負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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73.百夜は決戦に挑みたい。

 ――リリスとの二人きりの話を終えて、アンサーガたちも起き出してきた。アンサーガはだいぶ眠そうにしていたけれど――それが寝不足故か、普段からこうなのかは、残念ながら交流の少ない僕たちには判断のつかないことだった。

 

 そして、全員で朝食を終える頃に、さらにもう一つ変化があった。

 

 

「――やっとついたぞ!」

 

 

 研究所に、勢いよく師匠とフィーがなだれ込んできたのだ。

 

「ちょっと! 置いてかないでって言ったわよね!」

 

「ごめんって、でも伝言は残してきただろう!」

 

「不安がそれだけで解消されるわけないでしょ! もう! ハグして!」

 

 ぎゅー

 

「許す!!」

 

 置いていかれることをトラウマとするフィーをそうやってなだめつつ、羨ましそうにしている師匠を牽制して、とりあえずこれで全員合流だ。

 なんですか、やりませんよやりませんってば。

 

 恨みがましそうな師匠はさておき、師匠たちの分まで用意しておいた朝食を二人に食べてもらいながら、ここまでの経緯の説明を済ませる。

 まずもって、百夜がいることに、師匠は驚きを隠せないようだった。

 

「君のせいだろ」

 

 見た瞬間、僕をジトッとした目で見てきたが、はい。まったくもってそのとおりです。申し訳ありません……いやしかし難しい問題なのだ、僕が触れると言い訳にしかならないのである。

 無知な百夜につけこんだこと? ……ははは。

 

「――と、まぁこんなところか」

 

「そりゃ、目の前で死にたいなんて言い出したら、リリスはキレるわよね」

 

「ふんすなの」

 

 パクパクと朝食のサラダを食べながら、他人事のようにつぶやくフィーに、リリスは胸を張った。そして、口に入ったそれを飲み込むと、やれやれと言った様子で。

 

「アンサーガ、ね。こうして直接会うのは初めてになるけど――」

 

「なにさ、嫉妬龍」

 

「エンフィーリアって呼んで、そう呼ばれるの嫌いなの……で、人生を丸ごとひっくり返された感想は?」

 

 同胞たちを撫でながら、話を聞いていたアンサーガ、それに対して、同じ穴のムジナ、もといフィーがズバリ聞いてくる。まぁ本人的にはそこ、気になるよな。

 

「……正直、実感湧かない。未だにこれでいいかな、と思わなくもない。けどねえ」

 

 アンサーガは僕たちを見て、

 

 

「――君たちなら、なんとかするだろ」

 

 

 そんなことを、同胞たちと戯れながら、つぶやくのだった。

 

 

 ◆

 

 

「さて、じゃあ今回の概要をおさらいしよう」

 

 フィーと師匠がやってきたことで、二人に対してこれから何をやるか、説明をする必要が出てきた。僕らは机を囲んで、飲み物をそれぞれ飲みながら、作戦会議を始める。

 

 進行は、基本的に僕とアンサーガ。

 

「まず、今回の目的、これは言うまでもなくアンサーガを未来に送ることだ」

 

「正確には僕と同胞たちを、だね」

 

 対して、

 

「手段は、百夜の概念起源。ただし、こっちの百夜は概念起源を使用済みだから、使うのはあっち。――まだ目覚めてない百夜」

 

「もっと言えば、手段とはあちらの百夜を目覚めさせること、でもあるんだねえ」

 

 くふふ、と笑うアンサーガ。師匠とフィーはなんというか、半信半疑という様子だ。そりゃまぁ、時間移動なんてもの、彼女たちは想像もつかないのではないか。

 

「というか、本当に時間移動なんてできるのかい? いくら概念起源とはいえ、正直信じられないけど……」

 

「百夜は特別製ですからね。僕も敗因としてでなければ似たようなことができるんですが……まぁ、今は敗因なので」

 

「なにそれ」

 

 話してると脱線するから、また今度ね。

 

「特別製といえばさぁ、敗因……至宝回路の調子はどうなのさ」

 

「ん? 使用後も特に違和感はないよ。なんか吸われる気がするけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感覚もあるな」

 

「吸う!?」

 

 ――フィーは何を誤解してるんだ?

