内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 111 久しぶりの旅

 

 

 

―王都・冒険者ギルド付近の喫茶店―

 

ゆんゆんのテレポートにより私とゆんゆんは王都へ飛び、そして冒険者ギルドで待っていたミツルギさんと合流。あまりギルドで話すようなことではないので喫茶店に移動して、ゆんゆんのお父さんの手紙をミツルギさんに読んでもらって今に至る。私は強引に3人分の朝食を注文してそれが来るのを待っていた。

 

「…ということですので、ごめんなさい、私とアリスは今日クエストにはいけなくなりまして…」

 

「…事情は分かったけど…それは少し寂しいな」

 

「…え?」

 

今回の話の中心はゆんゆんだ。ならゆんゆんが直接事情を説明することが当然の筋である。話を聞いていて思ったのは、やはりゆんゆんはミツルギさんに頼ろうとはしなかった。あくまで今日のクエストに行くことができなくなった体で説明していたのだから。

 

「僕もパーティメンバーだろう?なら何故僕には声をかけてくれないんだ?少なくとも僕はゆんゆんのことを大切な仲間…いや、友人と思っているんだけどね」

 

「……っ!」

 

もっともゆんゆんは私すら連れていく気はなかったのだけどその気持ちはよく分かる。私が悪魔に付き纏われている時がまさにそれだったのだから。

それが実際逆の立場になってみればなるほど、これは友人としてショックだ。まさに私がやっていた事だから後ろめたさはあるものの、同時に改めて思った。お友達は大切にするべき、…だけど履き違えてはいけない、大切だからとただ部屋に飾るようにしているだけでは何の意味もないのだから。

 

「だから気持ちはアリスと同じなんだ、僕に手伝えることがあれば、なんでも言って欲しい」

 

「…その……ありがとうございます、ミツルギさん……」

 

「気にしないでくれ、…とりあえず計画を立てなきゃいけないな…、アリス、これからどうするか決まっているのかい?」

 

「突然でしたから決めようがないですよ、まず紅魔の里がどこにあるのかすら私にはわかっていませんから」

 

まずはそこから。流石にゆんゆんの故郷なのでゆんゆんが知っているとは思うし私が考えるだけ時間の無駄である。そうなれば自然と私とミツルギさんの視線はゆんゆんに向けられる。それに呼応するようにゆんゆんは小さく頷く。

 

「位置的に紅魔の里へはアルカンレティアから徒歩で2日くらいかかります、だから一番近いのはアルカンレティアへ行ってからがわかりやすいんですけど…問題はアルカンレティアへの行き方なんですよね…」

 

「……?アルカンレティアならゆんゆんがテレポート登録をしていなかったかい?それがなくても王都からのテレポートサービスもあるだろう?」

 

「……ごめんなさい、アルカンレティアへはもう行くこともないって話だったので消しちゃいました…」

 

ゆんゆんのテレポートは現在4箇所しか登録することはできない。テレポートのスキルレベルを上げれば登録数は増えるらしいけど普通に使うなら4箇所もあれば充分すぎる。

だから普段ゆんゆんは1箇所目にカズマ君の屋敷の前、2箇所目に王都入口付近、そして3箇所目と4箇所目はフリーにしている。以前のバニルのダンジョンなどの時のように状況によって行き来したりする為だ。

そしてゆんゆんがテレポートを覚えてから紅魔の里へは帰っていないので直接飛ぶこともできない。登録をしていないからだ。

 

「それは私が言ったので消したのだと思います…、それに多分テレポートサービスも絶望的かと思います」

 

「…あっ、そっか……」

 

「そういえばそうだったね…」

 

前回アルカンレティアへのテレポートサービスの予約は3人揃って行ったので3人ともに事情を理解してしまっていた。

というのもテレポートサービスは日本のバスや電車のように常にいつでもどこでも飛べるわけではない。行き来が多い場所なら融通はきくのだけどそもそもエリス教徒が多い王都からあのアクシズ教の総本山であるアルカンレティアへ行く人は非常に稀だ。テレポートサービスで働く人もアルカンレティアを登録するくらいなら他の国や人気のある観光地などを登録している、あちらも商売なので需要のある場所を登録してあるのは当然、よってアルカンレティアへの便は週に1回ある程度しかないのだ。

 

「…ダメ元でテレポートサービスに聞いてみるとして、行くとしたらアクセルからの馬車での移動になりますか…」

 

「…うん、アクセルから馬車でいくならわざわざアルカンレティアまで行く必要もないと思う。遠回りになっちゃうし」

 

