内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 121 紅魔の里の観光 その1

 

 

 

図書館で得た情報、それはアンリの人間であった時期をも明確にすることができた。

あの歴史書が書かれたのは10年程前、そしてその歴史書には凡そ50年前と書かれていたのでアンリは安楽少女になって60年もの年月が経っていることになる。そうなればアンリの両親はどの道生きている可能性は低い。何故ならこの世界の人間の寿命は日本よりも短いのだから。

このことをアンリに教えるべきなのか、非常に戸惑われる。今のアンリの生きることへの渇望はあまり感じられないのだから、それが原因で生きる希望を無くしてしまいそうで…私には、とてもではないけど話す事はできそうにない。

 

結局どうやってアンリが安楽少女と呼ばれるモンスターになったのか、直接の原因はわからないままだったけど、安楽少女について調べれば調べるほど結果として残るのはなんとも言えない喪失感。やるせなさ。そんなマイナスの感情ばかりが生まれてくるものばかりだった。

 

「アリス…もう…いいんじゃないかな…?アンリちゃんについてはもう充分分かったし…」

 

「……確かに辛いです、心苦しいです…、ですが…」

 

そんな状況に苦悶の表情を見せたゆんゆんの言葉に私も思わず悔しくなる。だけどこれは知的好奇心などではない。私がアンリがモンスターになった原因を知りたい理由はそんなものではない。

もしかしたら、それが判明することでアンリを人間に戻してあげることが出来るかもしれない…そんな、とても淡い、儚い、僅かながらの希望。そんな細い藁にでも掴みかかるようなか細い希望を辿ろうとしている。だけど絶望的な結論が出る可能性が高すぎた、何故なら私の周りには既にモンスターになった人間の前例がいるのだから。

 

一度モンスターになった者が人間に戻れるのなら…、ウィズさんはとっくの昔に人間に戻っているだろうと思うから――。

 

…それでも諦めきれない気持ちも強い。ウィズさんとアンリでは境遇も種族も違うのだから。可能性は低いかもしれない、だけど…

 

私はアンリの心からの笑顔を見たいと…、素直に思っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

―族長の家―

 

時間的にそろそろ戻らないといけないと思った時に首にかけられた懐中時計を確認すれば、時刻は既に正午である12時を過ぎていた、地味にお腹も空いてきていたのもあり、私とゆんゆんはあるえさんに別れを告げるとゆんゆんの実家へ帰ってきた。

さて、ミツルギさんにアンリを預けることになった訳だけど少しは距離が縮まっただろうか?と能天気に考えながら家に入れば、すぐにアンリが飛びついてきた。

 

『…お姉ちゃん良かった…食べられてなかった――…』

 

「…た、食べられる??」

 

ふいに抱きついてきたアンリを落ち着かせようと私はアンリの頭を優しく撫でる。すると心地良さそうに甘えた笑顔になり、理性が崩壊しそうになる。それくらいには可愛すぎた。

 

「…もしかして…昨日のめぐみんの言葉を真に受けて…?」

 

「…あー…、男は狼とか言うやつですね…」

 

「やっと戻ったんだね…おかえり…」

 

リビングに入ったところでゆんゆんと話しているとミツルギさんが奥から疲れた顔つきでやって来た。どうもその様子からは私の作戦は上手くいかなかったのだろう。その証拠にミツルギさんの声が聞こえると同時に私に抱きついたままのアンリの身体がビクッと震えたのを確認できたのだから。

 

「…アンリ、あのお兄さんは狼ではありませんし、アンリのことを食べたりしませんよ?」

 

『…でも――』

 

戸惑うアンリは震えることをやめない。ただミツルギさんを怖がっている。これはどうもめぐみんの教えだけが原因ではないような気がする。

 

「…ミツルギさん、アンリに何かしました?」

 

「いや、何もしてない…、僕はずっとこのリビングにいて、アンリが目を覚ましてここに来たから朝食を勧めたりしたくらいだけど…」

 

うーん、確かに聞く限りでは問題ないように見える。そもそもカズマ君じゃあるまいしミツルギさんか何か嫌われるようなことをするようにも思えない。私としてもミツルギさんにはそれくらい信頼している。カズマ君に信頼?ないですが何か?

