内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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遅くなりました。今回で100話です。一時期停滞しましたがここまで書けたのも読者様方のおかげです、これからもよろしくお願いします。




episode 100 アレクセイ・バーネス・バルター

 

 

―アクセルの街・アレクセイ邸宅―

 

門をくぐり庭先に出たところで待つこと5分ほど。やけに時間がかかると思っていたら扉が開き、そこから執事が慌てた様子で出てきた。

 

「大変お待たせしました、アルダープ様より許可が降りましたのでそちらのご希望に添い警備として同行なさることで問題ありません」

 

その一言にミツルギさんとゆんゆんは目立たない程度にホッと安堵する。とりあえずこれで予定通り作戦が行えそうだ。

 

執事が扉を開けて屋内に入る。するとエントランスにアルダープの姿はなく、メイドさんが2人待ち受けていた。

 

「本日はようこそおいでくださいました、アリス様は私に同行お願い致します、本日宿泊していただくお部屋にご案内致します」

 

「ダスティネス様御一行様は私に同行くださいませ、アルダープ様がお待ちしております」

 

「そちらの御二方は警備をしてくださるということで…屋敷の私兵に紹介致しますので私に同行してください」

 

この対応に私達は顔を見合わせる。とりあえず私達は3つに分けられるようだ。

いきなり予想外な対応なのだけど特に問題はない。屋敷内に入れさえすればこっちのものだ。それにしても会うだけなのに泊まりがけの意味がよくわからない。

 

「…あ、あの…宿泊…とは…?」

 

「今回の件に関するご質問でしたらお部屋でうかがいますので、ではご案内致します」

 

メイドさんは一方的にそう告げると歩き出してしまった。この態度は私が貴族ではないからなのか、あるいはメイドさんの性格なのかはわからない。

 

再びダクネスと顔を見合わせる。アルダープが許可した理由は単純にアルダープがダクネスに会いたかったからかと思えばダクネスのことも心配になってくる。

ダクネスは何も言わずに頷く。何も心配はいらない…、そう言っているように感じていると、それぞれが案内に沿って別れることとなった。

 

「…失礼ですが貴方はダスティネス様のメイドでは?」

 

私を案内するメイドは視線だけを私の後ろを歩くメイド姿のアクア様に向けていた。同じメイドという立場と思っているからなのかその眼光はきつく感じる。

 

「私はダクネ……ララティーナ様の命令でアリス様のお世話係としてこの場に来ております」

 

アクア様はダクネスと言いかけるも慌てる素振りは見せずに冷静に対処していた。それにしても女神様をお世話係になんてフリとはいえ許されるのだろうか、アクシズ教団の人に知られたら私は磔にされてしまいそうなのだけど。

 

一方メイドさんはしばし考える素振りを見せる。きつい視線は変わらないがどうやら納得はしたようだ。

 

「…そういう事でしたら了承致します、ではこちらに」

 

とりあえず一安心。これには私とアクア様も揃って安堵の溜息をつく。今後ここにいる間は一挙一動に気を配らなくてはならないと思うと面倒でしかないのだけどそこは我慢するしかない。まず私は勿論の事、アクア様がポカをやらかさない事を祈るばかりである。

 

…うん、不安しかない。そんな想いを抱きながらも私はメイドさんの案内に同行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を上がり案内された部屋は高級ホテルの一室のような外観と広さ。所々にはアンティークとしてなのか高そうな絵画や壺などが飾られていて、はっきり言えば落ち着かないの一言である。

 

「まず先程の質問の答えになりますがこれからの予定を説明させていただきます」

 

部屋に入るなりきつい目付きのままのメイドさんから説明を受ける。掻い摘んで言ってしまえばこの後アルダープの息子さんと会ってお茶して夕食をして、入浴後に就寝、そして翌朝朝食をいただき庭園を2人で散歩する。とりあえず明日の午前中には帰れるらしい。

お見合いと聞いてこちらとしては会って話してお茶しておしまいくらいの気持ちだったのだけど無駄に長いスケジュールだ。とはいえ長いのはこちらとしても有難い。

時間があればあるほど、カズマ君やクリスの捜索する時間は増えるのだ。なんとか上手くやって欲しいものである。

 

「なお、この部屋にある美術品はどれも高価な物ですので、どうか触ったりしないようお願いします」

 

メイドさんは当然のように注意を促すが、だったらそんな物を置いておかないで欲しいが一番に言いたい事なのだけど。

ベッドもお姫様が眠るようなヒラヒラカーテン付き…、いやそりゃ私も女の子ですからね、こーいうベッドで寝てみたいとか幼い頃に思ったりはしたけど今叶えて欲しくはなかったまである。

 

「では、こちらに着替えて頂きます」

 

