内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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今年もよろしくお願いします。新年を機に作者の名前変えてみました。





episode 113 無駄にイケメンで強い人

 

 

 

―平原―

 

私と手を繋ぐ少女と、そしてミツルギさんはゆんゆんの後を追った。ミツルギさんは隠れるように指示されたが隠れるような木一本存在しないしどうしようも無いと判断したのだろう。

 

近付いてみれば襲われている人の正体はやはりカズマ君だった。襲いかかるオークの群れはゆんゆんの魔法、ボトムレス・スワンプで沈められていた。あくまで直接的な攻撃は仕掛けていない。

 

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、様々な上級魔法を操る者!紅魔族でも五指に入る魔法の使い手…!やがては、紅魔族の長となる者っ!!

 

「…ゆんゆん!!」

 

涙目でゆんゆんの名を呼ぶカズマ君、その様子から本気で怖かったのだろう。少なくともせっかくウォールを教えているのにそれを使う余裕がないくらいには取り乱していた。

 

「紅魔の里近くに巣くうオーク達!ご近所のよしみで今日は見逃してあげるわ!!さあ仲間を連れて立ち去りなさい!」

 

動揺するオーク達。この辺に生息しているだけあって、生まれながらにアークウィザードの素養を持つと言われる紅魔族の強さは知っているだろう。それぞれが顔を見合わせている。

 

「…それはできない相談だねぇ」

 

「…え?」

 

よく見ればオークの存在は多種多様、角が生えたり、羽がついてたり、耳が異様に長かったりするのだがある共通点があった。

オーク故に全員が太っていて、そして見る限り雌しか見当たらない。

 

そしてその答えもゆんゆんにとっては意外なことだったのか、ゆんゆんは呆気にとられている。…と、いうよりこの辺のモンスターは安楽少女といいオークといい、喋れるのが多いのだろうか?魔王軍幹部以外で喋っているのを初めて見たかもしれない。

 

「確かに紅魔族と事を構えるのはこっちもごめんよ、だから取引しないかい?こっちのボウヤは大人しく返そうじゃないか、……でもねぃ、お嬢ちゃんの後ろにいるイケメン剣士だけは絶対に見逃すつもりはないわよぉぉ」

 

舌なめずりするオークの視線はゆんゆんの後方にいるミツルギさんに向けられた。そして何故ミツルギさんに隠れろと言ったのか、私はその意味がようやく理解できた。

ゆんゆんは後ろに振り返り、気まずそうにしているミツルギさんに気が付くと、驚愕の表情を見せていた。

 

「なんで…なんで隠れていてって言ったのに出てきてるんですか!?無駄にイケメンで強い貴方がいたら話が纏まらないじゃないですか!?」

 

「申し訳ないとは思うけどそれは少し酷くないかい!?」

 

これは誰が悪いのだろうか。確かにミツルギさんは結果的にゆんゆんの指示を無視する形になったけれど隠れるような場所はないし、それにまさかこのような事態になっているなんて予想ができるはずもない。

 

「頼むミッツさん…!ここは俺を助けると思って…どうか生贄になってくれ…!そうすれば丸く収まるんだ…!」

 

「僕がとんでもないことになってしまうだろう!?ふざけるな!?」

 

冗談ではないと言わんばかりにミツルギさんは魔剣グラムを抜き、話している間に我慢が出来なくなったのか襲いかかってきたメスオークを一刀両断する。オーク自体はそこまで強くはないのか、意外にもあっさりと倒されていた。

 

「あぁぁぁ!?駄目ですよミツルギさん!攻撃しちゃ駄目って言ったじゃないですか!?」

 

「…そう言われても今の場合こうするしか…」

 

「いいですかミツルギさん、このオーク達は今はメスしかいません、この近辺には何千匹といったメスオーク達が生息しているんです!そしてこの平原はオーク達の縄張り。男の人が強さを見せつけてしまえばオーク達はこの広い平原を抜けるまでずっと襲ってきます!」

 

「…メスしかいない…?それでどうやって繁殖を……まさか…」

 

ミツルギさんの頬を汗が流れる。こういう時は察しがよくありたくないものである。女の私としても嫌な予感しかしない。

 

「オスなんて生まれても散々弄ばれて成人する前に死んでしまうんです!ですからこのオーク達は種族関係なく男の人を襲います!それが強いとなれば優秀な遺伝子を残したいオークとしては是が非でも欲しくなるんです、ミツルギさんほどの強さなら手段を選ぶ事はないと思います…!」

 

「ふふふふっ、長々と説明ありがとうねお嬢ちゃん、…そういう事さ、それに仲間を殺されたんだ。交渉は決裂だねぃ……もはやイケメン剣士も、そこのボウヤも見逃すつもりはないよ…!」

 

どうやって呼んだのかはわからない。オークの特性なのか、別の何かなのか。こうやって話している間に次から次へと異形なメスオーク達がぞろぞろと集まってくる。なるほど、攻撃しないでと言ったのはこういうことだったのか。下手に刺激してはこのように大量のオークが集まることになる。これは男の人から見れば地獄絵図か何かかもしれないし、数千となればこちらとしても厄介この上ない。

