内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 132 シルビア討伐戦

 

 

 

―紅魔の里―

 

ミツルギさんとダクネスが変わらずシルビアを引き付けている。だけどそれが長引くほどこちらにとってはよくない。

 

シルビアが火を吐けば里は燃え、シルビアが尾を振るえば民家などの建物は倒壊していく。10m以上の高さから見下ろすシルビアのそれは怪獣が暴れているのと何も変わらない。

 

私は支援攻撃を続けるゆんゆんに近づき、時間によって効果が切れた支援魔法をかけ直す。体力は回復できるけど、精神的な疲労までは回復できない。どんな攻撃も受け付けないシルビアの存在は脅威でしかなかったのだからこちらとしては気が滅入ってしまいそうだ。

 

「…ゆんゆん。シルビアをなんとかする為に強力な火属性魔法…もしくは高温状態にできる魔法が欲しいのです、何か案はありませんか?」

 

「高温…?アリスならあの《ヘル・インフェルノ》さえ使えばなんとかなるんじゃ…?」

 

ごもっともな返しに私は静かに俯いた。ゆんゆんはそんな私の様子に首を傾げる。思い出すと億劫になるが気にする時間もない。

 

「フレアタイトの魔晶石が粉々になりましたので今は使えないのですよ…」

 

「粉々って…あの魔晶石ってまだ半年くらいしか使ってなかったような…でもアリスの魔法なら納得かも…」

 

現在進行形でシルビアとミツルギさん、ダクネスは交戦しているので本来なら悠長に考えている時間もない。焦りが汗となって見えてくる。

 

そんなゆんゆんだったけどふと思いついたようにベルトポーチから予備の短杖を取り出して、その手に持った。

 

「私ね、どうにかアリスの魔法を私でも使えないかなって、色々考えていたやり方があるの、それをやってみようかと思う」

 

「…私の魔法…つまり、《ヘル・インフェルノ》を、ですか?」

 

「…うん、理論上はそれでいけるはずなの、ただ私一人だと…アリスがあのスキルを使ってくれれば多分…」

 

今のゆんゆんを見る限り、自信があるのかないのか判断が難しい。視線はシルビアと戦うミツルギさん達に向いているので落ち着かないのだと思われる。

 

「…可能性があるのでしたら私も手を貸します、どうしたらいいですか?」

 

「…アリスのスキルに《クイックアップフィールド》ってあったよね…?あれさえあれば…」

 

ゆんゆんの提案に私はそっと目を逸らした。心配なのは私自身の魔力だ、最後まで持つのだろうか、それだけが不安だった。

 

途中見せる為にマナリチャージフィールドを使って少しは回復したが全快はしていない。

つまり温泉から出た後のシルビア戦、更に魔王軍前線基地でも少し戦い魔力を消費していた。ここに来てからも支援、回復魔法やら結構使っている。更にクイックアップフィールドを使い水属性のバーストを使う、これで決着なら多分ギリギリ、それなら問題はないけど…。

 

そんな後を考えても仕方ない。私独りで戦っている訳ではないのだから、私ができる限界までやるしかない。

 

「…ゆんゆん、それをすると多分……チャンスは一度しかありません」

 

「……っ」

 

ゆんゆんの顔が強ばった瞬間、私は今言ったことを後悔した。何を言っているのだろう私は、これではゆんゆんを信じていないと言っているようなものだ。それだけではない、無駄にプレッシャーをかけてしまっている。

 

「……ですが、私はゆんゆんを……」

 

できるだけゆんゆんがやりやすいように修正を加える。あくまでも自然に。ゆんゆんを想って、素直に、本心を、そのまま語った。

 

「…私は親友であるゆんゆんを…誰よりも信頼しています、…だから…私の残りの魔力を、全てゆんゆんに託します」

 

「…っ!……うん!」

 

正直なところこれは賭けだった。下手したら余計にプレッシャーを与えてしまうことになってしまうのだから。だけどそんな心配は杞憂のようだ。

 

今のゆんゆんの目を見れば分かる、里を守る為、友達を守る為、やる気に満ち溢れたゆんゆんの目。

そんな目をされたら、私も応えてあげたいと思える。

 

ふとシルビアを見据えたら、鼓動が聞こえてくる、心拍数の上昇を自分で感じられれば緊張していることを自覚することは容易かった。だけどそれはゆんゆんも同じ…あるいはそれ以上だと思うから。

 

