101匹めぐみん大集合(嘘)
―アクセルの街・アレクセイ邸宅―
2時間ほど雑談しただろうか。バルターさんはこちらのお世話係としてきているアクア様や、自身のメイドさんに気を遣い座るなり休息をとってほしいと言い、今はメイドさんは一時的に場所を外し、アクア様も私の隣に座っている。
本当にアルダープの息子さんとは思えない、細かい気配りもできて、優しい。
この人と結婚する人は幸せになれるだろうなと思えるくらいには。
勿論それは私ではないしそうなるつもりもない。
「正直今回こうしてお会い出来たのは、今でも信じられないくらい驚いているんです」
「…それはどういう…?」
雑談の最中、バルターさんがふとこんな事を言うので私は思わず首を傾げる。何も驚く事でもない。領主であるアルダープが手を回したのだからこれくらい実現することは容易いことだと思える。
だけどバルターさんが言っている事はそんなことじゃなかった。
「…僕が初めてアリス様を知ったのは王都での防衛戦です、僕はあの時、騎士として後方ながら戦場にでていたのですよ」
「……」
あれかぁ…と私は内心後悔するように思っていた。思えばあの活躍がきっかけでミツルギさんも私を知る事になったと聞いてるし今更ながらに私がやってしまった結果は目立ちたくない私にとって不本意な方向へと流れていた。自業自得と言われれば返す言葉もないのだけど。
「あんな凄まじい魔法を扱う者はどんな者なのか、興味本位で近付いてました。すると見てみればその正体は…小柄な美しい少女でした」
「……ぁぅ」
「強大な魔法で魔物を一掃したかと思われたら、今度は負傷している者の治療にもあたる、とても素晴らしい働きでした、僕はそんな姿を見て…貴女に一目惚れしたんです」
もはや何も言えない。私は羞恥で俯くしかできなかった。というよりもこんな風に異性から言われた事は初めてだし恥ずかしい。というより本人を目の前にして一目惚れとか言わないでほしい。これだからイケメンは。
「…とは言え、それは身分違いの恋…、相手が冒険者となれば厳しい父がそれを許すことはないと思い、この想いは忘れようとしていました…。ですが今回のお見合いは父から話を持ってきたのです、聞いた時には二つ返事で了承しましたよ、ですから…こうして今お話しているのが夢のようなのです」
「……?」
淡々と話すバルターさんだけど私には聞き逃せない事柄があった。アルダープの話では今回のお見合いはバルターさんの希望で行われたとなっていたはず。
しかし今のバルターさんの話では父親であるアルダープから持ってきた話になっている。
あのアルダープがわざわざ私とのお見合いを。これは違和感しかない。
確かに一応の筋は通っている、理由は先日アルダープが話したように英雄ともいえる蒼の賢者の評判、それほどの者なら身内に迎え入れたいとも言っていた…だけど。
そもそも忘れてはいけない。アルダープはこのような形をとるまで悪魔を使って私を誘拐しようとしていたのだ。これは力技が通用しないのでこういった手段を選んだと考えるのが自然だ。
未だにアルダープの目的はわからないが私が狙いなのは間違いない。
「もっとも…身分違いとは言え…本来ならばそのようなこともないのですけどね」
「…どういう意味ですか?」
どこか言いづらそうなバルターさんに違和感を感じ、私は問いかけた。するとバルターさんは決意したような顔つきになる。
「実は…僕は養子なのです、本当は父と血は繋がってはいません」
「……」
納得の一言である。先程までの私の疑問が見事に解決されてしまった。しかしバルターさんはどうして今それを言おうと思ったのか。その答えは私が問うより先に答えてくれた。
「これは父から口止めされていることなので本当なら言ってはいけないのですが…、貴女に隠し事はしたくなかったのです。それに…、父には心から感謝しています。孤児だった僕の身請け人となってくれただけではなく、騎士となる為にお金を惜しまず使い僕を育ててくれた。そんな父が用意してくれたこの場だからこそ…不誠実なままではいけないと思いました」
