内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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今年ラストの投稿となります!それでは皆様、良いお年を!

ものすごくどうでもいい話なんですが、とある小説のタイトルを見てこれアリスじゃね?と普通に思いました()




episode 112 安楽少女

──安楽少女。

 

植物型のモンスター。モンスターではあるものの、物理的な危害を加えてくることはない。

そういう意味では無害。見た目も愛らしく、怪我をしていたり弱っていたり正常な人間であればまず放っておけない容姿をしている。

 

そんな容姿を利用して、通りかかる旅人の庇護欲を抱かせる言動をとり、自身の傍へと旅人を誘う。

 

その誘いは非常に抗い難く、一度心を許してしまい距離をなくせばたちまち情が移ってしまい、死ぬまで囚われることとなる。捕らえた者が死んだ後に、自身の養分として吸い尽くされ、取り込まれてしまう。

 

まずその容姿は擬態である。怪我をしているように見えるものも実際にそんなことはない。知能が高く、人間の言葉をしゃべるのだが、その発言全てが自身の養分を得る為の手段でしかない。

 

少女の背後に大きめの実がなる木があれば安楽少女と確定してもいいだろう。その木もまた安楽少女の一部であり、寄り添い時間が経つとともに空腹になった旅人に実を与える。

しかしこの実には強い催眠効果があり、栄養素は皆無で次第に夢心地になって、栄養失調で旅人を衰弱死させてしまうという。絶対に口にしてはいけない。

 

また、年老いた冒険者などが、安らかな死を求めてあえて少女に近付く案件もあり、そんな事柄が安楽少女の名前の由来となっている。

 

だが戦闘能力は皆無である。非常に辛いかと思われるが、出逢ってしまった旅人は新たな被害が出ないようにする為に是非とも駆除してほしい。

 

 

 

…ミツルギさんの持っているガイドブックにはこう書かれていた。それは私やゆんゆんも聞いていたし理解もしていた。

 

だけど…。

 

 

「……っ!?」

 

私は無意識に無事だった少女に近づこうとしていた。そんなすぐにでも走り出そうとしている私の腕を、ミツルギさんとゆんゆんがそれぞれ左右から掴んで止めた。

 

「このままそっとしておこう、駆除する気がないのなら、今はそうするしかない」

 

「お願いだから落ち着いてアリス!あの子はモンスターなの!」

 

「ちょっと待ってください、私は落ち着いてます、…それよりも、さっきと様子が全然違うと思いませんか?」

 

「「…え?」」

 

2人は私の腕を掴んだまま安楽少女を注視する。半ば警戒するように見ているけどそれも当然だろう、相手はモンスターだ、出逢ったことのないモンスターである以上、何をしてくるのか検討もつかない。

 

一方少女は、無言のまま周囲を見渡していたと思えば、今度は自分の身体、手、髪の毛をいじったり、頭の花飾りを触ったりで常に不思議そうにしている。…やがてこちらに気が付いたのか、そのつぶらな瞳をこちらへと向けた。

 

『──お姉ちゃん、お兄ちゃん。──ここはどこ──?』

 

距離にして10mくらい。少女はぎこちない様子でこちらに話しかけてくる。ただ様子はおかしい。さっきまで一緒にいたのに、まるで今の記憶が抜け落ちたような反応に見える。

 

「…ここは森の中ですよ」

 

『──森の中──?…あれ?私は確か植物に食べられて──?』

 

次第に少女は自身を抱くようにして震えていた。その顔色は青ざめていて恐怖しているように見える。そんな状態になった子を私が放っておけるはずもなく、力緩んだ一瞬の隙をついて二人の束縛を逃げるように振り払って少女の元へと駆け寄った。駆け寄ってしまった。

 

「…っ!?駄目だアリス!あれは全部演技なんだ!冷静になってくれ!」

 

「お願いだから止まってアリス!!」

 

「…っ!」

 

少女まで残り2mあまり。そこで私は二人の制止の叫びを聞いてその足を止めた。…これではいくらなんでも学習能力がなさすぎる。自制心を持たなければ…、そう思いながらも少女を見れば上目遣いな少女と目が合う。

 

それは先程よりもずっと澄んでいた。まるで宝石のような綺麗な瞳。それが直接私の事を見つめ返す。

 

