内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 133 禁術の魔法

 

 

 

―紅魔の里―

 

「かじゅましゃーーん!!どこなの!?かじゅましゃーーん!?」

 

アクア様が異常に取り乱しながら周囲を探し回る。瓦礫となった魔術師殺しの中を探すのは勿論の事、半分焼け焦げた木々の中、民家にあるゴミ箱の中。流石にゴミ箱の中にはいないと思うけど。こちらとしても取り乱したい気持ちは強くあったのだけどアクア様のそんな異常な取り乱し方を見て逆に落ち着けてしまった。

 

「私達も探した方が……」

 

「……《マナリチャージフィールド》」

 

ゆんゆんはそんな様子に慌てだして動こうとするが、明らかにふらついていた。私はサイドポーチに入れていたマナポーションを取り出し、飲み干すと同時にゆんゆんに休ませるようにと想いを込めて魔法を唱えた。

 

「落ち着きましょうゆんゆん、あの幸運値の高いカズマ君がどうにかなったとは考えにくいです、それに探すにしてもまずは動けるようになりませんと」

 

「それは……そうかもしれないけど……」

 

冷静に言ってみている私だけど内心は全く落ち着いてなかった。むしろゆんゆんに言っている事を自身に言い聞かせていた。

 

まず姿が何処にも見当たらない、まさかあのレールガンから溢れた魔力の塊によって塵一つ残さず消滅してしまったのだろうか?シルビアもまた、魔術師殺しを残して姿を消したがそちらに関しては明らかにカズマ君よりも被爆が近い。というより彼女の右腕となっていたレールガンそのものが爆心地なのだからあれで消滅してしまったと考えた方が辻褄が合う。

 

「かじゅましゃーーん!!ねぇ、かじゅましゃーーん!?」

 

「あ、アクア様、サトウカズマを探したい気持ちは分かるのですがまずはアクア様の御力をお借りできないでしょうか?」

 

「…はへ?」

 

「ミツルギ殿の言う通りだアクア、まだ里を燃やす火はあちこちに残っている、アクアの力で雨を降らせてもらいたいんだ」

 

ミツルギさんとダクネスの提案にアクア様は涙を拭って向き直る。カズマ君が消えた事で完全にそっちのけだったが今はシルビアもいない。なら消化活動が第一に優先したいことだろう。

 

「……わかったわよ。ぐすっ…、《セイクリッド・クリエイト・ウォーター》!!」

 

アクア様が天に両手を掲げて唱えれば、それはすぐに雨のような水を呼ぶ。それはザーザー降りの雨となってあちらこちらの建物の火を次々と鎮火させていった。

それと同時に周囲は真っ暗になっていく。これではカズマ君の捜索はより難航しそうではあるが灯りの為に火をそのままにしておく訳にもいかない。代わりに、とティンダーを唱えて灯りとした。一応これも魔法なので今降っている雨で消えることは無い。

 

「…私はカズマを探しながら避難所に戻ります、こめっこのことも気になりますので」

 

何処か暗い表情をしているめぐみんは、私とゆんゆんを一瞥するなり一瞬鋭い目つきになった気がした。これには私とゆんゆんも首を傾げるが、一瞬のことなので大して気にする事はなかった。

 

「私達は歩ける程度まで回復したらカズマ君の捜索を始めましょうか…」

 

「それは勿論だけど…、お父さん達はどうなったのかな…?」

 

そう言いながらもゆんゆんは不安そうに魔王軍の前線基地がある方向を向いていた。シルビアを撃退した今、部下である残りの残党も撤退していると思われるが実の所は分からない。

 

「……どうやら、終わったようだな」

 

「お父さん!」

 

すぐにゆんゆんが反応をすれば、こちらに歩いてくる人影。それはランタンを片手に歩いてくる族長さんだった。

 

「そちらは大丈夫だったのですか?魔法封じがあったと思うのですが…」

 

「あぁ、あれかね。久しぶりに良い運動になったと皆喜んでおったよ。魔王軍も、あの大爆発の時にはほとんど残ってなかったな」

 

おおらかに笑う族長さんを見て私はなんとも言えない顔をしていると思う。確かに無事である事が一番なのだ、この様子なら死傷者はほぼいないのだろう。めぐみんが大丈夫と言っていた理由がよく分かった、この人達が王都に移住したら魔王軍全く怖くないんじゃないかなと思える程度には。

