内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 134 アンリの手がかり

 

 

 

―紅魔の里・族長の家―

 

――朝。

 

私が倒れてからまる二日経ち、あれ程の事態になったのに、里は既に平穏を取り戻していた。小鳥の囀りが微かに聞こえてくると、まるであの時の激闘が夢か何かのように思えてしまう。

 

「……ん。大分熱も下がったわね、これならもう大丈夫かな」

 

「…ご迷惑おかけしました」

 

「何言ってるのよ、私は勿論、誰一人そんな風に思っていないわ」

 

額に手を当てて私の熱を確認したゆんゆんは安堵の溜息とともに告げてくれた。

この二日間、私はずっとゆんゆんの部屋のベッドを占領して休ませてもらっていた。ゆんゆんとアンリの介護のおかげでようやく熱が引いて元気になれた。何気にこの世界に来て風邪なんてひくのは初めての事だったので完全に油断していた。まず魔力切れ辺りを考えるのは私も何気にこの世界に染まってしまっているなぁと実感できてしまう。

 

「でも、熱が下がったと言っても無理はさせないからね、せめて今は安静にしておいてよね?」

 

「…はぁい…」

 

ゆんゆんはすっかりゆんママモードに入ってらっしゃる。こうなると大人しく従うしかないのだ。

 

目が覚めたのは実質昨日のお昼だったりする。その時は何よりもカズマ君の事が気になって探しに行こうとしたのだけどカズマ君は無事に見付かったとの報告でなんとか落ち着くことができた。なおそのカズマ君だが発見された時にはあちこちの骨を骨折している重症状態だったらしい。それはアクア様がすぐに治したらしいのだがカズマ君とて状況は私と変わらない。温泉上がりに戦闘、走り回って雨に打たれ…、骨折の痛みで本人は自覚してなかったらしいがカズマ君もまた、盛大に風邪を拗らせていた。今はめぐみんの実家で療養しているとか。

回復魔法で風邪も治せたら良かったのだけどそこまで万能でもない、あくまで回復魔法は肉体的な破損や外傷などにしか効果がないのだから。病気に対しては無力である。

 

 

 

ふと窓から外を見れば相変わらずあちらこちらに配備された石のゴーレムや紅魔族により契約した悪魔がせっせと建物の修繕、建て直しを行っていた。

 

紅魔族としては建物の倒壊などそこまで珍しいことではないらしい。ある時は魔法の実験、ある時は魔導具開発段階での暴走など理由は様々だが、今回の規模の倒壊でも一週間もあれば元に戻るとのこと。3日目になる今日の時点で3割ほどは修繕が完了していることはゆんゆんに教えてもらった。街が破壊されても全く物怖じしない理由はこれだったのかと一人納得した、逞しすぎるよ紅魔族。

 

「……ところでアンリはどこに?」

 

「…アンリちゃんなら…ミツルギさんと『シルビアのお墓』に……」

 

「……またですか」

 

シルビアのお墓。普通に聞いたら首を傾げたくなることだろう。

今回、シルビアを討伐したことで紅魔族の人々は敵ながら天晴と敬意を示してあの魔術師殺しの瓦礫の山を綺麗にまとめて魔王軍幹部シルビアの墓地としたそうだ、それは昨日には完成したらしい。つくづく理解はできないがアンリにしてみれば一応は命の恩人でもあるので良かったのかもしれない。

もっとも、里としては破壊された魔術師殺し封印施設に代わる新たな観光名所としたいらしいが。アクシズ教徒に負けず劣らずの逞しさである。転んでもタダでは起きないということか、紅魔族の人達に転んだ認識すらあるかは不明だけど。

ちなみに『また』と言うのは単純にアンリはそのお墓が完成した昨日もミツルギさんに着いていってもらい見に行ってたからだ。

 

「私も外に出たいですから着いてきて貰えますか?勿論無理はしませんし、里を少し歩いたらすぐに帰りますから」

 

「……でも…」

 

「心配してくださるのは本当にありがたいのですが2日もこの家から出ていませんから気分転換をしたいのですよ、お願いしますから……」

 

