内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 123 謎施設の探索

―紅魔の里・謎施設―

 

ゆんゆんの案内に従って私達は通称謎施設へと足を運んでみた。流石に日本から直接転移してきた訳では無いと考えるとおそらくは昔この世界に転生した日本人が関与していると考えるのが自然な発想だ。

 

…とはいえいくら私やミツルギさんが元々日本人であっても、所詮はただの学生でしかなかったので工場らしき建物に入って何かを調べようにも限界があるのだけど。

 

それでも一体何故こんな場所にこのような施設があるのか、気になってしまえば知りたくなる。知的好奇心というより興味本位に近い。

 

「…ここって勝手に入ったりしても大丈夫なのです?」

 

「特にそういうのは無いけど…本当に何もないわよ?里の人間が昔から散々調べ尽くしたって聞いてるし…何かを探したいならそれこそ『世界を破壊しかねない兵器』が封印されている施設とか…」

 

「さりげなく物騒なワードを出すのをやめてもらいたいのですが!?」

 

「世界を破壊しかねない…、本当にそんなものが…?……まさか魔王軍が執拗に紅魔の里を攻めているのはそれが目的ではないのか?」

 

「……言われてみれば常に敗走しているのに未だに撤退はしてないんですよね、何か目的があるとすればその可能性が高いですね…」

 

ふとミツルギさんが告げれば、それは納得のできるものだった。聞いた話だと魔王軍が紅魔の里を攻め込むようになってかなり時間が経っている、それも攻める度に魔王軍のボロ負けという結果が常についてきている状況。魔王軍もバカではないだろう、そのような狙いがない限りはとっくに撤収していると思われる。

 

「…そうなればその兵器を封印している施設という場所も把握しておきたいな、この施設を調べた後に行ってみよう」

 

「…ごめんなさいアンリ、こんな場所ばかり回ってては面白くないかもしれませんが…疲れたなら言ってくださいね?」

 

『…ううん、お姉ちゃん達と一緒にいるだけで楽しいよ――あっ』

 

ガバッと。嫌な顔ひとつしないアンリが可愛すぎて思いのまま抱きしめてしまった。さっきも私と同じ服を着たいとか言われて平静を装うのが大変だったしもう無理。

 

「本当にデレッデレだね…、とりあえずまずはこの施設を調べてみようか」

 

「…あ、はい」

 

呆れが混ざった声に過敏に反応してそのまま立ち上がるとアンリと手を繋いでコンクリート製の施設に目を向けてみる。大きな扉は金属製。それが引き戸のようになっていて錆び付いているのか動きが悪そうに見える、少なくとも私やゆんゆんが試してみるがピクリとも動かなそうだ。それでも動かないことはないようでミツルギさんが力任せに押し開く。流石の高レベルソードマスター、その力は聞いた話によると鉄格子をひん曲げるほどらしいし実に頼りになる。見上げる程の大きさの扉はミツルギさんの手により開かれて、ゆっくりと中を明らかにさせてくれた。

 

改めて中を見てみれば整地されたコンクリートの床、木箱などが見えるけど調べた限りでは空っぽのようだ。ただそれらが見えるのは入口付近だけ、光が全く入らない設計なのかその奥を見れば薄暗く何も見えない。

 

そんな周囲の様子を見ていると、突如背後からやってくる風。

 

「…っ!…けほっけほっ…!」

 

「凄い埃だね…これは中を調べるのは大変そうだ…」

 

「…里で調べたのはかなり前で、最近はずっと放置されたままだったから…」

 

入口を開いたことで外の風が施設内部に侵入し、それが原因で中の埃が舞い上がる。これにはむせながらも手で口を塞いでしまう。これでは奥に進むだけでも大変そうだ。それはまるでこの場所を調べる事を拒絶されているかのように、不自然な風は吹き抜けていく。

 

「風の精霊よ、我らの身を守りたまえ!《ウィンド・カーテン》!」

 

ゆんゆんが私達の前に立って唱えた魔法、目には目を、風には風を。それは吹きかかる風を相殺するように展開されて、次第にこちらへ吹く風や埃を感じなくさせてくれた。

 

