2月の中旬、1つのニュースが全世界を駆け抜けた。
女性しか扱えない筈のISを一人の男子中学生が起動させたのだ。
その結果を受けて、世界中で新たなる男性操縦者を発見するための適性検査が行われることになった。
そして、3月上旬に日本のとある場所で一人の青年がISを起動させたという報告が入った。だがその青年は直後に会場から忽然と姿を消すのであった。
3月中旬
乳白色のレンガの塀に囲まれた豪邸とも言える屋敷の頑丈な鉄の門の前に黒いスーツ姿の女性、織斑千冬が立っていた。 門の横の柱に掲げられた表札『月村』という文字を確認すると千冬は、その下にあるインターホンを押そうとした。だが、それを押す前に背後から声をかけられた。
「あら?織斑先生、この屋敷に何かご用がおありで?」
その声に聞き覚えのある千冬は振り返り
「それは此方のセリフだ更識? 何故お前がここにいる?」
そこにはIS学園の生徒会長を務める更識楯無と従者の布仏虚がいた。
「この屋敷の住人と当家は古くからの付き合いでして、幼少の頃より遊んでいた幼馴染みがいるので久方ぶりに尋ねたしだいです。」
「それは初耳だな。さて私がここに来た理由だが、お前の事だ、既に知っているのだろう?」
「えぇ、その事も含めての話し合いもあると言われてました。」
そう言って楯無はインターホンを押す。すると直ぐに
「お待ちしておりました更識様、布仏様。そして織斑千冬様でございますね。お迎えにまいります。」
女性の声で返答があった。
「更識、1つ聞きたい、月村家とはどういう家なのだ?」
千冬がそう尋ねるのも無理はなかった。事前に調査しようにも政府や学園上層部からストップがかかり、何もわからなかったのだから。
「月村重工・月村食品・月村製薬の3社を運営する月村ホールディングスの筆頭株主兼会長。ではダメでしょか?」
その3社の名前は千冬でも知る大手企業だ。そこまでは千冬も知らされていた。だが、その大手企業の筆頭株主兼会長だけでは、調査にストップをかけるだけの理由にはならないと千冬は思った。
(・・・・・・・・何か、表には出せない理由があるということか)
やがて門が開き、メイド服姿の銀髪の女性が3人を出迎えた。
「お待たせいたしました。私は当家に仕えるメイドのノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申しまます。ここより私がご案内いたします。」
そう言ってノエルは3人に優雅にお辞儀する。
「久方ぶりですねノエルさん。もしかして、みんな揃っているの?」
ノエルに尋ねる楯無。
「はい、お嬢様と恭也様はもとより高町家の方々もお揃いでございます。」
ノエルの答えに楯無と虚は顔を見合せる。それに気づいた千冬は
「更識、何か不都合でもあるのか?」
その問いに楯無は
「織斑先生、先に言っておきますが更識家は月村家よりも、同席している高町家と事を構えたくないと思っております。ですので、発言には十分に注意を払ってください。」
その答えに千冬は唖然とする。だが、ここでその事を問いただしても答えないと思い何も告げない。
3人はノエルの案内人で屋敷のなかに向かう。
調度品が飾られた廊下をノエルを先頭に進んで行き、1つの扉の前に案内された。 その扉の近くまで千冬が近づいた瞬間だった。
ゾクゥゥゥゥゥーーーーー!!!
扉の向こう側の部屋から圧倒的な威圧が放たれてきた。
(くっ?! 何なんだ、この威圧感は? 私が気圧されているだと!)
千冬は自分が世間で言われているほど世界最強の存在ではないと思っている。 それでも自分が手も足も出ないような強敵は先ずいないだろうと思っていた。いかなる強敵であろうとも、それなりに戦えると思っていた。
だが、今扉の向こう側から放たれている威圧感に千冬は手も足も出ないでいた。膝をつかないように耐えるのが精一杯だった。
(1人、いや2人か? クソッ、限界だ)
千冬が膝をつこうとした瞬間、楯無が
「ノエルさん、織斑先生が限界のようですし、そろそろ止めて差し上げてください。」
楯無に言われて、ノエルが扉をノックすると千冬を襲っていた威圧感が一瞬にして消えるのだった。
威圧感が消えた事で、千冬は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。右手で軽く額を拭うと大量の汗が付着していた。ノエルがタオルを差し出して
「どうぞお使いください。」
「ありがとうございます。」
タオルで汗を拭きながら
「随分と平気な顔をしているな更識、布仏。」
「私達には直接当てられてませんから。軽く余波は受けましたけど、これくらいなら馴れてますから。」
楯無は涼しげな顔でそう千冬に告げる。楯無の言葉に驚く千冬。
(先程の威圧感は無造作に放たれたのでなく、私にだけ向けられていただと?! そんな芸当が出来るのか?)