「急ぎたいのに急げない、か…もどかしい限りだが仕方ないね…」

 

「馬車も途中までしかいけないの…、紅魔の里の人間は、大抵移動はテレポートで済ませるから必要ないし…」

 

まさに前途多難である。ただ言うならばこれは今までテレポートに頼りすぎていた反動もあるのかもしれない。ゆんゆんのおかげでテレポートでの移動が当たり前になっていた部分もあるし、冒険者の移動は本来こういった形が一般的だ。テレポートを持つアークウィザードがいるパーティなど、王都でも稀な存在なのだから。

 

「考えても仕方ありません、とにかく今はできる限り最短で紅魔の里へ行ける方法を実行しましょう」

 

「それしかないだろうね…ゆんゆんは紅魔の里までの道程の地理やモンスターの特性などは把握しているのか?」

 

「…それが私もあまり…前回帰った時は偶然紅魔族の人と出会ってテレポートで送ってもらったから…、それに里から出る時もテレポートで送ってくれたから実際に徒歩で通ったことはなくて…私もあまり詳しくはないの…その、ごめんなさい…」

 

「謝る必要はありませんよ、でしたら紅魔の里近辺についての本などを買っておきましょうか」

 

「数日かかるのなら食料も買っておかないとね、時間が惜しい、すぐに手分けしようか」

 

そんな話をしていたら喫茶店のウェイトレスさんが気まずそうに料理を持ってきた。こちらがすぐにでも店を出ようとしている空気を察したのかと思われるのだけど、そういえば私が頼んだんだったと思えば少し微妙な空気になる。

 

「……その前にまずは食べましょうか、ゆんゆんも朝食はまだでしょう?これから忙しくなるのですから今のうちに食べておかないといけません」

 

「…う、うん、そうだね…」

 

「…確かにアリスの言う事も一理ある、僕も食べておくよ」

 

強引に納得させたところで注文しておいたサンドイッチとミルクティーを堪能する。お腹が減っては戦はできませぬ。久々の長旅、思えば日を跨いだ旅は最近ではご無沙汰な気もする。それもこの3人で、となれば初めてのことだ。ゆんゆんとしてはそんな事を考える余裕もないかもしれないし不謹慎な気もするので言わないけど、これからの紅魔の里への旅が私には楽しみなものでもあったのだから。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

結論から言えばやはりアルカンレティア行きのテレポートサービスは運営されていなかった。今から予約すると行けるのは五日後になってしまうらしい。それならアクセルの馬車で行けるだけ行ってから後は徒歩で臨む形にした方が遥かに早く紅魔の里に着いてしまう。

 

行動が早かっただけあってなんとか午前中の便に間に合うことができ、たっぷりと食料を準備した私達はアクセルで馬車へ乗り込み、雑談をしながらも半日あまりを馬車で過ごして、そして途中下車することになっていた。

 

 

「…やっぱり長時間の馬車の移動はしんどいですね…ここからの道なりはわかるのです?」

 

「うん、方角なら問題なくわかるよ」

 

「馬車の中である程度の知識は詰めておいたし、これならなんとかなると思う」

 

いざ紅魔の里へ出発。これからは徒歩なので気を引き締めていかなければ。ガイドブックによれば紅魔の里までのモンスターは王都レベルかそれ以上のものも稀にいるらしい。めぐみんやゆんゆんはテレポートで送ってもらうことでそれらを回避していたが今回はそういう訳にはいかない。とはいえ今の私達だと地味に王都のモンスターも余裕があるのでその辺はあまり危惧してはいない。だけど強さはともかく特殊なモンスターも数多く生息しているらしい。

 

「…調べた限りでは一番僕達に厄介なモンスターは『安楽少女』かもしれないな…」

 

「…安楽少女?」

 

「私も聞いた事がある…、特に可愛いものが大好きなアリスじゃ絶対太刀打ちできないと思う…」

 

「……むむ」

 

可愛いモンスターと聞いて、私とゆんゆんが2人でアクセルでのクエストを受けて唯一達成出来なかったクエストを思い出す。あれは初心者殺し討伐に慣れて余裕が出てきた時期だった。ゆんゆんと2人で受けてみた討伐対象は『一撃うさぎ』という大きなうさぎのモンスター。

特徴としてはそのまま大きなうさぎでつぶらな瞳がとても愛くるしい、見た目はぬいぐるみのようなモンスターなのだけど、その見た目とは裏腹に性格は凶暴、私はその可愛さのあまりに全く攻撃することができなかったのだ。

