内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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八章 ―紅魔族と少女―
episode 110 紅魔の里の危機


 

―カズマ君の屋敷・アリスの部屋―

 

とりあえずまずは落ち着いて貰わないと。そんな気持ちが一番に出たので紅茶を淹れて飲んでもらった。私としても起きたばかりで顔を洗ったりしたかったし。

 

紅茶を飲んだことで落ち着けたのか、ゆんゆんはようやく一息つくことでリラックスしていた。

 

「…それで、今回は一体どのような夢を見てそんな発想に至ったのでしょうか?」

 

「夢!?ち、違うから!夢とかそういうのじゃないから!ただ私がカズマさんと子供を作らないと…世界が…魔王が…」

 

「…ですから話が飛躍しすぎていて訳が分かりません、ちゃんと1から説明してください」

 

「…う、うん…」

 

リラックスしてると思ったらまたも取り乱してしまった。私が溜息混じりに告げれば、ゆんゆんはしゅんと小さくなるように俯いて、テーブルの上に何やら手紙を差し出した。

 

「…今朝…私のお父さんから届いたの…」

 

「…読んでもいいのですか?」

 

いくら親友と言っても気軽に家族の手紙を読めるほどデリカシーがないわけでもないので確認をとる。ゆんゆんは無言のままこくりと頷いたので遠慮なく読ませてもらうことにした。

 

 

 

 

――この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にはいないだろう。

 

我々の力を恐れた魔王軍が、とうとう本格的な侵攻に乗り出した様だ。

 

既に里の近くには巨大な軍事基地が建設された。…それだけではない。

 

多数の配下と共に、魔法に強い抵抗を持つ魔王軍の幹部まで送られてきた。それも見た事のない継ぎ接ぎだらけの巨大なモンスター達を率いて、だ。

 

ふふ……。魔王め、よほど我々が恐ろしいと見える。軍事基地の破壊もままならない現在、我らに取れる手段は限られている。

 

そう、紅魔族族長として。

この身を捨ててでも、魔王軍の幹部と刺し違えること。

 

愛する娘よ、お前さえ残っていれば…紅魔の血は絶えない。族長の座はお前に任せた。

 

…この世で最後の紅魔族として、決してその血を絶やさぬ様に……。

 

 

 

 

 

 

…とまぁこんな文章だったのだけどツッコミたい部分がいくつかある。まず普通の手紙にこんな小説みたいな『…』とか多用するものなのか。笑い声まで再現するものなのか。細かいことは言い出したらキリがないのだけどどうしてもツッコミたい部分もある。

 

「…何故ゆんゆんが最後の紅魔族になっているのでしょう…?めぐみんは実は紅魔族ではなかったのです?」

 

「…言われてみれば…そうだけど…」

 

「それに…まさかこの文面の最後の言葉を真に受けてカズマ君との子供が欲しいなんて言い出したのですか?ゆんゆんがカズマ君のことを好きなのは正直意外ですし応援したい気持ちはありますがいきなり子供が欲しいは流石にドン引き案件と思いますよ、いくらカズマ君でも引くと思います」

 

物には順序がある。まずはお互いの気持ちを確かめて、付き合ってみて結婚して、そして子供って流れなのは日本でもこの世界でも差異はないはずだ。その常識は同じ日本出身のカズマ君ならあるとは思われる、まさか乗ったりはしないだろう。多分、きっと。あれ、でも男の人から見たらゆんゆんってかなり魅力的な部類と思うしありえるのかもしれない。とまぁ内心はこんなことを思っていたけどそう言った私に対してゆんゆんは思わず立ち上がり取り乱していた。

 

「え…あ……ち、違うの!!そういうんじゃないから!!」

 

「…何が違うのですか?」

 

「まず私がカズマさんのことを好きってことよ!私が好きなのはア……いや…他にいるし……」

 

「……ふむ、『まず』という事は他に否定する部分があると」

 

「…うん、手紙は一枚じゃないの、その手紙…二枚目があるでしょ?」

 

