内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 126 ドタバタ温泉パニック再び

 

―紅魔の里・温泉―

 

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

「待て!落ち着けアリス!!それ当たったら確実に死ぬからな!!俺が!!」

 

近くにそう都合よく風呂桶など投げるものがあるはずもなく、私は目を逸らして目を瞑り、私の前にいるであろうカズマ君に向けて無我夢中で《アロー》の魔法を放った。魔法陣から射出される魔法の矢は一発ずつカズマ君に向けて放たれた…と思う。目を瞑っているので当たっているかはわからない。

 

「とりあえず聞け!!俺はお湯に浸かったまま後ろを向くから!!」

 

カズマ君はそう言うと同時に岩陰に隠れるように身を潜めていた。というよりアローを回避していてそこに行き着いた感じだろうか。アローは追尾性のある魔法なのによく避けられたなとも思ったけどそう思えるくらいには落ち着けたことを自覚すると、私は手に込めていた魔力を押さえ込んだ。

 

「…やっと落ち着いたか、いいかよく聞けよ?言っとくけど今回の被害者は完全に俺だからな?お前が入るより前にこの温泉にはいっていたんだからな!」

 

「…いや、そもそも何故女湯に…?」

 

「この温泉は混浴しかないんだよ!だから俺は入っていたんだけど誰もいないから誰か来るか待ってたらそのまま寝ちゃってたんだよ!」

 

ま た 混 浴 か 。

 

もうそのネタは個人的に懲り懲りなのだけど。割と本気で勘弁して頂きたいのだけど。

不幸中の幸いなのはこの温泉がにごり湯だということか、それのおかげで全身くまなく見られてしまうという最悪の事態は避けることができた。それもまた落ち着けた理由の一つである。

 

…色々と納得いかない部分もあるが確かにカズマ君の言う事は正しい。カズマ君は最初から混浴と分かって入っていたのをこちらが責めることはできない、軽蔑することは容易いけど。

だけどこの温泉が混浴ということは、入ってくる人はそれに同意した上で入っているということになるのだから。カズマ君からしてみれば私がそんなことを知らなかったとしてもそこに関してはカズマ君は悪くないのだ。

 

何故ゆんゆんはその事を教えてくれなかったのだろうか。疑問は残るが少し落ち着けば同時に気まずくなる。あの時のことを思い出してしまう。

 

「…なぁアリス、このままの状態でいいから少し話せるか…?」

 

「……」

 

何故この人はこんな状況で落ち着いて話そうとしているのだろうか。話がしたいのなら後で温泉から出た後でもできる。私のことを少しでも配慮してくれるのならカズマ君が温泉から出ていってもらいたいのだけど。…ただそれを私から言うのは違う気がする。あくまでこの温泉は混浴で、更に私は後から入った身なのでそれで出ていけと言うのはいくらなんでも横暴すぎる。

なら私が出ればいいとも思うけどそれもきびしい、今の私は身体に巻いていたタオルを取り払って隅に置いているのだ。にごり湯でタオルごと浸かるのも抵抗があったし、誰もいないし見えないならいいかと外していた。つまり今の私は完全に一糸まとわぬ状態である。ここであがろうとすれば数秒はその姿を晒すことになる、そんな危険なことは絶対にしたくない。

 

「…その……悪かったよ、本当にごめん」

 

「……一体何に対して謝っているのですか?心当たりが多くてわからないのですが」

 

「うぐ…」

 

違うそうじゃない。こんな状況で落ち着いた対応ができる訳がないのは仕方ないのかもしれないけど少なくとも今の私はカズマ君のことを怒ってはいない、むしろ完全に言い過ぎたと思っている。

だからここで言うのはそんなことじゃなくて『私の方こそ言いすぎましたごめんなさい』であるべきなのだ、それで丸く収まるはずなのに、その言葉が出てこない。

 

「…まずはミッツさんの名前を語ったこと…名乗った時はそこまで深く考えてなかったし、アリス達に言われて理解したよ。危険を仲間に押し付けるなんて最低だと思うし、あれは確かにどんなに怒られても仕方ないなって」

 

「……」

 

