四季物語   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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ちょっと官能的な表現があります


鳥籠の島④

 もはや下ネタという次元を超えた話も織り交ぜつつ、私は時折話に混ざりながらグラスを傾けていた。

 

 途中で片付けのために離籍した坂口さんがちょっとうらやましいと思えるほどに騒がしい。

 

 別に下ネタは嫌いじゃない。むしろ島のおっちゃん達の影響もあってか、下ネタは好きな方だ。

 

 男性の下ネタ好きは地域に関係ないようで、始めのうちは飲みすぎないようにと言っていた木梨さんも場の空気に当てられたのか、もはや普通に飲んでいる。というか昨日より飲んでいるような気がする。

 

 まあ、私も結構飲んでいるから人の事言えないけれど。

 

 ちなみにお父さんはもう潰れて机に突っ伏していびきをかいている。弱いわけではないはずだけど、何分飲むペースが速すぎたのだろう。

 

 それにしても、同年代の性事情なんて聞くのは初めてだ。島のおっちゃん達が話すのは大体自分の女房の事か、若い頃のやんちゃ話だし。

 

「やっぱ都会の人は色々経験してるのねぇ」

「生まれは田舎ですけどね」

「でも上京して結構経つのでしょう?」

「そうですね。大学の時に越してきたからぼちぼち10年弱くらいですかね?」

 

 いいなぁ。私も大学時代は本州に住んでたけど、都会じゃなかったし。うらやましい。

 

「この子なんて都会に行きたいなんて言うばかりでずっと家にいるのよ」

跡継(あとつ)ぎが居て良いではないですか」

「良いのよぉ。宿は息子に継いでもらうかぁ」

「息子さんもいらっしゃったんですか?」

「今は大学生でねぇ。○○大学の近くでアパート借り通っているのよぉ」

「へぇ!○○大学ってことは優秀な息子さんなんですね」

 

 弟の隼人(はやと)は私よりも頭が良くて「経営学を学ぶんだ」と言って都内の大学に進学した。

 バイトに勉学に忙しいと言っていたけれど、都会にいられるというだけで羨ましく思える。

 

小鳥(ことり)と一緒で色恋事はさっぱりみたいだけどねぇ」

「あいつと一緒にしないでよ!私は一応、大学時代は彼氏いたんだから!」

 

 しかも、(おねえちゃん)は知っている。やつはバイト先の女性といい雰囲気(ふんいき)になっていることを。

 

「でもすぐ別れちゃったじゃない」

「だって私が島に住んでて簡単に会えないのを良いことに、二股かけられてたんだよ?許せなくない?」

 

 身体だけが目的だっただけのクソ野郎に身体を許してしまった当時の私が恨めしい。隼人がうまくやっているらしいことを聞いて(みじ)めな気分になったものだ。

 

「それはあんたの見る目が無かったのよ」

「へーへー、どうせ私はおっぱいしか魅力(みりょく)のない女ですよーだ」

 

 そういいながら自分の胸を揉みしだく。それを見ていた木梨(きなし)さんがサッと視線を逸らした。

 

「……木梨さんって本当に経験あるの?なんていうか反応が童貞(どうてい)臭いんだけど」

 

 別にガン見しろとは言わないけれど、目を逸らされるのは何かむかつく。

 

「あるよ……。でもあるからってジッと見たりするわけじゃないでしょ」

「そう言う割に、さっきから私とお母さんの胸をちらちら見てるじゃない」

「う、あ、それは、その。す、すいません!」

 

 バレてないとでも思っていたのだろうか。これでも昔から視線に晒されてきているし、お母さんも私も見られていればすぐ気づける。

 

 ちなみにお母さんの胸は私よりも大きい。どのくらいかと言うと、しっかりと着付けされた着物で潰されていても大きいと解るくらいには大きい。

 

 私もあれくらい大きければ……。いや今以上に大きかったら困るような気がしなくもないけど……。

 

 別に自分の身体を安売りするつもりはないけれど、大きければ男性には効果的な武器になるだろうとは思う。実際、お母さんが言うにはお父さんはさながら誘蛾灯(ゆうがとう)のごとくお母さんの胸に引き寄せられたそうだから。

 

「うふふ、木梨さんはむっつりさんなんですねぇ」

「本当にすいません。その、つい……」

「良いんですよぉ。男の人はつい見ちゃいますよねぇ。おっぱい」

 

 わざとらしく胸元を着崩(きくず)して、心底(しんそこ)楽しそうな顔で笑う。

 

 もはや見慣れたとはいえ、娘の前で何やってんだか。

 

 それにしても、さっきは私の胸から目を逸らしていたくせに、今度はお母さんの胸をガン見しているし……。これが万乳引力ってやつか……。

 

 それか、

 

「もしかして木梨さんって熟女好き?」

「そ、そういう訳じゃないんだけど……。その女将さん美人だから……」

「なるほど、つい見てしまうと」

 

 木梨さんは恥ずかしそうに「そうです」と言った。

 

「あらやだ。駄目よぉ。私はお父さん一筋(ひとすじ)なんだから、ね?」

 

 さっきまで(あお)っていた癖に、急に引き離したりする。こうやって島の男衆(おとこしゅう)を手玉に取っているのだ。

 まあ娘の私から見てもお母さん綺麗(きれい)だし、男衆の気持ちもわからなくはないんだけど。なんか負けた感じがするから認めたくない。

 

