内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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ありきたりな微鬱展開。そして後半はそんな話をぶち壊す。




episode 117 『アンリ』

 

 

―少女と出逢った森―

 

私とゆんゆんと少女。3人はめぐみんの世話を終えてゆんゆんのテレポートで少女と出逢った森へと飛んでいた。朝という事もあって少し明るめで木々の間から僅かながらの日の光が差し込んでいる。上を見上げればそこまで深い森ではないのだけど、問題は通路沿いになっている横を見た時だった。

木々の間には太い蔓や雑草が所狭しと育っていて、とてもではないがそのまま通る訳にも行かない。服が引っかかって破れたりしてしまいそうだ。

 

とまぁ周囲を見た私の感想はこんなところなんだけど、ゆんゆんの思考は全く別のところにあった。

 

「本当に信じられないわ、まさかカズマさんがめぐみんを襲っただなんて…」

 

「気持ちはよく分かりますがまだカズマ君や他の人の話を聞かない限りはなんとも言えませんね…、大体そんな状況でアクア様やダクネスが大人しくしているとは思えませんし」

 

「それは確かにそうだけど…」

 

私にとって大きな疑問はその点だった。めぐみんと一緒の部屋に寝かせようとめぐみんのお母さんが手引きしたらしいけどそれをダクネスやアクア様は止めなかったのだろうか?どちらも普段はあれな部分があるけどそういうことなら率先してめぐみんの味方をしてくれると思うのだけど。

そんな曖昧な部分があったのでめぐみんには悪いけどカズマ君の件は軽視していたりする。それよりも今は少女の件をなんとかしてあげたい。

 

……勿論、それについても気乗りはしていないのだけど。

 

「……改めて見て…どこか見覚えのあるところはありますか?」

 

『…――この大きな木……』

 

「この木…?でも…これはちょっと…」

 

少女が指差した木…もとい大木。それは木々の中、高々と聳え立つかのように存在し、樹齢何百年か想像つかないくらい大きい。そんな大木が派手に倒れていた。雷か何かに打たれてしまったのだろうか、あるいは木そのものの重さに耐えきれなくなったのか、枝を見れば引き裂かれたようになっている。また、折れた場所を注視して見ればそこは腐りかけていたり苔が生えていたりしていることから、折れてからかなりの年月が経っているだろうと思わされる。

 

『…この木の真横に――…、私の村へと続く道があったの…』

 

「…これはいきなり失敗でしたね、めぐみんを連れてくれば良かったかもしれません…」

 

「確かに爆裂魔法なら何とでもなりそうだけど…」

 

そう思うも後の祭り。今からまたアクセルに飛んでめぐみんを起こして連れてくる訳にもいかないしそうするとゆんゆんのテレポートは3回目になってしまう。テレポートは魔力の消費が非常に大きいらしいのであまりゆんゆんにも、あの状態のめぐみんにも無理をさせたくない。《マナリチャージフィールド》を使えば解決だけど回復するのに地味に時間がかかるのでこれは最終手段にしておきたい。

 

「…でしたら私がやれば済む話ですけど。危ないので離れていてくださいね」

 

とはいえ爆裂魔法に匹敵する威力を出すとなると《フィナウ》を使うしかない。だけど《インパクト》込みでも私の全魔力の半分以上を余裕で持っていく大食い魔法なのでそれはできたら使いたくない。となると次に火力のある魔法で試してみるだけだ。

 

サイドバックからフレアタイトの魔晶石を取り出し、杖に取り付ける。無詠唱での《インパクト》を即座を終わらせる、私が改めて杖を大木に向けて掲げれば、火属性特有の赤い魔法陣が私の腕と足元を駆け巡る。杖の先端のフレアタイトが赤く光り輝く。

 

「……《ヘル・インフェルノ》!!」

 