 

「…ちょうどいいですからアイリスから戴いた魔晶石を試してみましょうか、単純に火力が上がるのか、属性かつくのか試していませんでしたし」

 

「なんでアリスまで今日はそんなに好戦的なの!?」

 

アダマンタイトの結晶を取り出すと、それを手際よく杖に装着する。わらわらと集まるオーク目指して詠唱を開始する。温かみのある魔力が循環して、魔法陣となって駆け巡る。

そうなれば脳内に今から発動する魔法の名前が浮かび上がる、後は…その魔法の名前を直に口にするだけ。

 

「…私の傍を離れないでくださいね」

 

『――うん…』

 

少女は見守るように私から2歩ほどの位置で様子を伺っている。アダマンタイトの結晶が待ちきれないと言わんばかりに魔力を噴出させる。

 

 

「行きます…!《ターングラビティ》!! 」

 

 

それは地属性の《バースト》。私の発動に合わせて起こるのは岩の大津波。次から次へと異形なメスオーク達を飲み込んでいく。やはりオークそのものの力はそこまで強くないようだ、集団で存在しているからこその脅威なのだろう。

 

結果的に私達を取り囲もうとしていたメスオークの集団はほぼ全壊状態になった。後方にいたメスオーク達は一瞬のうちに起こったこの惨劇に声も出せずに震えて、その場で持っていた武器などを落としてしまった、どうやら完全に戦意喪失したらしい。

 

『――お姉ちゃん――、すごい――!』

 

「じ、冗談じゃないよ!?なんだいあの化け物は!?わたしゃ逃げるよ!?」

 

「わ、私も!命は大事にするよ!!」

 

オーク達は正気に戻るとすぐさまこの場から逃げ去っていく。どうやらなんとかなったみたいで一安心なんだけど化け物呼ばわりは失礼ではないだろうか。自分で言うのもあれだけどアクア様のおかげで見た目はしっかり美少女なのですよ。

 

「……私、たまにアリスのことが少し怖く感じてるんだけど…」

 

「あ、アイリスにもらった魔晶石の力ですよ、うん」

 

ようやくなんとかなったと、カズマ君はその場で崩れるように座り込んでしまった。それほど恐怖していたのだろう。そしてふと聞こえる声。

 

「アリス!ゆんゆん!」

 

「…ダクネス、めぐみんにアクア様も!?」

 

とはいえカズマ君がいるのなら当然この3人もいるだろう。ダクネスの声に私は振り返り、しばらくぶりの再会に笑みを零していた。私の傍へと駆け寄ってくる3人に何を感じたのかわからないけど、少女は私の背後に隠れるようにして様子を伺っている。やっぱり可愛い。

 

「…ねぇ、アリスの後ろにいるその子って…」

 

「…私達が出逢った安楽少女にそっくりですね…まさか…」

 

「だが妙だぞ…?安楽少女なら身体の一部である実のなっている木から離れられないんじゃないのか…?」

 

やはりというべきか、3人の興味は真っ先に私の後ろに隠れている少女に向けられた。そしてどうやらカズマ君のパーティも安楽少女に出逢っていたようだ。

 

「俺にもわかんねーよ、その子から敵感知スキルに反応はないし…それに安楽少女なら俺が……いや、なんでもない」

 

「……カズマ君?」

 

何を言いかけたのだろうか。非常に気になるものの、安楽少女というモンスターがユニーク個体でない以上は、まだまだこの近辺に存在しているのかもしれない。とりあえず震えているこの子を落ち着かせよう。

 

「大丈夫ですよ、このお姉ちゃん達は私のお友達ですから」

 

『――お友達――?』

 

どうやら人見知りが激しいらしい。少し落ち着いたものの、私の背後からそっと顔を覗かせていることはやめるつもりはないようだ。どこまで昔の私そっくりなんだ。私に懐いてくれているのは凄く喜ばしいけど。抱きしめたいくらい可愛いのだけど。

 

「それよりもカズマ君達はどうしてここに?」

 

「あぁ、結局めぐみんが心配だって言うからな、ウィズに頼んでテレポートでアルカンレティアまで送ってもらったんだ。…そこから徒歩でここまで歩いてきたんだけど、さっきのに出くわしたところだ…」

 

「ちょ!?誤解を招く発言はやめてもらおうか!?私はただ、妹のことが心配だっただけです!」

 

「そ、そうね、魔法も使えないのに好戦的な子だもんね…」

 

なるほど、ウィズさんがいたかと私は思いつかなかった事を後悔していた。それも後の祭りでしかないと切り替えると、やはりカズマ君達は私の後ろに隠れている少女が気になって仕方ないようだ。片時も目を離すことがない。

 

「…あまり見ないであげてください、怖がってますので…」

 

「す、すまん、…それでアリス達はどんな経緯でその子と知り合って今一緒にいるんだ?」

 

「しかもその子…やっぱり人間じゃないわよね?」

 

『――っ!』

 

…人間じゃない。少女はその言葉にもっとも強い反応を示した。再び震え始めると、私の服の袖を掴む力が少しだけ強くなった。

 

「……とりあえず話はしますから、黙って聞いてもらえますか?」

 

「…お、おう…わかったからそんなに睨まないでくれ…ご、ごめんなうちのアクアさんが」

 

「な、何よ!?私が悪いの!?」

 

事情を知らないのだからアクア様の疑問は無理もないのだけど、ゆんゆんやめぐみん、ダクネスの視線は責めるようにアクア様へと向けられていた。

私も心痛める少女に気付くなり口調が出したことのないくらいきついものになっていたかもしれない。

 

私はカズマ君達に、少女と出逢った経緯を説明することにしたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明が終わるなり、カズマ君のパーティは全員揃って青ざめていた。一体どうしたのだろうか?

