クリエとシドーとエデンの戦士たち   作:さかなのねごと

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第5話 「彼はまさしく太陽の如く!!」

 

 指先で触れるざらついた感触からして、この古文書が相当昔に書かれたものだとわかる。しかし、古ぼけた装丁や紙質のわりに描かれたインクは掠れておらず、文字や絵ははっきりと残されている。……まあ肝心なそれが読めないことにはお話にならないんだけどな!

 

「シドー、これわかるかい?読める?」

「ムリだな」

「ボクもだ!」

 

 ぱらぱらとページを捲りながらシドーと顔を見合わせる。そして本を閉じて立ち上がった。これはなんというか「諦めが早い」って言われればそれまでだけど、出来ないことをずっとし続けても意味はない。それよりも、“今のままじゃ出来ない”という環境を変えるべきだと思うんだ。“出来るようになるための手段を探す”方向に切り替えよう!

 

「じゃあ当初の予定どおり、これを読める人を探そうか!」

 

 そう言って謎の遺跡を後にして、グランエスタードの城下町へ向かう。霧に包まれていた遺跡から離れるにつれ、エスタード島本来の暖かな陽射しが戻ってきた。見上げた木漏れ日に目を細め、シドーが口を開く。

 

「城の学者は……あてにならないかもな。城の図書館にある本はある程度目を通したんだが、これと同じ古代文字で書かれたものは1つもなかった」

「えっそうなのか。キーファは「城で見つけた!」って言ってたから、誰かしら読める人がいるんじゃないかと思ったんだが」

「そもそも、読めたとしても素直に読むとは限らないがな」

「?……あ~~“禁断の地”ってやつか!」

 

 キーファも言ってた通り、城の学者はあの遺跡を“王家の墓”、“禁断の地”として、行ってはならない、触れてはならないとして、研究をすることはなかったらしい。

 

「なるほどなあ……確かに、遺跡に纏わることを知ろうとしているボクたちを不審に思って、教えてくれないかもなあ」

 

 ボクにとって、知識は力だ。創造の糧だ。どんなに危険な代物ーー例えば爆弾岩だって、知っておけば対処法も利用法も考えられる。知らなければそれまでだけど、知れば未来が拓ける。

 

「知ってはならないものって、なんだろうな。そもそもそんなものあるんだろうか?……あまり思い当たらないけどなあ」

 

 呟くボクに、シドーは赤い目をつと細めた。……ような気がした。何かあるのか尋ねたが、彼は「何でもない」と笑うばかりだったので、見間違いだったかな、とボクは疑問に決着をつけた。

 

 

 

 

 静かで穏やかな漁村であるフィッシュベルの村とは違って、グランエスタードは行き交う人も多く、明るい賑わいを見せている。まあ都会かと言われれば首を傾げるけれど、それはこの島の総人口を考えれば仕方のないことだ。

 この街は王様のお膝元というだけあって、よろず屋もあるし教会もあるし宿屋もあるし酒場もある。そう!酒場が!ある! 

 

「情報収集といったら酒場って感じがするよな!」

「そういうものか?」

「そういうものさ!」

 

 たぶん!と答えたボクにシドーはふぅんと曖昧に頷いて、少し眉間に皺を寄せた。少し唇を尖らしているのは小さな不満の表れだ。

 

「ここの酒場は飲ませてくれないんだよな」

「お酒のことかい?シドーお酒好きだもんな!」

 

 シドーの実年齢を訊いたことはないけど、ボクと同じくらいの年頃に見えるから少年といっていいだろう。まあ家の酒樽で作ったルビーラとかバブル麦汁とかは喜んでグビグビ飲んでたし、その後の二日酔いに苦しんでる姿なんて見たことないから大丈夫なんだろうけれど。

 

「……あっ、そういえばルビーラの原料になるツタの実が在庫少なくなってたな、また折を見て七色の入江近くに生えてたところに採取しに行こう」

「その時はオレも連れてけよな、素材集めは手伝える」

「うん!ありがとうシドー!」

 

 そんなことを話しながら歩いて、ボクらは宿屋兼酒場に到着した。ごめんくださーい!と扉を開けると、カウンターにいたおじさんがにこやかに笑う。

 

