負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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74.真・百夜と戦いたい。

 百夜がシリーズの看板キャラだと、僕はさんざん言ってきたが、このシリーズにおいて、()()()()()()()()()()()といえば、間違いなくこの裏ボスモードの百夜――通称真・百夜だ。

 これは単純に裏ボスとしての百夜が一番知名度がある、というだけではなく、()()()()()()()()()最も人気があるのは色欲龍で、敵として人気があるのが百夜だ、ということ。

 まぁ敵といっても、百夜との戦いに後腐れはないわけだから、ただ単純に敵と表現するのも違う気がするが。

 

 正しく表現するならば()()()()()()()()()一番人気なのが色欲龍で、()()()()()()()一番人気なのが百夜なのだ。

 ゲームを評価する上で、大事なのはストーリー性とゲーム性。この内ストーリーを牽引するのが色欲龍で、ゲームを牽引するのが百夜ということ。

 

 なにせ裏ボス百夜はこのゲームにおける集大成、持ちうる力のすべてをぶつけられる最強の敵。怠惰龍がスタッフからの挑戦状、と評されるのに対し、真・百夜はプレイヤーの最後の目標、と評される。

 何故なら真・百夜には()()()()()()()()()()()()()。怠惰龍のように面倒なパターンを組んで襲ってくるわけではなく、また倒すために特殊な条件もいらない。

 装備はすべて最強装備、メンバーはレベルが高いやつを上から順。()()()()()()()()()()()()だ。

 

 常にプレイヤーの最善でもって打倒することが求められる敵。

 

 つまるところ、真なる百夜の強みは、至って単純。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――それこそが、今から僕たちが相対する、最強と称されるゲーム看板キャラ、真・百夜の戦闘スタイルであった。

 

 

 ◆

 

 

「ようこそ百夜、ああ、ああ、ああ! こうして生まれてくることを、僕は心のそこから祝福しよう。もう、僕にかつてのような執着はないけれど! 今の僕には、君に対する愛が満ち足りている!」

 

 開幕、アンサーガがそう言いながら()()()()()()。通常ではない挙動、今回の戦闘におけるアンサーガの役割は非常に単純だ。

 

「さぁ、どこでもないどこかへ進むんだ! 君にはそれが許されている! これから進む道の先、まだ見ぬ明日を、探しておくれ!」

 

 彼女は戦闘に参加しない。

 理由は二つ、僕たちの連携に、彼女は合わせる気がないから。

 そんなことは必要ない、直接戦うのであれば、彼女は第二形態で好き勝手暴れまわればいい。ただ、そうすると困ったことが起きるから、戦闘には参加せず、別のことを彼女はするのだ。

 

 もう一つの理由、主たる理由、彼女の場合は、そう。

 

 ()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「絢爛あれ、僕らと同胞が作り上げる、唯一無二の宝箱(ショールーム)!」

 

 両腕を高らかに上げて、その中央には、彼女の概念武器であるぬいぐるみが、優しげに、微笑むように浮かんでいた。

 

 

「“S・S(スクエア・ショータイム)”!」

 

 

 同時に、ポッドの中から現れた、光に包まれた百夜もまた、顔を上げる。その瞳には生気はなく、彼女は未だ目覚めたばかり。

 故に、寝ぼけ眼で使用するのだ、それを――

 

 

「“C・C(クロノ・クロニクル)”」

 

 

 アンサーガは、百夜は、互いに同時。

 ()()()()()()()()()

 

 ――百夜の概念起源を能動的に利用する上での問題は一つ、彼女は起き抜けに概念起源を使用するということ。その場合、どういう事が起こるかと言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 この対象は、使用までの間にキャンセルすることはできるが、改めて追加することはできない。対象は視界内の生物すべて。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。が、そうなると、戦闘に同胞を巻き込むことになる。

 

 同胞は強い、間違いなく。

 だが、今回の戦闘においては完全に足枷というか、カモにしかならない。

 なぜなら、非常に身も蓋もない話、同胞は百夜のホーリィハウンド――その強化版を誰一人として耐えきれないからである。

 

 ホーリィハウンドの特性は防御無視、全画面攻撃、全体攻撃。同胞は全員纏めて破壊されて終わりだ。故に、同胞をこの戦場においてはおけない、なのにおいておかないと同胞を連れていけない。

 だから発想を逆転する必要があるのだ。同胞が戦場にいてはいけないなら、()()()()()()()()()()()()。そのためのアンサーガの概念起源。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確には他にもいろいろな効果があるのだけど、今回はある効果を残して残りは全カットだ。ボス耐性のある真百夜に効果ないからね!

