その時が来るのは分かっていた。
俺はこのパーティーから去らなければならない。






いつも笑顔だった仲間たちの顔は、

「ぐずっ、ぐずっ」

涙や鼻水で汁まみれになっていた。


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涙と鼻水のオンパレードで勇者パーティーから追放されました

 長い旅だった。

 期間にしては2年ちょっとだけれど、その中身はとても濃いもので、かけがいのない日々だったと断言出来る。

 そんな日々が、今終わりを告げようとしている。

 

「レイズ君、この先貴方の力では……」

 

 仲間3人がまるで俺の行く手を塞ぐようにして立っている。

 喋っているのは、聖女と呼称されるセシリア姉さん。いつも優しくて、そして自分にとても厳しい人だった。

 

「そう、貴方の力では……」

 

 泣き言一つ言わずに、王族貴族から平民まで関係なく癒しの力を使い続けた。倒れたことも何度もあった。それでも彼女はやめなかった。

 

「そう、貴方の力でばっ」

 

 そんな彼女の月が微笑んだかのような美貌は、

 

「貴方のちから、でば、ぐずっ、ぐずっ」

 

 汁まみれになっていた。

 さすがに見かねたのか、パーティーリーダーのヘレオスが前に出てきた。

 優しく肩を支えるのがさまになっている。

 

「……セシリア、やっぱり代わろう。こういうのは俺がやるべきだ」

「でもっ、わ゛だし゛がっ」

「大丈夫だから」

 

 ヘレオスがきりっとした顔をこっちに向けてきた。

 爽やか系のイケメンだ。各街にファンクラブがあるくらい。

 正義感が強いが、決して直情的ではなく、理性的なのもファンが多い理由だと思う。

 

「――レイズ、悪いがこの先の戦いにおいて、君の、力で、は、いやそんなことないこともな、いやそうじゃなくて、魔王はとても強い、そう、魔王は強い。――だから君ばっ、ぐずっぐずっ」

 

 美女だろうがイケメンだろうが汁まみれの顔はきつかった。

 

「……ヘレオスの無能」

 

 次に出てきたのは、パーティーでの斥候役のマチだった。

 冷静無口。毒舌だけど、仲間想い。いつも口元を隠して顔が分かりづらいが、可愛い少女。

 いつも危険な地域に先行して、あらゆる危険を事前に伝えてくれた。戦闘では、よく囮役をしてくれたうえ、魔法を使う俺の配慮までしてくれた。

 

「レイズ、よく聞いて。あなたじゃ、この先は無理。今すぐ、このパーティーから去って。さっさと家に帰って、……温かいお風呂に入って、柔らかいお布団で寝ると、いい。ぐずっ」

 

 顔を背けたときに、きらっと光ったのはきっと涙だろう。

 

 俺は、俺は、ただただ辛かった。

 こうなることは、すでに分かっていた。

 野営中に、「レイズ君、寝たみたいよ」とか「レイズは使命を与えられたわけじゃない。だから死ぬのは俺たちだけで充分だ。あんないい奴が死ぬことなんてない」とか「私たちは、レイズの中で生き残るの」とか、めっちゃ聞こえてた。すっごく耐えてた。泣いてた。

 俺は皆の希望に応えなければいけない。

 俺は皆と一緒には死ねない。

 皆についていくために、一生懸命に魔法を練習したけれど、ここまでだった。

 思い返せば、セシリア姉さんに傷の手当てをしてもらったのが出会いだった。

 憧れた。これが話に聞いた勇者のパーティーなんだと、興奮した。

 今でも忘れない。

 村に現れたオークの群れ。なんとか村民は逃がせたが、俺は傷を負ってしまい動けなくなった。それでオークに囲まれここまでかと諦めた時、その絶望を断ち割って来たのがヘレオスで、すぐに治療してくれたのがセシリア姉さん。その後は、圧巻だった。3人の連携は美しさすら感じるもので、その心の繋がりに恋い焦がれるような想いさえ抱いた。

 

 そこから必死に勉強して、ヘリオス達を見つけ出し、仲間に入れてもらった。

 でも、それもこれまで。

 俺は一緒に死ねないらしい。

 これなら冷たく裏切れられた方が良かった。温かく裏切られるよりか、ずっとずっと良かった。ただただ恨むだけで済んだ。でもこれじゃあ、苦しい。忘れるなんて出来ようが無い。苦しいこともあったけれど、充実していた日々。笑ったり、泣いたり。人に感謝されることも多くあった。皆、自慢だった。こんな凄い人たちの力になれるなんて夢のようだった。

 ……そんな思い出を、ずっと思い返すだけの人生なんて嫌だ。辛すぎる。

 でも、俺は言わなければいけない。皆が望むの言葉を言わなければならない。

 

「……皆、分かったよ。俺はここで去るよ」

「……レイズ」

 

 泣き顔なんて見たくない。

 俺が記憶に残すのは、笑った顔だけ。

 そして次見る時は死に顔だろう。

 死体だけは絶対に持ち帰ってみせる。

 例えそこで俺がやられようとも、構わない。

 生き物にはつかえない物体転送の魔法がある。

 それを使えば皆は帰れる。

 だから、ここで去ったふりをして、後で行く。

 なんてことはない。最後に残るのはなんてことない、ただの魔法使いだけだから。

 

「じゃあな」

 

 また後で。

 そんな想いを胸に秘めて。

 一緒には死ねないのは残念だけど、一緒の場所では死ねる。

 充分じゃないか。

 俺にしてはよくやったほうだ。

 そう、よくやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水晶。

 その水晶は世界のあらゆるものを映すことが出来た。

 

「ぐずっ」

「――魔王様、執務の時間ですが」

「ちょっと待って、今いいとこ」

 




魔王様はダンディズムなお髭の持ち主


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