「…はぁ、仕方ないわね…、少ししたら帰るんだからね?」

 

溜息混じりではあるけどなんとか了承して貰えた。過保護なゆんママを説得するのも一苦労だ。そうと決まれば善は急げ。私としてもシルビアの墓というのはなんとなく気になったし見てみたいと思った。

ミツルギさんやアンリもそこにいるのなら合流して元気な姿を見せてあげたいしカズマ君の容態も気になる。

そう考えれば全然少しで終われそうにないけどそこはまた何か言われたらゆんゆんを説得するしかない。

 

テキパキと寝間着を脱いでいつもの青いプリーストドレスに着替える。ゆんゆんの部屋にある鏡を見ながら髪をツインテールにまとめて紺色のリボンで整える。念の為に杖を携えれば準備完了、いざお外へ!

 

「あ、でもちゃんと朝ご飯を食べてからだからね!それと顔も洗ってね!」

 

「……はぁい」

 

勢いのまま行こうとすれば即座に出鼻をくじかれた。言われてみればお腹も空いてるし拒む理由はないのだけど。本当にお母さんみたいな事を言ってくるゆんゆんが小うるさくは感じる。

だけどなんというか…、嫌ではない。煩わしくもない。こんな風に心配してくれる存在にマイナスな感情が生まれるわけがない。

 

ただ自分より年下の子を少しでも母親のように見てしまうのはなんだかなぁ、と内心苦笑するまではあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

このすば。(「ゆんママ!」「ママじゃないから!?」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―紅魔の里・シルビアの墓標―

 

さて、ささやかな仕返しをしたところで顔を洗って朝食にパンとハムエッグをご馳走になり、改めて私とゆんゆんはシルビアの為に作ったという墓標を見に外へと出た。

 

まだ完成したてらしく、周囲には里の人達が何人か遠巻きにそれを見守っている。

どんな感じかと見てみれば魔術師殺しの瓦礫が綺麗に山となりまとめてあって、その前には墓石、更に横には石碑に何やか文字が掘られている。その前でしゃがんで祈りを捧げていたのはアンリ、それを後方からミツルギさんが見ていた。

 

「っ!アリス、もう大丈夫なのか?」

 

『アリスお姉ちゃん?……あ――!』

 

ミツルギさんが私に気がついて声をかけてくれれば、その声にアンリも気が付きこちらを振り向いた。心配させていたのだろうか、二人ともに安堵したような穏やかな笑顔だった。これにはちょっとだけ罪悪感を覚えるが私は落ち着いた笑顔で返した。

 

「心配かけて申し訳ないです、ですがもう大丈夫ですよ……それで、これが…」

 

「…うん、あの時は夜だったから見えにくかったけど…こうやって見ると大きいね」

 

瓦礫の山と単純な表現をしたがその高さはかなりのものだ。思わず見上げてしまう。そして目線を上から下へと移せば、中央にある石碑の文字を読んでみた。

 

「…我ら紅魔族の最大の宿敵にして強敵(とも)、魔王軍幹部シルビア、ここに眠る…」

 

紅魔族らしいノリなのだろうか。よくわからないが昔の少年漫画のようなノリにも見える。

 

「アリス、これはサトウカズマから聞いた話なんだが…」

 

「……?」

 

気が付けば神妙な様子のミツルギさん。どこか思い詰めているようにも見える。私が首を傾げることで話を促せば、ミツルギさんは墓石に向いて話を続けた。

 

「あの大爆発の後…サトウカズマは爆風で飛ばされたんだ、シルビアとともに…」

 

「……それって…」

 

「…あぁ、あの爆発だけではシルビアはまだ生きていたらしい。だけどかなり弱っていて…その場に現れたアンリを捕まえて自身の糧にしようとしたらしいんだ」

 

「…っ!」

 

あの爆発でまだ生きていたのには素直に驚かされるがそれ以上にその詳細について私は初めて聞いた。ただカズマ君が無事だったことしか聞かされていなかったのだから。

 

「…だけどシルビアはアンリが以前助けた子供だと分かると、アンリを何かすることもなく、そのまま死んでしまったらしいんだ」

 

「……」

 