 既に二回は使ったけれど、特に違和感はない。ゲームでは4主は最初に使った時は気絶して数日目覚めず、二回目は意識こそ保っていたけど、概念崩壊していないにも関わらず疲弊していたな。

 

 つまり、一回使うだけでもだいぶ寿命をもっていかれる。対して僕は、使った側から、その寿命が補充されているようだった。

 さらに言えば、ほとんど減っている気もしないので、総量も多いということだろう。

 

「ならよかったよ。あいつに細工でもされていたら、堪ったものじゃないからねえ」

 

「それを言ったら、アンサーガは既に一回はされてるじゃないか」

 

()()()()だよ。推測だけど、あいつ――マーキナーは一人の存在に対して、一度しか介入できないんじゃないか?」

 

 ふむ? と考える。

 

「マーキナーは生み出す存在だ。書き換える存在じゃない。そして、人を生み出すことは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――不老不死の存在がいるとして、そいつは死を無限に乗り越えられるとしよう。でも、だとしても、そいつが生まれたのは、人生において一度だけ。

 死ぬことは何度もできても、生まれることは一度しかできないのか。いや、変な話だけど。

 

「なるほどなぁ……っておい、さっき脱線するから話を戻す、って言った側からこれはどういうことだ?」

 

「すいません」

 

 ――閑話休題。

 

 百夜を目覚めさせる方法について。

 

「原理としては、使用回数の切れた概念起源を使うときに、生命力をエネルギーに変換するのと同じだ。百夜に対して、生命力をエネルギーとして送り込む」

 

 ゲームではアルケで、そして少し前までは、師匠を使ってアンサーガがしようとしていたこと。――そういえば、アンサーガは師匠に執着していたけど、今はどうなった?

 ……みれば、チラチラと視線は送っている。送っているが……気まずそうだ。

 

 察するに、若気の至りとでも思ってる?

 

「普通なら、これには強力な概念使いの命一つを犠牲にする必要がある。百夜の時代では、アルケがその生命をつかって百夜を誕生させた」

 

「それで、母様、なのねー……」

 

 アルケに対して、母と呼びかけた百夜のことをほじくり返すリリス。やめたげなよ、割とそっちも恥ずかしい記憶なんだから。

 見れば百夜が無表情でリリスの頬をむにむにしていた。

 

 で、本題。流石に命がけで百夜を生み出したくはないので、別案を考える必要があるが――

 

「けど、百夜が百夜に対して、エネルギーを送る場合はどうだ?」

 

「……エネルギーに変換するってことは、どこかでロスが発生するってことだよぉ。だから、自分の力を純度そのままに持っていける百夜なら、命を燃やす必要はないだろうねえ」

 

「ついでに言えば、百夜に寿命はないんだったな。さっきうちの弟子が()()()()()()()()といったけど、百夜もそのくちか」

 

 理解の早い師匠が、補足するように言う。僕と百夜が同種存在であることも、師匠は理解してるので、その辺りも推察ができるのだ。

 

「そういうことです。百夜が百夜本人にエネルギーをわたして、あの百夜を目覚めさせる……ただし、これには問題があります」

 

 問題。

 それが今回の本題でもある、フィーが少し考えて、つぶやいた。

 

「んー、どうせ目覚めたばかりの百夜に、何か起きるんでしょ? 元だと、起きてすぐに概念起源だったのよね」

 

「っていうか、その起きてすぐに概念起源、が問題じゃないか? どうするんだよ、近くにいる百夜」

 

 師匠の推察で正解だ。

 ゲームではそもそも誕生の時点で命を燃やしてしまっているから、どうしようもないが。この世界ではまた違ってくる。百夜を引き剥がさないと行けないわけだ。

 

「……時間移動の暴走。巻き込まれたら、どこに飛ばされるか……解ったものじゃない」

 

 そこは時間移動の専門家、百夜のお墨付きだ。

 

「加えて言えば、今百夜自身が、時間移動を暴走してこの時代に飛ばされてるわけだけど――その暴走が上書きされる。簡単に言うと元の時代に戻れない状態でどこともわからない場所に飛ばされるんだ」

 

 そして、流石に二重で時間移動が起こると、僕もどうなるかはわからない。想像はできても、これといった確証はないからな。

 

「だから、概念起源を起動した百夜と、百夜を起動させた百夜を分離させないと行けないわけなんだけどねえ……」

 

「アンサーガ、たしかアンタ特定の状況下ですごい強くなったわよね。……あんな感じになるわけ?」

 

 今度はフィーが正解だ。百夜とアンサーガは同種の特性を持つ、特定条件下での強化。そして、生まれたばかりの百夜は、その条件を無視して強化されている。

 

 ゲームで言う裏ボスだ。裏ボスと言うならば怠惰龍とそう違いはないかもしれないが、この百夜に遠慮はない。とはいえ、今回はリリスも加えたフルメンバー、やりようはあるだろう。

 

「だから戦闘になる。ただ、これは同時に好機でもあるんだ。一度落ち着かせれば、百夜に好きな時代へ時間移動してもらえるからね」

 

「――千年後、か。まぁそもそも、元の歴史で七百年後に飛ばせたことも奇跡みたいなものだしな。暴走したままじゃ、どこに飛ぶか解ったものじゃない、か」

 