私が色々考えている内にメイドさんはテキパキと動いている。そして予め用意されていたのか、純白のドレスを広げて私に見せるように差し出してくる。これには想定外なこともあって私が微妙な顔をしていると、メイドさんは分かってますからとでも言いそうな様子のまま口を開く。

 

「アリス様は冒険者ということで、予めこちらでドレスを用意しておきました。バルター様に失礼のなきよう、こちらにお着替えしてもらいます」

 

ただこれはアルダープの意思なのか、メイドさん個人の考えなのか。それは分からないけどこのまま渋っても進みそうにない。私は諦めたようにそのドレスを受け取り、それを見てみる。

 

高価そうな純白のドレス。こちらとしてはむしろ失礼があった方が都合がいいのだけど相手は貴族、やりすぎは行けない。

 

貴族なんて怒らせたらロクなことにならない、仮にお見合いが破綻しても悪魔を見つけられなければその後アルダープからの風当たりは強くなると思われる。それは面倒臭い。

 

よってお見合いは破綻させるものの相手を怒らせたりはしない方向性にしなければ。今着ている服を脱ぐのは少し怖いけどすぐ傍にアクア様がいるし問題はないだろう。

 

「そちらにお世話係の方がいますのでお手伝いは必要ありませんね?着替え終わりましたらお呼びください」

 

そう告げるとメイドさんは部屋の外へと出ていった。すぐ傍にいないことを確認するなり私とアクア様はまたもや溜息をつく。

 

「なんだか気が重いわねー…とりあえず、ちゃっちゃと着替えちゃいましょ」

 

「…そうですね、お願いします…」

 

ちゃんとしたドレスなんて着慣れていないし着方がわからない。いつもの服はドレスっぽいけど普通の服のように着れるし。アクア様に手伝ってもらい四苦八苦しつつもドレスを纏うことにした。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

着替えが終わるといよいよバルター様とやらのいる部屋に案内された。というよりこのメイドさん私に何か恨みでもあるのかな?が今一番思ってる事。

いちいち言い方に棘があるしきつく感じてしまう、髪型はダクネスなのに。まぁ関わるのは今だけだし我慢するしかないか、と諦めつつも、私が部屋にはいれば見た事のある男性がソファに座り待ち構えていた。

 

こちらが部屋にはいるなり、物腰柔らかそうな男性は立ち上がり、頭を下げた。

 

「…お会いするのはこれで2度目になりますが…ようこそいらっしゃいました、本日はお忙しい中時間をさいてくださり感謝してます、僕はアレクセイ・バーネス・バルターと申します、今日はどうかよろしくお願いします」

 

「…ご丁寧にありがとうございます、アリスです。…こちらこそよろしくお願い致します…」

 

目の前の男性は長身、凛々しさと落ち着きを兼ね備えたイケメン男性。2度目と言うのは先日王都で出逢った騎士らしき男性、それがこの人だったのだ。だけど私が真っ先に思った事はそんな些細なことではなかった。

 

「実はあの後アリス様はお倒れになられたと聞き…僕はどうして貴女をそのままにして行ってしまったのか、と…ずっと後悔してました。今はもう…大丈夫なのですか?」

 

「……はい、すみません。その節はご迷惑をおかけして…」

 

「迷惑などと、とんでもないですよ。そうですか…ご無事で何よりです、僕としても安心しましたよ」

 

バルターさんは本当に安心したように優しく微笑みかける。というよりこの人があのアルダープの息子さん?全然全くもって似ていないのだけど母親の胎内に父親のDNAを置き去りにしてきたのだろうか?そう思えるくらい似ていない。容姿は勿論のこと、その内面もだ。目を見たら分かる、この人は本気で私の事を心配してくれていた。アクア様は頑張って落ち着こうとしているみたいだけど目を見たら分かる、私と同じ事を考えているのだと。

 

「どうぞ座ってください、今日はお見合いなどという形ではなく、できたらお話に来た程度の認識で構いませんので…、お気に入りの紅茶がありますので良ければ飲んで頂きたいのです」

 

バルターさんはそう告げるので私はゆっくりと対面のソファに腰掛ける。そしてバルターさんがメイドさんに丁寧にお願いしますと告げるとメイドさんは先程までには見た事ないような綻んだ顔をしてお茶の準備にかかっていた。

 

…なるほど、察した。

 

このメイドさんはおそらくバルターさんの事が好きなのだろう。誰がどう見てもイケメンだからね、その気持ちは分からなくもない。だけど今回私みたいな何処の馬の骨かわからないような冒険者がバルターさんとお見合いする、なんて話になればメイドさんとしては好印象になるはずなく。それで私に対して目付きが厳しいものになっていた訳だ。それなら問題はない、どんなイケメンだろうとどんなに内面が良かろうと私に結婚なんて考えは現状皆無なのだから。私がいなくなった後になんとか身分違いの恋を成就させてほしいものである。

 