 

『…お兄ちゃんの目……』

 

「……え?」

 

相変わらず小刻みに震えているアンリは私のお腹に顔を埋めたまま、ゆっくりと話し始めた。これは本人に聞くのが一番早いことではある、だけどこの震え方は尋常ではない。

 

『……森で――、初めて出逢った時――、お兄ちゃんの目……凄く怖かった――……』

 

「……なるほど」

 

私とゆんゆんとミツルギさん。この3人の何が違うのかと考えれば一番に浮かんだのは性別である。めぐみんの教えも重なって単純に男の人を避けていた様子だったけどそれだけではなかったようだ。

私は初めからアンリをモンスターとして見ていなかった、ゆんゆんは注意しながらも愛護的な視線を送っていた。だけどミツルギさんに関してはそうではなかった、初めから完全にモンスターとして警戒していた、疑っていた。勿論安楽少女への対処法としてそれは間違ってはいない。だけどそんな警戒したモンスターを見る目がアンリにとってミツルギさんの第一印象だ、ましてやこんな幼い子ではその第一印象は余計に大きな恐怖を印象づけてしまう。

 

あぁ、このお兄ちゃんは私の事をそんな風に見る人なんだ、と。

 

「…アンリ、落ち着いてください。ミツルギさんは今も貴女のことをそんな怖い目で見てますか?」

 

『……――』

 

アンリはゆっくりと私から顔を離すと、そのままミツルギさんへと顔を向けた。私から見たミツルギさんの表情は少し困ったような、だけどアンリのことを心配しているような目線。これなら大丈夫じゃないかとアンリを見れば、涙目のアンリはミツルギさんから目を離すことなく戸惑った様子でいた。

 

「ミツルギさん、後は…」

 

「……わかった」

 

ミツルギさんは怖がらせないようにゆっくりとアンリの傍まで近付くと、そのまま中腰姿勢になってアンリの頭をそっと撫でた。そしてミツルギさんの表情は穏やかに笑っていて、アンリも初めは強ばった顔をしていたけど、それは少しずつ和らいでいく。流石イケメン、アイリスや私みたいな幼女を手懐けるのはお手の物である。……いや私は幼女じゃないけど。手懐けられてもないけど。

 

『…あっ――』

 

次第に心地良さそうに撫でられるアンリを見て、これならもう大丈夫だろうと思えて私やゆんゆんにも笑みが零れる。

 

「怖がらせていたなら謝るよ、だけど今は君に対して何かするつもりはない、だから…これからもよろしくね」

 

『…うん――♪』

 

結果だけ見れば簡単に打ち解けられたものの、それはアンリが話してくれない限りは難しいものだった。アンリについてはまだ分からない事が多いけど、こうやって少しずつ知っていけたら。

これからアンリを預かるつもりではあるけど、それはひとつの命を預かるということ。不安と楽しみなのが半々が現状の気持ちではあるけど、こうしてひとつ乗り越えた形を見ていると自然と楽しみな気持ちが勝ってくる。これからアンリは私達の日常にどのような彩りを見せてくれるのか、これからが実に楽しみになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

―紅魔の里・喫茶店?―

 

改めてミツルギさんとアンリと合流したので、私達4人は紅魔の里を歩く。お昼時ではあるのでゆんゆんが学生時代にお世話になっていたらしい喫茶店兼定食屋さんに行こうということになった。このまる2日間、基本的に食事はゆんゆんの家でお世話になっていたけどいつまでもそれでは流石に申し訳ない、当人達はまったく気にしていない様子だけどこちらが気にしてしまうのだ。

 

そんな訳で見えてきたのは意外とお洒落なお店。ログハウスのような外観、そのまま丸大で作られた広めのテラスには木造りのテーブルと切り株のような椅子が備えられている。日本の観光地とかでも見る事のできそうな見た目のお店には個人的にも居心地が良さそうな感じがした。

 

とりあえずまずはお店に入ろうとお店の扉を開けばカウベルの音が鳴り、カウンターの奥から痩せ型の中年男性が姿を現した。

 

「あい、いらっしゃい……ってゆんゆんじゃないか、久しぶりだね」

 

「ど、どうもご無沙汰してます…4人なんですけど大丈夫ですか…?」

 

「あぁ、大丈夫だ、好きな場所に座ってくれ、今メニューを……え?」

 

前掛けを着けたおじさんは慣れた動きでメニューを取りだし…そして固まった。そしてそんな固まった身体を無理やり動かすようにゆんゆんに視線を向けて私達にも目を向ける。そのギクシャクした動きはまるでロボットかなにかのようだ。