言われてみればと手紙を指でスライドさせるともう一枚あることが確認できた。…ただ一枚目とは書いた人物が違うように見える。一枚目が達筆な感じなら、この二枚目は丸い感じの字が特徴的で少し可愛らしくみえる。女の子が書いたものだろうか?とりあえずは読んでみよう…。

 

 

 

里の占い師が、魔王軍の襲撃による里の壊滅という絶望の未来を視た日――。

 

その占い師は同時に希望の光も視る事になる。

 

紅魔族の唯一の生き残りであるゆんゆんは、いつの日か魔王を討つ事を胸に秘め、修行に励んだ。

 

そんな彼女は駆け出しの街である男と出逢うことになる。

 

頼りなく、それでいて何も力もないその男こそが、彼女の伴侶になる相手であった…。

 

ヒモ同然の働かない男。それを甲斐甲斐しく養うゆんゆん…。

 

修行に明け暮れていたゆんゆんにとって、それは貧乏ながらも楽しく幸せな日々だった。

 

そして月日は流れ…紅魔族の生き残りと、その男の間に産まれた子供はいつしか少年と呼べる年になっていた。

 

その少年は冒険者だった父の跡を継ぎ、旅に出る事になる。

 

出逢った仲間はかつて魔剣の勇者と呼ばれた父と、蒼の賢者と呼ばれた母の間に産まれた少女。

 

少年と少女の出会いは運命的なものであったに違いない。

 

何故ならこの二人の少年少女こそが…どちらも亡き両親の意志と力を受け継いだ、真に魔王を打ち倒せる存在なのだから――。

 

 

 

 

 

 

 

私はその手紙を読んで、無言で身震いを起こしていた。どうしよう、物凄く破り捨てたい。ティンダーで燃やしたい。そんな衝動に駆られてしまったけど、それはきっと許される事だと真面目に思う。今は落ち着きを取り戻して座っているゆんゆんに、なんとも言えない視線を寄せてみた。

 

「ゆんゆん…」

 

「…分かったでしょ、どれだけ事態が大変な事になっているか…」

 

「はい、分かりました、どれだけゆんゆんの頭の中がお花畑なのかが」

 

「えぇ!?」

 

私が無表情で告げれば、ゆんゆんは普通に驚いている。これではまるでおかしいのは私の方みたいに見えてしまうではないか、割と真面目に勘弁していただきたい。

 

「大体なんなんですかこれ…カズマ君の名前なんてどこにも書いてないじゃないですか…」

 

「……だ、だけど…この街で出逢った人だと…一番当てはまるかなって…」

 

「カズマ君と付き合っても貧乏にはならないと思いますよ、多分現在私らの中で一番稼いでいるのはカズマ君でしょうし。ですからこの手紙の男の人を誰かに当てはめるならダストが妥当と思います」

 

「そっち!?!?」

 

これはどっちかと言えばダストしか浮かばない。クエストも面倒臭がって滅多にやらないし、リーンのヒモ同然だし。リーンが目を離した隙にはいつも無銭飲食して捕まるし。

 

「それにこの手紙の通りにする意味が分かりません、これだとこちらも完全にとばっちりを喰らってるんですけど、私とミツルギさんが結婚して子供作ってから死んでる形で話が進んでるんですけど、『亡き』の二文字だけで私達の人生終わらされているんですけど」

 

ここが一番の私が納得いかないところでもある。自分の望まない方向ばかりに話が進んで挙句の果てに殺されてるのだから当然である。

 

「そ、それは私だってそうだし納得できないけどそれで世界を救えるなら……紅魔の里には本当によく当たる占い師の人がいて…きっとその人が占った内容を書いてるんだと…」

 

「……はぁ、極めつけはここですよ、ここ」

 

「……え?」

 

