――初代ドメインにおいて、憤怒龍はクロスの概念起源に囚われた状態で登場する。というのも、儀式の末にクロスが目覚める概念は“束縛”。自分の手から離れていってしまった者たちへの後悔から生まれたそれは、ある概念起源を有していた。
憤怒龍すら拘束してしまう、究極の束縛技。一度は憤怒龍の襲撃で壊滅してしまったライン国が復興し、二十年もの間、憤怒龍を押し止めることができたのは、この概念起源があったからこそだ。
そして、二十年の時を経て、暴食龍を討伐した英雄、シェルとミルカの子供がライン国へとやってきたことで、クロスは自身の概念起源を解除、憤怒龍と対決することを決意する――というのが本来の流れ。
だが、クロスが概念起源を解除した、その段階では憤怒龍と決着をつけることができない。理由は、
――その時、人類は傲慢龍を相手にすることは不可能であった。やつの無敵の条件を知らなければ、傲慢龍は絶対に倒せない。
そこで、偶然にも窮地を脱することができたのが、僕が先程はなった一言、「傲慢龍の腰巾着」という発言。ゲームにおいては偶然極まりない発言であったが、しかし、ゲームでの未来を知っていれば、この一言は言うまでもなく効くことは知れている――!
“――儂が、腰巾着? 傲慢龍に、従っているだけの、腰巾着――?”
「そうだ、アンタはこの巨体だろう、あの熱線があるだろう、だというのになぜそんなところに収まっている? 答えは簡単だ、アンタが傲慢龍に勝てないと納得してしまっているからだよ」
――煽る。
煽る、極限まで煽る。
“なに、を――”
困惑する傲慢龍。それはそうだ、僕が憤怒龍に煽っている内容、
「ほら、傲慢龍が困惑しているぞ。そんなアタリマエのこと、なぜいまさら指摘する必要がある、とな」
“――――そうか”
“……おい、敗因、お前まさか”
大きく息を吐きだす、重苦しい憤怒龍の言葉に、ようやく傲慢龍は僕の意図を察したのだろう。焦りを隠そうともしない声で、こちらを見る。
おいおい、そんな声を出すと、自慢の無敵が剥がれるぞ。
“――そうか、儂は、儂は腰巾着であったか”
「――――ああ」
僕は、最大限力強く、いい切るように、肯定した。直後、一瞬。僕たちの世界の空気が停止した。まるで何かの前触れのように、あらゆるものが静止する幻覚をみた。
――――直後、憤怒龍は憤怒した。
“あああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああああ傲慢龍ううううううううううううううううううううううううううううう!! 儂をバカにしたかぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!”
“――ッ”
叫ぶ、轟く。
“ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああ!! 何が腰巾着だあああああああああああああああああああああああああ!! 儂はあああ儂はあああああああああああああああああああああああああああああああああ憤怒龍!! 憤怒龍だあああああああ! 大罪にして、龍!! 貴様と何がちがうという!!!”
“――敗因”
“儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は儂は腰巾着じゃなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!”
“――――恨むぞ、お前ェェェ!!”
“ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ傲慢龍うううううううううううううプライドれぇええええええええええええええええええええええええええええええええエムぅあぁぁあああああぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!”
もはや、それは言葉と聞き取ることすらできなかった。
激しい稲光と、閃光。
僕は宙に身を投げだして、発光する憤怒龍から逃れる。あれは、あの発光全てが雷光だ。触れれば概念崩壊は免れない。
――ただ、そんな中でも、はっきりと傲慢龍の声だけは聞こえた。僕は、それに勝ち誇ったように言い返す。
「おいおい、いいのか、
“――――お、ノレェ!”