 

 

――さぁ、反撃を始めよう――。そんな気持ちで…私達は臨んだ。

 

 

 

 

「……《クイックアップフィールド》」

 

オレンジ色の小さな球体が私を中心に回り巡れば、それは有効範囲を示すものとなる。ギリギリミツルギさんとダクネスにも届けば、ミツルギの攻撃速度は上昇する。剣戟の勢いが自然と増し出す。

 

「……っ!何?いきなり早く……また貴女の仕業ね…、蒼の賢者!!」

 

マナリチャージフィールドといい、このスキルといい、使ってしまえば非常に目立つ。シルビアはすぐにミツルギさんの変化が私の支援によるものだと理解した。

これにはシルビアも慌てる。今まで攻撃されても回復が勝っていたのだけど今は見る限りミツルギさんの攻撃速度に回復が追いついてないように見える。はっきり言うとこれは私の予想外だった。

 

予想外とはいえ、それは勿論良い意味でだ。この調子でミツルギさんが攻撃を続ければそれだけでも有効打となりそうにも見える。だけどそれはあくまで副産物、私達の本命の隠れ蓑として最適なものとなっていた。ミツルギさんに気を取られている今がチャンスと、私は杖の魔晶石をアクア様より賜った水の魔晶石に変換する。そして慣れた手順でインパクトをその場で足元に放てば、魔法の詠唱を開始する。するとごっそりと魔力が減ったことが感じ取れた。

 

クイックアップフィールドのデメリット…それは効果中のスキルの消費魔力は2倍になる。事前にインパクトをすれば関係ないデメリットではあるが、見方によってはインパクトの効果である消費魔力の半減が無効化されるとも取れる。

私の今使おうとしているスキルはフィナウほどではないものの、消費魔力が大きい。インパクトの恩恵を受けられないで使用するにはかなりきついものがあった。

 

「だったら先に貴女を潰せば…っ!」

 

「…っ!」

 

少し考えたら分かる事だった。そもそもこの支援が厄介なら術者である私を潰せば済む話なのだから私が狙われるのは当たり前なのだ。動こうにも詠唱に入った私はそのまま動けない。詠唱を中断してしまえば残りの魔力でもう一度撃てる自信はない。

 

「アリスには指一本触れさせん…!」

 

「…くっ、邪魔よクルセイダー!!」

 

これには肝を冷やした。シルビアはミツルギさんを無視してすぐに私に向かい突貫してきた。その巨体を回すように動かせば、私とシルビアの間に入ったダクネスがシルビアの尾撃を受け止めたのだ。その衝撃は私にまで音と振動で伝わってくる。

 

「…始めます…《エターナル・ブリザード》!!」

 

「…っ!?ちぃ…!」

 

水属性が付与されし《バースト》は、私から放たれた猛吹雪。シルビアの身体全体を覆うように展開されて行く。通常のモンスターならこれで凍って動けなくなる、しかし魔術師殺しの魔法耐性もあり、吹雪に怯んではいるがそこまではなっていない。

 

だけどろくに身動きが取れていない今がチャンスだった。

 

「……アクア様…!お願いしますっ!」

 

「こっちはとっくに準備できてたわよ!!《セイクリッド・ブレイクスペル》!!」

 

どこから取り出したのか、花のような大きな杖を掲げて放つのは《セイクリッド・ブレイクスペル》。それは杖の先端から白い光の塊が射出され、私の魔法で身動きが取れないシルビアに安易に直撃させることに成功した。

 

…すると、シルビアの身体のあちこちからまるで悲鳴のような軋んだ音が聞こえてきた。

 

「…あ、貴女達…どうして…それを!?」

 

…シルビアには強化魔法などは特にかかっていない。魔術師殺しによる魔法耐性もこの魔法で弱めたりなくしたりはできない。

だけど私は思い出した。シルビアは合成モンスター、その合成がスキルによるものだったとしたら…、それは《セイクリッド・ブレイクスペル》で解除する事が可能なのだ。

それは偶然にも私が実証してしまっていた。私がアンリと初めて出逢った際に使った事。そしてアンリの合成はシルビアによるもの。同じものならば、シルビアの合成が解けないはずはない。この時点でも博打だったけど、どうやら読みは正しかったようだ。

 

シルビアの身体はあちこちがツギハギが目立つようになって…剥がされていき…

 

それはまたくっついて元に戻った。

 

