負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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46.そして僕らは巡り合う。

 ――傲慢龍プライドレム。

 初代ドメインのラスボス、シリーズを象徴する敵。

 大罪龍の頂点。

 人類最大の敵。

 

 傲慢にして矜持の塊、それは、今。

 

 僕らの目の前に、姿を表していた。

 

「お、まえ――は」

 

“お初お目にかかる、ライン公。開闢のラインといったな。私はプライドレム。傲慢龍――プライドレムだ”

 

 優雅に、かつ冷静に。

 うやうやしくも慇懃無礼、現れ宙に立つ龍人は、まるでこちらを挑発するかのように紳士的な礼をした。

 

「何をした――」

 

“何を、と――私は自身の力を振るったに過ぎない。その結果、君のそよ風が薙ぎ払われてしまったのだとしたら、お悔やみ申し上げる”

 

「待て、ライン――」

 

 ――ラインが、挑発されている。

 怒り、だけではない。困惑、憎悪、敵意、殺意。あらゆる感情がないまぜになって、ぐちゃぐちゃになって、かき回される。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その事実は、たとえそれがあの開闢のラインだとしても、揺さぶられてしまう。

 

“ご、傲慢龍――”

 

“落ち着いたか、憤怒龍。惜しかったな、あちらが一枚上手だったようだ。()()()()()()()()()()()

 

“ぬ、ぅ――”

 

 まさしく、傲慢。そんなプライドレムの物言いに、あの憤怒龍が萎縮している。当然といえば当然か、傲慢龍はまるで片手間のように、憤怒龍の憤怒をかき消してしまったのだから。

 

 ――同時に、ラインの概念起源すら。

 

「やってくれるじゃないか――あと一歩だったのだがなぁ」

 

 その言葉は、在る種の虚勢と言えるかも知れない。

 自身の国全てを背負った一撃を、片腕でかき消され、冷静でいられるほうがおかしい。

 

“ふむ、今の一撃なら、たしかに憤怒龍には致命傷だろうな。けれども、私には通用しない。理由は君が――()()()が脆弱で、私の足元にも及ばないからだ。”

 

「お、まえ……っ!」

 

「落ち着け、ライン……!」

 

 しかし、僕の言葉はラインには届かないだろう。無茶をいうな、目の前に人類の仇敵がいるんだぞ。そう解っていても、僕は留めざるを得ない。

 まずいんだ、傲慢龍は、他の大罪龍とは違う。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「だとしても、人類は何れお前に勝利するだろうよ。今、俺という国がお前に届かなかろうが、次代が、何れ。――そうだ、強欲龍も破れた、憤怒龍にも勝利へ手をかけた。お前達は、何れ瓦解する!」

 

“…………ん? ああ、一瞬理解できなかった。おかしなことを言うな”

 

 ――おい、まて傲慢龍。

 それを口にするつもりか? やめろ、まずい。

 

“もしや敗因、君は教えていないのか”

 

 ――――大罪龍が、人類の脅威たる最大の原因。

 傲慢龍が、()()()()()()()()()()()

 

 

“――大罪龍は、私を滅ぼさない限り復活するぞ。周期は、ざっと二十年”

 

 

 ――僕に敗れた強欲龍が、そのことを気にしていた。

 それでも勝つと、僕は言った。

 

 ああ、けど。

 ――人類には、その事実は重いよな。

 

 僕はラインを見る。

 彼は、その顔を伏せていて、そして――

 

「――随分と、余裕だなぁ! お前を倒さなければ、強欲龍が復活する!? 上等だろう、()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな!」

 

 意思のこもった瞳で顔を上げる。

 けど、――だめだ!

 

「行っちゃだめだ、ライン――!」

 

 ――ラインが飛び出した。

 

 対して、

 

“安心するといい、ライン公。私の目的はそちらの敗因だ。君ではない――故に”

 

 傲慢なる龍は、そのプライド故に構えもせず、余裕の言葉でもって、

 

 

“遊んでやろう、かかってくるといい”

 

 

 ラインに宣戦布告した。

 

「お、おおお!!」

 

 ラインが駆けながら、周囲の鱗を破壊しつつコンボを稼いでいく。

 ――憤怒龍の鱗から電撃の反撃はない。戦闘態勢を憤怒龍が解いている。傲慢龍の存在故に、それはそうだ。

 憤怒龍は傲慢龍に萎縮せざるを得ない。どれだけ強大な存在であろうと、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……くっ」

 

 僕も慌てて飛び出す。しかし、間に合わないだろう。ラインにはリリスのバフが乗っていた。それに、ある意味問題ないとも言える。

 プライドレムが遊ぶといった以上、これは殺し合いではない。

 

 傲慢龍の、一方的な暴虐だ。

 

 そして、ラインが移動技で一気に傲慢龍へと飛びかかり、

 

 

「――“Z・Z(ゾディアック・ジルコニア)”!」

 

 

 最上位技を、叩き込む――!