「おやいらっしゃい、クリエとシドー。この前はありがとうな」 

「いえいえー!時計の調子はいかがです?」

「バッチリさ。また何かあったら頼んでもいいかい?」

「どうぞ!ボクに出来ることなら」

 

 受付おじさんの背後にある柱時計は、この前ボクが作ったものだ。時計が欲しいけどいい感じのものが無い、とぼやいていたのを聞いて、木材から作り出して贈ったんだけれど喜んでもらえたらしい。嬉しくなって笑うと、隣のシドーが小さく呟いた。

 

「まったく、お人好しだな」

 

 ちらりと横目で見ると、シドーは柔らかい苦笑を浮かべていた。こんな風に誰かのために何かを作るのはとても大好きなので、別に苦には思わないんだけど、……シドーはいつも、呆れたように、おかしそうに、でも優しく笑ってる。

 

「おや、駄目かな?」

「いいや?オマエのモノづくりを見るのは好きだからな」

 

 そう言って、シドーは奥にある酒場に向かって歩いていく。その後ろを着いていこうとしたら、受付おじさんがボクにこっそり耳打ちした。

 

「酒場へは勿論歓迎するが、今はあまり長居しない方がいい」

「?それは何故?」

「今はホンダラさんが来てるんだ。まあ今はアルスも来てるから、そっちに絡むだろうけどな」

「あらら……なるほど」

 

 頷いて、ボクは酒場に入った。あまり大きくはない店だけれど、置いてある調度品はぴかぴかに磨かれていて、長く大切にされてきた店なんだとわかる。店内には、テーブルで静かに杯を傾けているおじいさんが1人。それとカウンターには渋い顔をしたバーテンダー、バニーさん、それにアルスがいた。アルスの前には赤ら顔で青頭巾を被ったおじさんーーアルスの叔父さんであるホンダラさんが話していた。

 

「なあいい加減俺の気持ちをわかってくれよ……ひっく、」

 

 ホンダラさんはバニーさんの手を握ってにやけた笑顔を浮かべている。どうやら口説いているようだ。彼は懐から何かの石を取り出し、それをバニーさんに触れさせる。

 

「ホラこの石を触ってみなよ!ほかほかしてあったかいだろ?名付けてホットストーン!見た目はただの石ころだが、そんじょそこらの石ころとは違うってこった。まるで俺みたいだろ、へへ……っく、」

「……ホンダラおじさん、その辺りにしときなよ」

 

 見かねたアルスが口を出すと、ホンダラさんは自分の甥に気づいて笑った。眠そうにしていた目が、ぱっと丸く開かれる。

 

「おおアルス!いいところに!おまえからもこの子に俺の魅力ってやつを語ってやってくれよ」

「いや魅力ってなに……」

「いくらでもあんだろ、例えば……ん?おうクリエじゃねーか!」

「あっどーもー」

 

 視線を向けられたので、ひらひら手を振って会釈する。手招きされるままに近付いていくと、ぶわりと強い酒気を感じた。……うん、お酒臭い!

 

「ホンダラさん飲み過ぎじゃないですか?ダメですよ!お水飲みました?」

「そんなことはいいんだよ……それよりまたアレ作ってくれよ。魚と芋揚げたやつ」

「フィッシュアンドチップス?それバリバリ酒のツマミにする気でしょー?……うーんネギと味噌があれば味噌汁作れたんだけどなあ」

 

 このエスタード島では味噌の原料になる豆もネギも育てていないから、制作は不可能だ。二日酔いでグロッキーになってる人たちには、モモガイ入りの味噌汁が大人気だったんだけどなあ。

 

「なあいいだろ?クリ……、」

 

 アレコレ考えている間に、たぶん、ボクの肩に手を置こうとしたんだろう。でも伸ばされた手はシドーにはたかれてしまった。シドーはそのままボクの肩をぐいと押して、自分の後ろに下がらせた。

 

「酔っ払いは、そろそろお開きの時間じゃないか?」

 

 ボクの目の前にシドーの背中が広がる。ここから彼の表情は見えないけれど、声はとても穏やかだから、きっと笑っているんだろうなと思う。……思うんだけど、それにしては、有無を言わせない圧を感じるのは何故だろう?