「やられて驚いたけど…大した問題じゃないわ!分離させられるならまたすぐにスキルで合成したらいいだけなのだからね!」

 

「だったら根比べと行こうかしら?《セイクリッド・ブレイクスペル》!!《セイクリッド・ブレイクスペル》!!」

 

アクア様が杖を大きく振るう度に白い光をどんどん射出していく。地味にその魔法は安易に連発できるようなものではないのだけど当たり前のようにやってしまうからこの方は恐ろしい。

 

勿論シルビアが再度合成することは想定内だった。だけど合成なんて精密性が必要になりうるスキルを片手間に行えるはずが無い。実際今のシルビアは全てを無視して合成スキルに気を取られていた。

 

「…ゆんゆん、後は…」

 

「…大丈夫、準備は整ったわ!」

 

両手にそれぞれ短杖を持つゆんゆんは、不格好ながらもそれをどちらも掲げて、詠唱を高速で開始した。

 

「《インフェルノ》…《インフェルノ》……」

 

杖の先端のマナタイト結晶が赤く燃え上がった。今のゆんゆんは杖にインフェルノの魔法を蓄積しているのだ。だけどそれは長くは持たない、杖はあくまで魔法の通る道でしかない。留まればその魔法の威力がそのまま杖に負荷をかける。杖の先端の魔晶石は耐えられず少しずつヒビが入っている。

 

「《インフェルノ》……《インフェルノ》…!」

 

合計4発、杖に二発と、自身の手に二発、それをそのままシルビアへと向けて、ゆんゆんは高々と宣言した。

 

 

「我が名はゆんゆん!紅魔族随一の魔法の使い手にして…蒼の賢者の大親友!!…喰らいなさいシルビア!!これが私の…《ヘル・インフェルノ》!!」

 

「…っ!?!?」

 

ゆんゆんが魔法を放った瞬間、負荷に耐えられなくなった杖の先端の魔晶石は粉々になって砕けた。そしてその爆炎は、即座にシルビアそのもの全てを飲み込んだ。その極大な炎は大きく激しく燃え上がり…次第に猛烈な熱風を起こした。これはもはや炎ではない、太陽だ。そんな感想を思わずにはいられなかった。

手記にあった温度差、おそらくこれで達成できたと思う。後は実際にどうなったか、未だ燃え続けるシルビアを見据え、私はその場でしゃがみ込んだ。

 

「…凄い火力ねこれ…めぐみんの爆裂魔法といい勝負なんじゃない?」

 

「アクア!一旦離れましょう!そこにいたら巻き込まれますよ!」

 

どこか複雑な表情をしためぐみんが注意を促すと、アクア様はそそくさと距離をとるようにその場から離れた。ダクネスやミツルギさんも上手く距離をとる事ができたようだ。

 

 

一方私は…どうやら魔力切れが近いらしい。久しぶりに味わうこの感覚は決して気持ちいいものではない。疲労感を起こし、身体が重く感じる。力が入らない。

 

それはゆんゆんも同じだった。一度に四発もの上級魔法を放って、それより前からずっと戦っていたゆんゆんは、その場で肩で息をしながら座り込んでしまう。

 

二人して息を飲んでシルビアを見据える。お願いだからこれで終わって欲しいと懇願する。

 

「「……っ!?」」

 

現実はそう甘くない。シルビアはまだ生きている。その証拠に立ち込める炎の中から飛び出した金属の尾。それは私とゆんゆんに迫る、あんなのが直撃すれば無事に済むとは思えない。せめてゆんゆんだけでもと思うも身体は思うように動かない。

 

「させないわよ!…セイクリッド……」

 

「貴女もいい加減にうっとおしいわ!!」

 

「っ!?」

 

器用な動きをしてくれる。シルビアは尾による攻撃を私とゆんゆんに向けて、口から炎を吐き出しアクア様を焼き付くそうとする。

 

 

――その瞬間、様々な動きがあった。

 

 

「やらせるつもりはない!!」

 

「アリスとゆんゆんは…やっと得られた僕の大事な仲間は…絶対に傷付けさせはしない!!」

 

「…っ!!」

 

尾の前にはミツルギさんが、アクア様の前にはダクネスがそれぞれ割って入った。ミツルギさんは迫る尾をそのまま魔剣グラムで押さえつけるように切りつけ…尾の先端を見事に切り裂いて見せた。

 

ダクネスはその全身を使って防御にはいれば、アクア様の盾となって炎を防いでいた。

 