私がそんな余計な事を考えていると、メイドさんからアクア様へと紅茶のポットが渡された。アクア様はそれをティーカップに淹れると、丁寧に私の前のテーブルに置いてくれた。

 

「僕が作ったお気に入りの紅茶なんです、良ければどうぞ召し上がってください」

 

「…作ったのですか?」

 

「はい、僕の趣味で紅茶葉から育てているのです、このように紅茶葉となるまでは業者に委託してますが…」

 

なるほど、それは楽しみだ。個人的に紅茶は好きでよく飲んでいるし淹れるのを覚えたのもそれが原因だったりする。私は内心うきうきしながらも紅茶を口に含んだ。

 

……温かい。無味無臭で、身体を芯から温めてくれる。まるで身体の奥底から浄化されるような清涼感を感じさせてくれる。

 

 

 

 

 

……つまりはこれ、お湯だ。

 

 

 

 

 

私は無言で視線だけをアクア様に移すと、アクア様はやっちゃったぜ☆テヘペロとでも言いそうな様子でいた。いやいやこれどうするの!?バルターさん私の様子をじっと伺っているんだけど!?感想を待ってるんだけどお湯の感想しか述べられないんだけど!?

 

「……えっと…その…とても深みのある味で…おいしいです」

 

私は内心汗だくの状態で目を逸らしてこう答えた。しかしこれは間違いであることに気付いたのはバルターさんの怪訝な顔を見てからだった。

 

「深み…ですか?おかしいですね、この紅茶は飲みやすくテイストされているはずなのですが…」

 

私のバカー!?なんで余計な言葉を追加してしまったのか、これなら普通に美味しいだけで良かったじゃないか。バルターさんはもしかしたらメイドさんが渡すポットを間違えたのでしょうか?とか言ってるしメイドさんは悪くないのに謝ってるし罪悪感がパない、私は悪くないのに。

 

「ではこちらの紅茶をお飲みください、こちらなら間違いは無いと思います」

 

バルターさんがそう告げるとメイドさんは違うポットをアクア様に手渡す。既に嫌な予感しかしない。

アクア様がそれをティーカップに淹れるとまた私の前のテーブルに置く。もう見ただけでお湯と分かった。だって無色透明だもの。再びアクア様に目を向けるとまたもややっちゃったぜ☆テヘペロって言いたげな顔をしていた、殴りたいこの笑顔。

 

紅茶…もといお湯を口に含むがやっぱりお湯だ。味も何もあったものじゃない、アクシズ教徒なら涙を流して喜ぶかもだけど私は違うし。

どーするのこれ…。ただバルターさんを見るとまたも期待の眼差しを感じる。これは適当な感想で済ませてはいけないと思わせてしまうほどの視線に私はそっと目線を逸らしていた。

 

どんな感想を言おうか迷っていると、私が困っていることに気がついたアクア様は突然ポットの中身を違うティーカップに淹れて上品に飲み出した。

 

「…これはフルーツティーですね、まろやかでとても飲みやすいです」

 

多分私がお湯を飲んでる事で感想が言えないことを察してそれなら私が飲んで感想を言ってあげたらいいのね!とか考えてそうしたのだろうけどいやこの女神様何してるのぉぉぉ!?

バルターさんは苦笑しかしてないし横に立つメイドさんは凄い睨んでるんですけど、めちゃくちゃ怖いんですけど。

 

「…よく見ればそちらのメイドの方は…先日の王城での会食にいたアークプリースト様では…?」

 

「ぎくっ」

 

いや「ぎくっ」じゃないですよ、こんな分かりやすい表現する人リアルで初めて見たかもしれない。というよりあの場にはクリス以外がいたのでアルダープとバルターさんが見れば自ずとわかってしまうだろう。…とりあえずバレたからには仕方ないので適当に言っておこう。

 

「すみません、実はそうなんです…私の友人でして、本日は私の事が心配だからとお世話係として着いてきてしまいまして…本業のメイドさんではありませんので、不快にさせることがあるかもしれませんが、どうか…」

 

「なるほど、そういう事でしたか。僕は気にしておりませんので、大丈夫ですよ」

 

あながち嘘でもない嘘を言うとバルターさんはおおらかに笑って納得してくれた。本当にアルダープの息子さんとはとてもではないが思えない。

 

その後は軽い世間話から始まり、お見合いというよりもただの雑談が繰り広げられていた。私としては気が楽なのだけどバルターさんなりに私を気遣ってそんな形にしているのかもしれない、あまりしゃべらない私を新たな話題を出すことでリードしてくれて、私も自然と笑みをこぼすようになってきていた。

 

…こうしている間にもカズマ君やクリスは捜索を始めているのだろうか…?二人共に潜伏スキルなどを持っているので問題はないと思われるが万が一があればと思うとやっぱり心配だ。

 

結局私はこうして雑談をしながらも2人の無事を祈るばかりだった――。

 

 

 

 

 

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