「あ、あの…初心者殺しなんて…本当に大丈夫なんですか…?私たち2人だけですよね…?前衛さんがいないんですよ…?私も前衛ができないわけではないですけど…その、流石に初心者殺しほどの相手は……。」
今私とゆんゆんはクエストを受けてアクセルの街から少し離れた平原にいる。ゆんゆんが言うように初心者殺しの討伐依頼を受けたのだ。
初心者殺しは以前言ったように発見されると即討伐依頼がでてくるほどの危険な魔物。危険なこともあり報酬はそこそこに美味しい。
アクセルには私やテイラー以外にも何人か上級職の人がいる。多分比率からして20人冒険者がいたら1人くらいは上級職な割合で。しかも中にはレベル30越えの猛者もいるのだ。しかも何故か男性ばかり。
流石に30レベルを越えるとなるとアクセルではまともにやっていくのも難しい。平均依頼難易度がもっとも高いという王都で普通にやっていけるレベルだ。ちなみにこれをリーンに聞いたら知らないと平然と言われて、テイラーやダストに聞いたらわからないと言っていたが目が泳いでいたのを私は見逃さなかった。うちのパーティの男連中のあの反応の仕方はロクなことではないのはここ2ヶ月一緒に活動して身をもって理解している。明らかに何かを隠してる気がするのでいつか問い詰めようと思っていたりもする。
話は逸れたけどそんな一部の高レベル冒険者がいるから初心者殺しの討伐依頼は取り合いになっていたりする。高レベル冒険者が請け負える数少ないクエストの一つなのだから。
今回は幸運だった。私とゆんゆんでどの依頼にするか探していたらギルド職員が新たな依頼として初心者殺しの討伐依頼の紙を貼っていたのだ。
私はそれを見るなり迷わずその依頼を手に取ってゆんゆんに確認することもなく受付に持っていった。
受付してて討伐依頼書を見たゆんゆんが悲鳴に似た声をあげるが、私も受付のルナさんでさえも気にしない様子であっさり受理されたのを見てゆんゆんは思わず「なんで!?」と声をあげていた。
多分ゆんゆんは後衛職2人だけで初心者殺し討伐なんてギルド側が危険と判断して受理するわけがないと思ったのだろう。だけど私には既に実績があった。既にリーンと、ダストと、テイラーと、キースと、それぞれペアで4回以上はこの初心者殺し討伐依頼を達成している。おかげで一部の冒険者からは『初心者殺し殺し』なんてかっこ悪いあだ名をつけられてしまってたりするけど報酬がおいしいので頻繁に討伐したことでダストがリーンにお金を借りる頻度が減ってなによりである。
そして今回の私のペアはゆんゆん、上級職のアークウィザードだ。下位職の人とやっても達成できるのだからルナさんが危険と判断する理由はどこにもなかった。
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早速討伐対象である初心者殺しがみつかる。これまた運がいいことに野生動物の兎を追いかけている最中のようだ。こちらに気付いていない今がチャンスと悟った私はゆんゆんに目配せした。
「わ、わかりました…!ライトニング!」
ゆんゆんの中級雷魔法が真っ直ぐに初心者殺しを撃ち抜く。思い切りのいいその魔法には討伐というよりもむしろ追いかけられていた兎を助けたいという感情が混ざっている感じがした。だけど中級魔法の一撃だけで倒されるほど初心者殺しはあまくない。こちらを見て威嚇する。そして突撃してくる。
「さ、下がってください…!怖いけど…前衛やってみます…!アリスさんは援護を…!」
腰に携えていた短剣を抜き、構えるゆんゆんを後目に私はそのまま魔法を詠唱してほしいと告げた。私の詠唱は既に終わっている。
《ウォール》
これはもはや初心者殺しの完全対策魔法になりつつあった。この魔法と遠距離攻撃が可能ならそれだけで初心者殺しを倒せるのだから。
私を中心として足元に形成された魔法陣は、いつものように不可視の壁を作り出す。そしていつものように猪突猛進してくる初心者殺しを弾き飛ばす。
「え、えぇ!?」
ゆんゆんは驚きで固まっていた。ウォールの維持時間はそんなに長くないから正直さっさと攻撃してほしいのだけど。ランサーは消費魔力がヤバいからあまり使いたくないのだ。