私は大きな溜息とともにそっと手紙の最後の部分を指さした。そこには『紅魔英雄伝・第一章 著者・あるえ』と書かれている。つまりはこの手紙、あるえという人が書いたただの小説なのである。その後の文章に『発送料が勿体ないので一緒に送りました、感想を聞かせてください。なおそのうち第二章もできたら送ります』と書かれている。

 

そしてその文面を見たゆんゆんは…

 

 

「うわぁぁぁぁ!?!?あるえの馬鹿ぁぁぁ!?!?」

 

と、叫ぶだけ叫んで顔を真っ赤にしてテーブルにうつ伏せになって顔を隠してしまった。バニルがいたら大喜びしそうな羞恥心を撒き散らしているのが見るだけでもわかる。哀れゆんゆん、今は好きなだけ泣くといい。

 

「まぁまぁ…落ち着いてください…、逆に考えましょう?これらの話をカズマ君達に打ち明ける前に私に話しておいてよかったと」

 

「うぅ……アリスぅぅ……」

 

もはや本当にそう思う。この手紙でのゆんゆんの暴走が私を経由していなかったらゆんゆんはとんでもない赤っ恥をかいていたところだ。とはいえこれについてはあるえという子は別に悪くは無い。ゆんゆんが勝手に勘違いしただけである。もし悪意があってこんな小説を同封したのなら最後にこんな風に書くことはないだろう。冷静に見てみればただの小説を友人に見せてみたいだけの子なのだから。

 

「二枚目はともかく…一枚目が本当なら問題はありそうですね」

 

「…うん、継ぎ接ぎだらけの巨大なモンスターっていうと…あの時の…」

 

手紙には確かに合成モンスターの事が書かれている。つまり王都付近で実験をしていた魔王軍の幹部、シルビアが今はゆんゆんの故郷である紅魔の里を攻めているということだ。

ただそんな重要な事を書いてある手紙とあるえという子が書いている小説を一緒にして贈ってくるだろうか?どうもこの二枚の手紙にはかなりの温度差を感じてしまう。だからこそ一枚目の手紙も何かしら訳ありのような気がしてる。

 

勿論そんな根拠はない。書いている通りだとすれば一大事なのだから。

 

「二枚目は見せる必要もないのでゆんゆんに処理は任せますが、一枚目のお父さんからの手紙はめぐみんにも知らせた方がいいと思いますよ、めぐみんだって紅魔族なのですから」

 

「…うん、ありがとうアリス…アリスに一番に話して良かった…」

 

「…まだ何も解決はしてませんよ、お礼ならゆんゆんの故郷の無事を確認してからにしましょう?」

 

「……うん!」

 

とりあえずゆんゆんが落ち着きと元気を取り戻してくれて一安心だ。後はこの手紙の事をめぐみんに知らせる為に、私とゆんゆんはリビングへと向かうことにした。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「なるほど、そうですか、頑張ってください」

 

「…めぐみん?それ本気で言ってるの…?」

 

キッチンに向かえばカズマ君のパーティが全員集合していたので、ゆんゆんはめぐみんに手紙を見せることにした。そして出てきためぐみんの一言がこれである。ゆんゆんと比べたらリアクションに温度差がありすぎた。

 

「おい、めぐみん?本当に大丈夫なのか?」

 

「そうだぞめぐみん、私達に遠慮しているのならその必要はない」

 

「何を心配しているのかわかりませんが何も問題はありません、私達は紅魔族ですよ?普通の村が襲われているとなれば話は変わりますが、例え魔王軍の幹部が相手だろうと私達紅魔族が簡単に遅れをとるとは思えません、それに…」

 

「…それに?」

 

淡々と話しながらめぐみんは紅茶を飲んでいる。この落ち着きはある意味ゆんゆんにも見習って欲しいとは思えるけどちょっと薄情にも見えてしまうから難しいところだ。

 

紅魔族の最後の生き残りの(・・・・・・・・・・・・)ゆんゆんがいるでしょう、ゆんゆんがいる限り紅魔族の血が絶える事がないのですからそれでいいじゃないですか、あるいはこう考えましょう、紅魔族の皆はいつでも私の心の中にいると」

