内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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あーあ、出逢っちまったか。




episode 104 善悪のない聖戦

 

 

 

―アレクセイ屋敷・中庭―

 

私とゆんゆん、アクア様、カズマ君の4人は警護の人が指し示した方向へと走り、やがて天に三日月と星々が見渡せる中庭へと出た。

中庭と言ってもかなり広い。今は暗く見えにくいのだが草花で彩られ、中央には噴水もあるまるで公園のような場所だ。

 

そこには2つの人影が見え…そして既に戦いが始まっていた。

 

 

「ワイヤートルネード!!」

 

「…っ!?ぐっ…」

 

様々な音とともに聞こえてきた声、片方はクリスだ。クリスのスキルにより無数のワイヤーが張り巡らされ、対する相手を捕縛することに成功した…かに見えた。

 

「バニル式破壊光線!!」

 

…もはやスキル名で名乗ってしまっているが対する相手はあのバニルだった。仮面の目の部分辺りから出た光線はワイヤーを次々と破壊して塵とする。捕縛から解放されたバニルはすぐさまクリスの追撃から逃れるようにバックステップした。その様子を見たクリスは舌打ちしてバニルを睨みつけていた。

 

「大人しく…成敗されちゃいなさいよ!!」

 

「…ふん、随分と物騒なメイドだ、…だが…」

 

クリスは二本のナイフを投擲する。別々の軌道からの波状攻撃。見通す悪魔のバニルなら避ける事は容易いはずだ、迫り来るナイフをバニルは華麗に宙を舞い、避ける。

 

「…何っ!?」

 

「隙だらけだよ!!」

 

避けた先の頭上には既にクリスがいた。バニルが声を上げて見上げた時には既に遅い。クリスは思いのままバニルの顔面を回し蹴りで吹っ飛ばし、更に二本のナイフを投げ付けた。寸分狂いのない正確な軌道でナイフはバニルの胸に二本とも突き刺さる。これには驚くことしかできない。

 

「…汝は一体何者だ…?吾輩が見通す事ができぬだと…!?」

 

驚いた理由は単純なことだ、あのバニルに、見通す悪魔のバニルにクリスは単独で攻撃を当てていることだ。以前私達で挑んだ際にもバニルに攻撃を当てることは簡単ではなかった。

なのにクリスの最初のワイヤーも、ナイフも、結果的にバニルを攻撃出来てしまっている。

 

…いや、そんな事よりもだ。

 

何故この場所にバニルがいるのか、何故クリスと戦っているのか、状況がさっぱり分からない。

これが魔王軍の幹部のバニルのままならこちらとしてはクリスの援護に向かうのだけどバニルは私達に討伐されたことで既に魔王軍の幹部を辞めている。よって悪魔ではあるが無害でもある。少なくとも私達に敵対する理由はない。

 

「クリス…!落ち着いてください!どうしたのですか!」

 

私はクリスの元へと駆け寄る。…そして恐怖した。

 

その眼光は冷たく、鋭利で、私が知っているいつものクリスのものではない。バニルから目を離さない様子のまま、クリスは再び手に短刀を構えていた。

 

「どうしたって…見ての通りだよ、目の前に悪魔がいるんだから…そりゃ討伐するよね?」

 

「落ち着けクリス!バニルは既に俺達が討伐してるんだ、だから「だから何?」……っ!」

 

カズマ君の制止を振り切るようにクリスは冷めた対応をしていた。そこにいつもの明るいクリスはいない。例えるなら闇に生きる暗殺者のような…。

エリス教徒は悪魔を忌み嫌うと聞いた事がある。アクシズ教徒もそうではあるのだけどエリス教徒は特にその傾向が強いらしい。ダクネスも悪魔と聞く時はあまりいい顔をしない。だけどそれにしても今のクリスは異常だ。まるで親の仇でも見るかのようにクリスの視線はバニルの存在を凝視していた。

 

「…へぇ…討伐されたんだ…?」

 

「…あ、あの…クリスさん…?」

 

ゆんゆんもまたいつものクリスではないと気付くなり恐怖している。私もまた同じで動く事が出来なかった。カズマ君もそれは同じようで、萎縮するように何も言えずにいる。

 

「……」

 

ただ一人だけ、アクア様だけは神妙な面持ちでクリスをずっと見据えている。どこか思い悩むようにも見えるが私達とは考えている内容が違う事はその表情で理解できた。

 

「バニルかぁ、そう…あんたがねぇ…」

 

「むっ…?」

 

クリスは表情に影を落としたままゆっくりとバニルに近付く。手には変わらず短刀が握られている。そして暗がりからより目立って感じたのは…ほんの僅かなのだけどクリスの身体は薄く白く発光しているように見えた。それを見たバニルは何かに気付くように身体を小刻みに震わせた。

 

「…ふっ……フハハハッ、なるほどそういう事か!ならば吾輩が見通せぬのも理解できる、そしてもはや手加減する必要も無い事もな!!」

 

バニルもまた、クリスに向けて強い敵意を剥き出しにした。それは声と様子からこちらにまで伝わってくる。あのバニルが、だ。

人間に対してはおちょくる様な真似しかしないバニルがクリスに対しては見た事のない様子でいる。これもまた異常だった。

 

「…ふふっ…ダメだよバニル、討伐されたんでしょ…?討伐されたんなら…ダメでしょ死んでなきゃ!!