『お姉ちゃんは──誰──?』

 

その透き通るような声に聞き惚れながらも、私はその場で中腰になり、座ったままの少女と目線を合わせた。

 

「はじめまして、私はアリスです、貴女の名前はなんというのですか?」

 

出来る限り優しく、まるでガラス細工を扱うように丁寧に聞いてみる。実際その状態は先程よりも更に弱々しく見える。とても演技などには見えなかった。

 

『──名前──?私の──名前──…。思い──出せないの──』

 

心苦しそうに少女は俯いた。そしてゆっくりと立ち上がる。足はちゃんとあるようでぎこちなくその両足を動かしている。だけど不思議なことに、先程までの血が滲んだ包帯は一切なくなっている。

 

『──私、──村に帰らないと──』

 

そう告げた少女は歩き始める。だけど足元が覚束無い。ふわふわした足取りはそのまま崩れるように足をもつらせて、派手に転んでしまう。

 

「っ!?大丈夫ですか!?「アリス!!」…っ!?」

 

すぐに駆け寄ろうとしたところ、ミツルギさんの声が私の動きを強制的に止めてしまった。それ以上は言わなくてもわかる。これも安楽少女の作戦の内だと言いたいのだろう。

 

…だけど本当にそうなのだろうか?村に帰るとはなんなのか?まるで人間みたいな言動をとるしこちらの気を引くようなものには見えない。

 

そして転んだ少女は何か違和感を感じたようにその場で座り込み、転んだ際に強く打ったであろう箇所、膝の部分を撫でながら見て…、そして再び震えていた。

 

『──どうして?──こんなに派手に傷ができて──痛いのに──、どうして血が出ないの──?』

 

少女の傷口はこちらからも見える。確かに人間なら派手に流血していると思われるほどの傷だ。転んだ地面に視線を移せばそこには鋭利に尖った石がある、それに運悪くぶつかってしまったのだろう。…だけど…その言葉を聞いて、私達三人は何かが凍りついたような錯覚を覚えた。

 

この少女はまるで自分がモンスターであることを理解していないみたいではないか。これはどういう事なのか。気を引く為の演技だとしたら明らかに遠回りだし手が込みすぎている。

 

今の彼女は本当にただのモンスターなのだろうか──?私には、そんな疑問しか浮かばなかった。

 

 

「…ミツルギさん、あの子…本当にどこか様子がおかしくないですか?」

 

「…ゆんゆんまで何を言い出すんだ…、どんなに演技に見えなくても、あの子はモンスターだ、僕らに出来ることは駆除するか、それが出来なければ大人しく去るしかないんだ」

 

…そんなミツルギさんの言葉に突き刺さるように反応したのは少女だった。その瞳には光がなくなり、信じられないという感情が浮き彫りになってしまった、そんな悲愴感を起こす表情。私もゆんゆんも、その顔をじっと見てはいられなくなり、痛ましく視線を逸らしてしまった。

 

『──私が────モンスター…?』

 

少女の膝の傷口は徐々に塞がっていく、それは人間であるならありえない治癒速度。そんな様子を見ながらも、次第に少女の瞳から溢れ出す涙。既に痛みもないのだろうか自然と立ち上がり、ただ立ち尽くして、それを拭うこともなく涙を流し続けている。

 

もう無理だった。これがもしも演技なら大したものだ。心からそう思う。もといそれ以上に──、私は目の前で泣いている少女を見捨てる事など、絶対に出来なかった。

 

『──お姉ちゃん?』

 

こんな行動、冒険者として失格かもしれない、パーティリーダーとして失格かもしれない。それでも──。

 

私が気が付けば目の前の少女を思いのまま優しく抱き締めて、そして釣られるように泣いていた。

 

「…大丈夫ですよ、貴女がモンスターであれなんであれ…私は貴女の味方ですから」

 

『──お姉ちゃん、離れないと──、危ないよ──?──だって私は──、モンスターみたいだし──』

 

「そんな事はありません!貴女に敵意があるのでしたら、離れろなんて言わないはずです!…ですから……貴女の話を聞かせてくれませんか?」

 

『──……ぐすっ──』

 