 

 しかし、

 

“――うん、なんだ”

 

 

 ――――それは、傲慢龍の片腕に止められていた。

 

 

“これは、まさか、君はこれを自慢したかったのか?”

 

 

「な――」

 

「……ライン!」

 

 僕がラインに追いつく。そして、

 

「ここはムリだ! 君は逃げろ!」

 

 叫び、彼を空中から、突き飛ばした。

 

「な、おい――ッ!」

 

「大丈夫だ、ここは僕がなんとかする、できる。()()()()()!」

 

「――――」

 

 ――確信に満ちた瞳で、ラインに告げる。

 

「……信じるぞ、敗因!」

 

 それを受け入れたのか、ラインはそのまま、身を空中に躍らせる。

 

「そういうことならば、俺の相手はお前達だ魔物共! 俺の国に一歩たりとも踏み込めるなと思うなよ――!」

 

 叫び、そして魔物の群れへと突っ込んでいった。

 

“ご、傲慢龍……”

 

“――憤怒龍、私を失望させたくなければ、少し黙っていてくれたまえ”

 

 ――これで、この場に残るのは、僕と傲慢龍だけだ。

 互いに、正面から相対する。こいつが人類最大の敵、そして、機械仕掛けの概念が作り上げた最高傑作。僕の現状最強の敵。

 

“――さて、敗因。なんとかするといったが、できるのかね? この状況で”

 

「ハハッ、当たり前だろう」

 

“ましてや――”

 

 心底こちらを見下した瞳で、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?”

 

 

 ――その事実を告げた。

 

 

 ◆

 

 

「……暴食龍が?」

 

“そうとも、私がその様に差配した。お前も気がついているのだろう? 私がお前と同様に、未来を把握していると“

 

 山間の村でのこと。現れるはずのない暴食龍。本来ならばあそこに現れるのは暴食兵で、そもそもあの戦いは、大きく大罪龍との戦いに変化をもたらすものではなかった。

 それが突如として変貌を遂げたのは、何者かの指図あってのこと。考えられるのは二択、機械仕掛けの概念か、暴食龍の直接の上司である傲慢龍だ。

 結論は、後者であったというわけだ。もちろん、僕もそれは把握している。だからこそ、どこかで手を打ってくる可能性は大いにあったわけで。

 

「それが、ここだったってことか」

 

“そうなるな。そして、故にお前は致命的なミスを犯した。なにを、などとは言わないだろうな。ここに私がいる、憤怒龍がいる。お前に勝ち目などなに一つない“

 

「……その傲慢なプライドをねじ曲げてでも、ここにくるだけの価値はあったと、そういうことなわけだ」

 

 大罪龍は一体一体が強力な個体である。ともすれば、一体で世界を滅ぼすだけの力がある。特に数ですぐれる暴食龍。多数の敵と相対することに圧倒的なアドバンテージを有する憤怒龍。不死身という絶対的な機能を持つ強欲龍。それらは特に、人という弱い個を蹂躙するのに適した能力を有している。

 そして、そんな能力を持っていてもなお、彼らが満場一致で最強と認める傲慢龍にも、それは言える。特に、先ほど僕があれほど強力だと言っていた憤怒龍の熱線と、ラインの概念起源を同時に消しとばしてみせたあの能力。

 初見殺し極まりないあれは、間違いなく僕にとっても脅威の一つだ。

 

 その上で、奴らが人類を滅ぼしきれない大きな理由。それこそが傲慢龍のプライドの高さである。

 そも、傲慢龍が直接戦場に現れることはありえない。自分の力などなくとも、大罪龍は人類を滅ぼせると傲慢にも確信しているから。それは人類にとっては大きな油断であり、付け入る隙だ。事実、初代ではこの隙を突かれることで奴は敗れ去るわけだが、だからといってそれが今の人類に味方するわけではない。

 

