内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 109 アリスのスキル

 

 

―夢の中の世界?―

 

「……何やら誤解を招いているようですのでまずはそこを説明しましょう、アリスさん、貴女はまだ死んではいません」

 

「…え?」

 

「とはいえ今のこの状態と、貴女の過去の事柄からして見ればそう思うのも些か仕方ないのかもしれませんね、混乱させてしまいまして申し訳ありません…」

 

「…っ!そ、そんな、謝らないでください!私でしたら大丈夫ですから!」

 

座ったままの状態ではあったけど、丁寧に頭を下げられてしまった。これには流石に私でも平常心ではいられない。正体がクリスであると確信はしていても今この場の私とエリス様の関係は人間と神様に過ぎない。アイリスとの友人としての接し方と王女様としての接し方、二つの対応方法を使い分けた接し方が活かされている気がした。

 

とりあえずあちらは隠したいのだから私が知ってますよアピールするのもクリスに…もといエリス様に宜しくない。正直何故私がここまで気を遣わなきゃいけないのかと思うけど。隠し事が苦手なエリス様が悪い。

 

とりあえず私は死んでいないらしい。これでゆんゆんやリーン達を悲しませなくて済む。まずはそんな感想を思っていた。それならそれで疑問が生まれる訳なのだが。

 

「…今は単純に寝ている貴女の夢の中にお邪魔させて頂いてます、ちょっとこういう風にしないと話せない内容のことですから…」

 

「……話、ですか?」

 

疑問が早くも解消されたと思いきやまたもや疑問である、思わず首を傾げてしまう。クリスとの面識はあるがエリス様として話すのはこれが初めてだ。前回はエリス様が名乗ってないし大した事を話していないのでノーカウント。何が言いたいかと言うとクリスならともかく私とエリス様に接点はない。せいぜい二回ほど祈りを捧げたくらいだけどそれで接点を持ったとは思えない。

 

「はい、他愛のない世間話と、警告になります」

 

「…明らかに後者の方が重要ですよね?思い当たる節がなくて怖いんですけど、何なんですか警告って、めちゃくちゃ気になるんですけど」

 

「まぁまずは世間話から行きましょうか」

 

「人の話聞きましょうよ!?」

 

何なの何なの!?アクア様といい女神様ってこんなのばっかりなの!?

なんというかマイペースに感じる。淡々と自分のペースに持っていく感じはクリスの時でもよくあったけど。

まぁ遅かれ早かれ話を聞くことになるのだろうととりあえず話を聞くことにした。

 

「そうですね、まずはお誕生日おめでとうございます♪クリスを通して私からプレゼントを送っておきましたが受け取られましたか?」

 

「あ、ありがとうございます…あのネックレスですよね…」

 

「はい♪今回の神器回収の件につきましては貴女の協力があったからこそとクリスより聞いております、ですのでその御礼を兼ねて送らせていただきました。良ければ絶えず身に付けてくださると…非常にありがたいと申しますか…」

 

神様から直々の贈り物、その聞こえはとても凄い事だしエリス様の信徒が聞けば羨ましがられる事は間違いない。だけど私がこれを身に付ける訳にもいかない。アクア様にバレたら面倒しかなさそうだし。

 

「……えっと…それはもしかして私にエリス様の信徒になれと言うことですか…?」

 

「そうですね、強要はしませんしできませんがそうして頂けたら私としては大変喜ばしいです。アリスさんの祈りはとても心地よかったので、是非とも今後とも続けていただければ…!」

 

こうして見るとアクシズ教徒と違って遠慮がちな形が逆に好印象に思える。私が何かしら宗教に入信しようかなと思っていたら間違いなくこのままエリス様の信徒になっていたかもしれないと思えるくらいには。

 

だけどそのつもりはないし、今後どのような宗教であろうと入信するつもりはない。

 

「…今後ももしかしたらエリス様に向けて祈りを捧げることはあるかもしれません。こうしてお会いできましたしその気持ちはより強くなってます…、ですが私は入信するつもりはありません」

 