少女はついに癇癪を起こして泣き出してしまった。私はそれに対して頭を撫でてあやした。気付けば私を止めることなくゆんゆんが傍で見守っていて、ミツルギさんは複雑そうにその場に立っている。おそらく私の言葉に納得できる部分もあったのかもしれない。

 

今はただこうして──、少女が泣き止むのをただ待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おぼろげな少女の記憶──。

 

彼女は元々人間だった──。

 

彼女は付近の村で暮らしていた──。

 

ある日森に遊びに行った際に食人植物に襲われて──。

 

……そこから、彼女の記憶は全くない──。

 

あまりにも少なすぎる情報、だけどそれが演技だと思う者は私達の中にはいなかった。

 

「…ゆんゆん、この辺りに紅魔の里以外に村はあるのですか?」

 

「……ないと思う、だとしたらこの子も紅魔の里の人間かもしれないけど…髪は黒くないし瞳も赤くないから…でもモンスターになっちゃって色が変わった可能性もあるから……ごめん、わからない…」

 

「……ではこの子も連れていきましょう」

 

私の提案に対する反応はほぼ同じだった。少女とゆんゆんは声もなく驚いた表情をしていて、ミツルギさんは無言で目を見開いている。

確かにそんな場合ではないことはわかっている。今は一刻も早く紅魔の里へ行かなければならない。だけど…。

 

「いくらモンスターとはいえ、人だった頃の記憶を取り戻した今はこんな森の中に独り残して行くなんてこと、私にはできません」

 

「…しかし…」

 

「…ではこの子に聞きましょうか。…貴女はどうしたいですか?私は貴女の気持ちを尊重しますよ」

 

『──私は──』

 

少女はそれ以上何も言えずに俯いてしまった。けど私には少女の気持ちが良くわかった。私達の迷惑になると思ったのだろう。この内気な様子は昔の自分やゆんゆんを見ているような感じがしてますます放ってはおけない。

 

『──やっぱり──、私は此処に──』

 

「決まりですね、では共に行きましょうか」

 

『──え?』

 

キョトンとした少女を後目に、私は立ち上がって少女に手を差し伸べた。ゆんゆんやミツルギさんももはや私を止めるつもりはないようだ。ミツルギさんはやれやれと溜息をついていたけど。

 

「これからもこの森で独り孤独にモンスターとして生きるのですか?そんなのは嫌だと顔に書いてありますよ。私達に遠慮する必要はありません、貴女のことは…、私が守りますから」

 

『──っ!……ありがとう──、お姉ちゃん──』

 

正直に言えばこの言動が本当に正しいかはわからない。人の姿をしていても、人だった頃の記憶があったとしても、今の彼女はモンスター、その事実は変わらない。

それがどんな悲劇を生むことになるのかも想像できない。街に入ってモンスターだと気付かれたら大変なことになるかもしれないし、仮にこの子の家族や友人と出逢えた時に、その人達がモンスターとなった彼女を受け入れてくれるのか。はっきり言えば問題は山積みだ。

だけどこの森で独り過ごす事で何が変わると言うのか、おそらく何も変わらない。下手をすればモンスターとしての感性を取り戻してしまう可能性すらある。

 

彼女自身にもまだまだ謎が多い。安楽少女としての機能はまだ備わっているのだろうか、少なくとも消滅した木がまた生えてくる気配はない。そもそも完全に彼女を信じてもいいのだろうか、その疑いの気持ちも言ってしまえばゼロではない、可能性は低いと見ているが少女のモンスターとしての感性が蘇る可能性もあれば今のが全て演技である可能性もある。

 

 

それでも──、自己満足と言われてもいい。

 

私は目の前で泣いている子がいたら…、手を差し伸べる。それらを全て覚悟した上で──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに少女を迎えた私達のパーティは無事に森を抜けて平原を歩く。少女の歩くペースに合わせて移動しているのでペースが落ちてしまったけど想定内ではある。ゆんゆんには申し訳ない気持ちしかないのだけど。

 

「ごめんなさいゆんゆん…、成り行きとはいえ到着に遅れが出ちゃってますし…」

 

「ううん、アリスの気持ちも分かるし私でも同じ事をしたと思うから…」

 

