内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 10 討伐報告

 

うっすら夕闇になったアクセルへの帰路。たまに弱い魔物がでてきたが1時間たっぷり休んだ私達には何も問題はなく、あっさり撃退しながらもその歩は着実にアクセルへと近付いていた。駆け出しの町というだけあり、アクセル近辺の魔物は弱いものが多い。さっき出逢った赤い初心者殺しが異例であり異常だったのは言うまでもない。…そんな中、私は何回もリーンに謝罪していた。

 

「う、うん…もう大丈夫だから…気にしないで…」

 

「むしろ俺には最高の御褒美でしたありがとうございますっ!」

 

「ダストー!あんた何見るなって言ったのに見てんのよ!」

 

半ば諦めたような感じで頬を赤く染めたリーンがそう言うと、ダストは出逢ってから1番の笑顔だった。それを見て追いかけるリーン。逃げ回るダスト。

 

うん、これなんだけど完全に私が悪い。無意識だったとはいえ本当に申し訳なかったと思う。全員揃ってぶっ倒れてたのにみんな元気になってよかったなぁと誤魔化しながら、私はふいにさっきの休憩中のことを思い出す。とはいえ私に意識はなかったのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「う…あん……アリス…ダメ…そこは…」

 

突如リーンの甘い声が周囲に響く。周囲に人がいないのが救いなのだがダストには丸聞こえである。突然のアダルトなシチュエーションに倒れたまま首から上だけを条件反射のようにリーンに向けた。

 

「ダメなの……尻尾は弱いのぉ……」

 

もふもふもふもふ。どうやら私は傍にあったリーンの尻尾を抱き枕にしていたようだ。たまに甘噛みしてしまったり私はかなり寝相が悪かったらしい。

私としては尻尾をもふもふしているだけなのだけどそれによる艶やかなリーンの喘ぎ声にダストは全神経を目と耳に費やしていた。そして嘆くように叫んだ。

 

「何2人でにゃんにゃんしてんだ!!俺も混ぜろ!!」

 

動けないのがこれほどつらいのかと嘆くのはこの時のダストの談である。

 

「混ぜるかバカ!!それ以前に見るな!!」

 

涙目のままのリーンの叫びで私は意識を取り戻した。

 

 

 

そんなこんなで休憩時間が伸びたのは言うまでもない。身体を休める的な意味で。その時リーンが何を血迷ったのかこういうことは2人きりの時だけにしてと言われたのは聞かなかったことにする。もふもふ的な意味では非常に魅力的なのだけど私にその手の趣味はないしそれ以上進むとなるとタグを増やさなければならなくなる。私が何を言っているのか私にはさっぱりわからなかった。

 

 

 

 

 

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ようやくアクセルの街に到着した。とはいえ私とリーンはともかくダストは先程の戦闘でもろに返り血を浴びたので血塗れだった。顔などは途中見かけた湖で洗ったのだが服はそうもいかない。

 

「ちっ、この服はもう捨てるしかなさそうだな。」

 

「そこはあの赤い初心者殺しの報酬に期待だねー。あれだけ強いから結構な額だと思うけど。」

 

血塗れだけでなく、牙や爪での攻撃を喰らっていたダストの服は既にボロボロだった。傷だけは私がヒールで治しはしたが、服は直すことができないので仕方ない。

そんな話をしながら、私達はそのまま銭湯に向かう。ただ私は今のゴシックプリーストの服が唯一の服なので替えがないことから、リーンに服屋を紹介してもらい、とりあえずその場しのぎの洋服を購入した後に銭湯で疲れきった身体を休めるのだった。

 

 

 

冒険者ギルドにようやく到着した。今の私の服装は青白い色のワンピース。肩にリボンがついたそれはとても可愛らしく、リーンが選んでくれたものである。とても戦闘向きではないが、普段着としては問題ないだろう。個人的にもお気に入りである。

ダストが既に入口で私達を待っていたようで、こちらを視認するなり手をあげて存在をアピールしていた。

 

「よう、待ってたぜ。」

 

そこには着替えたのか、ラフな格好なのは変わらないが先程より普段着っぽい様相になったダストがいた。街灯と冒険者ギルドの窓から見える光だけがその存在を認識させると、私達3人は並んで冒険者ギルドの窓口へと足を伸ばした。

 

「はい、クエストの報告ですね。それでは皆さんの冒険者カードの提出をお願いします。」

 

この時の受付もルナさんだった。なんかいつもいるような気がするけど休んでいるのだろうかとか余計な心配をしながらも、私は初のクエスト報告に軽く緊張していた。どうしたらいいのかよくわからないこの状態はダストとリーンの存在が非常にたのもしく感じた瞬間でもある。

 

