負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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50.ダンジョンアタックしたい。

 ――奈落は、文字通り下へ下へ広がる、非常に広大な地下ダンジョンだ。特徴として、中央がぽっかり空いている。どこまでも続く暗黒の虚空。ここへダイブして、生還した概念使いは今の所皆無だ。概念使いは物理法則による怪我を負わない、落ちても死なないにも関わらず、生存率0%。

 そりゃあ、この下には星衣物とそれが作り出した無数の衣物、罠、その他諸々が待ち受けているのだから。

 

「……本当にダイブするのかい?」

 

 僕たちを見送りに来たアルケが、心配そうにこちらを見ている。

 

「ああ、何、私達なら心配はいらない、理由は詳しくは語らないが、タネを知ってるからな、この奈落の」

 

「……まぁ、アンタが言うなら、そうなんだろうけどさ」

 

 ため息をつくアルケに、僕らは苦笑する他ない、そりゃあ危険なことは解っている。というより、この先に何が在るかを知らない概念使いよりも、よっぽど僕たちは詳しいだろう。

 だとしても、暴食龍撃破に、ここであの概念起源は入手しておきたい。加えて、僕らの目的は基本的に星衣物か大罪龍の撃破。どちらかでいいのだ。だから、できることなら怠惰龍は星衣物を撃破したい。

 

「そういうわけだ、じゃあ行ってくる」

 

「おう、行ってらっしゃい……土産話は期待して待ってるよ」

 

「おいおい、成果自体はない前提なのか」

 

 二人は、随分と気さくに会話していた。そりゃまぁ、旧友で気のおけない仲だから、当然といえば当然なのだが、ライン公相手には結構かしこまった態度を取っていたから、割と新鮮だ。

 

「んじゃ、行くわよ……っていうか押さないでよね? 絶対おさないでよね!? 自分のペースで行くんだからね!?」

 

「後ろが詰まってるのーーーー!!」

 

「あああぁぁぁぁぁぁ――――」

 

 一方、リリスとフィーがもんどり打ちながら、奈落の底へと落ちていった。あの二人は結構仲がいいようだ。師匠とフィーは喧嘩というか、フィーが師匠をあおっていることのほうが多いが。

 なんというか、警戒しなくていい相手というのは、フィーにとっては楽な相手らしい。

 

 ちなみに、僕もいつ何を言い出すかわからないので、警戒対象らしい。恋と警戒は違うんだな。

 

「――にしても」

 

「うん?」

 

 と、そこでアルケが師匠に呼びかけた。

 

「随分、仲間に恵まれたね。昔は、ずっと一匹狼だったのに。そりゃまぁ、色々あったのは分かるけどさ」

 

「じゃあ解ってくれ、今回も色々あったんだ」

 

「……そうだね」

 

 うなずくアルケは、僕を見て微笑んでいた。意図は察せられるけど、はっきりとはしない。ただまぁ、悪いことではないだろう、と感じる瞳だった。

 

「なぁ、ルエ」

 

「ん、どうしたんだい?」

 

 そして、

 

 

「――アンタは、まだ止まったままなのかい?」

 

 

 その言葉に師匠は、

 

 一瞬だけ僕を見て、

 

 ――それから、何も答えることなく、奈落の底へとダイブした。

 

「……ルエを頼む」

 

「もちろん」

 

 僕はアルケにそう返し、師匠の後を追うのだった。

 

 

 ◆

 

 

 奈落の底。

 ゲームではここに至るまでにも紆余曲折があるのだが、そこら辺はすべてスルーして、僕らは降り立った。ちなみに、ゲームでも最終的にダイブするのは変わらない。

 ほら、奈落は基本穴の崖に道があるので、落ちやすいんだ。

 

「っと、ここが――」

 

「君の言う、怠惰龍の星衣物が住む遺跡、か」

 

 着地して、周囲を見渡す僕に、師匠が声をかけてくる。

 

「ん、アタシの遺跡とおんなじ感じね。壁の材質はなんかぜんぜん違うけど」

 

 基本的に遺跡はレンガを積み上げたようなつくりになっているが、ここは水晶のような素材だ。嫉妬ノ坩堝は全体的に暗い。

 そして、底自体にはなにもない、目の前に、扉が一つあるだけ。あそこが、僕たちがこれから向かう星衣物――アンサーガの住むダンジョンである。

 