多分今の私はなんとも言えない顔をしている。頭の中が複雑な思考が暴れてまとまってくれない。その理由は単純なことだった。

 

「……ベルディアといいシルビアといい……悪人なら悪人らしくして欲しいんですけどね、どうしてそんな情があるのに魔王軍なんかにいるのでしょうか、人間を襲うのでしょうか」

 

「…ベルディア…?確かアリス達が最初に倒した魔王軍の幹部だったね」

 

「…そうですね。そしてこれだけは言えますよ。ベルディアが悪逆非道の冷酷な者でしたら…、私やめぐみんは今頃エリス様の元に旅立っているでしょうね」

 

「……」

 

わからない。本当にわからない。ベルディアに関しては騎士道精神だか何か知らないが結果的に私とめぐみんは生かされた。まぁ死の宣告というおまけがついてきたけどそれもベルディアは新たな挑戦者を連れてくれば解くつもりだったらしいし、挙句の果てには死の宣告の効果が現れるとされた日には私を心配するようにアクセルまでやって来ていたし。今思えば訳が分からない。

 

シルビアにしてもアンリを救ってくれたことはありがたいのだが何故魔王軍の幹部がそんなことをしているのだろうか。最後には何故自分の命よりもアンリを優先してしまったのだろうか。

 

「……悪人は悪でいて欲しいと思うのは、短絡的すぎるんですかね……」

 

そう思いたいけどそんな魔王軍の幹部の気まぐれか、情か何かで、私もめぐみんも、そしてアンリも生かされていた。これには心中複雑な想いでしかない。

 

「…言ってることはわからなくはないけど…」

 

「……魔王軍を擁護するつもりはないが…あちらにはあちらなりの正義があるのかもしれないな。だが奴らにどんな一面があろうと、人々を脅かす存在である限り…僕は剣を引くつもりはない」

 

「……そうですね、そう考えるのが一番いいのかもしれません…」

 

降りかかる火の粉は、払い除けるのが当たり前。私がシルビアに言った言葉だ。

だったらあちらが攻めてくる限り、私はこの世界の一人の人間として戦うだけだ。単純な思考をしたらそれで終わる。いやミツルギさんが単純と思っているわけではないけど。

 

結局何が言いたいかと言うと後味が悪い、これに尽きる。

 

完全に私の個人的な想いからの話なのであちら側からしたら知ったことではないだろうが余計な事を考えてしまう。本当にこれでよかったのか、もしかしたら話せば分かり合えた可能性はなかったのか。そんな事を考えてしまう材料になってしまう。

確かにウィズさんの例もあるので魔王軍の全てが一概に悪と決めつける事は早計とは思うけど……。

 

正義と悪、善と悪。それはあくまで人間が基準とされている。

 

人によってはモンスター、魔王軍、それだけで悪と決めつける人も多い。

とはいえウィズさんやアンリのことを悪とは思ってはいない、少なくとも私達は。

だけど仮にそんな二人のことが国に公になることがあった場合、そしてモンスターや魔王軍を憎む人々によって否定された時、私達はどうしたらいいのだろう。考えるだけでも恐ろしい。

 

『……アリスお姉ちゃん――?』

 

「…また無駄に考え込んでいましたね、私なら大丈夫ですよ」

 

心配そうに見つめていたアンリを抱き寄せて、そっと頭を撫でてあげた。そんな最悪な事態にはならないように配慮するしかない、もしそうなった場合その時はその時だ、一緒にいこうとアンリに言ったあの時に覚悟は既に決めていたのだから。

 

「それより…私が来るまで随分熱心に祈ってましたけど、シルビアに何か呼びかけたのです?」

 

半ばはぐらかすように話題を変えようとする。だけどこれも地味に気になっていたことでもあった。

アンリにとってシルビアはどのように映っていたのか、魔王軍幹部という人類の敵でありながら命の恩人でもある、それは私よりも複雑に映っているのかもしれない。

 

『――……女神アクア様に、無事逢えましたか?…って』

 

「…………え?」

 

すると予想外の事を聞いてしまった。エリス様ならともかく何故アクア様なのだろうか。大体アクア様なら既に会っているのだけどそれ以前に何故アクア様が出てくるのか。

 