まずリーンの冒険者カード、私の冒険者カードと見ていく。今回のゴブリン討伐のノルマは30匹である。当然ながら全然足りていない。実際私とリーンの討伐履歴を見たルナさんは微妙そうな顔をしていた。そしてダストの冒険者カードの討伐履歴を見たルナさんの目が驚きで見開かれた。

 

「これは…【白虎狼】の討伐!?貴方達はゴブリンの討伐に行ったのですよね!?」

 

私達はお互いの顔を見合わせるとともに首を傾げた。白虎狼…?あの獣の色はどう見ても赤かったのだが。3人で不思議に思っているとルナさんが他の職員に頼んで提示板から1枚の依頼書を取りに行かせる。依頼書の位置は難易度別に振り分けられていて、職員が向かった位置はこの街でも1番高難易度の依頼書が並ぶ位置だった。その依頼書を改めて確認した。

 

【白虎狼】の討伐依頼書

 

中級者殺しの変異種。推薦レベル25以上(4名以上のパーティ推薦)

元々は王都付近で発生した獣で、ゴブリンやコボルトなどを捕食するのは従来の初心者殺し、中級者殺しと変わらないが通常の個体なら避ける上位種をも捕食してしまう。人間を捕食することもあり、1級危険生物としてネームドとなる。

白虎狼との名の通り、白い毛並みだったのだが繰り返す殺戮による返り血でその毛は赤く染っている。

なお、警戒心が強く神出鬼没であり、なかなか出会えない。

 

討伐報酬金 90万エリス

 

 

 

 

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「90万…!?」

 

3人で揃ってでた感想がまずそれである。初心者殺しと思っていたあれは中級者殺しだったのかとか些細なことはさておき、取り乱しているのは私達だけでなくルナさんも同じだった。なぜなら明らかに推薦レベルも人数も足りていないのだから。ちなみに私のレベルは最初から15だった。元のゲームでは150だったのに凄まじい弱体っぷりである。ダストとリーンも同じくらいだったのでそれで倒したとは信じられないのも無理はないだろう。

とりあえず私達はルナさんに正直に今回の出来事を説明した。

 

なおゴブリンの討伐自体は失敗しているから違約金が発生するかと思ったのだが肝心の討伐対象がほとんど白虎狼により捕食されているのだからどうしようもなく、特例として違約金は免除された。ただしゴブリン討伐の報酬そのものはなくなり、私達には【白虎狼】の討伐報酬のみが支払われることになる。その額90万エリス…!

 

 

「うおおお!!」

 

ダストが歓喜の雄叫びをあげる。既に夜も深けたギルドに併設された酒場には多くの冒険者がいて、なんだなんだと人が集まってくる。そして内容を知るとともにギルド内で大歓声があがった。

 

「流石ダストだぜ!お前ならいつかやってくれると思ってたぞ!!」

 

「みんな!新たな勇者を讃えようぜ!」

 

「「「おおおぉぉ!!ダスト!ダスト!ダスト!ダスト!」」」

 

響き渡るダストコールにダストは完全にご満悦だ。リーンはただやれやれといった表情で呆れていたが私としては自分が目立ってはいないので全然OKだったりする。

 

「よぉし、お前らぁ!!俺の奢りだ!そこのウェイトレスさん!ここにいる全員にシュワシュワを出してやってくれ!」

 

「「「おぉぉぉ!!ダスト!ダスト!ダスト!」」」

 

更に勢いを増すダストコール。正直かなりうるさくなっているのだけど大丈夫なのだろうか?ふとルナさんやギルド職員に目を向けると微笑ましそうに見守っているのを見る限り問題はなさそうだ。多分冒険者という特殊な職業故の配慮なのだろうか。

 

「へぇ、随分気前いいのねダスト、そんなにお金もってるんだ?」

 

私の横にいたリーンがジト目でダストを見てその口元にはいじわるっぽい笑みを浮かべている。

 

「は?何言ってんだよリーン。金なら今はいっただろ?3人で分けても1人30万…」

 

「ダストくーん、今日のクエストに行く前の私との約束、覚えてるー?」

 

「えっ、約束……あ。」

 

今の今までテンションを最高潮にあげていたダストだったが、リーンのその言葉でまるで時間停止したかのように動かなくなった。私も忘れかけてたが今回のクエストの報酬、ダストの分は全てリーンが受け取ることになってるのだから。うまくいけば3万エリスと思っていたそれは気が付けば30万エリスである。完全にリーンの丸儲けである。

 

「そ、そんな……」

 

崩れ落ちるダスト。その顔には先程のような覇気はまるでない、とても勇者と呼ばれるには程遠い顔だった。そんな状態を見て気が済んだのか、リーンは呆れるように笑った。

 

「冗談よ冗談。流石に30万エリスも受け取れないわ。もちろん元々の4万エリスは、しっかり返してもらうけどねー♪」

 

こうして私は30万エリス、ダストが26万エリス、リーンが34万エリスを受け取ることで今回のクエスト報告はおしまいとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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