汗を拭いおわり、漸く息も整えた千冬はノエルに向き直り。
「感謝する。」
そう言ってタオルを渡す。ノエルはタオルを受けとると側に置いてあったワゴンにのせてから扉を開く。
「どうぞ中へ。」
そう言って室内へと誘う。 ノエルに言われて室内に入ると、そこもまた洗練された調度品が飾られた広い応接間でだった。
千冬は室内に入った瞬間から二人の男性から目が離せなかった。一人は少し白髪の混じる黒髪の朗らかな顔つきの壮年の男性、もう一人は黒髪の寡黙な顔つきの男性。雰囲気は違えどもどちらもよく似た顔つきをしていた。 そして何より二人からは先程感じた威圧感と同じ気配を感じた。
(先程感じた威圧感はこの二人が・・・・私は自惚れていたのだな。確かにISの世界では最強と持て囃されいてた、だがそれがいつの間にか世界最強となっていた。そして私もいつの間にかそう思うようになっていた。だが、現実には違う、少なくとも目の前にいる二人には手も足も出ない、天と地程の差がある。)
「お忙しいなか、時間をとって頂きありがとうございます。IS学園教諭の織斑千冬と申します。」
千冬はそう言っておじぎする。千冬の挨拶を受けてソファーに座っていた女性が立ち上がり、
「遠いところから、わざわざお出でいただきありがとうございます。私か当家を取り仕切っている月村忍といいます。右にいるのが私の夫で月村恭也、左にいるのが私の妹の月村すずかです。」
そう言って両隣に座っていた人物を紹介した。黒髪の寡黙な男性・・・恭也と、忍を挟んで反対側に座っていた女性・・・すずかも立ち上がりおじぎする。
「そして、そちらにいますのが夫、恭也の御両親で高町士郎さんと奥様の桃子さんです。」
忍の紹介に士郎と桃子も立ち上がりおじぎする。
「どうぞお座りになってください。」
忍の進めに千冬はソファーに座る。その隣に楯無と虚も座るのだった。全員が座ったところで忍が
「さて織斑さん、本日は如何なる用件があって当家にお越しに?」
忍の問いかけに千冬は
「その前に、1つお伺いしたいのですが、ご子息の月村零也さんは御在宅でしょうか?」
「零也なら、ここには居ません。」
忍の答えに千冬は慌てる。
「な?! 今どこにいるのですか?直ぐに身柄の安全をはかる為に保護しないと!」
慌てる千冬に恭也が
「その必要はありません。並の相手なら零也に敵うはずも無いですし、それに側には俺の妹と叔母がいますので問題ありません。それで忍が訊きましたが、本日はどういった御用件で?」
恭也の言葉に千冬は楯無達の方を見るが、二人とも平然とお茶を飲んでおり慌てるそぶりもない。
(二人は最初からこの事を知っていたな・・・・どうやらここには私の味方はいないようだな。)
ポケットからスマホを取り出すのを諦めて
「みなさんは、今から1ヶ月前に世界初の男性IS適正者が現れたのはご存じですか?」
「それはもう、連日連夜ニュースやワイドショーはその話題で持ちきりでしたし。確か織斑さんの弟さんでしたよね?」
忍の答えに何も言わず千冬は
「それを受けて国際IS委員会は新たな男性IS適正者を見つけ出す為に全世界で一斉に男性に対しての適正検査を開始しました。最初の対象は10代前半から20代前半の男性に絞りました。そして今から1週間前に海鳴市の体育館で行われていた適正検査で、新たな男性IS適正者が見つかりました。しかし、その直後に男性はその場から忽然と姿を消してしまいました。その後の足取りは全く」
そこまで言うと千冬はポケットから数枚の写真を取りだし
「幸いにも会場には密かに監視カメラを設置していたことから検査直前の映像があり、こうして人物の特定に至りました。」
そこには忍と恭也の息子の零也の姿が写っていた。
写真を一瞥すると忍は
「それで?」
「月村零也さんにはIS学園に入学していただきます。これは国際IS委員会の決定事項です。」
「本人は元より家族の同意無しにですか?」
千冬の話に士郎が聞き返す。
「本人の身の安全をはかる為にも必要なことかと。」