ちなみに少女は今、私と手を繋いで歩いている。どこか不安そうにキョロキョロと周囲を見渡しているのはもしかしたら自分のいた村を探しているのかもしれない。

しかしあまり喋らない子だ。単純に私達に気遣っているのかもしれないがそうだとしたらますます昔の自分を見てるようで他人のような気がしない。そして可愛い、超可愛い。庇護欲なんてレベルじゃないくらい守ってあげたくなる。

これが彼女の安楽少女としての特性なのか、あるいは彼女の元々の魅力なのかはわからないが、こうしていて彼女がなんらかの危害を加えてくる気配は欠片も無いので、最初は警戒していたミツルギさんも徐々に警戒を解いてきてきた。

 

「…それにしても広い平原だな…これではどこにモンスターがいてもすぐ見つかってしまうな…」

 

今歩く平原は本当に何も遮るものがない。移動する分には余計な障害物がなくていいのだけどミツルギさんが言うようにここまで見晴らしがいいとモンスターにも簡単に見つかってしまう。既にエンシェント・ドラゴンや一撃熊が襲ってきたのだけどとりあえず問題なく討伐はできている。いつもなら問題はないのだけど今は少女がいる。あまり無闇に戦闘に入りたくないのが正直なところだ。

 

『──お姉ちゃん、誰か来る』

 

「えっ?」

 

少女が私の服の袖を引っ張って控えめに言えば、確かにこちらからよく見れば点にしか見えない何かが走ってきている感じがする。その遠くから来るもどかしさに、こちらも近付こうと早足になる。そして段々と点にしか見えなかったものが、人影に見えてきて、やがてそれは…服装などが明らかになっていった。

 

「…あの緑色のマント…まさか…佐藤和真か!?」

 

「「えぇっ!?」」

 

『──?』

 

確かによく見ていれば、カズマ君に見えなくはない。もとい少しずつ近付き大きくなるそれはカズマ君にしか見えなくなってきた。必死の形相で逃げているし、その背後には何か大きな人型の群れが襲ってきていた。

 

私はすぐに杖を構える。なぁにバーストで一掃するだけの簡単なお仕事でござるよ。そんな軽いノリだったのだけど、手で遮るようにゆんゆんに止められてしまった。

 

「アリス、ここは私に任せて。あのモンスターはオークだと思う、…だとしたら、無闇に攻撃してしまうのはまずいの、特にミツルギさんは絶対に手を出さないで!できれば見付からないように隠れてて!!」

 

「…攻撃してはまずい……?」

 

「…どういう事だ…?それに隠れるとしてもこの平原では…」

 

私とミツルギさんが揃って疑問を口にしたが、その答えが帰ってくることはなく、ゆんゆんはカズマ君の元へと走っていってしまった。

なんのこっちゃな状態なのだけどこの辺は既にゆんゆんの地元だ、ならゆんゆんの言う通りにした方が良さそうだ。

 

何故カズマ君がこんなところにいるのか、オークに攻撃したらまずい理由とはなんなのか。

 

理解が追いつかないまま、私は片手に杖を持ったまま、もう片手で少女の手を握り、早足でゆんゆんの後を追う事にしたのだった──。

 

 

 

 





アンケートの御協力、ありがとうございました!参考にしつつ絡みを増やしていきたいと思います!

ところで皆様に相談なんですがこの安楽少女ちゃんに名前をつけたいと思ってます。何かいい案があれば感想からお願いします!(露骨な感想稼ぎ)




15時追記。

1月2日の12時に予約投稿しようとしたところ、2021年に設定するのを忘れていまして、episode114を即時投稿してしまいました。申し訳ありませんが、もし見てしまった方がいましたらそっ閉じしてやってください。

なお1月1日も2日も既に予約投稿を終えてあります。即時投稿してもいいのですが個人的に書き溜めがないと余裕がなくなってまともに書けなくなるのでご了承ください。

せっかくですので今年最後の挨拶を。6月から始めた小説、処女作で思い付きで始めたものですが、ここまで書けたのは皆様のおかげしかありません。本当にありがとうございます。これからも拙い文章ではありますが、読んでくださるとめちゃくちゃ嬉しいです。

改めて皆様、良いお年をお迎えくださいませ。

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