 

その叫びはビリビリと空気を震わせ、思わず鳥肌がたってしまった。というよりこれではどちらが悪役なのかわかりはしない。硬直する私達に目もくれず、叫びとともにクリスは短刀を持ち替えてバニルへと向かい疾走した。

 

相変わらず状況はさっぱり分からないのだけどこの戦いをこのまま続けさせることは無意味だ。なんとしてでも止めなければならない。

 

そう思いクリスを追おうとした、その瞬間──。

 

 

 

「…ねぇ、ちょっと話を聞きたいんだけどいいかしら?」

 

私やゆんゆんの後ろにいたはずのアクア様がいつの間にかクリスのすぐ傍まで迫っていた。バニルとなればアクア様も激昂して襲いかかるまではありそうだからそうなると思いきや意外とアクア様は落ち着いているように見える。ただ何を話しているのか離れている為聞こえづらい。

 

「後にしてくださいアクア先輩!!まずは目の前の悪魔を「ふーん、アクア『先輩』ねぇ?」………ぁ」

 

冷たく重い空気がなくなったような感覚がした。クリスは震えながら滝のような汗を流しているように見える。…というよりクリスとアクア様に何か接点があっただろうか?思えば話しているところは見た事がない気がする。

見た事はないのだけど今現在アクア様と話すクリスに先程のような鋭さは感じない、何故かアクア様に完全に萎縮しているように見受けられる。

 

「…状況はさっぱりわかりませんが…カズマ君」

 

「…あ、あぁ…」

 

「バニルと一番付き合いが深いのはカズマ君ですので、話を聞いてもらえます?」

 

何故バニルが此処にいるのか、一体何をしに来たのか。それを聞かなければならない。それには普段バニルと商談なりしているカズマ君が一番適任だろう。

 

一方アクア様はクリスの耳を引っ張って何処かへ行ってしまった。クリスの豹変ぶりも気になるものの、私達はバニルに話を聞く為に立ち尽くすバニルの元へと近付くことにした。

 

「おいバニル、なんであんたがこんなところにいるんだ?」

 

「む?小僧にお得意様に元ぼっち少女ではないか」

 

「元ぼっち少女!?」

 

一方バニルはと言うと先程までの奮起は何処へやら、こちらに気付くなり完全にいつも通りの装いを見せる。とりあえずゆんゆんはなぐさめておく、いいじゃない元なんだし、今は私がいるんだし。それに元ぼっちと言うなら私も似たようなものだし。

 

「お得意様って…」

 

「立派なお得意様ではないか、最近またポンコツ店主から無駄に高い魔道具を買ったと聞いているぞ?おまけに使い道のないまま終わりそうなものをな…おっとこれはまた美味な悪感情、ご馳走様である♪」

 

「……」

 

確かにそうだけど。結果的に無駄に終わったけど。400万エリスをウィズさんに寄付したような結果になったけど。気付いたら私はゆんゆんに背中をポンポンとされていた。べ、別に悔しくなんかないんだから!!

 

「そういうのはいいから何しに来たんだよ?あまりここでお前と親しそうに話している訳にも行かないし手短に頼むぞ」

 

カズマ君の危惧する通り、ここは領主の屋敷のど真ん中だ。悪魔であるバニルと親しげに話をしている今の状態は誰かが見たら面倒なことになりそうでもある。

 

「ふん、せっかちな小僧め。…まぁいい、吾輩は友人に逢いに来ただけだ」

 

「…友人…?」

 

ここはアルダープの屋敷。まさかアルダープが友人の訳もないと思うしバルターさんはもっと有り得ない。そもそも悪魔にそこまで友人がいるのだろうか、と…思ってすぐに切り替える。

 

まさか。

 

「…まさかその友人とは…マクスウェルのことですか?」

 

「む?」

 

その名前を出すなりバニルは反応した。そして私を見るなり指で写真の被写体にするかのように覗いていた。見通すつもりなのだろうかと身構えるも、よくよく考えたらそっちの方がてっとり早いとも思えた。

 

「…ふっ…フハハハッ!なるほど、そういう事か。如何にも、吾輩が逢いに来たのは吾輩と同列、七大悪魔の一角、マクスウェルだ」

 

「…っ!」

 