だけどゆんゆんの頑張りであと少しまで追い詰めたところで私の良心がトドメを刺すことを許さなかった、結局ゆんゆんに懇願する形で一撃うさぎを逃がしてしまったのだ。

 

そしてより強くなった今でさえ、あのようなモンスターが出てきても私は攻撃することができないと断言できる。あれを攻撃できるのは人の皮を被った悪魔か何かだ、絶対私と同じ赤い血ではないと思えるくらいに。

 

「アリス、あの時も言ったけどモンスターである以上は人間を襲う存在なの、あの時の一撃うさぎは結局別の人が討伐しちゃったみたいだけど今回はそういう事のないようにね?」

 

「……納得できません」

 

「……え?」

 

納得出来るはずがない。可愛いは正義なのだ、愛でるべきものなのだ。それを人間の都合で殺してしまっていいはずがないのだ。いや、それ以前に。

 

「なんでモンスターがあんなに可愛いのですか!?納得できるはずがありません!」

 

「……えぇ……そんなこと言われても…」

 

「…それもまたモンスターの知恵なのかもしれない、見た目を可愛らしく見せることで人間から狩られにくくしているのではないだろうか」

 

「うぅ…、できたらその安楽少女というのに出逢わないことを祈りますか…」

 

そんな想いを乗せて、私は首に隠すようにかけてあるエリス様のネックレスを握りしめた。結局身につけているのは私がエリス教徒になったからではない、あの時の罪悪感からだ。あれから祈る時はあれは事故です、ノーカンですと想いながら祈っている。エリス様がその祈りを聞いてどう思うかはわからないけど私なりの贖罪なのである。自己満足とも言う。

 

そんなこんなで平原をひたすら歩き続ける。旅は予想に反して順調だった。脅威となるモンスターに出逢うこともなく、懐中時計を気にしながら食事休憩を挟みながらも雑談してはまた進む、そんな旅だった。

 

歩いていると木々が見え始め、一夜を過ごしてから森を進むことにもなったけどそれも特に問題はない。王都でのクエストで対峙したこともあるグリフォンやらが何匹か襲ってきたくらいだ、私達が手を出すまでもなくミツルギさんだけでも余裕で倒せてしまっていた。

 

森と言ってもそこまで深い森ではない、空を見上げれば青空が広がり、太陽は明るくこちらを照らしてくれる。早朝に移動を再開したことが功をそうしたのか、光源に困ることも無い、流石に夜になれば危ないかもしれないがそうなる前に森を抜ければ済むだけの話だった。

 

そして森をそろそろ森を抜けられるかな…?そう思っていたら、私の視界にはとある光景が映し出された。

 

「…っ!?」

 

「……どうしたの?アリス」

 

「…人がいます!それも小さい子が!」

 

「人ってこんな森にかい…?…って、アリス!?」

 

ミツルギさんの制止も聞かず私は走った。全力疾走すること10秒あまり、近づくだけで見えてくるのは頭に花飾りをつけてワンピースを着た小さな女の子。その少女は木の傍に座り込んでいた、そしてその状態に私は絶句した。

 

「だ、大丈夫ですか!?こんなに怪我をして…モンスターに襲われたのです!?」

 

見れば腕や首にはボロボロになった包帯が巻かれていて、その箇所は痛々しく出血しているように見えた。見る限り少女はあまり元気がないように見えるしあまり生気を感じない。何故ここまで弱っているのか疑問に思うがこれは一刻を争う事態だということだけは理解できた。

 

少女は私に気が付くとその純真無垢な瞳と儚い笑顔をこちらへ向けた。それはこんな森の中でようやく人に出逢うことができたと安堵しているように見えて、私の母性にクリティカルヒットしてしまう。

 

「──お姉ちゃん、私の傍に──居てくれるの──?」

 

「……っ!?」

 

待って、待って!?何この可愛い子は!?すぐにでもお持ち帰りしたいくらい可愛いんですけど。流石にそんなことしたらただの誘拐だからしないけど。よく見たら耳が尖ってて人間ではない、エルフとかなのだろうか?だけど私には人間じゃないことで余計に愛護心が引き立てられていく。

 

「…と、とにかくまずは手当てをしますね、《セイクリッド・ハイネス・ヒール》!!」

 

遠慮の一切ない最上級回復魔法、淡いエメラルドグリーンの光が少女の身体を包み込む…けれど包帯ごしからでも分かる、治ってる様子はない。その結果に私は焦り始めていた。

 

「どうして……!?…回復魔法が効かない…もしかしたら呪われているのですか?でしたら…」

 

「──お姉ちゃん?」

 