「まぁ、そこらへんは個々の特色が出るんだよ」

 

「おくにがらなのー」

 

 なんか違うと思うが、とりあえず先に進むこととする。なんだかんだ、こういうダンジョンアタックは二回目だ。一回目は、フィーと。っていうかどっちも星衣物の遺跡じゃないか。

 さらに言えば――

 

「……思い返してみれば、この四人で本格的に戦うのも、これが初めてか」

 

「ああ、そういえばそうねぇ」

 

 フィーが同意しながら、龍形態に変化する。前回の憤怒龍戦で別行動だったから、この姿を見るのも久しぶりだ。

 ライン国に滞在中、何度か周辺の魔物狩りに参加したことがあったが、その時はずっと人型のままで通して問題なかったからな。

 

「で、ここで一つ注意点。前にも言ったけど、ここでは僕の知識が通用しない」

 

「……解ってるよ、()()()()()()()()()()()()()()んだろう?」

 

「ええ、難易度も、危険度も、おそらく僕らが挑んでも危険極まるものになっているでしょう」

 

 ――この場所は、シリーズ全体を通して何回か訪れる場所だ。ルーザーズで一回、4で数回。5で一回。

 そして、その度に敵の強さや危険度が変化する特性を持っている。これは、この遺跡には無数の衣物が存在し、それらが作用しあいながらダンジョンを作っているため、という設定と、ゲーム的な都合――突入時の推奨レベルに合わせる――という二つの都合が在る。

 僕たちは、レベル的には終盤も終盤、ラストダンジョンに突入しても可笑しくないレベルを有している。

 ので、当然ながら出てくる敵も、罠も、そのレベルが想定された。

 

「んふふ、その方がわっくわくなのー」

 

 まぁ、とはいえ。

 この四人での本格的な探索はコレが初めて、リリスと同じことを思う気持ちは、この場にいる全員が、少なからずあっただろう。

 

 というわけで、ダンジョンアタックスタートだ。

 

 

 ◆

 

 

「“スローマジロ”、そっち行ったぞ!」

 

「ああもう、スローシウスのバカ、これのどこが“スロー”なのよぉ!」

 

 僕らは、開けた遺跡内部で、戦闘を行っていた。敵は数体の魔物、入ってすぐの場所に、結構な数――だが、無理して強行突破をするほどではない――が待ち受けており、これを直接戦闘で討伐することにしたのだ。

 

 今、師匠がアルマジロ型の魔物、スローマジロが凄まじい勢いで転がりながらフィーに方へ突き進んでいることを告げた。

 現在、僕らは師匠が前衛、僕が遊撃、後方二人が射撃とバフで支援という陣営で戦っていた。前衛の師匠は魔物を数体引きつけているが、如何せん数が多く、いくつかがこちらに突破してくる。

 とはいえ、それは想定内というか、突破する前提で僕が動くのだ。

 

 悲鳴を上げるフィーの前に割って入ると、

 

「“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

「うーっ! “後悔ノ重複(ダブルクロス・バックドア)”!」

 

 二人がかりで速度デバフを入れて、スローという名から逸脱した脱法アルマジロに、ノロマの称号をくれてやる。身動きのほとんど取れないスローマジロを切り飛ばして倒すと、続けてやってきた魔物を――

 

「“P・P(パッション・パッション)”! “B・B(ブレイク・ブースト)”!」

 

 リリスのバフを受けながら、

 

「“G・G(グラビティ・ガイダンス)”!」

 

 上位技の一撃で切り伏せる!