憤怒したラーシラウスを止められるものはいない。先程、あれだけかかっていたチャージが、今ではもはや十秒もかからない。
しかも、連射が効くように成る。
百発も地上に降り注げば、
「――なんで憤怒龍が、アンタに怒りを向けたのか、今一度考えてみろよ、プライドレム」
僕は、それを尻目につぶやく。
「でもって、なんでそんな状況が未来に起こりうるのに、それをクソみたいな神が伝えなかったのか、それもな」
“――――”
――放たれた
あちらからはこちらを伺えても、僕からはもう、向こうを伺える距離ではないからだ。
ただ一つだけ言えること。
なにせ――
――アンタは最終作、フィナーレ・ドメインで、機械仕掛けの概念を裏切るんだからな。
“――
「そうか」
響いた言葉は、存外冷静であった。奴が何を考えているのかは知れないが、――結局。
その言葉を最後に、憤怒龍と傲慢龍は姿を消した。傲慢龍がこの場を去り、怒り狂う憤怒龍がそれを追いかけたのである。
余談だが、憤怒龍は
憤怒龍あるところに雷光あり、雷光あるところに憤怒龍あり。
簡単に言うと、憤怒龍がAという地点からBという地点に移動したいと考えた場合、それに先行する形で雷が迸る。その後を追うように憤怒龍はAから移動し、Bに現れるのだ。
とはいえ、これは非常に大雑把な移動法で、大体はBという地点の直ぐ側にでる。今回で言えば憤怒龍はライン国上空を目指して移動したわけだが、たどり着いたのはそこから少し離れた場所だった。
加えてこれにはリキャストが必要になる。少なくとも、移動先で戦闘が発生した場合、逃げ出すことは不可能だ。
――が、憤怒状態の奴はこれを無制限に使用することができる。加えて、熱線はアレだけ長かったチャージ時間が、十秒もあれば終了するようになっていた。
如何に、憤怒状態のラーシラウスを相手にすることが危険か分かるというものだ。
とはいえ、それでも無敵の傲慢龍、不死身の強欲龍は撃破できず、最終的に憤怒龍側が敗北するわけだが。
そして、そんな危険な状態だろうと、無敵である間の傲慢龍が苦もなく処理してしまう。――いよいよもって、僕はインフレの極点を見ているような気がしてならないよ。
――身を翻して、地上を見る。地上では、ラインが公国の概念使いと魔物たちを追い込んでいるところだろう。僕が堕ちていく憤怒龍の真下には、ほとんど誰もいない。
ああしかし、それはつまり――
僕たちは、大罪龍を退け、明日を勝ち取った。
◆
「――あー、俺はこういう話は苦手だ」
ライン国中央広場。普段からアホほど人が行き交うその場所は現在、普段の数割増しで人がごった返していた。各々に何かしらの食材を手にして、お立ち台のような感じの台の上に立つ、ライン公を見上げていた。
そして、かくいうライン公も、手には彼が好む例の紅茶が、なみなみと注がれていた。しかし、この場にいるものの多くは、アレが紅茶であることに気付くことはないだろう。
多くのものがアレはアルコールだと思っていて、本人は何一つ嘘はないという様子で堂々としていれば――それはもう、人々にとってアレはアルコールなのである。
「此度の戦いは、全ての作戦を成功させ、更には大きな被害もなく終わることができた。端的に言おう、俺達の勝利だ」
周囲の人々は、そんなラインに栄光を見る。
覇道を見る。この場にいるモノのほとんどは、ラインがこれからも王として自分を導いてくれることを、疑いすらしないだろう。
そして、それは間違いなく事実だ。何れ、クロスが次代を担うまで、ラインはこの国の象徴で在り続ける。
「それには、俺に味方してくれた多くの英傑たち。そして、誰もが明日を願い、勝利を祈ったからこそ為し得たことだ」
そうして、その言葉で視線はまず、僕らへ向いて――現在、僕とリリス。そして師匠とフィーはすでに合流し、共にライン公の話を聞いている――その後、民衆へと向けられた。
今回、憤怒龍をおびき寄せるため、人々は移動することができなかった。そうでなくとも、大勢での移動は大罪龍に目をつけられる可能性を増す。
故に基本的に、対大罪龍の対処法はこちらが迎え撃つような状況で、なおかつ大人数で大移動をしようものなら、そこを狙われることがわかりきっているからだ。
だからこそ、概念使いを信じ、
「ありがとう。これからも、俺たちを信じ、俺達とともに歩んで欲しい」
――見れば、ルゥとアスターを見かけた。視線があって、二人は僕に会釈をすると、楽しげに話をしながらライン公の方へと向き直った。