 

「……つまりよ?つまり私がアリスみたいに《セイクリッド・ブレイクスペル》を使っていたら、あの時に出逢った子を救えたってこと!?」

 

「……お、俺は……俺はなんてことを……」

 

真っ先に取り乱したのはアクア様とカズマ君だ。カズマ君に至っては頭を抱えたままその場で崩れ落ちてしまった。

 

「……まさか…」

 

ここまで取り乱している理由を考えれば、それに該当することはそう多くはない。多分カズマ君達は…私達と別の安楽少女と出逢って…、討伐したのだろう。それは悪い事ではない、ガイドブックにも書いてあるので今までそうやって安楽少女は駆除されていっている。つまり過去に何度も駆除している冒険者や旅人がいるのだ。だからこそ正式な対処法としてガイドブックに記載されているのだから。

それでも知らなかったとはいえ、カズマ君達は結果的に安楽少女を駆除してしまった。その罪悪感は私の想像もつかないくらい大きなものに違いない。

 

それにしても困った。この2人は勿論のこと、ダクネスやめぐみんも私の話を聞いて意気消沈してしまっている。これでは紅魔の里に行くどころの話ではない。…そう思っていたのだけど。

 

「…カズマさん、せめてもの罪滅ぼしよ…、もし次に出逢うことがあったら…絶対に助け出すのよ……」

 

「……あぁ、そうだな……」

 

とりあえずそんな形で落ち着いた。私の予想としては何もかも忘れて安楽少女を探し出して見つけ次第救助するくらいは思っていたのだけど流石に本来の目的を忘れてはいなかったようだ。

 

「こればかりは何時まで考えていても仕方ありません、それに新たな発見があって良かったではないですか、アリスのおかげで今後安楽少女の駆除が減るかもしれませんし。…進みましょう、あちらに見える森を抜ければ紅魔の里は目と鼻の先です」

 

「…しかしアリス、その子を連れてきてどうするつもりなのだ?今から行く場所は戦場になっている可能性が高いのだぞ?」

 

「……だからといって、人であった時の記憶を取り戻したこの子を独り森の中に置き去りにするなんてことは私にはできませんでした。この近隣の村に住んでいたようなので紅魔の里の件が解決したら村を探して送り届けようと思ってます。それまでは私が責任をもって守りますよ」

 

「……しかしだな……いや、なんでもない。彼女の気持ちを尊重してそうしているのなら、私が何か言うのもな…」

 

ダクネスの言いたい事はすぐに理解できた。仮に村が見つかったとして、既にモンスターと化した少女を連れて行って問題がないのだろうか、という事だろう。勿論問題しかない事態なのだけど現状どうすることもできない。

 

私には答えがわからなかったのだから。仮に村が見つかっても少女の両親が受け入れなかったら…、そうなるくらいならそのまま森に独り残して行った方が少女は幸せだったのではないか、となる可能性もある。

無責任にも感じるけど結局どうしたいかは少女次第だ、本当に森に残りたかったのなら、私はそうしたと思う。だけどどう見てもそうには見えなかった。だからまた私は似合わないことをしている。かつての私が欲しかったような存在を、少女にプレゼントするかのように。

 

決して可愛いから連れ回したい訳では無い。だけど独りの寂しさを知っている私は、どうしても少女を独りにする気にはなれなかったのだから――。

 

 

 

 

 

フラグ回収と言うべきなのか、森に入ってすぐに別の個体の安楽少女と出逢うことになった。意気込んだアクア様はすぐに猛ダッシュで駆け寄り《セイクリッド・ブレイクスペル》を使った。

 

「…あ、あれ?」

 

「お姉ちゃん――?私と一緒に居てくれるの――?」

 

この結果に私達は揃って顔を見合わせた。どうやらアクア様の《セイクリッド・ブレイクスペル》は全く効果がないらしい。続いて私が使ってみても何も起こる様子はない。

 

私が出逢った安楽少女とは違うのか、それともこの少女が特別なのか。一体何が違うのか、私にもさっぱりわからない。ただ言えるのは、今目の前に存在する安楽少女には、《セイクリッド・ブレイクスペル》は効かないということ。

 

結局どうする事もできずに、むしろ主に私とアクア様がこの安楽少女に魅了されてしまい抜け出すまでに余計な時間を使うことになってしまった――。

 

 

 

 

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