負けイベントに勝ちたい   作:暁刀魚

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75.真・百夜を乗り越えたい。

 ――ハンティングホラー・ホーリィハウンド。

 主に百夜が裏ボスとして君臨することとなった2以降――真百夜と共に用意された、百夜最強の必殺技。予算の都合で白背景に無数の斬撃という形態となったホーリィハウンドと比べると、こちらにはきちんとエフェクトが存在し、回避ができる。

 

 では、全画面攻撃のホーリィハウンドと比べると弱いのではないかと思うかもしれないが、そうではない。全画面のホーリィハウンドは回避できない防御無視攻撃、故にイベントなどで使われる時でない場合。つまりきちんと対決する場合バランス上その威力は低くなくてはならない。

 だが、こちらは回避できるのだ。回避できるのであれば、ダメージを抑えなくても良いということ。故に、攻撃の種類としてはホーリィハウンドとは完全に別物。

 

 回避できない絶対的な攻撃と、回避できるがゆえに致命的な攻撃。二つは互いに正反対とも言える特性を持っていたが、しかし。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ、僕らは一瞬にして壊滅の危機に追い込まれる。

 ――ハンティングホラーのエフェクトは、いうなれば這い回る光の蛇だ。あるいは鎖、周囲を飛び回り、やがて僕らの退路を断ってくる。

 

「固まっちゃダメだ! 足を止めるのもダメだ! とにかく歩みを止めないで!」

 

「そんな……こと、言っても!」

 

 最初に限界を迎えたのはフィーだった。後衛タイプと、戦闘経験の少なさ、自然な成り行きだろう。大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。

 

 ――この空間はもともと4のラストバトルのための場所なのだけど、アンサーガの同胞的センスが散りばめられたそこは、壁に触れると狂ったように壁が笑い始める。

 

 ケタケタと、ケタケタと、ケタケタと。

 

 甲高い嬌笑が響き渡って、フィーは地に落ちる。

 

「フィー!」

 

 叫ぶ、直後。フィーの身体は赤黒い血のような球体に取り込まれた。――まじかよ。

 

 思わず驚愕してしまうが、攻撃の手は止んでいない。周囲に飛び回る光の蛇を、何とか転がるようにして回避、集中しなおす。

 ――球体に取り込まれた件に関しての問題はない。アレは()()()()だ。言うなればアンサーガ版復活液。

 

 現在、この空間には僕たちに対してある効果が発揮されている。それは致命的なダメージを受けた場合、それを治療する効果。アンサーガの概念起源で唯一僕らをサポートしうる効果であった。

 それはしかし、ある事実を示す。

 

 ここまでの戦いを思い起こせば分かるが、()()()()()()()()()。それが、治癒の必要なほどのダメージを受けた。

 フィーはボスキャラ仕様であるため、HPが僕たちの数倍存在する。()()()()()()()()()()()()のである。

 ゲームにおいては、()()()()()()()()()()()()()というとんでもない仕様であるこの攻撃。よもや、フィーの体力すらワンパンしうる火力であるとは。

 

 末恐ろしい話だ。そして、僕たちパーティの中でフィーの次にやられるのは――当然ながらリリスだ。

 

「む、ううううう!」

 

 避けきれなくなったリリスが吹き飛ばされ、地面に転がる。――こちらも血なまぐさい球体に飲み込まれていった。

 この仕様のありがたいことは、復活までに多少のタイムラグがあるということ、そのタイムラグの間に攻撃が終了するのだ。

 

 いや、しかし。

 想定を越えてきた。まさかフィーすら一撃で屠る火力だとは。それはまずい、大変にマズイ。フィーには概念崩壊のセーフティがないから、()()()()()()()()()()()()。アンサーガを未来に送り届ける以前の問題だ。

 

 一応、そうなった場合に取れる手段はなくもないが……その手段は今使えない。使えるようになるのは、暴食龍の討伐後。

 ――暴食龍を、フィー抜きで討伐など、考えたくもない事態だった。

 

「――師匠!」

 

 もはや、迷っている暇はない、フィーならば耐えられるだろうという、甘い考えは捨ててしまわなければ。一応、そうでなかった時の行動も考えてある。

 最初の想定よりも、リスクは高いが――

 

「ああ、もはや()()()()()()だろう。やってしまえ――!」

 

 手段は、とても単純。

 

 

「行くぞ、百夜! ――“◇・◇(スクエア・スクランブル)”!」

 

 

 次のハンティングホラーが訪れる前に、決着をつける。そのためには――この攻撃を強引に回避してやりすごす!

 回避できるから致命的なダメージなのだ。この蛇のうねりは、回避できないようには規定されていない。

 

 だから強引に抜ける。

 

 切り札も使って、もはや止まることはありえない!