 使用者のアンサーガは戦場に入ってこれないが、十分だ。

 

 ここには僕がいて、師匠がいて、リリスがいて、フィーがいる。

 

「――四人でこういうすごいのとやるの、初めてなの」

 

「腕がなるわね、ああ、強いって妬ましい!」

 

「焦って自滅しないでくれよ、さて――」

 

 師匠の視線にうなずいて、

 

「ええ、行きましょう!」

 

 僕は、戦端を開いた。

 

 

 ◆

 

 

 戦場は、さながら怪物が作ったお菓子の城。

 そこかしこがよくわからない強いて言うならピエロとでもひょうすべき道化師めいた仮装を思わせる装飾が施され、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような色彩が目に悪い。

 ああだが、そんな混沌の中にある、真っ白な少女。

 

 百夜は、どこか妖しげな美しさを誇っていた。

 

「――“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

「“T・T(サンダー・トルネード)”!」

 

 開幕。僕と師匠、二人がかりで百夜の横合いから攻撃を加える。とはいえ、これの大きな目的は無敵時間だ。僕らが攻撃を放つと同時に、百夜が両腕を左右の僕らに向けて、

 

「“R・R(ライジング・レイ)”」

 

 一度の概念技で、二発分の概念技をぶっ放してくる!

 

 それを躱すと、僕らは攻撃が終わった瞬間に、

 

「“E・E(エレクトロニック・エクスポート)”!」

 

「“D・D(デフラグ・ダッシュ)”!」

 

 一気に、百夜の後方へと回り込む。それに視線が向く百夜。この状況では、百夜は周囲に檻のように光の刃を出現させるホワイト・ウィンドウが有効手だ。僕らはそれを無敵時間で透かす必要があるが、他にも手段はある。

 

「こっち見なさいよッ! “怨嗟ノ弾丸(スリリング・ストライク)”!」

 

 フィーの遠距離攻撃が、視線をそらした百夜へと突き刺さる。一瞬、ノックバックしたところへ、

 

「“B・B(ブレイク・バレット)”!」

 

「“M・M(マグネティック・マインド)”!」

 

 無敵時間のない技を、僕らは叩き込んだ。

 

「――“W・W(ホワイト・ウィンドウ)”」

 

 一瞬、百夜の行動が遅れた。そこを、

 

「“S・S”!」

 

「“T・T”!」

 

 僕と師匠の、無敵時間が存在する技での追撃が、間に合う。

 

「――ッ」

 

 百夜はさらにノックバックした、いっきに連続攻撃を叩き込まれ、その体が大きくのけぞる。

 

「今なの! フィーちゃん! “B・B(ブレイク・ブースト)”!」

 

「解ってるっての! あんたらも巻き込まれるんじゃないわよぉ!」

 

 ――僕らは、即座に移動技で飛び退いた。フィーの口から、膨大なエネルギーが溢れ出る!

 

「“嫉妬ノ根源(フォーリングダウン・カノン)”!」

 

 このパーティで最も取り回しの良い最大火力、熱線。リリスのバフを受けて勢いよく放たれたそれが、百夜へと迫る。そして、

 

 ――着弾した!