「ふふふ、久しぶりに若い人の成分を充電(じゅうでん)できたしぃ、私はそろそろ坂口さんのお手伝いしてくるわぁ」

「あ、じゃあ私も」

「小鳥はゆっくりしていていいわよぉ。そんなにやることがあるわけじゃないし、それにぃ」

「それに?」

 

 続けざまに立ち上がった私に小さな声で「若者同士ゆっくり語りあったらいいんじゃないかしらぁ」と言った。

 

 お母さんを見ていると本当に人生を楽しんでいるんだなって思う。ここまで人を(もてあそ)んでいる人を他に知らない。

 

「それじゃあごゆっくりぃ」

 

 反応に困った様子の木梨さんに「ああ言ってるけど、どうする?」と聞くと、「丁度いいし部屋に戻るかな」と言った。

 

 私はそれを“部屋で飲みなおそう”という意味だと思って、お酒と(さかな)になりそうな物を取ってから木梨さんの部屋に向かった。

 

 一応、ノックをしてから、

 

「入るわよー」

 

 と言って部屋に入る。

 

「…………え?」

 

 入ってきた私に困惑(こんわく)した様子の彼に向かって手に持ったお酒を見せる。

 

「部屋で飲みなおす……のよね?」

 

 私の言葉を聞いてもなお、数泊の間を置いてから、ようやく私が来た意図(いと)を理解したのか散らかった机の上を慌てて片付け始めた。

 

「びっくりした。急に入ってきたからなにかと思った。そこれそ夜這(よば)いでもしに来たのかと思ったよ」

 

 冗談めかしてそんな事を言う彼に、

 

「会ったばかりの相手に簡単に身体を許すほど軽い女じゃありません」

 

 と返した。まあ元カレ(あいつ)の時は許しちゃったんだけど。

 

「これから仕事をするとかじゃないなら付き合ってよ。というか、私みたいな巨乳と飲めて役得でしょ?」

 

「自分で言うのか……」

 

「何よ。うれしくないの?」

 

「うれしいです。はい」

 

「なんかいい方がむかつくけど、まあ許す」

 

 多分、この時には既に酔っていたのだと思う。もちろん当時はそんなこと気づきもしなかったけれど。

 

「そういえばお仕事は順調(じゅんちょう)?」

 

「正直に言うとかなり微妙(びみょう)……。出来ることはやってるけど、そもそも出来ることが結構限られててさ。やらなきゃいけない仕事はあるけど、ここじゃ出来ないことばかりなんだよね」

 

 帰ったら大変だ、と彼は笑った。

 

 フェリーの欠便が無ければ1週間は早く帰れたはずなのだから仕方のない事なのかもしれない。

 

「まあ有休扱いにしてもらってるから、溜まった休暇の消化と思うことにしたよ。じゃなかったらあんな時間から酒飲めないし」

「え、待って有休なのに仕事してるの?」

「そうだけど」

「えー……。私なら絶対なにもしない……」

 

 勤勉(きんべん)というか真面目というか、これが都会に住む社畜(しゃちく)ってやつなのかな。

 

「お酒に誘ってもらってすごい助かってるよ。部屋に(こも)っててもどうせ暇だしね」

「しかも相手は私みたいな巨乳だもんね」

「まあ………」

 

 なんとも歯切れ悪い返事に少し不安になりながら「嬉しくないの?」と聞くと、小さいため息をついてからぽつぽつと話し始めた。

 

「………あのさ。会ったばかりの人、それも男に言われたくはないかもしれないけどさ。あまりそうやって、自分を安売りするような言い方は、しない方が良いと思うんだ」

「そんなつもりはないんだけど……」

「小鳥さんにそんなつもりが無くても、やたらと胸を強調(きょうちょう)してきたり、男に近づいたら、勘違(かんちが)いするよ。誘っているんじゃないかって」

 

 依然として台風の影響(えいきょう)にあり、外は非常に雨風が強く、雨戸をがたがたと鳴らしている。

 

 だというのに、部屋には静寂(せいじゃく)が訪れたように感じた。

 

「女将さんは上手く引くところを引いてるから、“からかわれている”んだってわかる。でも、今の小鳥さんみたいに至近距離でそんなされたら、……襲ってしまいたくなる」

 

 木梨さんの声は真剣(しんけん)で、お酒のせいなのか少し顔は赤かった。そんな顔を前にして、私は少し変な気分になっていた。

 

「い、言うねぇ、さっきは童貞臭い反応ばっかりだったくせに」

 

 声が裏返りそうになりながらもなんとか距離を取って精いっぱいの虚勢(きょせい)で言い返す。

 

「だから童貞じゃないって言ってるだろ……」

「どうだか――」

 

 気おされそうになりながらもなんとか、話の主導権(しゅどうけん)を取り返そうとした瞬間、木梨さんは私の(あご)を持って顔を近づけてきた。

 

「——―ひぅ……」

 

 鼻がぶつかりそうな程に顔が近くにあった。

 

 頭が真っ白になって声も出せなくて、でも不思議と嫌じゃない。

 

「……一応言っておくけど、止めるなら今だぞ」

 

 少し荒くなった呼吸(こきゅう)の音と、耳をくすぐるようなささやき声が聞こえる。

 

 まるで脳が溶けているかのような錯覚(さっかく)を覚えながらゆっくりと彼の名を呼ぶ。

 

 自分がどんな声を出したのかわからないけれど、次の瞬間には(くちびる)を奪われていた。

 

 ついばむような軽いキスでななく、本能のままに相手を求めるようなキスで完全に蕩けた私は木梨さんの手を取り、自分の胸に押し当てて静かに「いいよ」と呟いた。

 

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