「助かりましたよゆんゆん、やはりできる女は違いますね」

 

「だからそれやめてってば!?」

 

「なんにせよこれで進む事ができそうだね、ゆんゆん、その魔法を展開したまま動けるかい?」

 

「あ、はい…、そこまで難しい魔法でもないですから大丈夫と思います」

 

《ウィンド・カーテン》は確かウィザードの防御スキル。飛んでくる矢や投擲による攻撃などから身を守ってくれる魔法。私がテイラーさんのパーティにいた頃、リーンが使ったことのあるのを見た事があった。

 

両手を前方に出したまま風の結界を維持して進むゆんゆんに着いていく、そうすれば広々とした空間に出る。コンクリート製の床は相変わらずだけど、仕切りにしてあるように一部の床には長方形の錆びた鉄板のようなものが施設内部のあちこちに並べるように敷かれている。

 

「……これは…パイプ?」

 

錆び付いているそれをミツルギさんが持ち上げれば、その下には段差があって中にパイプが通っている。なるほど、こうして鉄板を敷くことで躓いたりしないようにしているのだろう。もっともその金属製のパイプが何を通しているパイプかまではわからない。

 

「…確かにゆんゆんの言う通り…他に何もなさそうですね…」

 

「だから言ったでしょ?何もないって」

 

どうやら今私達がいるだだっ広いフロア一帯がこの施設の全域らしい。用途不明の機械とかあるかと思っていたのにこの結果は正直がっかりなものだった。

 

何もないならいつまでもこの場に留まる必要はないだろう、なら先程言っていた世界を滅ぼしかねない兵器とやらが封印されているという場所に行ってみようかと、私はそう考えていた。

 

 

『……アリスお姉ちゃん――、…ここ、何かある――』

 

「…え?」

 

私の服の袖を引っ張りながらアンリはもう片方の手で地面を指して言うと、私は指された場所を注視してみる。

 

一見すると先程あったような錆び付いた鉄板。この鉄板はあちらこちらにあるので格段として珍しいものではない、先程ミツルギさんがどけた時にパイプが連なっていることは既に分かっている。ならばわざわざ調べる必要はないのかもしれない。

 

そんな風に考えていると、アンリは私の手を離してその場で錆びた鉄板を持ち上げようとしていた。だけどうんともすんとも動く様子はない。その華奢な身体と細い腕で頑張って持ち上げようとしている姿には思わずほんわりしてしまう。けど錆び付いているとしても素手で触るのは危なっかしい。

 

「あまり触ると手が汚れてしまうよ、僕が変わろう」

 

私が止めようとする前に見かねたミツルギさんがすぐに駆けつけると、錆びた鉄板を軽々と持ち上げてどかせてくれた。そしてその中を見てみればそこはパイプが下へと向かい降りている。更に注視すべきはその端に昇降用の簡易的な梯子が備え付けられていたこと。

 

「こんなところに梯子が…?ゆんゆん、これについては何か知っているのか?」

 

「……ごめんなさい、ちょっとわからないです。私個人が調べた訳では無いので…」

 

「…どうやら下にいけるみたいですね…」

 

下を見れば真っ暗で何も見えそうにない。一体何が隠されているのか、そう思えば私は自然と喉を鳴らした。ゆんゆんやミツルギさんにしてもその気持ちは同じのようで、どことなく緊張感が伝わってくる。

ただパイプが下へ向いているので単純に下水道のようなものの可能性もある。他には何もなさそうだしそれならそれですぐ戻ればいいだけだ。

 

「それにしてもよく分かりましたね、アンリ」

 

『…私もよくわからない――、けど…、なんとなくこの場所に何かがあるような気がして――…』

 

アンリについてはまだまだ分からない事が多い。だけどカズマ君よりも精度の高い敵感知、そしてこの広いフロアで一発で発見した隠された梯子。

もしかしたらアンリにはそういったスキルが備わっているかもしれない。いっそ冒険者登録をさせてみれば冒険者カードを発行できるのでそういった内容も分かるだろう。種族を誤魔化す必要があるけどその辺は後日また考えてみよう。

 

「僕が先導しよう、灯りになるものがあればいいんだが…」

 