「織斑さんは零也を弟さんを護る為のスケープゴーストにするつもりでは?」
恭也の言葉が千冬の心に刺さる。
「いえ、結してそんなことは思っておりません。確かに最初の男性IS適正者は私の弟ですが、それは全く関係ありません。」
千冬の答えを聞き、忍が
「・・・・・・・・私達は零也からIS適正があることを告げられてから、このような展開になることを予測しておりました。ですので零也が不利な状況に陥れられない為にありとあらゆる手段を使わせてもらいました。」
忍はそう言うと楯無の方に視線をやる。それに気づいて千冬は
「更識、何か知っているのか?」
「織斑先生、私達は1週間前に月村・高町の両家から零也君の処遇について相談と要求を受け取っていました。これがその全てです。」
そう言うと虚が数枚の書類を千冬に手渡す。
その内容を読んでいく内に千冬は、その内容に驚くのだった。
「こんな内容が受け入れられるはずがない!」
「いいえ、日本・イギリス・ドイツ3国からの後押しもあり、学園長はこの条件を受け入れることに決定しました。」
楯無の答えに驚く千冬。本来ならあらゆる国家・企業からの干渉を受けないという事になっているIS学園がこのような条件を受け入れる。それも日本・イギリス・ドイツの後押しがあってという事に。
(日本のみならずイギリスやドイツにも強力な後ろ楯を持っているというのか?!)
「・・・・・・・それでは、この条件を以て月村零也さんのIS学園への入学を認めて下さるということですね。」
千冬の問い掛けに恭也と忍は顔を見合せ、そして無言のまま笑顔で千冬を見つめる・・・然れど視線は結して笑っていない・・・すずかに視線をやる。
すずかは二人の視線に気づき、軽く頷く。
「・・・・・零也のIS学園への入学を承諾します。」
恭也の返事を聞き千冬は
「それでは2、3日中に事前に予習してもらう為の参考書と制服を郵送いたします。なお、制服の方は多少のカスタマイズが許されております。」
そう言って立ち上がり
「それでは本日はこれで失礼させていただきます。」
一礼して部屋を足早に出ていくのだった。そんな千冬をノエルが玄関まで送るのだった。
一方、千冬が去った室内では
「・・・・・・どうだった恭也?」
「期待外れというか、噂程ではなかった。」
士郎の問い掛けに恭也が答える。それを聞いて桃子と忍は
「貴方少し大人気なかったのでは?」
「そうよ恭也、いくらブリュンヒルデの称号を持っているからと言って、所詮はISあっての実力なんだから」
「IS頼りという訳ではなさそうだよ。見たところ身体能力は人並み以上に優れているし、剣道もそれなりに修めているようだ。ただ残念な事に修めているだけで留まっているし、力に頼りきって技術が今一つ伴っていない。まあそれでも並の相手なら、そこそこ戦えるだろうな。」
二人の言葉に士郎が独自の分析を話す。
「士郎さんの仰るそこそこレベルの方が表舞台には中々いないのが現状なのですが?」
楯無が士郎の分析に呆れながら愚痴る。
それを聞きながら恭也は先程までとは違い穏やかな笑みを浮かべるすずかに
「それですずかちゃん、専用機の方はどうなっているんだい?」
「アリサちゃんとなのはちゃんの協力の元、月村重工で実験用に作られた完全装甲型の第2世代型IS【レイスタ】のデータを参照にして製作してます。」
「・・・・・・自重しそうに無い面子だな。」
零也が関係していることですずかのブレーキが壊れていることを知っている恭也は、それに自分の妹のなのはと二人の親友のアリサが加わった事で更に拍車がかかったことを少し心配するが、止める事が事実上不可能なので何も言わないのだった。
「何時までに出来そう?」
すずかに忍が尋ねる。
「んーと、今の進行具合からだと3月末には完成する予定だよ。」
「それなら入学までに何度か訓練が出来そうね。楯無ちゃん、零也は来週には戻って来るから、それから訓練をお願いね。」
「わかりました忍さん。戻りしだいISの訓練を開始します。」