火属性を帯びた《バースト》。それはマグマの大津波となって森を侵食して行く。だけど私の狙いは大木のみ、全部に当たれば火事不可避だけど私の魔法なら関係ない。ヘル・インフェルノという名前は元のゲームからだけどエリス様の説明を当てはめればこの魔法はこの世界の上級魔法の数倍の威力らしいので偶然にもインフェルノの完全な上位互換になっている。

その効果も改めて見れば凄まじい。大木は灰となって燃え尽きてしまった。何せこれを耐えたことのある敵はあの魔王軍幹部のベルディアしかいないのだから。

 

「…アリスといるとアークプリーストって何?っていつも疑問に思うんだけど」

 

「そこは慣れてくださいとしか言えません…」

 

私がこのように魔法を使う時なんて大抵はゆんゆんが隣にいるのだからいい加減慣れて欲しいものである。ともあれこれで通れるだろう。

灰となって崩れた大木の跡は、確かに道が残っていたようだ。それでも雑草が多いが通れないほど生え茂ってはいない。

 

「…これでなんとか先に進めそうですね……?」

 

そこで気が付く。先程まで私の見える位置にいた少女の姿が消えていたのだから。

 

「あの…アリス…、この子…すごく怖がってるんだけど…」

 

「…あ」

 

少女の存在に気がつけば怯えるようにゆんゆんに隠れて、震える子犬のように私の様子を伺っている。距離が近い上に今の少女は植物モンスター、火は怖かったのかもしれない。とりあえず今後少女の近くで火属性魔法は控えようと思いつつ、私達は灰の被った雑草の上を歩いて進むことにした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

このすば。(『お姉ちゃん――、怖い…』)

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を地図と睨めっこしながらも歩き続けて30分は経っただろうか。視界は悪くなく、元々は道であったからか予想よりも歩きやすかったこともあり、探索は順調に進んでいた。モンスターが襲ってくる事も想定していたけど、どうやらあの大木により塞がれていたのでモンスターすらも通れていなかったようだ、道なりに歩いていて出逢うことはなかった。

 

次第に地図と場所が一致する集落らしき場所、その村の柵の一部を見つければ、少女は強く反応して駆け足で走って行く。

 

「あっ、ちょっと待って!」

 

「…この集落で当たりなのでしょうか…?」

 

疑問に思いながらも私とゆんゆんは少女の後を追うように走る。すると森が開けた場所に出て、建物…だったものが複数見えてきた。

 

…それは此処に来る前に充分予想していた事。

 

――それは少女を含めて、私達もまた覚悟していた事。

 

――だけど、もしかしたら――、そんな想いで辿り着いたその場所は――。

 

 

 

 

 

無惨に破壊された――…、村であった場所――。

 

 

 

 

ボロボロになった看板を見れば、僅かに文字が書いてある。おそらくこの村の名前なのだろう。掠れていてそれは半分程度しか読むことができなかった。そして看板の先には、広々とした空間。

 

洋風の家だったものがいくつか見えるが、どれも今住もうとしても難しいものばかり。瓦礫の山になっていたり、巨大な植物の蔓に支配されていたり、随分と昔に焼かれたのか、半分以上が焼け焦げて炭となった家まである。

 

少女はそんな村の様子を、ただ立ち尽くして見ていた。

 

『――…』

 

「ひどい……」

 

思わず歯噛みしてしまう。少女の今の心境はどんな感じなのか想像もつかない。

まるで浦島太郎だ。数十年前に植物モンスターに襲われて、何故か安楽少女となって、そして現在意識を取り戻した少女は独り……、家も、家族も、友人も…、生きていた上で存在していた身の回りの全てを失ってしまっていた。

 

私は後悔していた。やっぱり連れてくるべきではなかった。こんなこと、知らないままで良かったのではないだろうか。安請け合いした結果が今のこの状況だ。

大体こうなることは充分想定内だったはずだ、少女にしてみればこの場で自殺を計ってもおかしくはない。

 

そんな想いから少女を見れば、私達に背を向けたまま、ずっと頭を上げて、ただ村を見つめていた。

 