 

「……よし、どうだ!?」

 

「いえ……ダメです!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何が起こったか。対応されたのだ。一応強化状態でない百夜にもある技なのだが、

 

「“C・C(カウンター・カンテラ)”」

 

 みれば、フィーの熱線は途中で()()()()()。カウンター・カンテラは敵の攻撃を受け流す技、素の百夜だと弾ける範囲がそこまで広くなく、火力で攻めたほうが早いので、百夜はあまり使用しない。

 ただ、強化状態ならフィーの熱線すら弾けるのだ。

 

 そして、こちらは真百夜にしか使えない行動。

 

「“N・N(ネットワーク・ニューロニクス)”」

 

 ――直後、百夜の姿はフィーに迫りつつあった。

 高速の移動技、この場にいる誰よりも、おそらく歴代の概念使いの中でも最速に位置するであろうそれは、更には全身に当たり判定のある突進技でもある。

 厄介なことに、僕らではどうやっても追いつけないそれは、フィーが次の攻撃に移るよりも前に、光の刃を手のひらから生み出し、

 

「“R・R(ライジング・レイ)”」

 

 襲いかかる。ああ、だが。この場に今、フィーの近くで、完全にフリーなやつが一人いるよな!

 

「さ、せ、ないのお! “K・K(ナイト・ナックル)”!」

 

 リリスが、()()()()()()()()()()で吹き飛ばし、攻撃の範囲から外す。そしてその直後に師匠がリリスの元へと、移動技でたどり着き、二の矢を封じた。

 

 ナイトナックルの特性は高いノックバック効果だ。攻撃を得意としない後衛が、敵に囲まれたときに使用する技。他にも、無防備になった別の後衛を、攻撃が届く前に吹き飛ばす。

 フィーのタフな体力は威力が低いこれでは微塵も削れない。

 

「っと、お!」

 

 最初から受けることが解っていたために、フィーは即座に着地、その前に僕が遅れてやってくる。師匠と僕では、移動技や敏捷の性能が違うのだ。

 

「大丈夫かい?」

 

「次が来るの! 気をつけて!」

 

 叫ぶリリス、見れば百夜は即座に次の行動へと映っていた。

 

「下がって、フィー!」

 

「解ってるわよ!」

 

 両手に光の刃を構えながら、百夜は、

 

「“R・R(ライジング・レイ)”、“W・W(ホワイト・ウィンドウ)”」

 

 ()()()()()()()()()()()()。否、違う、同時ではない。あくまでほとんど同時というくらいに次の概念技使用への溜めが少ないのだ。

 足元から伸びる光の刃を、ステップで回避しながら、僕らはライジング・レイを受け止める。

 

「一発一発が重い! これが本当に概念使いなのか!?」

 

「その域はとっくに越えてます! 今の百夜は、僕たちが戦ってきた中で、ぶっちぎり最強の敵です!」

 

 強欲龍よりも、憤怒龍よりも、怠惰龍よりも、今の百夜は間違いなく強い。

 強欲龍は、不死身の機能があるからわからないが、同時にゲームで唯一、真百夜と対決したことのある大罪龍であるやつは、死にはしなかったものの、()()()()()()

 

 そんなやつを相手にしようというのだ、これは僕らにとって、間違いなく現状最大の激戦になる。

 

 とは言え――

 

「でも、コレまでと違って、こっちの戦力も全員欠けることなく、揃ってんのよ!」

 

 フィーの言う通りだ。僕らが攻撃を抑えている間、合流したリリスとフィー。先程と同じ構えだ。最大火力の熱線が百夜へと向けられている。

 

「――ダメだ、フィー!」

 

「“G・G(グローリィ・ゴースト)”」

 

 しかし、百夜は僕ら二人がかりで抑えてなお、遠距離攻撃をフィーにぶっ放す。

 

「チッ……」

 

 即座に発射態勢をやめ、地を滑るように転がるフィー、当たったところで死にはしないが、間に合うのだから回避しない理由もない。

 何とか回避するものの、そこから百夜は遠距離攻撃を、僕らとフィーたちへ向けてやたらめったらに放ち始めた。

 

 これで、それまでの攻撃も手が緩んでいないのだから、凄まじいというほかない。

 

「だったら――“E・E”!」

 

 師匠が僕に目配せをしてから、一気に百夜との距離を取る。狙いは単純だ、距離を取りながら――

 

「“C・C(カレント・サーキット)”!」

 