 

「めぐみんの薄情者!!どうしてそんなにドライでいられるのよ!?里の皆の事が心配じゃないの!?」

 

うん、薄情というか、これはあれだ。ゆんゆんが最後の生き残り扱いされたことで自分のことを忘れられているというめぐみんなりの嫉妬だ。いじけてるとも言う。

 

「先程も言ったではないですか、あの紅魔族ですよ?デストロイヤーが来たとしても私としてはどうにでもできると思ってます」

 

「……っ!!もういいわよ!!私が今すぐ紅魔の里まで行ってくるから!!」

 

そう言うとゆんゆんは一人屋敷を飛び出して行ってしまった。なんか感情的になって私のことを完全に忘れていないだろうか。割とショックなのだけど。

あと流石に魔法障壁があるらしいデストロイヤーは紅魔族でもかなりきびしいのではないだろうかと思ったけどそれを言う空気でもない。

 

「…アリス、どうせゆんゆんに着いて行ってくれるのでしょう?レベルがあがったとは言え、あの子はまだまだ危なっかしいです、どうかゆんゆんの事を、よろしくお願いします」

 

「やれやれ、相変わらず素直じゃないやつだな、心配ならそう言ってやればいいだろ?」

 

「なっ、 そ、そんなのじゃありません!?」

 

カズマ君のツッコミにめぐみんはすぐに反応するけど、正直どっちもどっちである。とりあえずこのままゆんゆん独りに行かせるつもりもない。何の為のパーティだ、何の為の親友だ。こんな時こそ普段の分以上に頼って欲しい。だからこそ、めぐみんのことはカズマ君達に任せて、私はゆんゆんを追うことにした――。

 

 

 

 

 

 

屋敷を出て思うのはゆんゆんの行動だ。もし即テレポートで移動していたら完全に置いてきぼりになってしまう。そんなことを危惧していたけど、ゆんゆんはすぐに見つかった。アクセルの馬車の乗合所にいたのだから。

 

「…アリス?どうして…?」

 

「いやいやどうしてじゃないですよ、親友を放ったらかしにして独りで帰るつもりですか?」

 

「…えっ…でも…」

 

ゆんゆんは言いにくそうに口篭っている。目線は逸らすしまるで少し昔のゆんゆんに戻ってしまった感じがした。と、いうのも実はこんな風にゆんゆんが大変なことになっていることは過去1度もない、大抵は私が心配をかけてしまっていたのだから。だからこそこれは私がゆんゆんに対して恩返しできるチャンスなのだ、そのチャンスを見逃すつもりは私には全くない。

 

「散々私の事を助けてくれたのに、ゆんゆんは私に助けられるのが嫌なのですか?」

 

「そ、そんなんじゃ…でも…本当にいいの…?」

 

「当たり前じゃないですか、本来今日は王都でクエストを受ける予定でしたからね。まずはミツルギさんにも話をしましょう?魔王軍の幹部や以前王都を騒がせた合成モンスターが関与しているのでしたらそれだけでも私やミツルギさんとも無関係ではありません」

 

「……うん、その…、ありがとうアリス…、やっぱり独りだと不安で…」

 

緊張の糸が切れたのか、ゆんゆんは小刻みに震えながら泣き出してしまった。やはり冷静ではなかったらしい。とはいえ自分の家族が危険な状態なのだ、優しいゆんゆんがそれを聞いて冷静でいられるはずがなかった。

 

「ですからお礼なら終わった後にしてください、まずはテレポートで王都に飛びましょう?」

 

「…ぐすっ……うん!」

 

こうして私とゆんゆんはそのままテレポートで王都へ飛ぶことになった。完全に朝ごはんを食べ損ねたけど王都で食べるしかないか、なんて考えながら――。

 

 





年末年始は書けるかまだわかってません。むしろ平日よりそっちのが忙しい環境なんですよね(´・ω・`;)
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