 

「おおおおッ! “S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

 無敵時間、身体に絡みつくように無数に迫るそれを、纏めて一秒で回避する。続けて、開けた視界へ向けて、

 

「“D・D(デフラグ・ダッシュ)”!」

 

 移動技。一気に百夜への距離を詰める。もはや至宝回路を起動して、後がないこの状況。もはや攻撃の終了を待っていることすら惜しい。前に進み、一気に仕掛けるのだ。

 さらに無敵技で回避。何度かステップをして弾幕の隙を見出し、そこに身体をねじ込む。距離を詰めるたびに密度がましていく。そして、やがて目の前に壁ができた。

 

「先に、進めない――!」

 

 効果終了までは後数秒、であればここでやり過ごし、更に踏み込む!

 

「“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

 であればやることは唯一つ。

 スロウ・スラッシュから。ブレイク・バレットへの移行。そして即座にスロウ・スラッシュへの回帰。SBSの無限無敵。

 

 それを、二回、三回。

 

「――“S・S(スロウ・スラッシュ)”!」

 

 四回目、を、放つ――が、起動しない。

 

 コンボの入力をミスった!? このタイミングで!? 焦りが出た! 目の前に蛇、後方に光の鎖、もはや絶体絶命。

 ――いや!

 

 

「“C・C(カレント・サーキット)”!」

 

 

 まだだ! 師匠の遠距離攻撃が僕に突き刺さり、僕はそれに吹き飛ばされる。否、この状態の僕はスーパーアーマー状態で、攻撃を受けても吹き飛ばない。

 だから正確には、僕は師匠の飛ばした雷撃の弾丸に、手をかけたのだ。

 ノックバックがないということは、()()()()()()()ということ。僕らが僕らであるからこそできる曲芸の極地。

 弾丸に手をかけて、横に飛び退いた直後、光の蛇が僕の側を通り過ぎていく。

 

「――先に進め! 君にはそれができるはずだ!」

 

「はい、師匠!」

 

 そして、師匠の激励を受けて前に進んだところで、――ようやく攻撃が終了する。ああ、けれど。それは百夜の再起動も意味していて。

 

「“N・N(ネットワーク・ニューロニクス)”、“R・R(ライジング・レイ)”、“W・W(ホワイト・ウィンドウ)”」

 

 凄まじい勢いで突っ込んできた百夜が、二振りの刃を振りかざし、僕に剣戟を押し付ける。そしてそこに飛び出る光の刃。

 構うものか、()()()()()()()()()()

 

「――おおお! “G・G(グラビティ・ガイダンス)”!」

 

 上位技にまで達していたコンボ、一気に迎え撃つには十分なそれで、僕は白夜と攻撃をぶつけ合う。至宝回路が起動した今、両者の間にステータスの差というものは存在しない。互いに相手をやたらめったらに切り裂くそれは、一気に相手を致命へとなだれ込ませる。

 

 ああだが、こちらは一人。対して百夜は一人でありながら三倍の密度で襲いかかってくる手数の鬼。足りない、足りない、速度が足りない! 手札が足りない!

 

 

「アタシたちを、無視してんじゃないわよ! “塊根ノ展開(アンダーグラウンド・スタンプ)”!」

 

 

 そこに、上空からの、フィーの踏みつけが百夜に対して突き刺さった。

 

 ――戦闘不能から復帰したのだ。体中を血まみれにしながら――全部あの球体によるものだけど――百夜に対して一撃を決めたフィー。

 嫉妬と、それから嗜虐に満ちた笑みへ、百夜は無表情で視線を返した。

 

「つまらない顔してるわね! “後悔ノ重複(ダブルクロス・バックドア)”!」

 

 更には、近距離にも使える鉤爪で、追い立てる。その間に僕もコンボを重ねて、ああしかし。

 

「“R・R(ライジング・レイ)”」

 

 刃を振るう百夜。この場合の問題、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。僕と打ち合っていてもなお、器用にフィーの攻撃を受け流し、体勢を崩させて。

 

 ――そこに百夜はケリを叩き込んだ。

 

「け、ふっ――」

 

「フィー!」

 

 吹き飛ばされるフィー、少し想定外の攻撃だった。概念技ではなく、純粋なケリで吹き飛ばすとは。――ああ、とにかく頭が回るのだ、真百夜は。

 意識がないにも関わらず、通常の百夜並に戦闘時の判断が早い。相手にしていて嫌になるほどに。

 

「く、おおおおっ!」

 

 がなりたてるように剣を激しくぶつけ合う僕らに、けれども限界が近づいてくる。HPが心もとない、ここまで何度か攻撃を喰らい、防御バフの上からHPを削られていった。

 通常よりも早いガス欠は、即ちこちらの手札がなくなるということでもある。

 

 ああ、だから――

 

 

「――もう、この人を傷つけるのはやめてほしいの! “C・C(コール・センター)”!」

 

 

 リリスの回復が、僕を後一歩で押し止める!

 

「リリス!」

 

「リリスは、もっともっと! 貴方が前にすすめる力になりたいの!」

 

 僕にも、百夜にも語りかけるようなそれとともに、リリスのありったけのバフが、回復が、僕を覆う。僕を前に進ませる力になる!