感慨深く話すバルターさんの様子は本当に父親であるアルダープを尊敬しているように見える。これで私がアルダープの見方を変えるかと聞かれたら答えはNOなのだけど。確かにバルターさんにここまで思わせるほど大事に育てているのは意外ではある。……意外ではある。
「…………っ!?」
ただこれが意外ではなく、もっともな理由を与えるとしたら。…その推測が私の中で組み立てられた時、私は戦慄した。
バルターさんをそこまで大事に育てていた理由、それが
考えたくもない、だけどそうだと思えばいくらでも辻褄が合ってしまうのだ。アルダープは他人と精神を入れ替える神器を持っている。クリスから得た情報だけど問題はその使い方。クリスが例にあげたように入れ替った上で片方の存在を殺せば、そのまま入れ替わった状態になる。
そうなるとひとつだけ疑問に浮かぶのは何故ダクネスではなく私とお見合いをさせているのだろうか。アルダープはダクネスに求婚していると聞いた、ならバルターさんとダクネスをくっつけてしまえばいいだけなのに。だからそれだけが腑に落ちない。
あくまで推測だと自分に言い聞かせる。例にあげたのはクリスだ。普通ならそんな使い方思い浮かばないはずだ、だけどもし推測通りだとしたら…。
もはや人間が行う所業ではない。そして目の前のバルターさんが可哀想すぎる。
「…アリス様?どうしました?」
結果、私はバルターさんをまともな状態で見る事ができなくなっていた。推測であると言い聞かせるも思えば思うほど間違いではないのではないかと思えてしまう。
「……すみません、少し疲れたみたいで…」
「…それは配慮が足りず申し訳ございません…、1度部屋に戻って休まれますか?」
見れば見るほど優しい人だ。今も尚私の事を本気で心配してくれている。本気で私なんかを好きになってしまったのだとも思える。それに関しては理解できないけど。
「……そうしますね、ごめんなさい…」
「今は貴女の体調の方が大事ですよ、メイドさんに同行させましょう」
だからこそ、同時にバルターさんにも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。私はここにお見合いで来ている訳では無い。それを口実にアルダープの懐に近付く為にここにいるのだから。最初からバルターさんの想いに応えるつもりは全くないのだ、これが彼にとって失礼ではなくなんなのか。
「…いえ、アクアさんがいますので、それでは一度失礼しますね」
私はゆっくり立ち上がると一礼し、アクア様に付き添ってもらい部屋を出た。
彼の想いには応えられない、だけどせめてバルターさんのことは絶対に助けよう。そう心に刻んだ瞬間はまさしく今この時だった。
…だけど。
だけどアルダープの悪事を暴くことはバルターさんを助ける事に本当になるのだろうか。アルダープの悪事が全て明るみに出ればアルダープは貴族としての地位を失い、一生牢獄で過ごすか、あるいは処刑されてしまうだろう。
確かにそうなればバルターさんの命は助けられるが、バルターさんは今のままでは居られなくなるだろう。少なくとも貴族として生きていくことは難しくなる、今ある騎士の地位からも転落してしまうかもしれない。
私がやろうとしていることはアルダープだけで済む問題ではない、息子であるバルターさんの人生をも大きく狂わせてしまう可能性がある。バルターさん自体は何も罪もない優しい人だというのに。
……そこまで考えていたらアクア様の視線を感じた。何も言わないけど、こちらが気になっているようにチラチラと視線を寄せている。
すると自然と溜息がでた。どうやら私はまたもや独りで思い悩もうとしていたらしい。完全に悪い癖だ。
「アクア様、私はどうしたらいいと思います?」
「うん?どうしたのよいきなり」
私が突然聞いたせいか、アクア様はキョトンとしている。そう返されると私も言いにくいのだけど。
「…このままだと、アルダープだけの問題ではすまないと思いまして」
「……」
アクア様はしばらく考え込むようにして、何かに気が付いたのか溜息をついていた。やれやれとでも言いたそうな様子には少しだけ後ろめたい。
「あんたあのバルターって人の事を心配してるんでしょ、それならどうにでもなるんじゃない?」
「…と、言いますと?」