次第に炎が消えていく。その中から見えたのは焼け焦げてボロボロになったシルビア。一見弱っているようにも見えるが、異常を感じたのはシルビアの右腕として存在するレールガンと名付けられたライフルの存在だった。

 

「…本当にしぶとい……!だけど…こいつが貴女達の魔法の魔力を吸ってくれた…!まだ私の勝ちは揺るがないわ!!」

 

それは警告を促すような音を鳴らす。ビービーとひたすら鳴り続ける。

つまり今までシルビアはあのレールガンを使わなかったのではなく、使えなかったのだろう。あれだけめちゃくちゃな威力、そう簡単には連発はできないと思われる。

だけど今は違う、おそらくずっと少しずつ魔力を充填させていたのだろう。そして皮肉にも私達の魔法でそれは充填を完了させてしまった。

 

シルビアは飛び上がり私達との距離をとる、とっさの事で傍にいたミツルギさんやダクネスも反応できない。そして砲身を私達に向ける。銃口から大きな魔力の塊が視認できたと思えば、バチバチとスパークを引き起こす。

 

「…やらせはしない!!」

 

 

私とゆんゆんは動けない、妨害しようにも距離がある。今にもレールガンが発射寸前…なのに、ミツルギさんはどう見ても間に合わないその距離を詰めようと必死に走り出す。ダクネスもまた同じだった。

 

 

 

――その時だった。

 

 

シルビアの目前に飛び出したひとつの人影。それはシルビアに気付かれることなく接近を成功させていた。何かスキルを使ったのだろうか、高く飛び上がりシルビアの胴体と同じ高さまで届いていた。

 

 

「――お前は……、サトウカズマ!?」

 

「うおおおおっ!!」

 

人影の正体はカズマ君だった。だけどどうするつもりなのか、両手の掌をシルビアの右腕となっているレールガンに突き出した。そして思いのまま放った。

 

「《インパクト》!!」

 

「…っ!?」

 

まさにそれは発射寸前の出来事だった。レールガンに向けて放たれたインパクト。その衝撃はシルビアを転倒させるほどではないがぐらつかせるには充分なもの。

 

「………あれ?なんで?」

 

「カズマ君!?」

 

遠目から見ても分かる。カズマ君は計算違いを起こしていたと。

 

私の魔法は自身の狙った対象、あるいは敵意を持つ者にしか当たらない。だからインパクトによる影響はシルビアにしか起こらない。

 

つまりカズマ君はインパクトの衝撃でそのまま自分の身をシルビアから離すつもりだったのだろう。だけど私の魔法の仕様上、そんなことはできない、それはカズマ君が得たスキルとなっても変わらない。

 

結果、カズマ君はそのまま地面に落下して転げた。

 

更に――。

 

 

 

「…これで……終わりよ!!……っ!!??」

 

シルビアは躊躇いなく銃口をこちらに向けて放とうとした。だけど――。

 

 

 

何が原因になったのだろう。

 

カズマ君がインパクトを放ったから?

 

私とゆんゆんの魔法の温度差により限界が来ていたから?

 

あるいはあの手記に記されていたようにレールガンそのものがそもそも何発も撃てるような完璧なものではなかったから?

 

あのレールガンは手記によれば最低でも一発は撃っている、そしてシルビアが放った二発目、更に今撃とうとした三発目。

 

もしかしたらレールガンは既に限界を迎えていたのかもしれない。あるいは今言った全てが原因になったのかもしれない。

 

シルビアの右腕と同化していたレールガンは…、その場で大きな爆発音とともに派手に爆発四散してしまった。それによりレールガン内部に蓄積された魔力の塊が、この真夜中の紅魔の里をとても目を開けてはいられないほどの白い光と衝撃を巻き起こした。

 

これは流石にシルビアが無事とは思えない。私達は距離があって被害はない。だけど――。

 

 

「サトウカズマ!?」

 

「そんな……カズマさん!?」

 

シルビアの至近距離にいたカズマ君は話が変わってくる。シルビアと同じく……とてもではないが無事とは思えない。

 

「……カズマ君!!」

 

光が消えていく、すると見えてくるのは魔術師殺し……だったもの。

 

それは瓦礫となってシルビアのいた場所に積み上げられていた。そして――。

 

シルビア本体の姿も、カズマ君の姿も、何処にも見当たらなくなっていた――。

 

 

 

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