「……アンリはもしかして、アクシズ教徒なのか…?」

 

『……――?』

 

ミツルギさんの問いかけにアンリはわからないと言いたげな表情をしている。よくよく考えてみたらアンリの住んでいた場所はあのアクシズ教の総本山であるアルカンレティアからそう遠くはない。地域的に考えればアンリがアクシズ教徒である可能性は充分あるのだ。

 

『……お母さんが――、死んだ人は女神アクア様の元に行けるって――言ってたから…』

 

「…なるほど…」

 

つまりアンリは幼い故にそういった宗教的な考えはあまり持っていないようだ。単純にアンリの母親がアクシズ教徒だった、あるいは両親ともにかもしれない。

 

「……ねぇ、それって結構大きなヒントなんじゃ……?」

 

「……ゆんゆんもそう思いますか」

 

だとするとアンリの母親について、アルカンレティアへ行けば何か分かるかもしれない。ただこちらが提示できる情報はあまり多くはない。60年前、アンリの住んでいた集落の位置、これくらいだ。

そして年代的にも既に亡くなっている可能性は非常に高いのだが、アンリが安楽少女となってしまった後のアンリの家族の事、亡くなっていたとして家族のお墓などの有無ならば分かるかもしれない。

 

「…アンリ、アンリは家族について、知りたいですか?」

 

『……――』

 

私がそう聞くとアンリは塞ぎ込むように俯いてしまった。…そこで気が付く、もしかしたら失言だったかもしれない。

まだアンリは今の事態について完全に受け入れているとは言い難い。あの村の惨状を見てからそう時間は経っていない。アンリには現状の整理がまだできていないのだ、それは今の反応から察する事は容易だった。

 

「…ごめんなさいアンリ、まだ整理できてないのにこんなことを言ってしまって…」

 

『――…アリスお姉ちゃん、私は大丈夫…、だけど……今は――…』

 

「…わかりました、もしその気になれば何時でも言ってくださいね?私はいつでもアンリの味方ですから」

 

ぎゅっ、と。撫でていたらアンリに抱きつかれた。何気にアンリからこうしてくれるのは初めてのことだった。それだけ信頼されていると思うと、凄く嬉しくなる。

 

…ただアンリが望むのならアルカンレティアへ行き、アンリの家族について調べる事はいいのだが問題は場所がアルカンレティアと言う事だ。

忘れてはいけない、アルカンレティアではアクア様の一件で盛大にやらかしてしまっている事を。

多分私の事ですらアクア様の下僕やら天使やらに思われている可能性すらある。これは誇張でもなんでもない。まぁアクア様の使命によりこの世界に来たと考えたらあながち間違いではないのだけど。

だけどそんな場所であろうと、アンリが望んだ時には赴かなければならないだろう。

二度と行く事はないと思っていた場所なのに早くも行く事になるフラグが立ってしまった。もしそうなった場合は予めセシリーさん辺りに相談してみるのもいいかもしれない。…アンリと会わせるのが少し怖いけど。

 

 

「そろそろ戻ろうか。あまり病み上がりのアリスに外を歩かせる訳にも行かないからね」

 

「…もう大丈夫なんですけど……」

 

「駄目よ、約束通りちゃんと帰るんだからね。どうせ夕方になったら出れると思うから、せめてそれまでは安静にね?」

 

ゆんゆんの過保護がミツルギさんにも伝染してしまっている、これは良くない傾向だ。流石に精一杯の反抗でゆんゆんへのゆんママ呼びのようにミツルギパパと呼ぶ訳には行かないし言いたくない。それは何かが違う気がする、世界の理が崩壊してしまいそうな気すらする。

 

それにしても夕方からなら出れるとはどういう事だろうか。よく分からないけどこの状況は大人しくしているしかなさそうだ。

 

できたらカズマ君の様子も見に行きたかったのだけど、結局今は渋々ながらもゆんゆんの実家へ戻ることとなった。

 

――私はこの時知らなかった。今夜、ちょっとしたいざこざが起こってしまうことを…。

 

 

 

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