それを聞いて私の肩の力は少し抜けていた。良かった、カズマ君は私に対して怒った訳じゃなかったんだ。ならこれに返す答えは簡単だ。『いいえ、私の方こそごめんなさい、言い過ぎました』だ。それで先程までのわだかまりが消えて仲直りできる。

 

「…まずは、と言うからには他にもあるのですか?」

 

「…えっ、あ、いやその…」

 

 

私のバカーー!?何真面目ぶって掘り起こそうとしているの、これ完全に嫌な女でしかないような気がするんだけど。カズマ君めちゃくちゃ気まずそうな反応してるし。

わからない、何故私はここまで素直になれないのだろう。それとも私はどこかでまだ納得できないと思っているからこそこんな風に言っているのだろうか。

 

「…後は…めぐみんの家の件かな…巻き込んで悪かったよ」

 

「……あの時のですか…」

 

「…なぁ、あの時のアリス達に何があったんだ?今思い出すとめぐみんがいなくなってアリス達を頼ろうと会った時にやけに思い詰めた様子だったけど…」

 

「……」

 

めぐみんがいなくなって探してたカズマ君達と会ったあの日。私とゆんゆんとアンリはアンリの故郷だった村を探して、そして帰ってきたところだった。

思い出すと少し憂鬱になるが、アンリの件についてはミツルギさんにしか話していない。めぐみんの件もあって話せなかったが正しい。

 

「…アンリの希望で、アンリの人間だった頃の村を探していたのです、…カズマ君達に会った時はちょうどその帰りでした」

 

「…それって…」

 

何かを察したのか、カズマ君の声は小さくなっていた。おそらくあの時の私達の様子が結果を物語っていると把握したのだろう。

 

「…それから調べてわかったのは…アンリの故郷は数十年前に既に滅んでいました。アンリという名前は村の名前の一部からとりました。アンリには……既に帰る場所はなくなっていました、安楽少女が確認されたのは60年ほど昔らしいですから…おそらくアンリの家族は既に…」

 

「……悪い」

 

思い出すと涙声になってしまっていた。今になってここまでアンリに親近感がもてるのは多分…、私もまた、二度と両親と出会う事ができない存在だから。それを思い出したからだと思う。

 

私は最低だ。結局アンリの事を思って悲しんでいたというよりも、アンリを自分と照らし合わせて悲しんでいたんだと思うから。ずっとずっと私に残っていたわだかまりは、きっとこれだったんだと思えば、私は悲しさと情けなさで涙が止まらなくなっていた。私の場合、自分から逃げ出したんだから、自殺という道を選んでしまった私に、両親と会いたいなどと思う資格なんてないのだから。

だけどアンリは違う、不慮の事故で襲われて、過程は未だに謎だけど望んでもいないのにモンスターとなっていた。ただ逃げ出した私なんかと比べるのはアンリに失礼すぎた。

 

「……私はカズマ君に八つ当たりしていたんですよ、アンリと自分を重ねて、私もまた両親には…二度と会うことができないですから…それで…どうしようもない気持ちになって…」

 

「……本当にすまん、そんな心境だったのに俺達はいつもの調子でアリスに頼ったりしてたんだな…」

 

「……私こそ本当にごめんなさい…、この里に来て、ゆんゆんやめぐみんの両親と会ったりして、それがすごく羨ましくて…色々重なって…醜く嫉妬して……結果的にカズマ君に酷いことを言っちゃいまして…」

 

言いながら自分の本当の気持ちを再認識していた。ここに来てずっと感じていたモヤモヤは多分これなんだろう。それを自覚すると、余計に申し訳なさが増してくる。カズマ君に対しても、ゆんゆんやミツルギさんに対しても。

 

「……それを言ったら俺だって、多分ミッツさんだってそうだろ、…日本に両親を残して今この世界にいる」

 

「……っ」

 

それは少し考えたら気付く事だった、何もこの世界に日本から転生してきたのは私だけじゃない。分かってはいたことなのに、自分だけが悲劇のヒロインみたくなっている状態には恥ずかしくもあり、心にぐさりと刺さるものがある。カズマ君の声のトーンはいつものふざけたようなものではない。真剣に私の話を聞いてくれていた。正直そのギャップはずるいと思う。どこか頼りがいを感じて、親身になってくれているように聞こえる声が私にそんな感想を抱かせていた。