「っ!…そ、そうですか…残念ですが仕方ありませんね…一応理由を聞いても…?」

 

「…仮に私がエリス教徒になったとしましょう、するとそれを許さない存在が私の身近に居ることは存じていますよね?」

 

「……な、なるほど…」

 

アクア様の存在を思い出したのか、エリス様はがっくりと肩を落としてしまった。流石に先輩後輩の間柄というだけあって先輩を敵に回す気はないようだ。アクア様を盾にするような形にはなったけどとりあえずこれで諦めてくれたようだ。アクシズ教徒のような強引な勧誘ではないだけあって心苦しいけど仕方ない。

 

「そろそろ警告と言う話について聞きたいのですが…」

 

「…コホン、そ、そうですね。先日、創造神様よりアリスさん、貴女のスキルに関して伝令を頂きました」

 

「…創造神様……?」

 

「簡単に言いますと私やアクア先輩の上司にあたる方です」

 

「……」

 

そもそも天界も現在社会のような縦社会なのだろうか。なんだか夢のない話である。夢の中なのに夢がないとはこれ如何に。思えばアクア様も私を転生させる時にはなんというか事務的な一面もあったかもしれない。転生特典のカタログ出された時のあの雰囲気ぶち壊しな案件は忘れたくても忘れられない。

 

「貴女のスキルと容姿についてはこちらを参考にしたと聞いています」

 

エリス様はそっと何も無い宙に手をかざす。するとその手の中には非常に見覚えのあるスマホケースが出現した。間違いなく私のスマホなのだろう。

 

「…そ、そうですね…」

 

「私としてもこのゲームの特性からスキルの細かい設定まで調べあげました、アクア先輩の裁量で私の世界のパワーバランスに影響されない程度に改変されて貴女のスキルとなっていると思います」

 

「…」

 

「…はっきりと言いましょう。創造神様からの伝令です。『いや強すぎだろ、下方修正はよ』だそうです」

 

「そんなゲームの運営に抗議するユーザーみたいな!?」

 

何なの何なの?創造神様って何なの?軽すぎない?神様ってこんなのばかりなのだろうか。とりあえずアクア様が異常な女神様って訳でもないのかもしれない。私は密かにそう思った。

 

「下方修正…って…どうするつもりですか?私のスキルはこの場で弱体化されちゃうのですか?」

 

「…落ち着いてください、それは現状不可能なのです、ですから結論を言えばそうなることはありません。…1から説明しますね?」

 

「…はい」

 

思わず身を乗り出してしまっていた。確かに転生特典を指定したのは私なのだけどその力やらはアクア様が設定したことだ。こちらが抗議したいこと山の如しである。

 

「まず現状のアリスさんのスキルなんですが…言うまでもなく強すぎるんです。《アロー》や《ウォール》はまだ問題ありません。こちらの世界で言う中級魔法くらいの威力や効果ですから。」

 

「問題なのは、言うまでもなく《フィナウ》と《バースト》あたりの最上級魔法の存在と…アリスさんの杖により属性が追加された場合です」

 

「…?」

 

フィナウとバーストがやりすぎなのは薄々感じていた。あれらを使って初見で驚かない人はまずいないのだから。バーストに至ってはその範囲が出鱈目すぎる。明らかにゲームよりも広範囲だと思われる。

 

「アクア先輩は貴女の魔法の威力を属性を加味していない状態で威力を設定してます、ですから魔晶石により属性を加えて強化した場合…単純に火力が2倍になってしまうのです、おそらくバーストなどは属性が加わる事でこの世界の上級魔法の数倍の威力にはなっていると思います」

 

「…そんなに…」

 

あの広範囲でこの世界の上級魔法の数倍。それは確かにチートすぎる。私としては便利だからめちゃくちゃ多用してしまっているけど。消費魔力を半減できる《インパクト》を使うことでより安易に使えてしまっているし。

 

「更に問題なのは《インパクト》の存在です、あのスキルはアクア先輩の見解で衝撃波を起こすだけのスキルだと思われたのかもしれません。あるいは消費魔力の半減を軽視していたか…何故かこのスキルだけは元のゲームよりも強化されていますからね。アクア先輩のことですから消費魔力半減にするのにこのスキルで魔力使ったら意味がないじゃないとか思ってこうしたのかもしれませんが…」