「…ミツルギさん、梯子の横に見覚えのあるものが…」

 

「…え?」

 

コンクリート製という明らかにこの世界では見慣れない建物故に、自然な形でそれは存在していた。私の指したそれを見たミツルギさんもそれの存在に気付くなり触れようとする手が少しながら震えている。

 

ミツルギさんが梯子の横に備えられたスイッチを押せば、梯子の周りに設置されていた電灯がぼんやりと光を灯す。電線などは見えないので魔導具の要領で造られたものだと思われる。

 

「…これなら問題なく降りられそうだね…」

 

ゆっくりと梯子に手をかけると、片足を降ろして梯子の耐久度を確認する。今いる4人の中で1番重いのは鎧を着てることもありダントツでミツルギさんだろう。ミツルギさんが問題なく梯子を降りることができるなら、私達も大丈夫という事になる。ただミツルギさんが進んでかって出るから何も言わないが、危険度が高いことに変わりはないので申し訳なさがある。

 

梯子は丈夫な造りのようで、ミツルギさんが両脚を置いても問題はなさそうだ。ミツルギさんが降りきったところでゆんゆんがおそるおそる続き、次に私が降り、アンリもそれに続く。

 

降りてみれば結果として見えたのはおそらく水路だったであろう場所。水は完全に涸れていてただの通路のようになっていた。もっとも水が流れていたかどうかもわからないが。そんな水路の端側に歩けるスペースがあり、梯子から降りたすぐ傍には金属製の扉がある。

 

「…他には何もありませんし、この扉だけですね…」

 

「…これって……扉…なの?」

 

金属製と一言で表現はしたがその扉は中央で開閉する仕組みになっているようで、まるでSF映画に出てくるような近未来的なもの。日本どころの話ではない、日本でもこんな扉は一般的ではない。

 

扉の横を見れば小さな押しボタンがある。パスワード設定が施されたテンキーなどがあったら完全に詰みではあったがこれを押せば扉が開くのだろうか。こういった扉だとイメージ的にはそういったものを想像させられるのだけど。

 

ゆっくりと押しボタンを押せば、先程の照明と同じく動力は生きていたようで、プシューという空気音が聞こえて扉は開かれた。

 

「…これは…」

 

「……休憩する為の部屋か何かでしょうか?」

 

その光景に私達は静かに驚いていた。かなりの年月が経っているはずなのにその部屋は今すぐにでも住めるような清潔さを感じさせる。コンクリート製の床や壁、天井は上の階と変わらないが中のテーブル、パイプ椅子、棚、ベッド。8畳ほどの広くはない部屋にはそれらが無駄のないように置かれていた。

 

「…気になるものはこれくらいですか…」

 

「…それは?」

 

テーブルの上には、一冊の小さな本がある。サイズは葉書サイズくらいでそこそこ分厚い。本というよりは手帳、無造作に置かれたそれに、私は引き寄せられるように手に取ってページを捲ってみた。

 

どうやらこの施設の人間が書いた日記のようなものなのかもしれない。筆跡はおそらく女性と思われる。綺麗な字で丁寧に書かれていた。

 

最後の方のページに目を通せば、気になる文章を見つけることができた。

 

 

 

 

 

――やはりあの男は天才なのだろう。

 

たまにチートやらニホンやら意味不明な言葉を使うことがあるものの、それは認めなければならない。結果が証明しているからだ。

 

現在格納庫に保管されている魔術師殺し、それすら破壊することのできるレールガンと名付けられた新たなる兵器、そして魔法のエキスパートとなる改造人間の量産化の実現。

 

改造人間については疑問に残る事柄も多い、ナンバーによる管理はまだ理解ができるが…、何故効果も何もないのに瞳を赤くしたのか。おかげで余計な出費になってしまった。上からあれこれ言われるのは私だと言うのに。

 

そんな改造人間だが、その赤い瞳から『紅魔族』と名乗らせるようにしたらしい。不安しかなかったが、実際に彼らは誰もが強い魔法適正を持ち、強大な魔法を使ってのけた。この力さえあれば魔王軍にも対抗できるかもしれない。