『――ここが村の真ん中、ここにね――、村の皆で集まって、みんなでご飯食べたりしてたの――』

 

「……そう、なんだ…」

 

説明を終えた少女は走り出す、どこか急いでいるように見えるけど、その足取りは意外にも軽く見える。そして一件の家だった場所の前で止まれば、その家だったと思われる瓦礫の山を見上げていた。

 

『――ここが…、私の家だった場所――…、お父さんと、お母さんと、弟と一緒に住んでたの――、お父さんはすごく力持ちで、かっこよくて、お母さんは、凄い綺麗で、優しかったの――』

 

…聞くに絶えられなくなってくる。村のこんな状態を見てもなお、少女の声はしっかりしている。丁寧に私達に村を、家族を紹介してくれている。

 

少女の心に、そんな余裕なんて、ないはずなのに――。

 

『――それでね、私の弟はね――、泣き虫でいつも泣いてばかりで――』

 

「もういいですから…無理はしないでください…」

 

結果、少女よりも先にこちらの涙腺がおかしくなる。まともに聞いていられる訳がない。私もゆんゆんも、少女の村の、家族の紹介を一語一句聞けば聞くほど、心に響きすぎていた。

 

そんな私の声を聞いて、少女はその場で座り込んでしまった。その小さな身体は肩の力を抜くとともに小刻みに震えていた。次第に癇癪を起こす、そして片手で溢れ出す涙を拭う。

 

『――どうしよう――、私――、独りぼっちになっちゃった…』

 

『――お父さんにも――、お母さんにも――、もう――逢えないんだ――』

 

『――私――これからどうしたら――……』

 

 

次々と木霊する少女の嘆きは、私達の心にダイレクトにぶつかってくる。だけどすぐには動けなかった。なぐさめたい気持ちは何よりも強かった、それでもすぐには動けなかった。

 

……それだけ今の少女に、なんとも言えない強い感情を抱いたのだから。

 

だから私は――。

 

そっと近付いて、少女の傍に座ってみた。

 

「…アンリちゃん、と呼んでもいいですか?」

 

『――え?』

 

「…アリス、それって…」

 

『アンリ』…それはこの村の入口にあった看板に書いてあった言葉。おそらくこの場所はアンリという名前の村だったのだろう。正しくは『アンリ――』と文字が掠れて完全には読めなかったのだけどこの形なら女の子の名前にも聞こえなくはない、この少女の村が、最後に残していたモノ。

 

「貴女の名前です、もしまだ記憶が戻らないのでしたら…どうかなって思いまして」

 

『――うん、それがいい……、でも…その名前ももう――』

 

この子はこの後になんて言うつもりなのか、まさか『もう必要ない』とでも言うつもりなのだろうか。

だけどそんな悲しいことだけは…、絶対に言わせたくなかった。その気持ちは私もゆんゆんも同じだった。

 

「アンリちゃんは、独りぼっちなんかじゃないよ」

 

「…そうですね、今アンリの目の前には誰もいないのですか?」

 

今の私にはこんなありきたりな事しか言えなかった。だけど今の私のあらゆる感情を込めたつもりだ。

 

だから私はそのまま立ち上がって――、少女に向けて手を伸ばした。

 

「…――私と一緒に……、いきましょう?」

 

生きましょう――、行きましょう――、どちらの意味も込めた言葉だった。出来るだけ笑顔でいたつもりだった。穏やかな表情をしていたつもりだった。だけどどうしても感情が抑えられなくて、私の目からは一筋の涙が流れていた。

 

アンリは戸惑うものの、私の目をじっと見つめていて、やがてゆっくりと手を私の手に近付けて行く。ようやく触れ合った手と手は強く握られて、私はそのままアンリを抱きしめていた。

 

「…もう……私も、いるんだからね…」

 

その上から被さるようにゆんゆんに抱きつかれてしまった。流石にこれは苦しくないかなとアンリを見れば、泣きながら私の胸に顔をうずめていてよく見えないけど、どこか落ち着こうとしているように見えた。