 

「師匠! 合わせますよ!」

 

「でかした! 一気に行くぞ――!」

 

 そして、一気に師匠の方へとDDで距離を詰め、

 

「“L・L(ルーザーズ・リアトリス)”!」

 

「“L・L(ラスト・ライトニング)”!」

 

 二人まとめて、師匠が押し留めていた魔物たちに、最上位技を叩き込む。僕のLLは剣を巨大化したシンプルな斬撃。

 師匠の場合は、自身の得物である雷撃の槍を、凄まじい速度で射出する。直進する一閃は、周囲の魔物を巻き込んで、一網打尽にするのだ。

 

 それらがまとめて叩き込まれ、

 

「――一匹射程から逃れた!」

 

「任せなさい……リリス!」

 

「あいなの! “B・B”!」

 

 生き残った一体。これもスローマジロだ、師匠はコンボを稼ぐこととタンクを優先していたため、ほとんどダメージを与えていない。

 これを今の状況から一撃で吹き飛ばせるのは――

 

「――“嫉妬ノ根源(フォーリングダウン・カノン)”!!」

 

 フィーのコンボを必要としない熱線だけだ。

 

 リリスのバフも完璧に決まり、魔物は全滅した。

 

「――ふぅ、いい感じだったな」

 

「お疲れさまです。フィー、怪我はない?」

 

「おかげさまでね」

 

 戦闘を終え、僕らはお互いの状態を確かめる。

 概念使いには、概念崩壊という安全弁があるが、それがないフィーのことは、一応気にかける。とはいえ、ダメージが行っていないことは見ていたので、本当にただ確認しただけだ。

 帰ってきた答えも、ある意味そっけないものだった。

 

「んー、いい感じなのー」

 

「これくらいの魔物相手でも、よほどの大物じゃなければ、結構な数を一度に相手できるな」

 

「多分今なら暴食兵二十体も行けるんだろうなぁ……」

 

 それもこれも、一番大きいのはフィーの存在だろう。まず持って、ユニットとしてレベルが高く、一撃一撃の技の威力が重い。師匠並の火力を後方からバンバン投げてくれる上に、とっさに使える大技持ち。

 加えて僕と同じデバフ使いだから、速度低下を二重掛けすれば、それだけで魔物は置物になる。

 それを量産して、浮いた所を各個撃破。このときにも、使い勝手のいい大技であるフィーの熱線は大活躍なのだ。

 

 恐ろしやエネミーデータ。プレイアブルとして運用していい性能じゃなさすぎる……ゲームだったら雑に嫉妬ノ根源連打してるだけでゲームをクリアできるだろう。

 

「とにかく、これでいいのよね。アタシたち、かなりいい感じなのよね?」

 

「うん、正直すごく強いと思うよ、このパーティ。ただ――大罪龍と正面からやり合うってなると、何かしら別のものが必要になるんだよね」

 

「……概念起源、だな」

 

「なんか歯がゆいわねぇ、普通の敵相手には向かうところ敵なしって感じなのに、一番倒さなきゃいけない肝心要がそれって」

 

 と、そこまで言って、フィーが少しなにかに引っかかったのか、考える。

 

「……っていうか、確かこれまでの大罪龍戦って、アタシだけ概念起源使ってないじゃない! そもそも本気じゃなかったエクスタシア除くと! 一体でしかこなかった暴食龍にも使ったんでしょ!?」

 

「いやぁ……リリスが来てくれたおかげだよアレは。それに、厄介具合でいったら、坩堝より君の方が強かったし」

 

 嫉妬に叫ぶフィーをなだめる。

 いや、基本的に大罪龍ってただ強いだけじゃなくて、厄介な特性を持ってたり、状況があったりするんだもの、その点嫉妬龍エンフィーリアにはそういう特性はなくって、更には嫉妬ノ坩堝も同様だ。

 強化嫉妬龍はその点、純粋な強さでは一人なら絶対に勝てない相手だったけど、復活液のゴリ押しができたからなぁ。

 

「うう……納得いかない……」

 

「まぁ、その、なんだ? お互いに失うものがなかったからこそ、こうして共に轡を並べられてるわけでな? なんというか……今のほうが良かったんだよ、うん」

 

 珍しく師匠がフォローしていた。

 

「むぅぅ……いいわよ、いいわよ。私は最弱の大罪龍ですよー」

 

「んー?」

 

 落ち込むフィーを、リリスは不思議そうに眺めていた。さて。雑談はこのくらいにして、先に進もう。この遺跡の厄介なところは、戦闘以外にも色々と面倒なものが目白押しってところだ。

 

 

 ◆

 

 

「あああああああああっ! 右だ右右ーっ!」

 

「いや左よ! 右に行ったらその後が辛いじゃない!!」

 