 

その『紅魔族』はまだ良い、問題はあの魔術師殺しだ。まるで巨大な蛇のようなデザイン。あれをどうやって使うつもりなのか私には理解ができない。その名に相応しく魔法耐性は完璧な装甲をしているのだからいっそ分解して防具にでもした方がいいと思うのだが。

 

そしてせっかく作った魔術師殺しを破壊可能なレールガンとやらの存在。この二つの存在の理由がさっぱり理解できない。

 

せっかく魔法のエキスパート集団を作ったのに味方側がそれの対抗手段を造り、更にその魔術師殺しの対抗手段まで作っているのか、完全にイタチごっこでしかない上に予算の無駄遣いがすぎる。この件に関してはあの男にしっかり文句を言った方がいいだろう。今は魔王軍への新たな対抗手段として機動要塞の設計にかかっているらしいが、果たしてどうなることか。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

私はそれを読み終えると、手帳を開いたまま固まってしまった。これは果たして私が読んでもいいものだったのだろうか。

私が読んで震えた箇所はもちろん紅魔族のくだり。魔王軍に対抗する為の改造人間。それが紅魔族、そしてその末裔がゆんゆんやめぐみん。

 

「…あ、あの…アリス……それは……」

 

ゆんゆんはただ力無く俯いている、その顔色はあまり良くない。

 

それもそうだろう、自分の先祖が、自分の種族が魔王軍と戦う為に作られた改造人間。それは非常に衝撃的すぎた。

見ればアニメや漫画でよく聞くような設定かもしれない、だが現実に自分の親友がそんな状態だったとした時に、私はなんて声をかけたらいいのだろう。

 

わからない。言葉がみつからない。そもそも人間を改造するなんてSFチックなことが何故できるのか、それも大昔に。解明されたと思っていたら逆に謎が深まってしまった。

 

「……その…できたらその事は……内緒にしておいてくれると…」

 

「…その言い方…ゆんゆんはこの事を知っていたのか?」

 

非常に気まずそうにしているゆんゆんにミツルギさんが問いかける。知っていたとすれば、何故ゆんゆんはこんなに落ち着かない様子でいるのだろう。

 

「その…その事は里の皆が知っています…、学校の歴史の授業で一番に習うことなので…」

 

「えぇ……」

 

「だけど同時に里の外の人間には絶対に口外してはならないという掟があるんです、ですからミツルギさんもどうか聞かなかった事に…」

 

慌てるゆんゆんに私は疑問を持った。口外してはいけない理由はなんとなく察しがつく。それを聞いた時にどんな目で見られるかわかったものではない、…もとい色々とあれなので異色な目では既に見られているけど。国が聞けばその技術を探ろうとするかもしれない、魔王軍との戦いの前線に立たせることを強要するかもしれない、そうなればこんな辺鄙な場所で長閑に過ごす事などできないだろう。

 

……そう思っていたのだけど。

 

「…それは構わないが…口外してはならないなら何故里の皆に教えるんだ?知らなくてもいい事だと思うんだが…」

 

「…それは…その…、単純にそれがかっこいいから、それをあえて秘密にすることでカッコ良さが増すと考えたみたいで…だけどそんなかっこいい事、どうしても話したいから里の人には話しているみたいです…、実際に学校の先生がこの事を話す時はどんな授業よりも活き活きとしていましたし…聞いてた生徒達もそれを聞いてめちゃくちゃテンションあがってましたし…」

 

…どうやら紅魔族的には何よりもカッコ良さを最重要視してしまうらしい。まず私がこの手記を読んで得たなんとも言えない気持ちをどうしたらいいのだろうか。なにより思うのはやっぱりゆんゆんも紅魔族なんだなって、その恥ずかしげに見えて誇りに思っていそうな様子を見ていれば、そう思わざるを得ない。

 

「お、お願いですから誰にも言わないでくださいね!?絶対ですよ!アリスも!アンリちゃんも!」

 

結果、私とミツルギさんは2人揃って盛大に溜息をついた。ゆんゆんは必死に懇願し続けて、そんな様子をアンリは訳が分からず不思議そうに眺めているのだった――。

 

 

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