 

あちこちの火は無事に消えていた。魔王軍も壊滅した。

 

後は――、カズマ君、貴方が無事ならそれで綺麗に終わる。

 

だからどうか――、無事でいてください。

 

私はそっと首にかけたエリス様のネックレスを握って祈りを込めていた。止まない優しい雨に打たれながら。

 

すると私の意識が朦朧とする、悪寒を感じる。身体の震えが止まらなくなる。

 

頭痛がする、力が入らないのが治らない、これは魔力切れが原因じゃない。ならばなんなのか、その答えは実にあっさりとわかった。

 

温泉あがりに髪もまともに乾かさずに少し肌寒く感じる気温の外へ出て戦闘に入り、走り回って汗をかき、今や雨に打たれている。

 

つまりは完全に風邪を引いていた。そうなる心当たりが多すぎた。

 

「……すみませんゆんゆん。少しだけ休みます…」

 

その言葉とともにマナリチャージフィールドが消滅したのを確認できたと感じたと同時に……私の意識は薄れていった。

 

「…休むってこんな雨の中………ってアリス!?」

 

ぐったりとしてしまう私を抱えるようにして、ゆんゆんは慌てて私の額に手を置く。

 

「……大変…凄い熱…」

 

「何?それはいかん!我が娘よ、すぐに家に運ぶぞ!動けるか?」

 

「うん、アリスのおかげで歩ける程度には回復できたから…!」

 

こうして私は、ゆんゆんと族長さんに運ばれることになった。まだ全部が終わっていないのにと内心歯痒い気持ちの中、私の意識は完全に途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

―紅魔の里・離れ―

 

紅魔の里全域が燃えたという訳ではなく、里の25%ほどはシルビアによる炎から逃れていた。そんな被害のほとんどなかった区画の民家の庭、芝生の上に、一人仰向けに倒れている人がいた。

 

「……ちきしょー……身体が動かねぇ……」

 

佐藤和真だった。あの大爆発により、至近距離にいたカズマはそのまま空高く吹っ飛ばされたのだ。光と爆発音により悲鳴まで掻き消されてしまい、それは誰の目にも止まることも、誰の耳にも届くことはなかった。

 

普通そんな状態で投げ出されたら命はないのだが、カズマはこの場所に落下して地面とぶつかる瞬間にインパクトを地面に向けて放つことでその衝撃を大幅に緩和して生き延びた。今なお痛みでまともに身体が動かせない理由はその爆発前に落下したことで受けたもの。

 

(シルビアは…?流石にあれをまともに受けてたら死んでるよな…?)

 

どうせ動けず、更に周囲は真っ暗闇。付近の民家に灯りはないので未だに避難しているか、魔王軍の討伐に出払っているのだと思われる。

なら誰かが発見してくれるのを待つしかない。僅かながらの月明かりは、今いる場所が里の中だということを把握させてくれた。ならばこのままここにいてモンスターに襲われるなどの危険は流石にないだろう。

 

(…あれ?シルビアが死んだってことは…冒険者カードに討伐したことが記載されるよな?今回の場合…誰の冒険者カードに記載されるんだ?)

 

危険もない、動けない。だからカズマはどうでもいい事を考え始める。カズマが把握している限り、今回のシルビアは完全に自爆だ。ならもしかすると、その自爆を誘発した自分の冒険者カードの討伐履歴に載る可能性もある。

 

そんな可能性を考えれば、カズマは密かにうずうずしていた。普段そんな事に興味がない素振りを見せているつもりだ。だけど冒険者カードに魔王軍幹部の名前のような大物が載っている冒険者はそうそういない。それだけでも冒険者として箔が付く。冒険者としてのステータスにもなる。

アルカンテレィアでのハンスとの戦いの後、めぐみんはしばらくニヤニヤしながら嬉しそうに、誇らしげに、自身の冒険者カードに記載されたハンスの名前を眺めていた。それを見たカズマは表ではどうでもいいと振舞ったが内心は羨ましくもあった。

 

それはある意味討伐報酬などよりよほど価値のあるもの、魔剣の勇者ですら未だに持っていない勲章。アクセルの酒場で見せびらかそうものなら、即座に酒場が盛り上がり、名前を連呼されて賞賛されるだろう。あるいはアイリスへの新たな冒険譚を話す時の材料にもなる。

 

そう考えればカズマのワクワクは止まらない。だんだん心惹かれていくようなハチャメチャが押し寄せてくる。

 

(……腕は……なんとか動くな…確か今ポケットに……)

 

思い立ったらすぐに確認してみたくなる。腕をゆっくりと伸ばす。すると手に柔らかな感触のものが当たった。

 

(……ん?なんだこれ?)