 遠距離から百夜に牽制を加える。弾幕の一部がそちらへ向いて、僕の負担はトータルでそこまで増えていない。

 

「フィーも、とにかく遠くからぶっ放せ! 師匠に攻撃を集中させるな!」

 

「……そういうこと! いくわよリリス、掴まってなさい!」

 

「あいなの!」

 

 こちらの意図を理解したフィーが、リリスを背に乗せて駆け出す。そして、

 

「“後悔ノ重複(ダブルクロス・バックドア)”!」

 

 遠距離攻撃の密度が増した。僕が前衛を受け持つ間に、師匠とフィーが飛び回りながらチクチクと攻撃を加えていく。当然こちらの負担は増えて、いくつか百夜の攻撃が僕のHPを削り始める。

 しかし、

 

「てややややー! “G・G(ガード・ガード)”!」

 

 自身の防御をフィーに任せる形になったリリスが、縦横無尽にバフと回復を投げまくる。戦線はそれで一瞬の膠着を見る。

 それをマズイと悟ったか、百夜はすぐに動きに変化を見せる。

 

「“N・N(ネットワーク・ニューロニクス)”」

 

 それは、僕を押し飛ばしながら、後方の師匠たちへ接近するためのものだろう。ああしかし、

 

「逃がす、かよ……!」

 

 僕はそれに食らいつく。具体的には、物理的にくっついて。

 吹き飛ばされそうになりながら、百夜の手を何とか掴むと、勢いままに突き進む百夜を追いすがる。狙いは、フィー。嫉妬ノ根源を警戒したか!

 

「フィー! ぶっ放せ!」

 

「……もう! どうなっても知らないわよ!」

 

 その声には、若干百夜への嫉妬が見られた。まぁ、女の子の腕を引っ掴んでるんだから、当然といえば当然だけど――これでもこっちは命がけなんだぞ!? 常に当たり判定が発生するものだから、HPがそれはもうすごい勢いで削れていく。

 

「リリス、何とか持たせてくれ……!」

 

「お馬鹿さんにつける薬がほしいの!」

 

 そして、百夜がフィーの目前で停止する。この位置ではもろに嫉妬ノ根源を受ける形になる。構わないのか――? 構わないのだ、この距離でも百夜は嫉妬ノ根源を弾けるのだから。

 

「あああああっ! “嫉妬ノ根源(フォーリングダウン・カノン)”!!」

 

「――今だ!」

 

 百夜から手を離し、剣に力を込めて、僕は叫ぶ。同時に、足元から光。

 

「“C・C(カウンター・カンテラ)”。“W・W(ホワイト・ウィンドウ)。“R・R(ライジング・レイ)”」

 

 百夜渾身の三連撃。カウンター・カンテラで嫉妬ノ根源を弾き、ホワイト・ウィンドウで僕たちを牽制しつつ、ライジング・レイで弱った僕にトドメを刺す算段だろう。

 

 だが、僕にはSBSがある。それに、()()()()使()()()3()()()()()()

 

「今だ、師匠――!」

 

「本当に! 無茶をするな、君は――!」

 

 遠く、遠距離攻撃と移動技でコンボを稼ぎきった師匠が、紫電の槍を構えて、叫んだ。ああこれで、

 

 

「行け――ッ! “L・L(ラスト・ライトニング)”!」

 

 

 もう逃げられないぞ、百夜!

 

「――!」

 

 おそらく、驚愕。僕が概念崩壊せず、どころか一瞬意識を外してしまった相手からの最上位技。最悪のタイミングで放たれたそれに、百夜は貫かれた。

 

「っし! どんなもんよ!」

 

「――――ううん!」

 

 思わずガッツポーズするフィーに、リリスが叫ぶ。ああ、そうだ。

 

「大技が来るぞ!」

 

 紫電に貫かれた百夜の瞳が、こちらを鋭くにらみつける。

 ああ、これは、

 

 避けられない。

 

 

「“HH・HH(ハンティングホラー・ホーリィハウンド)”!」

 

 

 直後、強化された百夜の最大技が、僕らへ向けて放たれた――――

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