 

「お、おおおおおおおおおお! あああああああああっっ!」

 

 叫び、押し込める。

 少しでも、百夜に圧されないように。ゲームの画面でしか知らなかった最強に、恥じない戦いを目の前で見せつけるために。

 

 進め、進め、進め。後少しだ、着実にHPは削っている。こちらの限界は近いが、それよりも先に、百夜を倒す!

 

 ――やがて、百夜は壁際へと押し込められた。けたたましく鳴り響く道化の嘲笑。ああけれど、今のアンサーガのそれは、どこか諦めにも似た応援にも思える。

 

 終盤戦だ。既にHPはだいぶ削りきり、百夜の最大技も、もうすぐ放たれる。正念場、だが問題は――ここからどうやって攻撃を当てるかだ。

 最上位技を一撃。おそらく、それでHPは削りきれる。だが、それを当てるためには、あの攻撃を曲げる技、カウンター・カンテラを封じなければならない。

 

 そのために、必要な手札は3つ。

 

 

「アタシ、を――置いていくなぁ! “嫉妬ノ根源(フォーリングダウン・カノン)”!」

 

 

 フィーが復帰して、最大技を叩きつけてくる。これで、一つ。

 

「――っ、“C・C(カウンター・カンテラ)”」

 

 っておい、嘘だろ――!?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これじゃあ、向こうの手札が減ってないじゃないか!

 

 ――直後、弾かれた嫉妬ノ根源が壁に激突し、その衝撃で壁が吹き飛ぶ。すぐさま修復されるが、その一瞬で飛び散った肉片のようなものが、僕らの視界を封じた。

 

 これは――!

 

 

「ナイスだフィー! 私の分も受け取れ百夜!」

 

 

 それを目くらましに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「師匠!」

 

「巻き込まれるなよ! “L・L(ラスト・ライトニング)”!」

 

 ここに来るまでに遠距離攻撃と移動技でコンボを稼いできたのだろう。超至近距離から、槍が放たれることなく、手に持ったまま百夜へぶつけられる。

 

 ――それもまた、弾かれるが、師匠はそのまま攻撃を維持し続ける。

 

「やれ!」

 

 僕に向かって叫ぶ師匠。ともあれこれで、二つ。手札は減っていない用に見えるが、今も師匠とフィーの攻撃は続いていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。移動技も、また。

 これならば、取れる手はもはや僕が対処できる数しか残っていない!

 

「行くぞ、百夜――!」

 

 足元から光、百夜の目前に光弾。どちらも概念技。もはや限界の近い僕のスクエアは、どちらかをまともに喰らえばそのまま概念崩壊まで僕を持っていってしまうだろう。

 

 ――まともに喰らえば。

 

 

「“G・G(ガード・ガード)”! “B・B(ブレイク・ブースト)”!」

 

 

 僕らが最も頼りにする後方支援役。

 リリスの前に、そんなまともは起こり得ない。

 

「さぁ、ここまで詰めたぞ、百夜!」

 

 叫ぶのは、ある意味感傷だ。僕がコレまで何度も、ゲームの中で戦ってきた敵。裏ボス、真百夜。倒すのは何度目になるだろう。

 乗り越えるのは何度目になるだろう。

 

 ああでも、けれど、この感じ、この興奮。

 

 何度やっても、やめられない。越えられない壁を、越えていくこの感覚は、

 

 

「――――終わりだ! “L・L(ルーザーズ・リアトリス)”ッッ!!」

 

 

 負けイベントに勝つっていう、この感覚は!

 

 光の刃を無視して、迫る弾丸を顔面で受けて、両腕をフィーと師匠に抑えつけられた百夜へ、僕の刃を、突き立てる――――

 

 

 いや、

 

 

 しかし。

 

 

 否。

 

 

 ――百夜には、まだアレがある。

 

 それは、()()()()()()()()()。アンサーガのそれと同じ、そして百夜に備わった彼女だけの能力。

 初めての彼女との戦闘でも見たそれは、百夜のもう一つの代名詞。

 

 

 “L・L(ライト・ローディング)”。即ち、――()()()()()

 

「ま、だ――」

 

 それは、

 

 百夜の声だった。

 

 負けず嫌い、戦闘狂。この場において、百夜はきっと、僕たちと同じくらい負けたくはないだろう。ああ、でもな。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 見えている詰めを、僕たちが想定しないわけがないんだよ、百夜。僕は百夜が食いしばりを発動させたのを確認すると同時。()()()()()

 

「――“HH(ハンティングホラー)

 

 次に放たせたら後がない、絶対の致命傷。剣を引き抜いて一撃を放つのでは間に合わない。ああでも、だからこそ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 剣を手放し踏み込んだ僕は、その勢いのまま。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 のこるHPは1、僕は今、スクエア・スクランブルで大幅にステータスが増加している。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――――ァ、あ」

 

 

 一瞬。悔しそうに顔を歪ませて、百夜は。

 

 

「どんなもんだ最強。これが僕たちの、――()()()()()()()ってやつだ」

 

 

 ――概念崩壊した。

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