 一応、ゲームで七百年後に飛ばしたのは、アルケさんの意思だが、割とややこしいんだよな。

 

「ところで、分離させなきゃいけないから、同時にってのは無理なのは分かるけど、アンタがやらない理由は何よ」

 

 そこで、素朴な疑問をフィーがぶつけてくる。

 これはちょうどいいタイミングだな。

 

「百夜を目覚めさせるには、二つのものが必要になる。一つはエネルギー。ただ、これだけじゃ百夜は目覚めない」

 

「んー、だから同胞さんたちに、エネルギーを集めさせるのをやめたかったのねー」

 

「徒労に終わるからね。で、もう一つっていうのが、簡単に言うと、意思だ」

 

 意思。

 百夜とリリスが同時に首をかしげる。

 

()()()()()()()()()()っていう純粋な意思だよ」

 

「なんでそんなものが必要なんだろうねぇ、不思議だねぇ」

 

 いやみったらしくどこぞの誰か(マーキナー)にむけて言葉を募らせるアンサーガに苦笑しつつ、つまるところ、僕だと純度が足りない。最初から百夜を目覚めさせて、利用しようと企んでる奴が目覚めさせようとしたら、目覚めるものも目覚めないだろう。

 

 百夜もその計画に加わっている側だが、僕と百夜の純粋具合など、比べるまでもないのは日を見るよりも明らかだった。

 

「自分は煩悩まみれです、って公言してるようなものだけど、死にたくならない?」

 

「いや、別に」

 

「……そうね、アンタはそういうやつよね」

 

 ワガママだからな、そのワガママを通すためなら、ちょっとの悪評も気にならないさ。

 

「――とにかく、概要としてはそんなものだな? あと、何か説明し忘れてたこととかないよな」

 

「多分大丈夫かなぁ、うん、うん、うん。そういうことなら、準備もいいかなぁ」

 

 師匠の言葉に、アンサーガが(若干恐る恐るといった様子で)うなずいて、手にしたカップの中身を飲み干す。人形っぽい見た目だが、食事は普通に取れるんだよな。

 

 さて、それじゃあこれで会議は終了だ。

 

 僕らも合わせて立ち上がり、僕は百夜を見た。

 

「準備はいいかい? 百夜」

 

「うん」

 

 ――そういうことなら、

 

 さぁ、今回の()()()()()()の始まりだ。

 

 

 ◆

 

 

 ――ゲームにおいても、この百夜との戦闘は発生する。アルケによって百夜が目覚めた後、それでも諦めきれない負け主たちは、百夜からアルケを引き剥がそうとするのだ。

 

 この時、救いがないのは、既にアルケの命は燃え尽きていたということ。たとえ助けても、アルケは負け主たちに別れの言葉を残すことしかできないのだ。

 だが、今回は違う。

 

「――百夜」

 

「……リリス」

 

 眠る百夜の前で、二人の友が向かい合う。

 もはや、この二人の関係を、親友以外で表現することは無粋だろう。出会って間もない関係ではある。一日と少し、積み重ねはあまりにも少ない。

 

 だが、リリスは百夜の道を切り開き、

 百夜の立ち位置は、リリスにとっては初めての対等な存在で。

 

 二人は互いに、互いを必要としていた。

 

 それは自然と出来上がり、そして互いに求めることなく築き上げたもの。二人だけの友情は、もはや言葉もなく、そこにあった。

 たとえこの場にあっても、今更それを確かめる必要はない。

 

 

()()()()()()()()なの」

 

 

「――行ってくる」

 

 

 ただそれだけを言葉に変えて。

 思いは既に伝えあったから、百夜はリリスに背を向けた。

 

 そして、未だ眠る百夜へ向けて、未来の百夜は、それを慈しむように微笑んだ。

 

「――君は、どんな未来を、辿るんだろう……ね?」

 

 天井を見上げて、その先にある空を見上げて、

 

「この世界……とっても広い……とっても楽しい」

 

 それから、僕たちを見た。

 

「すごい人が、いる。面白い、人がいる。……とっても強い、人がいる」

 

 そして、最後に眠る自分へと向き直ると。

 

「私……が、私であるなら、楽しんで、おいで」

 

 ――そのポッドへ、手を触れた。

 

 

「きっと、世界は()()()()にあふれてる!」

 

 

 さぁ、目を覚ませ、白光百夜。

 ドメインシリーズ、その看板キャラクターにして、()()()()()()()使()()。この世に彼女に並び立つ概念使いは一人もおらず、かの強欲龍すら強さの目標とした君を、

 

 あらゆる存在の、最終到達点たる最強という概念を、

 

 僕たちに、見せつけてみせろ。

 

 

 ――僕は敗因。

 

 

 その最強が、打倒される敗因となる者だ!

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