もはや少女の声も私には届いていない。ただこの可愛らしい少女を助けたい、そんな気持ちで頭がいっぱいだった。

 

「アリス!!離れて!その子は違うの!!」

 

「落ち着くんだアリス!」

 

ゆんゆんとミツルギさんの声が聞こえてくる。そこで私の詠唱は終わりを告げた。杖には白い光がボールのように密集して、清らかな光を放っていた。私はその光を少女へと向けて、思いのままに放った。

 

「《セイクリッド・ブレイクスペル》!!」

 

その瞬間だった。

 

「……ががががっ!!??このガキ、なにしやがった!?」

 

明らかに少女の雰囲気が変わった。思わず目を見開いてしまう。私が放った魔法は《セイクリッド・ブレイクスペル》。あらゆる状態異常を解除できる魔法。敵に撃てば厄介なバリアなどが解除でき、味方に撃てば呪いなども解除可能な万能スキルである。

 

「アリス!?何をしたの!?」

 

「…わ、私はただ呪いを解除しようと…」

 

見る限り少女は苦しんでいる。今もなお、『ががががっ』と奇妙な悲鳴をあげている。撃った本人である私でさえ何が起こったのか理解が追いつかない。まるで悪魔のような悲鳴をあげて頭を抑える少女、私の放った光は遠慮なく少女を包み込んでいく。

 

そして数十秒が経過して、ようやく光が収まると、傍にあった木が徐々に枯れていき…ついにはその場で消滅してしまった。

 

…気が付けばその場には何もなくなっていた。未だに何が起こったのかさっぱりわからず、私はその場に立ち尽くしていた。

 

「……何が起こったのです…?…今の子は…?」

 

「…アリス、今のがさっき話した『安楽少女』なの…」

 

「……え?」

 

「…ゆんゆんの言う通りだ、今読み返してみても一致する状況ばかりだ、…ただ《セイクリッド・ブレイクスペル》で倒せるなんて情報はどこにも書いてはいないが…今のを見る限り効果があったようだな…」

 

ガイドブックを読みながらのミツルギさんの言葉は素直に私の耳に入っていなかった。

つまりは私が…あんなに愛くるしいいたいけな少女をこの手で殺してしまったことになる。知らなかったとはいえ、助けたかったはずの存在を。

 

そう思えば何かをすることもできずに、私はただ震えて少女がいた場所をじっと見つめていた。

 

「……アリス、あれはこちらを欺く為の擬態なんだ、こちらを騙していたんだ。だからアリスが心を痛める理由はどこにもないんだ」

 

「そ、そうよアリス!今の気持ち悪い叫び声を聞いたでしょ!あれが本性なのよ!騙されないで!アリスは何も悪い事はしてないんだから!」

 

「……はい」

 

二人の言葉は素直に私の心に響かなかった。勿論安楽少女についての話は事前に聞いていたしできれば出逢いたくはなかった。

だけど出逢ってしまった、なんとしても助けたいと思った。それが助けられなかった。

 

そんな現実だけが私に直面してしまい、やり場のない気持ちが私の心を支配している。必死に二人の言う事を飲み込もうとしても、中々飲み込めなかった。

 

そもそも助ける助けないの問題でもない、その情こそが安楽少女の狙いなのだ。こうしている間にもそれはミツルギさんとゆんゆんに聞かされていた。

 

…少し時間がかかったけど、私はなんとか気持ちを落ち着ける事ができた。それは一種の現実逃避かもしれない、だけど今こうして旅をしているのは安楽少女を救う為ではない。ゆんゆんの故郷を助けに行く為だ。

 

そう必死に言い聞かせた結果、私は重く感じた足をゆっくりと動かして、背を向けていた二人へと向き直る。

 

「……ごめんなさい、取り乱しました。先を急ぎましょう」

 

「アリス…本当に大丈夫…?」

 

ゆんゆんの言葉に私は無言で頷くしかできなかった。ゆんゆんとしてはこんなところで足止めしている余裕も私を気遣う余裕もないはずなのに。一刻も早く紅魔の里に行き、皆を助けたいと思っているはずなのだから。

こんなところで立ち止まっててはいけない。

 

そう思えば吹っ切れることができたのかもしれない。先程よりも足取りが軽く感じたのだから。

 

そしてその場を離れようとした──その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ここ──、どこ──?』

 

「「「っ!?」」」

 

 

去り際に聞こえてきた少女の声に私達三人は驚いて振り返る。そこには…、私が助けようとしていた安楽少女が、不思議そうな顔をしたまま辺りを見回していた──。

 

 

 

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