 

「自分を産んで育ててくれた両親だ、そりゃ簡単には忘れられないさ、だからその気持ちはよくわかる。…でもな、俺はアリスほど悲観してはいない」

 

「……どうしてですか?」

 

「…ちょっと臭い事言うけどな、そりゃお前らがいるからな。アクアにダクネスにめぐみん。アリスにゆんゆん、シェアハウスみたいな感じで一緒の屋敷に住んでるけどさ、俺はお前らのことを家族みたいに思ってる、だからそこまで思ってはいない」

 

「……」

 

聞いていればありきたりな台詞だった。実際どこかで聞いた事があるような響きだ。…だけどそれを聞いて思い出したのは、私自身の誕生日に集まってくれた人々の、友人達の顔ぶれ。

私の為にあそこまで多くの人が集まってくれた、確かに今この世界には私の両親はいないけど、私の事を友人として、親友として、家族として接してくれる人達が大勢いる。

 

「……本当に臭い事言いますね…」

 

「わ、悪かったな!臭いうえにありきたりな事しか言えなくて!」

 

「……ですが私も単純なのでしょう。私もまた周囲をよく見ていなかったのかもしれませんね」

 

なんだか恥ずかしくなって口元まで湯船に浸かり、できる限り表情を隠すようにしてしまう。誰も見ていないから無意味なことなのだけどそうせずにはいられなかった。そしてそこで思い出す。今私とカズマ君は、同じ温泉にすぐ近くの位置で、お互い全裸で話をしている。

 

いやいや私は何をしているのだろう。冷静になるととんでもない状況なんだけど。

 

「…あ、あの、混浴と知らずに入った私が悪いのでこんなことを言うのもどうかと思うのですがそろそろ出てくれるとありがたいのですが…」

 

「…あ、ああ、そうだな。気が利かなくて悪い」

 

ザバッと勢いよく音が聞こえてくれば、私は同時に出入口から顔ごと視線を逸らした。そして慌てて出ていこうとするカズマ君の背中をこっそりと見て、聞こえないように呟いた。

 

「……ありがとうございます、カズマ君」

 

 

 

 

 

そう呟いた直後だった。

 

 

 

カーン――、カーン――

 

 

『魔王軍急襲警報――、魔王軍急襲警報――』

 

この里に来て初めて聞く警報のアナウンス。これには思わずその場で立ち上がった。紅魔族が強いのは分かっているけど今や時間的に人々は眠りに入る時間帯だ、出撃に遅れが出てしまう可能性もあるしそうなるとなんらかの被害が出てしまう可能性もある。

 

とりあえず私もすぐに出るべきだろう。こんなことがあった後なのに、私の身体はまるで背中に羽根が生えたように軽くなったような気がした。きっと心のわだかまりが取れたからだろう。

 

そうだ、これから私はアンリの面倒を見なくちゃいけないんだから、いつまでもくよくよしていても仕方ない。これからはアンリの姉のような形になってあげたいと思っているのだから、そんな私がいつまでもアンリに情けない姿を見せる訳にはいかないのだ。

 

決意は既に固めた。そして私が温泉から出ようとしたその時――。

 

 

「アリス!大変だ、魔王軍がきたらしいぞ!いつまでも温泉にはいってる……場合じゃ…………あ」

 

「…………」

 

何故かカズマ君が服も着ていないまま浴場の扉を開けた。一方私はちょうど温泉から出たところ。当然身体にタオルを巻いてはいない、つまり隠すものはなにもない。冷静になれば私の長い髪や湯けむりが見えにくくしているかもしれないがそんなことは私にとって何も慰めにもならない。

 

 

「……そ、その…綺麗ですよ」

 

 

「そんなこと言う前にさっさと出ていってください!!」

 

勢いだけで左手に魔力が集まって、魔法陣を形成する。透明な大きな矢が精製されて行く。

 