「なのなのなのーーーーっ!」

 

 ――後ろから叫ぶ人達の声がうるさい。

 

「静かにしててくれー! 集中してるんだからー!」

 

 対する僕は、手元と眼の前に広がるフィールドに注視しながら、集中する。

 ――今、僕たちが何をやっているかといえば、このダンジョンのギミック攻略だ。何故か、このギミック、ミニゲームみたいになっている。

 端的に言うと、ラジコンでヘリを操作して、部屋の奥の鍵をとって帰ってくるというものだ。そこに、様々な罠――地雷だったり、対空砲火だったりが仕掛けられている。撃墜されたら最初からやり直しだ。

 

 現在、フィーが瞬殺、リリスがなにか変な遊びをしているうちに自沈、師匠がそこそこ上手くやるけど失敗。でもって僕のターンだ。

 仮にもゲーマー、こういう手元の操作は慣れたもの、なのだが……

 

 さっきからこういったゲームの体験になれていない師匠たちがだいぶエキサイトしていた。まぁ、命の危険もなくただ楽しいだけだからな、これ。

 

「……よし、取った!」

 

「やったじゃない!!」

 

「でかしたぞ! 早くもどってこい!」

 

 テンションの振り切れた二人に押されながら、僕は集中してラジコン――らしき衣物を操作する。いや、ゲーマーを名乗っているものの、僕の本業はアクション系ではなく、RPG系だ。膨大なデータをやり取りしつつ、針の穴を通すような縛りプレイなどはお手の物。

 けれども、こういった小難しいアクションは……あまり……適正が……

 

 いや、あると言えばあるけど、でなけりゃドメインシリーズを専攻してやり込んだりしないし……でも僕がドメインシリーズで好きなのはシナリオと世界観……むぅぅ……

 

「あっ」

 

 ――対空砲火に直撃。

 あと一歩のところで、ヘリ――らしき衣物は藻屑と消えた。

 

「ああああああああ!」

 

「後少しだったのに!」

 

 発狂する二人、僕の横から、こちらに手を伸ばしてくる。

 

 むにゅ。スカッ。

 何とは言わない。

 

「次はアタシよ!」

 

「いや、私が!」

 

「君たち仲いいなぁ!」

 

 ――なんてやり取りをしているところに、リリスが下からひょいっと顔をだす。そのままコントローラーを奪い取ってしまった。

 

「なのーん♪」

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 ――呆然とする二人を他所に、リリスはするすると妨害をすり抜けて、あっという間に鍵を回収してしまう。っていうかうまいな、やっぱこういうのはリリスが一番得意なのか。

 

「取ってきたの!」

 

 凄まじく鮮やかな手腕であった。最初は苦々しげにしていた二人が、やがてそのテクニックに魅了され、最終的には拍手を贈っていた。

 

「でかした!」

 

「えへなの」

 

 そういって、鍵を手にパタパタと走り出すリリス。

 ――後には、既に用を終えたコントローラーが残されていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「――師匠、フィー」

 

 ジリジリとそこに近づく二人に、

 

「次、行きますよ?」

 

 笑顔で呼びかけて、僕は二人の首根っこを掴むのだった。

 

 

 ――ここまでは、非常に僕たちは順調に進んでいたと言えるだろう。襲い来る魔物を、連携とユニットのパワーでサクッとふっとばし、度々こちらを足止めするリドルやミニゲームを、四人でウンウンうなりながらクリアする。

 

 一人でゲームの前でやっているだけのパズルは、なんというか足止めされているようで苦手だったけど、集まって意見を出し合いながらやると、これが案外楽しかった。

 

 それもあって、僕らは楽しく先へ進んでいたのだが――――

 

 

「――――なぁ」

 

「…………なんです?」

 

「――――いやその、どいてくれると助かる」

 

「…………すいません」

 

「――――それと」

 

「…………はい」

 

 

「…………これから、どうする?」

 

 

 僕と師匠は、現在二人きりになってしまっていた。

 どことも知れない暗がりで、ちょっと頬を染めて視線をそらす師匠。押し倒す形になってしまった僕は、気まずくなりながらも、その場をどくのだった。




アンサーガで期待したている方には申し訳ないですが今回は師匠回です。
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