 

それは柔らかく、ぷにぷにしていて、とても触り心地が良かった。手では入らない大きさの丸く、上に布地のようなものを触っていることを自覚できた。

 

「……あれ?これって…」

 

「う、うーん……」

 

すぐ傍から聞こえてきた声にカズマの表情は青ざめた。先程まで聞いていた声なのだから忘れているはずがない。ゆっくりと顔をそちらに向けてみるものの、月明かりが差し込んでいないその場所は真っ暗で何も見えない。まさか、いやそんなはずは無いと思いながらもカズマは握っていたそれを離してそっとティンダーを唱えた。

 

ティンダーにより指先に火が灯り見えたのは、目を閉じたまま気を失っているように見えるシルビアの横顔。触っていた場所は言わずもがな胸である。

 

「……――!?!?」

 

声無き声を上げてカズマは驚愕する。あの大爆発でまだ生きていたのかと。しかし見る限りかなりボロボロの状態だった。

足は魔術師殺しと合成する前の状態、つまり元に戻っていたのを見て察した。おそらくシルビアはあの爆発と同時に魔術師殺しとの合成を分離させたのではないか。確かにあんな馬鹿でかいものがあれば動く事ができずそのまま爆発の直撃を受ける。しかし分離してしまえば自身の本体だけでもその爆風に飛ばされて助かる可能性がある。

 

そしてレールガンが合成されていた右腕は肩の部分から何もなくなっていた。

カズマは思い出す。確かアリスと戦った後のシルビアは右腕を庇うようにしていた。

つまり使い物にならなくなった右腕と交換するようにあのレールガンを合成したのだろう。

 

今のうちにトドメを刺すべきなのだろうが、カズマは今の状態から痛みでまともに動けない。かろうじて右腕が動くだけの状態だった。

どうすべきか考えていると、シルビアに変化があった。その場で咳き込み出したのだ。

 

「……っ、ゴホッゴホッ……!」

 

まるで吐血するかのように吐き出されたのは黒ずんだ炎。言うならば吐炎。それに驚いているとシルビアの目はゆっくりと開かれ、そのままカズマと目が合った。

 

「……」

 

「……あ、おはようございます」

 

震えるようなカズマの声。はっきり言うと大ピンチでしかない。シルビアの状態は見た目ではボロボロで動けるようには見えない。だがそんな見た目による考察は無意味であることはカズマとしても分かっていた。見た目に騙されて比較的柔らかそうな腹部を狙って刀で攻撃した結果、無様に弾かれたことを忘れてはいない。

 

「……ふふっ、あの大爆発から生き残るなんて……お互いに悪運が強いわねぇ、サトウカズマ」

 

「……」

 

カズマは何も返さない。必死に思考を巡らせる。そうしているとシルビアは再び咳き込み、口から黒い炎を吐き出している。何故黒いのだろうか。シルビアが吐いていた炎は普通の炎の色だったはずだった。

 

「ゴホッゴホッ……まったく…あの紅魔族の娘…ゆんゆんだったかしら?可愛い顔して恐ろしい真似をしてくれるわ……私が吐き出している炎…これは……呪炎よ」

 

「じゅ……呪炎……?」

 

「…そっ。対象が死ぬまで消える事がない炎、立派な禁術よ、これ」

 

つまりゆんゆんがアリスの魔法を真似る為に自らの考察と術式で編み出したものがゆんゆんの意図しない内に禁術になっていた。

当然ゆんゆんはそんな事を思って使った訳では無い。予めアリスの魔法を自分なりに再現してみようと考察していたことと、その場でより火力をあげる方法を模索して出せたオリジナル魔法。もう一回やれと言われても、おそらく二度とできることはないだろうと思われるほどの複雑な術式だった。

 

「だからって……このまま死ぬつもりはないわよ、研究所にさえテレポートできれば……こんな呪いすぐに解ける。その為にも……サトウカズマ……」

 

「……っ!?」

 