 

「…あー…そういえば…」

 

今になって思い出す。私が持つ11の転生特典スキルはフィナウ、バーストを除けば少し弱体化されていたりあまり変わらなかったりなのだけど《インパクト》に関しては違った。《アロー》の消費魔力が100だとすると《インパクト》の消費魔力は200使うはずなのだ。だけど今私が使える《インパクト》に消費魔力は無し。つまりゼロだ。打ち放題なのだ。ゲームでこうなってたら発狂するレベルのチートだ。

 

「本来消費魔力と言うのはスキルの威力や効果に比例して大きくなるものです、それをお手軽に半減された上に貴女の他のスキルと組み合わせたら…これは脅威であると言わざるを得ません」

 

「…色々言いましたが簡潔にまとめましょう。転生特典の強さの上限を100の数値にしたとします、カズマさんは弱体化されたアクア先輩の存在、ミツルギさんは魔剣グラムで100に近い、もしくはぴったりの状態です。しかしアリスさんの場合は神器である杖と服、ステータス、そしてスキル。容姿に強さは関係ないですからこれは置いておきますがそれらを足して100になるようになってます。ですが、実際は足し算ではなく一部掛け算になっていた…ということです、色々盛ったので先輩も単純化してしまったのでしょう」

 

「だから弱体化と…」

 

「…はい、ですが先程申した通り、それは現状出来ません。何故ならアリスさんのスキルの調整は、アクア先輩しか行う事ができないからです。それを行うにはまずアクア先輩とアリスさんを天界に連れ戻してから改めて行う…アクア先輩は現在下界に降りたことで弱体化してますので天界に戻って力を元に戻らないとそこまでのことは出来ませんからね…ですがそうすれば別の問題が生じます」

 

「…アクア様は確かカズマ君が…」

 

「その通りです、アクア先輩は佐藤和真さんが転生特典として連れて行っています。ですから天界に戻すとなるとまた、天界の規定違反になるのです、転生特典は契約者が死ぬか、本人の意思で手放さない限りはこちらの干渉でその手から離すことはできない決まりがありますので」

 

「…つまりは非常にややこしい事になる…という事ですね…」

 

「はい、ですから警告という形で創造神様にはどうにか納得してもらおうと思っています。どうかその力、邪な方向に使わぬよう、お願いします」

 

「…それはもちろんですけど…」

 

「今回神器の回収に貢献して頂いたことはポイントが高いと思いますので、後は要観察ということでなんとか。私としてもアリスさんがその力を悪用するようには見えませんから…個人的には期待しているんですよ?」

 

「…恐縮です」

 

正直に言えばスキルについて《チャージング》と《マキシマイザー》が足りないくらい言いたかったのが本音だけど今のままでも警告状態なのにそれが通る訳がない。アクア様もどうせならこの2つのスキルを入れておいてくれればよかったのに。せっかくカズマ君のおかげでスキルの弱体化は防げているのだから、なんて邪な方向に考えていたりする。

 

「……あれ?」

 

そんな時に突然起こったのはまるで揺さぶられているかのような感覚。なんだか脳がシェイクされてるようで気分が悪くなる。

 

「おそらく貴女が椅子に座ったまま寝てるのを見て起こそうとしているのかもしれません、時間的にも話はここまででしょうか。…どうか、貴女のスキルの強さを自覚して、今後は行動してもらえたら…、あ、後ですね!!佐藤和真さんに貴女のスキルを教えてましたよね!?あれは今後謹んでくださいね!?間違っても他の冒険者に教えるなんてことのないようにお願いしますよ!」

 

時間がないからか、エリス様が早口で言いたい事をどんどん告げてくる。焦りからか慌てているように見えて、同時に視界が白くなって、エリス様本人の像や背景が見えにくくなってきた。ようやく起床する時ということか。

 

同時に思った。こちらではクリスとして、あちらではエリス様として、とても忙しい想いをしているんだなぁ。と。女神様に同情するなんて不敬かもしれないけどアクア様のことを考えたら苦労人のようにも見えてしまう。幸運を司る女神様なのに妙に不運な気がするのは何故だろうか。

 

そんな同情の念から、無意識に、つい言ってしまった。

 

「お話ありがとうございました、また会いましょうね、クリス

 

うん、またねアリス!