 

「……ひっく、じゃあそろそろ帰るとするかあ」

 

 ホンダラさんはゆっくりと椅子から立ち上がって、千鳥足で酒場を後にした。……後にする前に、ぴたっと足を止めてこちらを振り返る。

 

「ようアルス、ついでにここの支払いも頼んだぜ」

「えっ!?ちょっ、待っ……ホンダラおじさん!」

「あーりがーとなぁ~~……」

 

 後ろ手にひらひら手を振りながら、今度こそホンダラさんは酒場を後にした。その後ろ姿に中途半端に手を伸ばして、アルスははぁ、と大きく溜め息を吐く。……うん、お疲れのご様子だ!そんなアルスを、バーテンダーとバニーさんも気遣わしげに見ている。

 

「安心しな、いつものようにツケとくから」

「安心しちゃダメですよねそれ……」

「大変だな……アルス」

「シドー、ありがとう……まあいつものことではあるしね、慣れたよ」

「こんなに悲しい「慣れたよ」って初めて聞いたな!」

 

 はは、と苦笑をこぼす様も苦労が滲み出ている。そんなアルスはおじさんが出ていった方を見て、ふと目を丸くした。

 

「あれ、おじさん落として行ったのかな」

「ん?……あ、」

 

 酒場の入り口辺りに、手のひら大の石が落ちている。

 

「“ホットストーン”、って、いってたっけ」

 

 アルスが拾い上げたその石は、淡く橙色のあたたかな光を纏っていた。光る石や植物は無いことはないけど、それでも珍しい。それに、

 

「あ、ほんとだ。じんわりあったかい」

「へえ……ボクも触っていいかい、アルス?」

「うん、どうぞ」

 

 アルスから受け取ったそれは、本当にあたたかかった。さっきまで握られていた手の熱が残っているというわけじゃなく、この石自体がほのかな熱を放っている。

 

「本当だ!不思議だ、……な……」

 

 ーーどくん、と、脈打つような振動を感じた。

 それはボクの心臓じゃなくて、まるで、この石がーー

 

「どうした?クリエ」

 

 シドーに声を掛けられて、顔を上げる。じっとボクを見つめる赤い目を見ていると、なんだかほっとしてしまった。……うん、たぶん気のせいだな!

 

「何でもないよ、シドー!」

 

 それからボクらはアルスと別れた。アルスはキーファから言われたように、“太陽”っぽいものを探してあの遺跡で試してみるらしい。拾ったというピカピカのガラス玉とホットストーンを手に街を出ていった彼を見送って、ボクとシドーは街外れに向かっていた。そこに、地下へと通じる階段がある。

 

「話を聞いた場所はここだな」

「うん、行ってみよう!」

 

 やはり地下だからか少しじめじめとする通路を辿って、ボクらは歩く。何故こんなことをしているのかというと、先ほど噴水広場で会ったお弁当屋さんの証言を当てにしたからだ。

 

「“ガケっぷちのじいさん”、ね」

 

 そのお弁当屋さん曰く、そのおじいさんはグランエスタードの町外れの崖際の家に住んでいて、なかなか街には降りてこないのだという。そのため弁当屋さんが毎日お弁当を届けているのだけれど、『お前のとこの弁当はいつも不味いのう』と憎まれ口ばかり叩く、気難しいひねくれおじいさんなのだとか。

 

「そいつが、この古文書を読めたらいいんだけどな」

「そうだな!」

 

 お弁当屋さんはこうも言っていた。『そういった古い本、あのじいさんが好きそうだな』と。古い文献が好きということは、それが読めるのではないだろうかと、そんな淡い期待をもとにボクらはおじいさんの家に向かっている。これ以外に心当たりもないしな!

 そんなこんなで話しながら通路を抜けると、視界いっぱいに青が広がった。崖から臨む海は広く美しく、いい眺めだなあと感嘆の息が溢れる。そこにぽつんとひとつだけ佇んでいるこの家が、噂の“ガケっぷちじいさん”の家だろう。尻尾をぱたぱたと振ってた白いわんこを撫でつつ、ボクは扉をノックした。

 

「ごめんくださーい!」

 

 それなりに大きな声で訪問を告げたが、返事は返ってこない。少しだけ扉を開けて中を見ても人影は見えず、けれど地下に通じる階段はあったから、失礼ながら勝手にお邪魔させてもらった。

 木造の一階部分とは違い、地下は岩肌に囲まれていた。そして、その壁を埋め尽くすように並べられた、たくさんの本棚に。

 