その瞬間、様々な可能性を模索する。マクスウェルとバニルが友人と言うのなら、過去のマクスウェルの事件全てとバニルが繋がっている可能性。あるいは一部かもしれない。そう思ってしまえば私は自然と背中の杖を手に取り、構えていた。…だけどそんな私の行動は、カズマ君が私の前に出る事で遮られた。

 

「…それで、その友人に何の用事だよ?」

 

「…カズマ君…っ!」

 

「いいから落ち着けよアリス、俺はどうしてもこいつがまた騒ぎを起こすようには見えないからな…で、どうなんだそこんところ」

 

「…吾輩としても無闇に取引相手と事を荒立てるつもりもない、少なくともそこの小娘が思っている事は何一つないと断言しておこう」

 

…それを聞いて私は無理矢理落ち着くように杖を背中に携えた。まだ完全に信用した訳では無いが相手が話をしようとしているのにこちらから襲いかかるつもりもない、それではさっきのクリスの二の舞になるだけだ。

 

「吾輩の友人は物忘れが激しくてな、契約相手との対価をいつも取り損ねているようなのだ、そして契約相手はそれをいい事に友人を使いやりたい放題…これは悪魔の尊厳に関わる故に、吾輩は友人にアドバイスをしてきたと言う訳だ」

 

「おいおい…、アドバイスって…もうあの悪魔に会ってきたのか?」

 

「無論だ、行きは警備が手薄で割と容易く侵入できたのだがな、帰りになると何故か警備が厳重になり吾輩としたことが気配を察知されてしまったようなのだ、フハハハッ、吾輩の気配を察知するとは人間にしては中々やるではないか」

 

「……えぇ…」

 

つまりはミツルギさんが鍛えた結果見通す悪魔をも見通しちゃったとでも言うのだろうか。さらっととんでもない事になってる気がする。まぁ強さ云々は変わらないから見つけても驚いて叫んで腰が引けただけで終わっているので意味があったかどうかはわからないけど。

 

「それで…汝らは吾輩の友人を見付けてどうするつもりだったのだ?言っておくが討伐しても意味は無い、確かにそこの蒼の賢者のあの魔法なら倒す事自体は可能だろうが、吾輩と同じ悪魔なのだからな、1回休みになってまた復活するだけで元通りだぞ?」

 

「それは…」

 

「それに汝らは此処の領主の悪事を暴きたいのであろう?討伐して一時的に消滅はするだろう、それでどのように証明するつもりだ?あの領主のことだ、しらばっくれて終わる未来しか見えぬぞ?」

 

「……ぐっ…」

 

それはこちらとしても危惧していた事でもある。見通す悪魔がこう言うのだから実際にアルダープと悪魔との繋がりを立証することはかなり困難なのだろう。

 

「…先程も言ったが吾輩の友人、マクスウェルは物忘れが激しい上に精神面が幼い。言ってしまえば子供と変わらないのだ、だからこそ口車に簡単に乗せることも難しくはない」

 

「……そういえばアドバイスって言ってたな…、どんなアドバイスをしたんだよ?」

 

「フハハハッ、それは直に分かる事だろう、では用事も済んだので吾輩は去らせてもらおうか。店をポンコツ店主に任せきりにする訳にも行かぬのでな」

 

「…あっ!おい待て!!」

 

喋るだけ喋ると、バニルはその場で闇に溶け込むように見えなくなり、やがて気配すら感じなくなってしまった。

 

先程までの激闘は何処へやら、周囲はシンと静まり返り、まるで何事も無かったかのように平然とした夜へと戻っていた。

 

……それはまるで──嵐の前の静けさのような──。

 

そう思った瞬間だった。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

突然の叫び声…もとい悲鳴に私達は驚き、考えるより先に足が動いた。戸惑いが大きいものの、それは私もカズマ君もゆんゆんも同じだった。

 

「…い、今のは…!?」

 

「あの領主の声だ…何があったんだ…!?」

 

「分かりません…、ですが急ぎましょう…!」

 

アクア様とクリスは未だにどこかへ行ったままだったけどそんな事を気にする余裕すら与えてくれない。私達は、叫び声が聞こえたであろう領主の部屋へと、カズマ君の先導の元向かうことにしたのだった──。

 

 

 

 






今回のクリス→バニルの存在に激昂してうっかり女神の力を使っちゃってアクアに正体がバレちゃう。

アクア→今の今まで気付かなかったが流石にアクアでも目の前で女神の力を使われたら気付く。

バニル→クリスの状態は完全に隠蔽されていた為に最初は正体に気付けない、アクアも見通せないのでクリスも見通せないかなとこうなった。でも流石に女神の力を以下略。正体に気付き忌み嫌う女神を本気で相手にしようとする。

アリス達→クリスの変貌ぶりにそれらを気にする余裕がない。

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