「ダクネスがいるじゃない、あの子なら彼の事をちゃんと考えてくれると思うわ、だからアリスは何も心配する必要はないでしょ」
…確かにダクネスならバルターさんのことを守る側にはなりそうではある。それに私個人がいくら悩んだとしてもバルターさんの今後をどうにかできるわけないしアルダープの悪事をそのまま見て見ぬふりをするなんてまず許されるはずがない。
そう思えば何を悩む必要があるのか。私がいくら悩んだところでどうしようも無いことだ。…そう割り切れれば楽なのだけど、私はそこまで短絡的な考え方ができないようだ。そういう意味では、アクア様を羨ましく思える。
「……そうですね」
ただ、今私が思えるのはだからと言って今この作戦を中止する訳には行かない。なんとしても2つの神器を回収してこれ以上の暴挙を止めなければ。
……
とりあえずは夕食の時間になれば呼びに来てくれるらしい、その時には改めてアルダープとも挨拶をするのだとか。…嫌だなぁ。
今は部屋のソファでぼーっとしている。ちなみにヒラヒラカーテン付きのベッドはアクア様がメイド姿のまま占領して熟睡している。ある意味敵陣のど真ん中にいるというのに普通に熟睡できるのは尊敬に値する。勿論このようになりたいとは思わないけど。
それにしてもここまでアクア様とずっと2人でいるのも私としては初めてだけどカズマ君によるアクア様の扱いが雑な理由が少しだけ分かった気がする。
コンコンッ
そんな事を考えていたら扉をノックする音が。夕食には少し早い時間だと思うのだけど此処ではそうでもないのかもしれない。
「開いてますよ」
私の声に反応するように扉が開かれる。そこにはメイド姿のクリスと執事姿のカズマ君がいた。…2人の様子からして何か進展があったのだろうか、なんとなくではあるが険しいものに見えた。
「おっす…って!…ったくこの駄女神っ…!こっちは大変な思いしてんのに呑気に爆睡しやがって…!」
「ま、まぁまぁ…アクア様も立ちっぱなしで私のお世話係をしてくれていたので疲れてるのですよ」
入るなりアクア様の姿を見て怒りに震えるカズマ君を宥める。クリスは苦笑しながらそれを見ていた。
「そっちはどんな感じなのかな?今は周囲に誰もいないから、今のうちにわかった事を報告しあおうと思ってね」
「バルターさんとの話も終わって夕食まで待機しています、そちらは何か進展が?」
私が質問すれば、2人の表情は冴えない。あまりよくない報告なのだろうかと思わず息を飲む。
「…えっととりあえずな…アルダープの部屋に潜入はできたんだ。そしたら…」
「…まだ昼間なのにそんな本命に潜入できたのですか!?」
クリスはともかくもうカズマ君は盗賊にクラスチェンジしてもいいんじゃないかな。アルダープの私室が何処なのかわからないけど今回神器がありそうな場所の本命とも言えるだろう。
「まぁ肝心のアルダープがダクネスにえらくご執心だったからな、昼間ってことで見張りも少なかったし、アルダープのおっさんはダクネスが引き付けておいてくれたから、予想よりも楽だったな」
「な、なるほど…、そ、それで、何が出てきたのです?」
「…写真だよ」
「写真…?」
思わず首を傾げてしまう。アルダープがダクネスや私の写真を持っていたということなのだろうか?しかし写真1枚でてきたところで私を狙う証拠になるかと言われたら少し弱い気がする。
「…アルダープの部屋には隠し通路があってな、それは本棚の後ろにあってすんなり入れたんだけどその部屋には…」
「……ダクネスとアリスの写真が何枚も壁や天井に張り巡らされていたの…」
「…アリスに分かりやすく言うとだな…アイドルの狂信者の部屋、みたいな…?」
「……」
ゾッと悪寒が全身を駆け巡った。想像したくなかったけどしてしまった。多分今の私の顔は真っ青になっている自覚がある。率直に言って気持ち悪い、今すぐその部屋にフィナウを打ち込みたいまである。
「多分…だけどな…あのおっさん金髪の長い髪の女が好きなんじゃないか?ほら、ここのメイドさんもみんな金髪だし…」
「出来れば聞きたくない情報だったんですけど…もう少ししたらアルダープと夕食で出会うんですけど、顔も見たくないのですけど」