「待てアリス!?それは絶対に俺が死ぬやつ……ギャァァ!?」

 

右腕で胸部を隠して左手は詠唱からのジャベリンを放つ。流石にさっきの話のくだりで私が混浴だと知らずにこの場にいるのは知っているのだから2度目は許されない。

 

「……あ…、カズマ君!?」

 

……とはいえ流石にやりすぎだ。いくら杖も属性付与もなく素手で放ったとはいえジャベリンは立派な攻撃魔法。私は我に帰るなり撃ったことを後悔していた。

カズマ君は変な叫び声をあげていたものの、持ち前の幸運のおかげなのか直撃は間逃れていたようだ。その場でヤ〇チャのように倒れていた。しかも腰にタオルを巻いただけの状態で。近付いて確認すれば呼吸はしているようだ。

 

とりあえず無事のようで私は安堵の溜息をついてヒールを試みようとするも気が付く。今の私は変わらず全裸である。このまま回復して目を覚めたらよりとんでもないことになってしまうのではないだろうか。これでは歴史は繰り返すどころではすまない。こんな至近距離でみられようものなら何をしてしまうか私ですらわからない。

とりあえず服を着た後でヒールすればいいかと、私は女性用の脱衣場へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このすば。(「温泉恐怖症になりそうです…」)

 

 

 

 

 

 

 

―紅魔の里―

 

服を着終わってからカズマ君の元へ行き、ヒールをかけて無事なことを確認するとカズマ君が意識を取り戻すと同時に私は脱衣場を後にして温泉の入口に立っていた。髪は完全に乾いていないのでとりあえずポニーテールにしていた。髪を乾かす為だけに初級風魔法であるウインド・ブレスを覚えようか迷ったけどスキルポイントに余裕はないのでやめておいた。

 

遠くから魔法による爆撃音が聞こえてくる。おそらくいつものように紅魔族の圧勝なのだろう。これならわざわざ慌てて出てくることもなかったかもしれないと少し楽観的になるが呑気に温泉に入っているところに入ってこられても困る、例えそれが下級悪魔だったとしても。

 

そんなことを考えていたら服を着たカズマ君が気まずそうに脱衣場から出てきた。気まずそうな様子以外は問題なさそうだ、ヒールでしっかり回復してくれたらしい。

 

「……ま、待たせたな?」

 

「……慌てるまでもなかったかもしれませんけどね」

 

もしかしたら見られたかもしれない。そう思うとカズマ君と顔を合わせづらい。そんな気持ちから私はそっと目線を逸らしていた。

 

「そ、その……悪かったって、せっかく仲直りできたんだし、できたら機嫌を直してほしいんだけど?」

 

「……はぁ…もういいですよ。私もやりすぎたと思いますし…。…一応その辺を見回ってから帰りましょうか」

 

「お、おう」

 

見る限り故意ではなさそうだしこれ以上私が不機嫌でいても仕方ない。そんな想いから諦めたように溜息をついてしまう。

見回りはあくまで念の為。私としてはさっさと終わらせてからすぐにゆんゆんに温泉の件を問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。

こうして見れば結果オーライなところもある。一応はカズマ君と仲直りできた訳だけど一緒に温泉にはいるなんてことは流石に二度と勘弁して頂きたい。私が羞恥心で死にかねない。

 

 

 

 

それぞれの方向は把握しているので遠回りするように探索してみる。もしかしたら魔王軍がいるかもしれないと気を張って歩いているけど、とくに気配は感じない。もっともカズマ君には敵感知スキルがあるので、私が気を張るだけあまり意味はないのだけど。

 

「「……」」

 

では何故気を張って見回しているかと言うと、会話が特にないから。

なんだろうこの気まずさは。せっかく仲直りしたというのに元に戻ってしまったような感じがする。

だけど私は既に何も怒ってない。だから私からなんらかの話題を振ってもいいのだけど私と目が合うとカズマ君は即目線を逸らしてしまうのでまともに話を振れない。

 

「……何故私と目が会うとそんなに必死に逸らすのです?」

 

「…えっ!?いやその……」

 