「なんじゃお前さんら。人の家に勝手に上がり込んで何様のつもりじゃ?」

 

 その本棚の山に埋もれるようにして、そのおじいさんはいた。突然の訪問者であるボクらに胡乱げな目を向けたかと思えば、ふいっと視線を反らす。

 

「わしは忙しいんじゃ。さっさと出ていってくれ!」

「わわっ、ちょっと待ってください!」

「勝手に入って悪かった。だが、この本を見てくれ」

「本じゃと?お前さんは物売りか?わしが本なら何でも買うと思ったら大まちが、……」

 

 機嫌を損ねてしまったかと思ったけれど、シドーが差し出した古文書を見て、その目が大きく見開かれた。シドーが本を手渡すと、しわくちゃの手がそっとその表紙をなぞる。

 

「……この本をどこで?」

「キーファ……キーファ王子が城で見つけた、と」

「ふむ……あの王子からか。おおかた城の宝物庫にでも入っていたんじゃろうな」

「……?」

 

 ある程度見通している、ということはーーもしかしておじいさんは、この本について知っていたのだろうか?そんなボクの疑問を尋ねる間もなく、おじいさんはぱらぱらとページを捲っている。

 

「賢者の杖に、輝く光か」

「あっ、そのページのその絵!それを見て、キーファが謎の遺跡の賢者の像の杖の先に太陽石の指輪を乗せたんだけど、」

「その時は、何も起こらなかったんだよな」

「……なに?この絵を見た王子が?」

 

 ボクとシドーが頷くと、おじいさんは鼻を鳴らした。

 

「ふん!あの王子ボンクラだと聞いておったが、ボンクラは城の学者たちかもしれんの」

 

 そこでおじいさんは初めて笑った。偏屈そうな眉間の皺が消えて、目に光が戻っている。

 

「よし、わしがこの本を解読してやろう」

 

 そうしてそんな提案をしてくれたから、ボクは思わず声を弾ませた。

 

「いいんですか!!!」

「そう言っておるじゃろうに、うるさいのう……時間がかかるから、しばらくどこかで暇を潰してこい」

「わああありがとうございます!やったあシドー!」

 

 八方塞がりだった現状を打破してくれる光だ!ほっとして嬉しくなって、……おじいさんはどこかで暇を潰してこいって言うけれど、じっとしてなんかいられない!

 

「じゃあお礼に何か作りますね!」

「ん?……そうか、お前さん最近島にやってきた“ビルダー”とかいう……」

「そうですビルダーのクリエです!さてさて何を作りましょうか……わんこのお部屋?安楽椅子?はたまた美味しいごはん?何でもバッチこいですよ!」

「……いや集中したいから静かにしておいてくれんかの」

「じゃあ上で作ってきますね!何がいいかなあ、ポトフだったら後であっためて食べられるよな。あっせっかく新鮮なお魚があるんだからブイヤベースもいいかも!」

「なあクリエ、酒樽作ってバブル麦汁とかはどうだ?」

「それシドーが飲みたいんだろう?……でもいいなバブル麦汁……ああ豆があったらなあ!枝豆の塩茹でと一緒に飲んだら最高なのに!」

「チーズとルビーラなら出来るだろ?」

「ああ~確かに!その組み合わせも捨てがたい!」

 

「ええい、なんかよくわからんが旨そうな話をするでない!腹が空くわ!」

 

 ごめんなさーい、なんて言ってきゃらきゃら笑う。だっておじいさんは怒っていたけれど、なんだかとっても嬉しそうに見えたから。

 

 

 

 それから。ボクはわんこのお家を庭に作り、ブイヤベースを作って過ごした。魚介類をトマトと一緒にくつくつ煮込んでいると、扉を叩く音とともにシドーにアルス、キーファが部屋に入ってきた。ボクがあれこれ作っている間に、シドーが呼んできてくれたのだ。そんなこんなで4人揃ったボクたちが地下の書庫へ向かうと、大きな机に向かっていたおじいさんが顔を上げた。

 

「おお、お前さんらがアルスとキーファ王子か。ちょうど今解読が終わったところじゃよ」

「ええっ!?解読が終わったって!?で?で?何が書いてあったんだよじいさん!」

「ええい忙しないのう!今から言うから少し落ち着くんじゃ!」

 