 傲慢龍は自身が傲慢であればあるほど力を増す。要するに、相手のことを見下し、侮蔑し、嘲笑すればするほど、奴の能力が向上するのだ。

 そして、それらの傲慢が頂点に達した時、奴は世界に姿を表す。そうしているときの傲慢龍は、まさしく無敵だ。

 端的に言おう、傲慢龍は自身の策に敵が嵌り、そしてそれに対して自身が勝利したと確信している間、あらゆる攻撃に対して無敵になる。そう、先ほどラインと憤怒龍の必殺の一撃を打ち消したのも、傲慢龍が勝利を確信し、傲慢の極みにいるからこそ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ラインの概念起源は言うに及ばず、僕の最上位技も、師匠の概念起源も、フィーの熱線も。

 

 傲慢の化身となったプライドレムを止めることは不可能である。

 

 逆に言えば、勝利を確信していないプライドレムは姿をあらわさない。そして、プライドレムが滅びない限り、大罪龍は滅ぼされても二十年経てば復活する。

 そして、勝利を確信して現れたプライドレムを撃破しようにも、その瞬間の奴は無敵だ。

 故に、人類はプライドレムに勝利できない。

 

 人類は奴が傲慢であるが故に滅びを防げているのではない。人類は初めからプライドレムに泳がされているのだ。

 

 故に、勝てない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――それで、僕を倒すためだけに、アンタはここに来たわけだ」

 

“冷静だな――気に食わん。まさか、暴食龍の群れを相手に、色欲龍の元までたどり着けると本気で思っているのか?”

 

「そうだな、幾ら師匠といえども、一人じゃあ暴食龍相手に、クロスたちを守りながら逃げ切るのはムリだろうね」

 

 ――確かに、いかにも状況は絶望的じゃないか。

 ああ、けどしかし――すでによくわかりきっている。当たり前の事実。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――僕は敗因、勝利できない因果をひっくり返し、勝利すべきものの敗因となる概念使い。こんな状況、()()()()()()()()()()

 

「――アンタがここに現れた理由。勝利のため、傲慢であるがため、だが同時に――確認したいことがあるんじゃないか?」

 

“――気に入らん、が、正解だ。私はお前に対して、確認したいことがある”

 

「僕もだよ、――いや、すでにほとんど半ば確信しているが、敢えて聞こう」

 

 僕は、傲慢龍は、同時にそれを口にする。

 

“――お前は”

 

「アンタは――」

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

「答えてやるさ、()()だよ。()()()()()()()()()()()()()

 

“――――”

 

「アンタは勝利を確信してここまでやってきたみたいだけどな、()()()()()()()()()()()()()()()。いや、相手は僕じゃないけれど。でも、()()()()()()()()()。もしその未来を知っていたら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まくしたてるように、笑みを浮かべながら僕は言う。

 挑発だ。僕を止めていい、咎めていいぞ。ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうけどな。

 僕の挑発に乗った時点で、傲慢龍はプライドを傷つけられている。傲慢の化身たる条件を満たさなく成る。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを傷つけてでも、僕を殺してみるか? ――万が一にでも、負ける可能性があるかもしれないのに? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから僕は、話を続ける。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“……ふむ”

 

「アンタの創造主、お父様、父上、“神”。何でもいいけど、そいつから知識を与えられてる。違うか? ――といっても、違うわけないよな。未来を知ってるやつなんて、この世界に僕を除けばそいつだけだ」

 

 否定はない。

 当たり前だ、僕はすでに解っている事実から、当然の帰結を結びつけているに過ぎない。他に正解などないことは、僕の知識が何よりも知っている。

 この世界にそれができるのは神だけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだから。

 

「そして、神が直接僕たちに干渉することはない。神がやったことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()だけだ」

 

 何故か、()()()()()()()()()()()()()()()。なにせ――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから、当然だよな」“――そうだな。父上は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 傲慢龍は、ため息と共に、そう答えた。

 それは神に対してか、僕に対してか。まぁ、どちらでもいいだろう。傲慢龍は続けた。

 

“私が知っているのは、これからお前が辿る()()()道筋だ。つまり、お前……いや、()()()()()使()()()()()か”

 

 ――つまるところ、ルーザーズの内容()()を傲慢龍は教えられたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて――それじゃ、そろそろ答え合わせといこうか」

 

“……”

 

 息を吐く傲慢龍。

 彼はもう、全て把握しているのだろう。()()()()()()()()()。答えは単純、()()()()()。未来の全てを把握している僕と、僕の人生しかしらない傲慢龍では、そもそも駆け引きの舞台にすら立てていなかったのだ。

 

 僕は手を掲げ、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――調子はどうですか、師匠」

 

 

『良好だよ、こちらは無事にクロスたちを快楽都市まで送り届けた、暴食龍には、勝利している』

 

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。傲慢龍に、勝利宣言を叩き込むためのアイテムだった。


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