 

「…ゆんゆんが……ゆんゆんがついに両親以外の人と一緒に食事に…!?」

 

「そのくだり既に色々な人に散々言われましたから!!もういいですから!!」

 

本当に…この紅魔の里に滞在して何回目になるだろう。そこまでゆんゆんがぼっちじゃない事が珍しいのだろうか。その度にゆんゆんは顔を真っ赤にしてしまうし段々と可哀想に感じてくる。これはさっさと話題を変えるのがゆんゆんの為になりそうだ。

 

「すみません、お水をお願いします。…とりあえず席につきましょうか」

 

「あ、すいやせん、少々お待ちを…初対面ですからまずは名乗りを…我が名は――」

 

私が催促すればおじさんは決めポーズまでして爽快に名乗った挙句、慌てた様子で奥にはいって行った。まさかお店の人まで名乗りをあげてくるとは思わなかったので完全に唖然としてしまった。

 

改めて店内を見渡すとどうやらお昼時なのに私達以外の客はいないようだ。閑散とした店内の様子には少し不安を覚えるものの、角の方の席へと向かう。

 

そうして席に着けばメニューをもらい、目を通す。

 

……そしてゆんゆんを含めた私達全員は同時に大きく首を傾げた。

 

「…『漆黒の溶岩に満たされし咆哮』……?なんですかこれ…?」

 

「…こっちは『怒れる竜による聖なる息吹』…?」

 

「……なんか私が前来た時よりも難解になってる…」

 

他にも『直視の魔眼に貫かれし命』とか『エターナルフォースブリザード』とかあるけどメニューには文字だけなので何がなんだかさっぱりわからない。

 

「漆黒の溶岩はミートシチューだな、怒れる竜はクリームパスタだ」

 

「…何故普通に表記しないのですか…?」

 

「ハッハッハ、里の外の人間らしい質問だな、そんなのカッコイイからに決まっているだろう!」

 

満足そうにそう告げるとおじさんは全員に水のはいったコップを配り、奥のカウンターへと戻っていく。メニューが決まれば呼べということなのだろうか。

 

「…えっとゆんゆん、料理自体は普通のものなのですよね…?」

 

「…う、うん…そのはずだけど…」

 

「それなら今説明を受けたもの以外でそれぞれ好きに頼んでみますか、その方が面白そうですし」

 

特にこのメンバーで大きな好き嫌いは聞かないし多分問題はないだろう。異論はないようでアンリを除く全員が真剣にメニューと睨めっこを始めるのだけど、脈絡のないその名前は全く料理を連想させてくれない。これでハズレがないことを祈るばかりである。

 

『…お姉ちゃん――、私…文字が…』

 

「ふふっ、そうでしたね。では私が読んであげましょうか」

 

『…――♪』

 

アンリが嬉しそうにするのも束の間、やはり料理名は難解すぎてなんの事だかさっぱりわからない。次第に困惑する様子はやっぱり可愛い。

 

『――今の…』

 

「……真紅に染まる清き乙女の血…ですか?…結構冒険しますね…」

 

これは本当になんなんだろう?言ってみればただの血である。なのでトマトジュースなのだろうか、あるいはトマトスープ?

まぁ出てくるものは普通の料理らしいし問題はないかなと私も適当に目を通して選んでみた。

 

「では私は『遥か彼方より来訪し雷』で…」

 

「……私は『大地を揺るがす白き剣閃』かな…」

 

「よく考えたらこれゆんゆんには有利ですよね、紅魔族ですし」

 

「あのねアリス、紅魔族全員が同じ感性を持っている訳じゃないからね?このメニュー以前より難解すぎて私にもさっぱりだからね?以前もさっぱりだったけど!」

 

どこか必死な様子のゆんゆんに苦笑で返す。というよりゆんゆんにわからないなら私達には更にわからないのであり、まぁゲームが成立するならいいやと適当に考えた。

 

「僕は『女神から賜りし約束の聖剣』にするよ、どんな料理かはわからないけど親近感を感じるからね」

 

「ミツルギさんのは魔剣ですけど…まぁ細かい事はいいですか、注文しましょう」

 