ダクネスだけにご執心かと思いきやとんでもない事実が判明してしまった。そして私の事もダクネスと同じように狙っているのなら今回のお見合いもまたアルダープの狙いが判明したと言える。だったらバルターさんは悪魔に操られて私を好きだと思い込んでいるのかもしれない。そんな可能性すらある。
「とにかくあんまりな光景の部屋だったからそっと扉を閉じておいた…、クリスの宝感知スキルも反応がなかったみたいだしな?」
「…それで、肝心の神器は…?あっ」
しまった。うっかりカズマ君のいる前で神器の話をしてしまった。これでは隠し事が下手だな、などとクリスの事を言えやしないではないか。
私はそう思って慌てるも、カズマ君は平然としていてクリスはクスクスと笑っていた。
「大丈夫だよ、クリスからその辺の事情は聞いているからな」
「流石に行動を共にするとなると誤魔化しが効かないからねぇ、ここに来る前には話しておいたよ」
なるほど、カズマ君の屋敷でクリスが慌てる中カズマ君だけ微妙な顔をしていたのは既に知っていたからか。なんで教えてくれなかったのかとかつっこみたい所はあるけど話がスムーズに進むと思おう。
「…そ、それで…肝心の神器は…?」
改めて聞いてみると2人して冴えない表情のまま首を横に振った。どうやら収穫はないらしい。
「本当は警備が薄い今のうちに見つけたかったんだけどね…私の宝感知はね、お宝のレア度によって反応が強くなるんだ。神器ほどのものならその反応はすぐに分かるくらいなんだけど…もしかしたらこの屋敷にはないのかもしれない…」
「おいおい、ここまで来てそんなオチは勘弁してくれよ…」
この屋敷に神器がない。それはおかしい。2つの神器はアルダープにとって何よりも大事なものだろう。それを自分の近くに置いていないという事がありえるのだろうか?大体神器がなくても悪魔が潜んでいるのだからその部屋は別にあると思うし……悪魔…?
「…どうしたアリス?何か分かったのか?」
「……そうです…、悪魔ですよ…」
「……?」
私の呟きに2人は首を傾げた。そうだ、悪魔なのだ。悪魔がここにいることは有り得ないのだ。
「何故今まで気が付かなかったのでしょう……」
「だからどうしたんだよ?」
この街はアクセルの街。アクセルの街で私は悪魔に狙われたことは無い。では悪魔に狙われた事がある場所、それはアルカンレティアを除外すればひとつしかないのだ。
「…悪魔は王都にいるはずなんです…!私は王都でしか悪魔に狙われたことはありませんから…!」
「…あっ!」
そうなると悪魔がいる場所はおそらく王都にあるアルダープの別荘。この屋敷に神器がないのなら、それすらもそこにある可能性が高い。
だけどそんな大事なものを遠くに置きっぱなしにしておくはずもない、ならばすぐに王都の別荘まで行く手段があるはずだ。
「…悪魔やら神器やらを他人に知られたくはないはずですのでおそらく魔道具でしょう、先日王室から頂いたテレポートの効果のある魔道具のような…」
つまりは何処かにテレポートを使える魔道具があるはず。そしてその先におそらく神器や悪魔がいる。
「…クリス!」
「…うん、候補は多くなるけど宝感知で探せない事はないと思う、ありがとうアリス、とりあえずその辺を探してみる!」
そう告げるとカズマ君とクリスは足早に部屋を出ていってしまった。私として出来ることは悪魔が見つかるまでお見合いを続けるだけ…。
どうか2人が無事でありますように。と、私はアクア様が傍で寝ているにも関わらずエリス様に向けて祈ってみていた――。
作品とは無関係な小ネタ。
アリス「そういえば誕生日だったのですよね?おめでとうございます」
めぐみん「ありがとうございます、ではこれより歳の数だけ爆裂魔法を撃ちに行きますので付き合ってください、アリスがいれば可能なはずです、なんならそれが誕生日プレゼントで構いません」
アリス「……ちなみに、いくつになったのですか?」
めぐみん「14歳です」
アリス「えっ」
めぐみん「14歳です」
アリス「…えっと…確か出会った時には既に14…」
めぐみん「14歳です」
アリス「……あ、はい」
めぐみん「理解したようですね、それでは爆裂散歩と行きましょうか!!」
この後めちゃくちゃ爆裂した。