 

 

 

「「…………ぁ」」

 

私はクリスの正体がエリス様ということはそっとしておくスタンスだった。だから言うつもりはなかった。

エリス様もまさか私が気付いているとは思っていなかったのだろう。だから私が無意識にクリスと呼んだことで反射的に返事をしてしまったと思われる。

 

 

 

「ちょ、ち、違うんです!?今のは違…」

 

 

 

目に映る全てが真っ白になる直前。私の脳裏に焼き付くように視界に映っていたのは涙目でこちらへ訴えるエリス様の顔だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アリス起きた?ごめんねアリスのベッド占領しちゃったみたいで…うぅ頭痛い…」

 

「……おはようございます」

 

私を揺さぶって起こしたのは私のベッドで寝ていたリーンだった。二日酔いなのか頭を抑えながら隣の椅子に座り込んでいた。窓を見れば朝日が差し込んでいて、聞こえるのは小鳥の囀り、それらは今の時刻は早朝なのだろうと教えてくれた。…とか呑気にしている場合でもない。

 

最悪だ。別れ際にあんな形になってしまった。あれはエリス様から見たら何か企んでいる悪役令嬢か何かに見られてもおかしくは無いかもしれない。まず今後クリスと顔を合わせづらい。罪悪感が半端ない。

そして私の中に小さく存在していたもしかしたらエリス様=クリスは私の考えすぎではないかという想いも綺麗さっぱりなくなってしまった。やっぱりあの女神様は隠し事が下手すぎである。

 

「…アリス?どうしたの?なんかボーッとしてるけど」

 

「い、いえ、まだ少し眠いのかもしれません。お茶をいれてきますね。リーンも飲みますよね?」

 

「あー…うん、そうね…紅茶とか飲みたいかも…」

 

「そのまま待っててください、なんならベッド使って寝ていても構いませんから」

 

そう告げるなり足早に部屋を出た。まさか夢の中で女神様とお話してましたとか言える訳もないし、冷静に考えたら凄いことしてるな私。そう思えば妙に胸がドキドキしていることを自覚できた。これは気持ちが高揚しているというよりは先程の別れ際のあれを引きづった罪悪感によるものだと思うのに、そう時間はかからなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――。

 

先日はみんな二日酔いでダウンしていたので私のパーティもカズマ君のパーティもクエストはお休み状態。ほとんど寝て過ごしていた。そして今日は改めてクエストに行こうとなっている。16歳になって初のクエスト、アイリスからもらったアダマンタイトの魔晶石の効果も気になるところだ。

 

ガチャ

 

ベッドの上で背伸びをしていたら突如扉が開かれる。扉を開いた主はゆんゆんだ、また私を起こしに来たのだろうか、いい加減ノックくらいはしてほしいものである。

 

「…ゆんゆん、おはようございます…、お願いですからノックくらいは……ゆんゆん?」

 

「……アリス…私…私どうしよう…?」

 

今日のゆんゆんは明らかに様子がおかしかった。涙目で小刻みに震えていて、そのまま私に駆け寄って抱きしめてきた。

 

「…落ち着いてください、どうしたのですか?」

 

尋常ではない様子に私も思わずたじろぐがゆんゆんは変わらず悲しそうに泣いている。どうも本気でやばいようだ。

 

そして私は…とんでもない意味不明なことを言われることになる。

 

 

「私…私…カズマさんと子供を作らなきゃいけないみたいなの…!!」

 

「……は?」

 

突然何を言い出しているのか、今の私にはゆんゆんがさっぱりわからないのであった――。

 

 

 






ようやくこの話にこじつけましたね。幕間多かったですが次回より新章となります。
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