それぞれメニューを閉じるとカウンターからこちらの様子を伺っていた店主が歩いてくる。何気にお昼時なのだけど未だ私達以外にお客さんは来ないようでこんなんで商売になるのかと不安になる。勿論味に関しても。

 

店主が注文を聞いてから凡そ15分、少しずつ注文した料理が届いてくる。

 

「まずは『女神から賜りし約束の聖剣』ね」

 

当たり前のようにミツルギさんの前に置かれたその料理は麺料理。白い大きな器に白く太い麺、出汁がきいてそうな薄茶色のスープ、刻まれたネギ、そして大きな油揚げ。

 

つまりは『きつねうどん』である。

 

「…驚いたな、まさかここでうどんを食べられるなんて…」

 

ミツルギさんはどこか懐かしむ様子でそれを見ているけどその気持ちはよく分かる。と言うのもこの世界でカズマ君の屋敷以外で和食が出てくるのは初めて見たかもしれない。

 

「おうどんを知ってるんですか?里の名物なんだけど…」

 

「知ってるも何も僕のいた国の料理だよ、遠く離れた場所にあるから、久しく食べていなかったんだ」

 

思えばこの世界の料理はほとんど私達日本からの転生者にとって馴染みの深い料理が非常に多い。いつも食べているシチューやスープ、サンドイッチなど、アクセルでは洋食主体だったけど王都でもそれは同じ。ピザやパフェなんかもあって食に違和感を感じたことは少ない、その材料には目をつぶるとして。

 

これはどう考えても私達より以前にこの世界に転生した日本人が広めているのだろうと思われる。その考えが一番しっくりくるし、それ以外の考えが浮かばない。

 

「…それなら昔この里に来た旅人さんも、もしかしたらミツルギさんのいた国の人かもしれないですね、この料理やネコミミ神社の御神体はその旅人がもたらしたと言われていますから」

 

「……ネコミミ神社??」

 

「うん、ネコミミ神社は後で案内するから置いとくけど、昔この付近でモンスターに襲われた旅人を紅魔族が助けたことがきっかけで広まったらしいよ。なんでもその人の口癖が…『そんなことよりおうどん食べたい』だったみたいで」

 

「「……」」

 

果たして本当に昔なのだろうか。昔にしてもおそらく10年前後程度のような気もするしまず間違いなく日本からの転生者なのだから。

 

「はい、これはそっちのお嬢ちゃんだね、『真紅に染まる清き乙女の血』だよ」

 

『…わぁ――♪』

 

店主がアンリの前に置いたのは逆三角のグラスに生クリームとイチゴなどが綺麗に飾られた……いちごパフェである。これまた予想外なものが出てきたけどどこがどうなって血になるのだろうか。

 

「…以前うちに来たお客さんが言ってたんだよ、私の血液はいちごパフェでできている!!ってな、それで思いついたんだ」

 

「…果たしてそれは本当に乙女なのでしょうか、私は非常に気になります…」

 

考察していると察したのか店主が説明してくれた。乙女とは一体…うごごご…としか感想が出てこないのだけど。

とりあえずアンリは嬉しそうだしアンリとしては当たりを引けたらしい。その様子に満足していると次に私の目の前に料理が置かれた。

 

「こっちは『遥か彼方より来訪し雷』だね」

 

これまた馴染みのある料理が出てきた。何かのお肉の唐揚げ、それに人参や玉葱、ピーマンが刻まれてあんかけのようにかけられている。

…つまり見た目は酢豚もどき。これもまた転生者が広めた料理なのだろうか。酢の酸味を雷と表現していると考えたらわからなくもない、多分。

 

「そしてゆんゆんのがこれだな、『大地を揺るがす白き剣閃』ね」

 

…私達はゆんゆんの目の前に出された料理?を見て絶句した。どんぶりに入れられた白い粒の山、それは宝石のように輝いていて私の酢豚もどきと共に食べたらさぞ美味しいことだろう。

 

…つまりはこれ。

 

「ライスだ」

 

「納得が行かない!?」

 

なるほど、一見したら意味不明ではあるけど白き剣閃でピンと来た。

 

おそらくライスの事を表現しているというより稲刈りを表現しているのだろう。ご丁寧に漬物も添えられていたが質素すぎるそれに、ゆんゆんはがっくりと項垂れて追加注文をしたのは言うまでもなかった――。

 

 

 




料理名は即興で考えましたオリジナルです。やっぱりオチはゆんゆんだよね♪
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