内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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序章 ―プロローグ―
episode 1 転生


 

 

 

 

 

――虚ろながらに、その瞳は開かれた。

 

 

朦朧とした意識の中、私は自然と周囲を見渡す。…そこは不思議な空間だった。紺と白のタイルの床。そこにある物は白い椅子。

 

周囲は真っ暗ながらも星々のような何かが煌めいている。

 

――そして、何も聞こえない。

 

私はそんな異質な空間の真ん中にある白い簡素な背もたれのある椅子に腰掛けていた。

意識がはっきりしない、そんな状態でここまで観察できたのは私的に奇跡だったのかもしれない。それくらい過去に感じた事の無いほどの経験、まるで直接頭の中に濃霧があるかのようだったのだから。

 

 

「――はじめまして、有栖川 梨花さん」

 

聞こえないと思っていた。しかしそれは私の芯に響くような女性の声、美しくも儚いその声は、静かなこの場所に確かな存在感を与えた。

 

その声は徐々に私の視界を鮮明にして行く、襲っていた濃霧が雲散するかのようにクリアになっていく。それは私に清涼剤を加えたかのような清々しさすら感じさせたのだから。

 

気付いたらいつの間にか目の前には水色の長めの、少し癖のある髪と、青を基調としたドレスのような、変わった衣装を纏った女性がいる。

その女性は穏やかな顔のまま、自分の目の前の椅子に私と同じように腰掛けていた。

 

…これは夢なのだろうか?そう考えるまで時間はかからなかったし、自然と口からそれが疑問となって出てしまっていた。

 

 

「いいえ、夢ではありません。…貴女は┈┈┈┈┈┈┈┈」

 

 

否定されたような気がした。けど…今の私に他人の話をじっくりと聞く余裕などない。それはこの状況に困惑しているからではなく…ただ、ひたすらにうとうとしていた。ようは身体に寝起きのような気だるさを感じていた。目の前の女性が何か言っているようだが、私にはよく聞き取れなかったのだ。

 

それでもこの人は誰なのだろう?ここはどこなのだろう?…と色々考えてはみたものの、やはり所詮夢だろう。そう決定付けしてしまった私は、あまり深く考えないように黙って目の前の女性を見つめていた。すると…

 

「うーん…状況が状況だから、理解が追いつかないのはわかるけど、ここまで無言を決められるとこっちもやりにくいわね……もしもーし、聞いてますかぁ?」

 

そんなこちらの態度にイライラしたのか、女性は急激に態度を変えて目の前の私の前で手を振り始めた。いくら夢とは言え、無視をするのも失礼だ。私は申し訳なさそうに謝罪し、貴女は誰ですか?と問うことにした。

 

「ちょっと…聞いてなかったの!?」

 

…どうやら私がぼーっとしてるうちに自己紹介を終えていたらしい。見れば女性の表情には驚きの中に不機嫌な様子も見受けられるように見えた。これはいけないとはっとした私は今度は慌てるようにごめんなさいと頭をさげる。

 

「はぁ…もう…仕方ないわね…、私はアクア。女神アクアよ。簡単に言うと、これから貴女を導く者、かしらね。」

 

ため息混じりに言ったと思えば気を取り直してといった感じで声を高めて名乗るアクアに、私は若干の苦笑いを浮かべていた。それにしても導くとはどういうことなのだろう?女神とかその辺は深く考えないようにした。だって夢だし。私はただ首を傾げ、その疑問を口にした。

 

「そう、導くの。貴女は15歳という若さで亡くなった。そんな貴女には選択肢が3つあるわ。」

 

…どうやら私は死んだ設定になっているらしい。まったくどんな夢なんだ、と私は俯いた。そんな私をまったく気にしないような口調で、この自称女神様は言葉を続ける。

 

その3つの選択は、というと…

 

まず1つ目はこのまま天国にいくということ。そこは何もない場所で、ただひたすらに無意味に時間を過ごすだけの場所だの、凄くつまらない場所だの、まるでオススメしないと言わんばかりの説明だった。分からなくもないが、天国のイメージが台無しである。

 

2つ目は今までと同じ世界への転生。当然ながらこれは記憶を完全に消されるらしい。これではそのまま消えるのと変わらない、とこれもまた微妙そうに説明された。

 

そして3つ目…

 

「そして3つ目は…剣と魔法の世界、魔王が暴れる世界に記憶を持ったまま転生して、勇者となって戦い、魔王を倒して世界を平和にすること!これは勿論記憶はそのままだし、おまけにちゃんと戦えるように私が直々にサポートしてあげるわ!具体的にはチートな武器や能力を授ける、みたいな感じね!」

 

この3つ目についてだけはやけに力説された気がする。内容云々よりもそれが1番の印象だった。

 