今のシルビアに魔力はほとんどない。レールガンが暴発した際に全て吸い取られてしまった為だ。よって舌なめずりをして妖しい視線を向けるシルビアに、カズマはすぐに逃げ出したい気持ちになる。だけど身体は言う事を聞かない。正に絶体絶命。

 

「……私と……ひとつになりましょう…?」

 

そのまま転がり、片手だけで這い寄ってくる。おそらく両脚も今や飾りでしかないのだろうが、全く動けないカズマに比べたら今はマシなのかもしれない。

シルビアの生きる事への執着、渇望、それがシルビアの目から伝わってくる。カズマを取り込んで魔力を得られればまだ生きる事ができる。そう信じてカズマを襲う。

そんなシルビアに恐怖したカズマはそのまま右手をシルビアに向けて、嫌悪感を全快にして叫んだ。

 

「《インパクト》!!」

 

「……がはっ!?!?」

 

その衝撃にシルビアは派手に吹っ飛ばされ、一件の民家の壁に激突した。そして口からは苦しそうに黒い炎を吐き出していた。

 

「くっ……あの蒼の賢者も使っていたわね…、なんなのよ、その魔法……」

 

投げやり気味に言い放ちながらも、シルビアは周囲の生物を探していた。もはや動けるようになるかある程度魔力が回復すれば子供でも、家畜でもなんでもいい。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

一方カズマはそのまま動かないシルビアを見て若干ながら安堵していた。そしてアリスと自身の選択に心から感謝していた。

《インパクト》はアリスから教わった魔法のひとつ。一度教わった事で冒険者カードに未取得の状態で記載され、それはスキルポイントさえあればいつでも取得が可能だ。

カズマは必死にスキルポイントを貯めて、ようやく当時の目標である《マナリチャージフィールド》を取得できるまできていた。

だがカズマは迷った、本当にこれは必要なのだろうか、取ったところであの爆裂狂が余計になんらかの被害をもたらす気さえしてしまう。

 

迷った末にカズマが見たのは《インパクト》。それは足元に衝撃波を起こして周囲の敵を転倒させる。消費魔力は無し。更に次回使うスキルの消費魔力を半減する。

実際このスキルは様々な武器、職業で使う人が多い。強力なスキルはそれだけ魔力を多く消費する。だから半減の効果はかなり魅力的なのだ。

しかしカズマにそんな大量の魔力を使うスキルは現状ない。ないのだがカズマがこれに決めた理由は使い勝手の良さと、消費魔力がないと言う事、これに尽きる。

 

もっともマナリチャージフィールドを心待ちにしていためぐみんが知れば、彼女は間違いなく激怒するだろうが。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

膠着状態が続いていた。

 

その暗闇の中、カズマは何も喋ることなくシルビアを見つめ、何をしようとするのかその動向を伺っていた。

 

シルビアは衝突した民家の壁にもたれかかってそのまま荒く呼吸をしている。もはや動くことすらきびしいのだろう。その証拠にカズマに目を向けるものの、再びカズマを襲いかかることはしなかった。

 

先程得た情報…、今のシルビアはゆんゆんの魔法により炎に蝕まれている。嘘を話している様子はなかったし自嘲気味な様子から間違いはないのだろう。

 

つまりこのままシルビアが力尽きるのを待てば、それで終わりだ。あるいは誰か戦える人が来ても問題ない、そのままトドメを刺してもらえばいいのだから。

 

 

そんな状態の中、ふと静寂を保っていたのだが…雨音に混じって何者かの足音が聞こえてくる。ゆっくりと、だが地面を蹴る音は雨の中でも分かりやすい。

 

 

『……狼さん――?』

 

その場に現れた少女は、片手に傘、片手にランタンを持ち、その灯りは服装すら分かりやすく見せてくれた。

ゆんゆんのお下がりだという黒を基調としたピンク色がアクセントになったローブを羽織った少女、アンリだった。

 

「……っ!?アンリ!それ以上近付くな!!」

 

『……え――……っ!?』

 

それは不運だった。

 

アンリが出てきた場所はシルビアのもたれかかっていた壁のすぐ真横。カズマに気を取られて気が付かなかったのだろうか。

当然シルビアはそれを見逃すつもりはない。生への執着が、シルビアの最後の力を振り絞らせてそのまま飛びかかり、強引にアンリを左腕で捕まえてしまった。

 

「……ふふっ……ふふふっ……正直もう駄目かと思ったけど……まだ私の運は尽きてなかったようね……、お嬢ちゃん、悪いけど…………え?」

 