「――また、俺の息子、クロスにも言葉を送りたい」
そして、ラインの言葉にびくっと、どこかで空気が臆病に震えた気がした。ライン公の視線を追えば、おそらくそこにクロスがいるのだろう。
間違いなく、隣にはアンもいる。
「今回、大罪龍という大きすぎる敵を前に、一計を案じ、クロスを色欲龍の元へ送り出した。多くの仲間がいたとは言え、クロスにはあまりに大きな旅だっただろう」
――ラインの顔に、僕へとヘタレていたときの様子は一切ない。
「――よくやった、そして、ありがとう」
王とその後継としては、彼らはすでにその関係を構築していたと言えた。
――周囲が大いに湧く。
ライン公とクロスの難しい関係を知っていればこそ、この状況に安堵や歓喜を覚えるものは多いのだろう。……まだ、二人は死んでいない、これからもすれ違いはあるだろうが、
今回の戦いが、
「では、語りたいことは全て語った。――故に、乾杯といこう!」
手にした紅茶を高々と掲げ、ライン公は、叫んだ。
「――ライン公国に栄光あれ!!」
周囲の歓声。僕らは、それを一心に浴びるのだった。
「――さて」
そして、僕らも。
「お疲れ様、リリス。フィー、そして、師匠」
「ああ」
僕の言葉に、師匠が代表して答える。――今回、師匠とフィーには結構な負担をかけた。二人ならば、僕のいないところで大罪龍を相手にしても勝利できると踏んでの作戦。
それを成し遂げてくれたのは、二人が僕の信じる強さをもっていたからだ。
「ねぇね、ちょっと質問なのー」
「どうした、リリス」
「どーしてごーまんりゅーは、ふんどりゅーの攻撃をこっちへ誘引しなかったのー?」
「後半唐突にIQが上がったな!?」
突っ込む師匠を他所に、僕は答える。
「憤怒龍は憤怒状態――
「怒ってる相手にしか、意識が向かないのよ。タチわるいわよね」
――同輩であるフィーが、僕の説明を補足した。……そもそもの話、逆鱗状態に入ったラーシラウスの憤怒を、連射しても倒せないのはこの世界広しと言えども、傲慢龍、強欲龍、そしてその生みの親である機械仕掛けの概念――マーキナーくらいだ。
「ともかく、これでしばらくの間、憤怒龍と傲慢龍を釘付けにできるんだよな?」
「そうね。憤怒龍の怒りが収まるまで、あいつらずっと追いかけっこしてるわよ、きっと」
ニヤニヤと笑いながら、ザマァないと言わんばかりに、言うフィー。……色々溜まっていたんだな、と少しやさしい目で彼女の頭をなでた。
「憐れむな!」
叫ぶフィーはへにゃっとしていた――
「あのひとたちの喧嘩ってー、どれくらいなの?」
「――半年」
これはゲームにおいても、同様の状況だった。
半年。長いとも言えるし、短いとも言える時間だ。すでに僕がこの世界にやってきて、それくらいの時間は経とうとしている。――いつの間にか。
時間の流れというのは不思議なもので、濃密な時間は、一日だろうと濃密なのに、なにもないとあっという間に過ぎていくのだ。
気がつけば、僕らライン公国に二ヶ月近く滞在しているんだぞ。
「とはいえ、今回のことでよく解ったけど、
――今回だって、ラインの概念起源があったからこそ、憤怒龍を討伐直前まで追い込めたのだ。
「といってもなぁ、私の概念起源はあと一発だ。それに、ライン公ほどの威力もない。……その分使用回数がたくさん在ることが、強みだったんだが」
「リリスもなのー」
「アタシはそもそも概念使いじゃないわよ」
――といったような有様で、簡単に言うと、僕たちのパーティは
「そこで、次の目標だ」
「……次って、グラトニコスじゃないの?」
――暴食龍グラトニコス。傲慢龍一派の一体。憤怒と傲慢が釘付けになっている間に、孤立した暴食龍を討つ。たしかに、普通に考えればそれが妥当だろう。
が、しかし。
「半年の時間があるんだ。もう一つ、間に挟んでもいいんじゃないか?」
師匠が言う。そう、僕もそれがいいたかった。
僕たちの次の目標は、暴食龍ではない。
「――
「――! スローシウス!」
怠惰龍スローシウス。
その名の通り、怠惰にして怠慢の龍。人類の敵ではなく、そして同時に大罪龍の味方でもない、唯一にして無二の中立存在。
ただし、正確には僕の狙いはそちらではない。
「そいつの星衣物。
「すろーしうすどめいん?」
そいつ。
――スローシウスの星衣物は、
「そいつが持ってるんだ。
そう、僕の次なる目的は
対して、僕が選んだ方法は、ゲームに置いて四作目。『スクエア・ドメイン』の主人公が使用する、