それは今やアニメ、漫画、ゲームでよく聞く言わば異世界転生…。男の子なら目を輝かせて喜んだかもしれないけど、女の子である私には首を傾げるような話だった。

 

確かに、私とてゲームや漫画は好きな部類に入る。今やスマホで気軽にMMORPGが遊べる時代。個人的にはやり込んだゲームもあるし、そんなゲームの世界に行ってみたいなどと、現実逃避気味な考えを全くもっていないわけでもない。私が首を傾げた訳は、単純にこれが夢だと思って疑っていないからだ。

 

…なんで自分の夢で、こんな男の子が喜びそうな夢を見ているのだろうか。と。

どうせ自分の夢なら、美少女の女神様じゃなくてイケメンの神様にしてもらいたい。なんてくだらないことを考えながら、私は自然に3番目を選択した。

 

あまり深くは考えてはいない。でも、1番と2番を選んだ時点で、この一風変わった妙な夢は終わりを告げてしまうだろう。それではつまらないじゃないか。

 

そんなことを考えた私は瞬時に自分の考えに自嘲した。夢だと気付いてしまえば、随分と余裕が生まれるものだな、と。

 

「そう、わかったわ。それじゃ、このカタログに武器やアイテムが載っているから、好きなのを選んでね!」

 

そう言いながらアクアがどこからか出した分厚い赤い表紙の本。個人的にはてっきり「では、貴女に合う力を授けましょう」とかなんとか言って自動的にそして神秘的に何かをもらえるのかと想像していたのでこの対応は色々とぶち壊しである。

 

本当にどんな夢なんだ、と内心頭を抱えたくなりながら、私はパラパラとそのカタログを開き、パラパラと目を通していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

それにしても長い夢だ。そしてなにより現実味を感じる。

 

何分くらいカタログを見ているだろう?どうもこの場所は時間の流れを感じにくい気がした。…もっとも夢に現実味も時間の流れもあったものではないのだが。流石にここまで長く感じると、これはもしかして現実なのかな?とほんの一瞬だけ頭によぎるも、まず今の状況の非現実性を垣間見たら夢以外の何物でもないではないか。15歳という若さではあるが、いくらなんでも今のこれを現実と思ってしまうほど、自分は子供ではない。

 

「…迷うのはわかるけどー、こっちも忙しいから、早く選んでねー」

 

ふと見たらその女神様は言葉とは裏腹に床に寝そべり煎餅らしきものまで食べ出す始末である。こんなのが現実であってたまるかと、内心嘆くのは仕方ないことだろう。

 

パラパラと何ページあるのかわからないカタログを捲っていたが、やがてその手を止めてその分厚い本を閉じた。そして私は、床に寝そべっている不機嫌そうな女神様に聞いた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈この本の中にある以外のものはダメなの?と。

 

 

 

それを聞いた女神様は食べてたものを全て食べ終わると、ゆっくりと立ち上がるとだるそうに私の目の前の椅子に座った。

 

「別にいいわよ、やりすぎではない限りはね。何がいいの?」

 

私は納得がいかないでいた。何故やりすぎてはいけないのだろう?魔王を倒すとかなら、むしろその方が確実性が増すのではないだろうか。

 

「その答えは簡単よ。それが魔王を倒すだけってことで収まる保証がないからよ。…まぁこれは水掛け論になりかねないから、言い方を変えるわ。天界でそういう規定があるからよ。できたらこれで納得してほしいのだけど?」

 

…なるほど。と私は小声で反応した。

 

水掛け論というのは、ようはそれはこちらが信用されていないのか?のような話になったりすることだろう。ただそれについてはわかる。

 

例えば殴るだけでなんでも倒せて、どんな攻撃も状態異常も無効にする、なんてチートにして送り込んで、もしそれが魔王を倒すだけに収まらない、あるいは魔王側に裏切るとかなればとんでもないことになるだろう。

 

それ以前に、それは世界のパワーバランスがおかしい事になってしまう。最終的にはその世界は崩壊しかねない。大雑把な見方をすれば多分こんな感じだろう、と私は納得することにした。

 

「で?何がいいの?審査はするけど、それに通るのならどんなものでも構わないわよ」

 

本を閉じた時に、私の答えは決まっていた。少し恥ずかしさはあったものの、私は女神に私のスマホを取り寄せられないですか?と聞いた。それを聞いた女神は怪訝な表情になる。

 

「は?スマホ??そりゃ取り寄せられるけど…向こうに持って行っても電波も届かなければWiFiとかもないわよ?それ以前に、充電もできないからすぐにただのゴミになるわよ?」

 

私は否定したさで首を横に振った。今から自分の欲しいものの説明をするのに、それがあったほうが手っ取り早いのだ。

 

「ふーん…まぁいいわ…。…ほら、これでしょ?」

 