アンリの持っていたランタン、それによりお互いの顔がよく見えて、2人の視線は交錯した。そしてシルビアはそのまま固まってしまった、まるで信じられないものを見るようにアンリをじっと見つめていた。

 

「……その顔……その髪……貴女……まさか……」

 

『――?』

 

カズマはなんとか助けないとと思い動こうとするも、あちこちを派手に骨折している状態でうごけるはずもなく、逆に無理に動こうとしたことで起こる激痛に顔を歪ませた。

 

『……――あの時の――……?』

 

「…えっ?……貴女まさか……覚えて……?」

 

アンリはコクリと頷く。シルビアはそのままアンリを離すと、小刻みに震え、その場で俯いてしまった。

 

かつて助けたのは、ほんの気まぐれだった。

 

だけど助けた少女は、瀕死の重症だった。

 

シルビアは回復魔法など使えない、助ける為には、少女に合成スキルを使うしかなかった。

そして植物と合成した少女は、そのまま逃げ出してしまった。

 

ずっとずっと気掛かりだった、シルビアの心に引っかかっていた存在は、今シルビアの目の前にいた。

 

 

 

『……あの時は――、助けてくれて……ありがとう、おばさん――』

 

「…おばっ……!?」

 

おばさん呼びに強い抵抗を覚えるものの、お礼を言われたことは予想外だったのか、シルビアはそのままアンリから離れるようにその場で仰向けに倒れた。

 

『――じゃぁ……おじさん――…?』

 

「ごめんなさい、おばさんでいいわ、だからそれだけはやめてくれる?」

 

どこで見破ったのかわからないが、子供は時に残酷である。そんな言葉を交わしながらも、シルビアはアンリをどうこうするつもりは全くないのだろうか。今のシルビアの心中は、シルビア自身にしかわからない。

 

それ以降、シルビアは何も語らなくなった。ずっと仰向けで目を閉じて、そのまま雨に打たれていた。

 

『……あっ――』

 

アンリが見つめる中、シルビアの身体は黒い炎に包まれて、そしてその炎はすぐに消えた。まるで雨に打たれて消えたかのように。

 

そしてその炎がなくなった後には、シルビアの姿はどこにも無かった。残ったのは黒ずんだ地面と、そこから湧き出す蒸気だけ。

 

アンリは地面をただ見つめていた。その表情は悲しげに、だけど泣く事もなく葛藤しているように見える。

アンリはシルビアについてどこまで知っているのだろうか。

 

シルビアが先程まで里で大暴れしていたことはおそらく知っているだろう。あの大きさは里のどこから見てもわかるものだった。だけどその人は、形はどうあれアンリの命の恩人だった。

 

アンリはその場でしゃがみこむと、そっと祈りを捧げた。

 

 

 

 

『……女神アクア様――、この人に安らぎを与えてください――…』

 

「ちょっとまて、今なんて言った!?」

 

聞き捨てならない言葉を聞いたカズマは慌てた。素で言っているのか、あるいはアクアに言うように教えこまれたのか、そこが重要である。

 

何はともあれ、シルビアは文字通り燃え尽きた。

その後、急にいなくなったアンリを探しに来たゆいゆいとこめっこにカズマは発見されて無事に保護された。

 

紅魔族と魔王軍の戦いは、これにて一旦幕を降ろすこととなったのだった――。

 

 

 

 

 






紅魔の里編はもうちょっとだけ続きます。


キャラクター紹介

『……アンリ。――アリスお姉ちゃんが―、私につけてくれた名前――』

氏名…アンリ
種族…半人半植物モンスター
備考…凡そ60年前に植物モンスターに襲われて瀕死の重症になったところをシルビアに合成モンスターとされることで一命を取り留めた。
それからアリスと出逢うまでは植物モンスター側の精神に支配されていて、安楽少女の元祖として森で生きてきた。
アリスの偶然のセイクリッド・ブレイクスペルにより、合成スキルが解けて植物モンスターの自我が切り離された。分離が中途半端になってしまったのはアリスのスキルが未熟だからとかではなく、単純に60年という長い時間合成状態にあった為に身体が植物と一体化していたから。
今現在は身体の一部であった大きな木がなくなり、見た目は人間と変わらない状態になっている。精神も人間のものだけが残っている、内気で純粋で心優しい女の子。

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