「はっ!?す、すみません。……ライトオブセイバー!!」
ゆんゆんの放つ上級光魔法。やはりアークウィザードなだけあって、その火力はウィザードのリーンより高めだった。光を纏った2対の剣は初心者殺しに直撃し、そのまま初心者殺しは息絶えた。
それにしてもここまでウォールが役に立つのは当初は想定外だった。なぜなら元のゲームでは初期から取得可能であり序盤は範囲防御魔法として使い道は高いものの敵の遠距離攻撃には意味がなく、中盤以降に上位互換の《ストーム》という広範囲殲滅の竜巻を起こす魔法を使えるようになれば産廃になるからだ。もちろん私はこれが今使える状態なのだけどなかなか使う機会に恵まれていない。元のゲームでは味方に魔法が当たるなんてことはありえないのだがこの世界ではわからないのだ。むやみに撃って味方を傷つけるわけにも行かない為のものである。
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今回受けた討伐依頼のノルマは初心者殺し3匹。つまりあと2匹残っているので私達は再び平原を散策する。そんな中、おどおどとした様子でゆんゆんは口を開いた。
「あ、あの、さっきの魔法陣はなんなんですか…?私はあんな魔法、見た事ないんですけど…と、いうか、あの詠唱中のリボン状になった魔法陣が、すごくかっこよかったといいますか、私もあーいうのが使えないかなぁ?なんて…」
もはや何度目になるかわからない私の魔法に対する疑問である。大抵の人には私の故郷で代々伝わる一子相伝の魔法だから知らないのは無理もないとごまかしている。ちなみに教えるなんてことはまずできない。全てのスキルを取得できるという冒険者なら可能かもしれないけど冒険者はスキルを取得する為のスキルポイントが通常の2倍になったりレベルアップした時のステータス上昇値が少なかったりで最弱と認識されている。そんな冒険者になるくらいなら商人なりなんなりと別の職に就いた方が一般的らしい。少なくともこの2ヶ月アクセルにいて冒険者の職業でいる人を私は見たことがない。可能性を感じる職業であることは私も思うところではあるのだが。
それはそれとして今回も私の故郷云々の嘘っぱちですませようとしたら、何故かゆんゆんの琴線に触れたらしい。その瞳はキラキラと輝いていた。
「代々伝わる一子相伝……アリスさんだけが使える唯一無二の魔法…か、かっこいい……!」
…やはりこの子は他の人と何かが違う感じがした。関心を持たれることは何度かあったけど、かっこいいと言われるのは初めてだった。悪い気はしないのだけど…やはり年上の人にさん付けで呼ばれるのは抵抗があったので何気なく私は言った。年上からさん付けは抵抗があるので呼び捨てにしてください、と。
「えっ?し、失礼ですが、アリスさんは何歳なんですか?」
キョトンとするゆんゆん。私はそんなに年上に見られていたのだろうか?自分で言うのも変だけど15歳なのが微妙な感じがしてるのだから。もっとも転生して知力が無駄にあがったせいか大人びた印象をもたれることもないのだけど。
「なら問題ないですよ、私は、13歳ですから。もう少ししたら14歳になりますけど。」
……
…………は?
時が止まった感覚が私を襲った。
13歳?13歳ってなんだっけ???
私は混乱した。世界が違うとこうまで違うと言うの?いやそうじゃない。この子が異常なのだと断言できる。大丈夫、私だけではない。親友のリーンも同じ感想を抱くことは絶対に間違いないのだから。
今の私の目の前にいる女の子は日本にいて高校生と呼ばれてもまったく違和感のない見た目だ。それが何?13ってことは去年はランドセルかるってた年齢ってこと??この豊満なボディで?やばい、犯罪臭しか感じない。私は無性にリーンに会いたくなった。あの夢の中で出会ったクリスって子もきっと共感してくれると確信している。今なら飲めないお酒を飲める気さえした。
「あ、あのー…どうかしました……?」
相変わらずおどおどした様子でこちらを伺うゆんゆんに、私はなんでもないです…と力無く応えるしかできなかった。