃぁ……いやいなかったからこうなってるのか、このヘタレ!
「そうこうしてるうちに、俺もいつもまにかこの年だ。今、この国を引っ張ってる連中は俺を親父殿といって慕い、俺もあいつらは息子娘みたいなもので、そういう対象にみれない!」
「…………もうさ」
僕はだんだん疲れてきたのか、思考が正常じゃなくなってきた。
故に、ぽつりと思いついたものをフィルターも通さず脳死寸前の頭で放つ。
「色欲龍にでも相手してもらえよ」
「――――それだ」
「それだじゃない!!」
真に受けるな! 思わず叫んでしまった。そして再び疲れでぐったりする。ああ、なんかもう……色々ダメだ。
「いやしかし、実際選択肢の一つではある、色欲龍との子は確実に概念使いだ。もちろんクロスたちの意思を優先するべきだが、万が一クロスが俺の後をつげないような心境の変化があった場合は、それが最善になる」
「そーですか。」
もう、突っ込むのも疲れた。
いや合理的なのかもしれないが、それをどう合理的か判断する思考も残されていない。あー紅茶うまい。
「俺としては子孫に悪として倒されることを押し付けるのは忍びない。しかし、国をまとめるにしろ、大罪龍と戦うにしろ、概念使いの存在は必要不可欠。この流れは変えられん」
「いや、それはそうなんでしょうけど、色欲龍から離れましょうよ……」
「……あいつはいい女だ、羨ましいくらいの。少し出歯亀がすぎる所を除けば」
「話を広げないでください」
「お前もそう思わんのか!? 男として、あれほど惹かれる女はそうおらんだろう!!」
「僕にはフィーがいるんですよ!!」
――フィーはカワイイ、間違いなく世界一かわいい。贔屓目にみてもびっくりするくらいカワイイ。そもそも、色欲龍に惹かれるとフィーがどういう反応をするかわからない。
なにせ色欲龍は同種。同じ時間の流れで生きる立場だ。寿命の違いが在るならともかく、それは普通に浮気だぞ。
「……それはすまん」
「冷静になりましたか……」
二人して、はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、前のめりになった姿勢を戻し、紅茶で一息つく。あ、終わってしまった――おかわりもなさそうだ。
「……どちらにせよ、今は憤怒龍ですよ」
「……そうだな」
お互い、冷静になって話を戻す。
僕をここに呼び出して、話をして。完全にモテないおっさんと遊んでるだけになってしまったのを、少しでも取り戻したかった。
「勝てると思うか?」
「――何言ってるんですか、勝つんです」
問いかけてくるライン――もうこいつに二度と公とはつけない――の様子に、決して憂いはない。それでも、問いかけてしまうのは人の性か。
僕だって、不安に思うことがないわけではない。おそらくは大丈夫だろうと踏んでいるが、もし読みを外した場合――そもそも勝負にならない可能性がある。
もちろん、その場合の対処法も考えてはあるが。
できれば、最低限で済ませて欲しい。とはいえ、僕はそれを顔に出すようなバカではない。
「勝たなければ人類に未来はない。たとえそれが誰の書いた絵図だろうと、その事実は変わらない。だったら、僕はそこに勝利の二文字を刻むだけです」
「そうか、お前は――」
「ええ、僕は敗因――憤怒龍の敗因となる男です」
さて、賽は投げられた。もう、時計の針は戻らない。この戦い、勝つも負けるも、僕とライン次第だ。
だから、立ち上がって手をのばす。握手を求めるのだ。
「だから、よろしくおねがいします、ライン」
「敬語はよせ――お前は俺に対等にぶつかろうとしてきた相手だ。認めるとも、敗因」
同じく、ラインは立ち上がり、
「俺は“開闢”のライン。この国の開闢、人類の開闢。それを見届ける男だ。このような戦いでは死なん」
その手を取った。
――開闢のライン。
追い詰められた人類の中に現れ、概念使いをまとめ上げ、人類反撃の旗手となった彼は、かくしてその大胆な行動とは裏腹に、慎重で、そして思慮深い人だった。
自分の国が二百年もすれば滅びることも受け入れて、冷静に語ることのできる彼は、それだけ沈着な人物だ。
「ハハハハハ! 憤怒龍、上等だ! やろうではないか、敗因!」
「ああ、――で、それが終わったら」
「……む?」
僕は、逃さないぞと言わんばかりに掴んだ手に力を込めて。
「終わったら、クロスたちに謝ろうな?」
「いや、それは――」
「そこでヘタレるなアホ!!」
深夜の城内に、僕の雄叫びが響き渡るのだった。