静寂に耐えられなくなった私が聞けばカズマ君は急にあたふたしだした。本当に謎だ。これには思わず首を傾げてしまう。

 

すると目を逸らしたままカズマ君は照れくさそうに頬を掻いていた。

 

「その…髪型がいつもと違うから…いつもより大人っぽく見えてさ…」

 

「…そ、そうですか?」

 

私としては地味に時間がかかるので適当にヘアゴムで纏めただけの簡単ポニーテールでしかないのだけど。そのまま降ろしているには長すぎるしそろそろ切った方がいいかもしれない、なんて割とどうでもいい事を考えていた。

 

「ポニーテールならダクネスがいつもしてるではないですか」

 

「そりゃまぁそうだけど…、アリスの場合湯上りなのもあって妙に色っぽく見えるって言うか…」

 

「……カズマ君ってもしかして…」

 

「…な、なんだよ?」

 

思わず後退りしてしまう。そういえばそうだった。彼はつい最近仲間の中で一番幼い子であるめぐみんに未遂とはいえ襲いかかるという犯罪めいた事をしでかしてしまっているではないか。私も見た目は幼い部類だと自覚してるのでこれは危ない。アンリを近づけないようにしないと。

 

「…あぁそうでした、ロリコンでしたね、お願いしますからアンリには近づかないようにしてくださいね」

 

「ちげーよ!!そんなんじゃねーよ!?」

 

「必死になって否定してると余計にそうとしか見えませんけど」

 

「違うんだから必死に否定するのは当たり前だろ!?」

 

「…とかなんとか言って寝ているめぐみんを見て割と本気で可愛いとか思ったのでは?」

 

「なんで知ってんだ……いや違うからな?そんなことないからな!?」

 

はいどう見てもロリコンです、本当にありがとうございます。そう思いながらもカズマ君と距離をとった。まぁこんなくだらない雑談をしながら歩いているけど特に里には問題なさそうだ。魔法による攻撃音も聞こえなくなってきたしこのまま帰っても大丈夫だろう。

 

 

そう思った瞬間、カズマ君の様子が変わった。

 

 

 

「…アリス、敵感知に反応あった、このまま歩いてるとかち合うぞ!」

 

「…っ!」

 

敵感知云々の問題ではない。それを意識すれば私に敵感知スキルがなくても感じ取れた。それは今から出逢う相手がそれだけ強いと思わせる。私は瞬時にカズマ君に補助魔法をかける。戦闘を前にそれは常にやるのでその動作は手馴れたもの。無意識にするようになっている。

カズマ君もまた、手にはちゅんちゅん丸を抜き、片手で持って相手を待ち構える。

 

「……あら?」

 

出てきたのは初めて見る顔だ。夜故に暗くて色合いは分かりにくいけど大柄な女性。躍動的な上半身にロングスカート。だけどその様子は傷だらけだ。後ろには部下らしき下級悪魔がボロボロの状態ではあるが2人ほど着いてきていた。

 

「よりによってまたあんたに逢うなんてね…、それにあの時とは違う女を連れているなんて、人間から見たら貴方もイケメンの部類なのかしら?ねぇ、ミツルギ」

 

間違いない。魔王軍の幹部シルビアなのだろう。カズマ君の事をミツルギと呼んでいる辺りは話に聞いた通りだから特に驚きはない。

 

それ以上に私には、シルビアに対して一方的な因縁がある。王都での変異種モンスターによる冒険者10名以上の犠牲を出したあの事件の元凶、格段仲が良かった訳では無いがまったく知らない人でもなかった人達。名前も知らないけど、それでも冒険者ギルドに見かけたら気さくに挨拶してくれた人もいた。…そんな人達の仇が今目の前にいる。

 

弱点属性がわからない以上、無難に光属性を宿したコロナタイトの魔晶石を杖にセットしておく。

 

さぁ、これでいつでも戦える。恐怖がないかと聞かれたら嘘になる。今いるのはカズマ君と私の二人だけ。ミツルギさんもゆんゆんもいない、だけど…

 

それ以上に、このヒトだけは許せないという気持ちが――、私の気持ちを昂らせていた――。

 

 

 

 

 


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