 ヒートアップしそうになったキーファを押し留め、おじいさんは咳払いをひとつ。そうして、厳かに話し出した。

 

「わしが解読したところ、この絵に描かれた光のかがやきは、太陽とは関係ないようじゃ」

「太陽とは関係ない!?」

 

 目を剥くキーファに頷いて、声は続く。

 

「そうじゃ。ここに描かれた光は心のかがやきと熱意を示しておる。それも、選ばれた者のな」

「選ばれた者!?一体誰に選ばれるっていうんだ?え?じいさん!」

「おそらくは、あの遺跡をつくった存在じゃろう……」

 

 ……選ばれた者、か。何だか話が大きくなってきたなあ。

 “選ばれた者”って聞くと何となく“勇者”を連想するけど、ボクはただのビルダーだし、なんだか遠い世界の出来事のように感じてしまう。

 

「う~~ん……なんだかよくわからない話になってきたなあ……」

「うん……そうだね」

 

 キーファとアルスも同じような表情で首を傾げている。

 ……かと思ったのもつかの間のことだった。

 

「だけど、心のよさと熱意なら、俺だって誰にも負けないぜ!」

 

 キーファはキリッと眉を吊り上げて、強く強く、笑った。その目は自信に満ち溢れていて、揺るぎない。

 

「……ほーっほっほ、お前たちの誰かが選ばれし者だとでも言うのかな?」

 

 そんなキーファを、黙りながらも強い眼差しになったアルスを見て、おじいさんは目を細めた。それはおかしいものを見るかのようで、微笑ましいものを見るかのようで、……懐かしい何かを見るかのようだった。

 

「ならば、ここに書かれている方法を読むぞ。よいか?」

 

 ボクらをぐるりと見渡して、おじいさんはゆっくりと、古文書の記述を指先でなぞりながら告げる。

 

 

「“選ばれし者よ 扉を守る賢者の前に立って 強く祈るがいい。”」

 

「“大いなる意思が 心清き 熱き思いを受け入れた時 そなたの進むべき道が 必ずや 示されるであろう”」

 

 

「……進むべき、道……」

 

 わかるだろうか。ボクの前にも、拓かれるだろうか。失くした記憶の在処を、ボクのよすがを、見つけることができるだろうか。

 ……俯きたくなるこの気持ちは、きっと不安だ。もしボクが選ばれなかったら?ずっとこの島で足踏みをし続けるしかないのだろうかと、そんな不安が胸を覆ってーー

 

「そうか!俺みたいな選ばれし正直者が『トビラよ開け』と強く念じればいいってわけだな! 」

 

 ーーキーファの言葉に吹き飛ばされていった。ボクは目を丸くした後、思わず笑ってしまう。

 

「ハッハッハ!キーファオマエ、呆れるくらい前向きだな!」

「“呆れるくらい”は余計だろ、シドー!」

「……ほんっと、すごいなあ、キーファは」

 

 呆れたように、それでも憧れるように微笑むアルスも、きっとボクと同じ気持ちなんだろう。あまりに熱くて眩しくて、まるで太陽のような人間だ。シドーも、おじいさんまでもが、笑っている。

 

「ほっほっほ。そなたのその気持ちいいほどの厚かましさは貴重かもしれん。ひょっとしたら……その思い込みが、奇跡を呼び起こすかもしれんな」

「へへっ!じいさん、待ってろよ。その奇跡とやらを見せてやるぜ!」

 

 グッ!と拳を握って、キーファは快活に笑う。眩しいその笑顔は、これから先どんな暗闇が待ち受けていようと関係なく照らしてしまいそうだな、なんて、ボクはまた笑った。

 

 

第5話 「彼はまさしく太陽の如く!!」

 

 


 

 筆者はビルダーズで料理するの好きなんですが、それがクリエの会話に表れてますね。ごはん会話はするする筆が進んでしまう……これからもちょくちょく挟むかもしれません。

 この作品では展開の書きやすさを優先して、本来のイベントの順番を変えることも多々あります。今回酒場でホットストーンを入手したのもそのひとつです。次回の遺跡回もできるところはどんどん省略しますのでご了承ください。

 さて次は!遺跡回!その次はウッドパルナ編!私自身書くのが楽しみです!


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