除隊処分を受けて世界を放浪していたリカルド。その日アイビーの花束を持ちとある海辺を訪れていた。
「世界は相変わらず、フェストゥムと対立してるよ。まだ1年しか経ってないから答えを急ぐ必要も無いけど、フェストゥムはどんどん狂暴性を増して進化している。今の現状をお前は笑うか」
波がリカルドの小言を優しく掬い上げる。
「また来るよ…安らかに眠れ友よ」
アイビーの花束を海に流しその場を後にした。
(次は、大佐のところかな大佐は確か…)
「誰だ」
誰かの視線を感じ拳銃を取り出すリカルド。
視線を向けると女性が1人リカルドを見ていた。その女性の姿にリカルドは片手で持っていたドリンクを落とし女性を追った。
「待て」
どこかへ走り出す女性。ブランクがあるとはいえ鍛え抜いたリカルドでも追いつけないでいた。狭い細道に入りなおも追いかけ続ける。道を抜けるとそこは海を一望出来る崖だった。
女性はそこで立ち止まっていた。
「お前は誰だ…その姿なんのつもりだ」
女性は答えない。
「俺を馬鹿にしているのか」
構えた拳銃に力がこもる。
「やっと…会えた」
女性の返事にリカルドの動揺は抑えきれない。
振り向く女性。綺麗な長髪に真っ直ぐな瞳、どこか幼さを残すその女性をリカルドは見覚えがあった。
「お前…あの時のフェストゥムだな」
「…」
「どういうつもりだと聞いている。その姿は」
「そう。お前と初めてあったあの日私と1つになった人間『セラ』がお前の時間軸に合わせてここにいた場合になるであろう姿だ」
「やはり。お前はあの時のフェストゥムで間違えないんだな」
「そうだ。やっと会えたリカルド・クラウン」
「俺の名前を」
「『セラ』の記憶からお前の情報を読み取った」
「『セラ』は生きているのか」
「『セラ』は私と1つになることで私を個体にした。彼女は私の中にいるし、いないともいえる」
「どういう意味だ」
「私は『セラ』であって、『セラ』ではないと言うことだ」
「お前達フェストゥムには親となるミールがいるはずだ。ミールはどうした」
「私を生み出したミールはお前達との戦いで消失した。だが『セラ』によって既に個体としての存在を得ていた私はミールが消失しても、存在を維持することが出来た」
「核となるミールがいないのにどうやって」
「そうだな。お前達の概念で言えば『セラ』が私を私にする核となる存在だ」
「『セラ』がお前のミールだと言うのか」
「…そう捉えてもらって構わない」
リカルドの目からは自然と滴が流れていた。
「あの日以来。俺とお前は何回か遭遇しているな」
「そうだ」
「なぜ、今みたいに俺の前に姿を見せなかった」
「それは、人間との対話の方法を私が理解出来なかったからだ」
「人間との対話の方法だと」
「そう。私は『セラ』と1つになることで人間を知ることが出来た。しかし『セラ』はお前と接触するまで、人間と対話をしたことが無かった」
「そんな訳あるか」
「彼女自身がそう明かしていた。彼女の持つ力を恐れて他の人間が彼女と接触することを拒んでいた」
「彼女の持つ力とは」
「お前が私達や他の人間の考えや行動を感覚で理解出来るのは、元々彼女が持っていた力だ」
「…」
「彼女とお前が初めて接触したあの日、彼女の力に触れたお前の感覚が覚醒し、今のお前の力となっている」
リカルドは確かにあの日から感覚が研ぎ澄まされていったという実感があったので女性の話に納得した。
「だから私はまず『セラ』から人間でいう『言葉』を学んだ『セラ』を通してな。そしてお前達が私達のミールを滅ぼしに来た時に私はようやく『言葉』というものを理解した」
「そしてあの時俺に会って話そうと試みた」
「そう。しかしお前は私が言葉を話したことに動揺し対話を拒否した」
「…」
「私は何故受け入れられなかったのか、再び『セラ』に答を求めた、そして私が出した結論が『身体』であった」
「『身体』…」
「私が人間の姿をしていないのに『言葉』を使ったことでお前が動揺したという結論に至ったからだ。どうやらその時の結論は間違いだったようだがな」
「…」
「しかし、ここでも問題が生じた」
「どういうことだ」
「私が『身体』という概念とそれに伴う情報を持ち合わせていなかった」
「これまで何百、何千万という人間を同化してきたお前がか」
「全体の中の1つであった時の私なら容易だっただろう。しかしその結論に至った時点で、私は『私』として存在し他の『私』とは別の存在となった。そして『私』の中にある『身体』としての情報は『セラ』しか無かった」
「ではどうやって」
「お前達がある他の『私』に対して無慈悲な炎を放ったことがあったな」
「2年前のあの時だな」
「そうだ。そこにはミールに拮抗しながら、人間と調和を求めた他の『私』がいた。お前も声を聞いたはずだ」
(俺が意識を失う直前に聞いた声のことか)
「そうだ。私はその『私』に接触し情報を求め『身体』を形成する手段を得た。そしてお前が一番『私』に興味を持って接触する可能性がある人間を導き出そうとした時、答は既に出ていた」
「だからその姿」
「そうだ」
構えていた拳銃を降ろすリカルド。
「なぜ、俺を同化しなかった。何度でもその機会はあっただろう」
「それは…『約束』だからだ」
「『約束』だと」
「『セラ』との『約束』だ。私はお前を1つにしようとした時に『セラ』から私が『私』であるための『約束』を提示された。『人間と人間との対話で1つになる道を探す』」
「つまり、『人間のやり方』で俺達を理解すること」
「そうだ。そしてもう1つある」
「もう1つだと」
「貴方に生きて欲しかったから」
その刹那、女性は『少女』に戻った。その言葉に思わず手を伸ばすリカルド。
しかし既に『少女』は女性にとなっていた。
(セラ…)
「お前にこうして接触したのに理由がある」
「なんだ」
「私が人間を理解する為にお前の傍にいさせて欲しい。それが私と『彼女』の願いだ」
「…お前。名前は」
「名前…」
「名前が無いとお前を呼べないだろ」
「私の名前は『ミライ』。それが彼女からの祝福だ」
「そうか、ついてこい」
こうして2人は混迷する世界をさ迷った。