 

……私に似ている。そう思って意識してきたけど、そんなことはなかった。内気な面はあるけど、芯は私なんかよりもずっと強い。こんな状態になって、全てを失ってもなお気丈に振舞っていた、とても強い子。それだけでも心からアンリと一緒にいたいと思えたのだから。

 

これからどうするかなんて何も考えてはいない。だけどそれはアンリを助けない理由にはならない。

 

 

――結局この場所に来た事が本当に良かった事なのかは私には未だにわからない。だけど名前を得ることが出来た。それだけでも…無駄ではなかったと、思えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―紅魔の里―

 

あの後、滅びた村を散策したが結局死体は一つも見つからなかった。もしかしたら村が滅びた際に、住んでいた人達は逃げ出して他の場所で生きているのかもしれない、アンリは密かにそんな希望を胸に秘めていた。

 

もし死体が残っていれば、アンリの為にも丁寧に埋葬してあげようと思っていたが、果たしてこの希望を持つことは正しい事なのだろうか。それすら失った時の絶望は計り知れないだろうし今度こそアンリが壊れてしまいそうだ。

 

だけど私達では真にアンリの拠り所になるのは現状難しい。所詮は昨日出逢ったばかりの間柄、どうしても私達には時間が必要だと思う。だから、その所々の瞬間を大切にして、私はアンリと接したいと思う。

 

……の、だけど。

 

「アリス、ゆんゆん!」

 

紅魔の里の入口に出現するなり声がかかる。この声はミツルギさんだ。だけど慌てている様子、何かあったのだろうか?

 

ミツルギさんは私達の傍まで駆け寄ると息を整えて一呼吸おき、真剣な面持ちのままでいた。その様子は何か大きな事件があったのだろうと思わせるには充分すぎる。

 

「大変なんだ、めぐみんが行方不明らしい!アリス達はめぐみんに出逢わなかったか?」

 

「…あー…」

 

ごめんねめぐみん、完全に忘れてた。…とはいえめぐみんを屋敷に送ってからまだ3時間程度しか経っていない、今頃めぐみんは熟睡状態だろう。カズマ君を心配させる目的でそうしたのだけど話していないからミツルギさんまで心配させてしまっていたらしい、これは予想外だった。

 

とりあえずミツルギさんには話していいだろう。そう思い話そうとしたところで更に人影が見えてきた。

 

「アリス!ゆんゆん!」

 

今回の重要参考人、カズマ君の登場である。後ろにはダクネスとアクア様もいる。どうやらこれで話を聞く事ができそうだ。

 

「帰ってきたところ悪い、めぐみんを見なかったか?」

 

「…めぐみんですか?会っていませんけどどうしました?」

 

とりあえずしらばっくれてみる。ゆんゆんは何も言わず目を逸らしてるし私に合わせてくれるようだ。アンリはカズマ君が来るなり『狼さん!?』と驚いて私の後ろに隠れてしまった。可愛い。

 

「……あの、アリスさん…?めぐみんに会いましたよね…?」

 

「……?」

 

何故かカズマ君の言葉使いが突然敬語になる。どこか気まずそうにこちらの様子を伺っているけどどうしたのか、とりあえず首を傾げておく。

 

「その…アリスさんの俺を見る目がゴミを見る目になってるんですけど、どう見てもめぐみんから話を聞いてるようにしか見えないんですけど」

 

おっと、うっかり顔に出てしまっていたようだ。いけないいけない。とはいえそうなるのも仕方ない話だ。内容が内容なのだから。場合によっては屋敷から出ていく事も視野に入れている。勿論それはカズマ君が完璧な黒であった場合だけど…流石にそこまではないと信じたい。

 

めぐみんの勘違いならそれでいい、誤解を解いて丸く収まればいい。それだけの話。

 

だけどもし……めぐみんの言う通りだとしたら…

 

 

さて、この性犯罪者をどうしてくれようか。今の私はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

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