空間に小さな穴が空いたと思えばそこからは見覚えのあるスマホケースがでてきた。女神は落下するそれを片手でキャッチ。改めて見ても、それは間違いなく私のだった。

これには私も盛大に面食らうことになる。いくら夢とは言え、まさかここまでこちらの思い通りに事が運ぶのは不気味である。逆に言えば夢だからこそご都合主義なのかもしれないが。

 

「で?どうするの?え?ゲームを起動したらいいの?ちょっと待ちなさい…このままじゃ電波届かないから…」

 

 

再び空間に穴が空く。あれを広げて私が飛び込んだら、夢から覚めるのだろうか?などと考えながらも、どうやら私のスマホは無事にゲームにログインできたようだ。興味深そうにスマホをポチポチしながらゲーム内のキャラクターをいじくる女神を見ながら、私は言った。

 

 

 

 

 

┈┈┈┈私はこのゲームの中のキャラクターそのものになりたい。と。

 

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いたアクアは、少し驚いたような素振りを見せたかと思えば、少し目を細めた。そんな中私は詳しく説明していく。

 

見た目はもちろん、強さも、スキルも、装備もまったく同じにして、意識だけを自分として、私は生まれ変わりたい。せっかく異世界転生するのなら、1からリセットして始めてみたい。それは淡々としたものだった。だからなのか、アクアは無表情のまま聞いてきた。

 

「本気で言ってるの?強さやスキルに関しては、審査次第で調整がはいって普通に強力な神器…武器を持った状態くらいになる可能性が高いけど、見た目…髪の色や顔、体格、瞳の色まで全て変えるのは可能よ。貴女が本当にそれを望むのなら、私は叶えましょう」

 

 

そのキャラクターの見た目は金髪のロングツインテールに青色の瞳。華奢な外見の美少女。後頭部に紺色の大きなリボンをしていて、服装はそのゲームでゴシックプリーストと呼ばれる青色のプリースト服を可愛くあしらった感じのもの。

 

「叶えられますが…それは貴女が今の外見を捨てる、と言うことになるのですよ?それをしてしまえば、二度と元に戻すことはできません。あえて聞きます。本当に、よろしいのですか?」

 

 

…少しの間、感じた沈黙。私は噛み締めるように、ゆっくりと、だけど決意をしたように無言で首を縦に振った。

 

「…ふーん…まぁ容姿を変えて欲しいなんて言われたのは、ぶっちゃけ初めてじゃないのよね。ただ貴女の場合、今のままでも充分可愛らしいかな、って思って、少し意外に感じただけよ。」

 

可愛らしいと言われるのはあまりないので少し照れた。それはそれとして、この女神様は真面目になったり気さくになったり情緒不安定すぎはしないだろうか。こうやって見てるとまるで二重人格であるのかと疑うレベルである。

 

…この願いにしたのは単純に興味本位からだったりする。さっきも言ったが、私とてアニメやゲームは嫌いではない。実際ゲームのキャラクターのようになってみたい、と思ったこともある。だから、どうせ夢なんだから。

 

 

夢から覚める前に好奇心の向くままのことをしてみたい。ただ、それだけだった。

 

「よし、準備できたわ。始めるわよ!」

 

こちらがそう決めてから、その言葉が来るまでまるであっという間のように感じた。何故か私は不自然にその目を閉じた。何故かそうしなければいけない気がした。そして地面が軽く揺れたような錯覚とともに、私は目を開けた。

 

…とくに動いていないにも関わらず、私の目線は少し下に落ちていた。そして確かに感じたその存在は…、頭の左右にある結ばれた髪。元々茶髪だったはずのそれは鮮やかで綺麗な金色をしていた。それに思わず目を見開く。服装もどこにでもあるようなセーラー服だったのに、青を基調とした可愛らしいゴシックプリーストと呼ばれる十字架を彩るドレスへと変貌していた。

 

「うんうん、すっかり可愛くなったわよー。その青い服装も中々ね。じゃあこれからいよいよ異世界に旅立つわけだけど、その格好ならアクシズ教団に頼れば、きっと優しくしてくれると思うから困ったら訪ねてみなさい。」

 

アクアはそんな私を見るなり満足そうに首を縦に振ると、そのまま立ち上がった。

 

 

「さぁ、行きなさい、新たな勇者候補さん。魔王を討伐した暁には、どんな願いでも1つだけ叶えてあげましょう!どうか貴女のこれから進む道に、幸あらんことを!」

 

 

私は気付けば立ち上がっていた。まったりしていたと思えば突然の話の展開の速さに、私の頭は完全に置いてきぼりだった。結局他の…武器やスキルはどうなるのか、聞きたいことはまだあるのに、と思うも既に遅いようで。

 

私は…背後から迫る真っ白い光に包まれていった。





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